値下がり止まらない液晶テレビ、大型化で価格競争に終止符は打てるか?
メーカー各社の新製品が出揃い、まもなく年末商戦に向けた戦いが本格化する液晶テレビ。06年のキーワードは「大型化」だ。売れ筋サイズの32・37V型で価格下落が進む中、メーカーは「大画面」という付加価値で収益増を狙う。大画面化の進展が早い世界市場も見据えた戦略だ。一方、国内市場に目を向ければ、「大画面」がどれだけ支持されるかは未知数。液晶テレビメーカーが描く戦略は国内市場で成功するのか?「BCNランキング」で探った。
メーカー各社の新製品が出揃い、まもなく年末商戦に向けた戦いが本格化する液晶テレビ。06年のキーワードは「大型化」だ。売れ筋サイズの32・37V型で価格下落が進む中、メーカーは「大画面」という付加価値で収益増を狙う。大画面化の進展が早い世界市場も見据えた戦略だ。一方、国内市場に目を向ければ、「大画面」がどれだけ支持されるかは未知数。液晶テレビメーカーが描く戦略は国内市場で成功するのか?「BCNランキング」で探った。
●「大型」を付加価値に価格競争をかわす
「液晶テレビの大型化トレンドを牽引する」――8月末、液晶テレビ「BRAVIA(ブラビア)」の年末商戦モデル発表会で、ソニーの井原勝美副社長はこう宣言した。ソニーが新ブランド「BRAVIA」を投入したのは昨年の10月。その当初から40V、46V型モデルもラインアップし、大型液晶テレビ市場を開拓してきたという自負からの言葉だ。
実際店頭でも「37V型よりもちょっと大きい“お得感”で人気がある」(大手量販店店員)ことでシェアを拡大。「テレビ事業が収益の上がる事業になるまで、もう一歩」(井原副社長)のところまで、販売を伸ばしてきた。06年は年末商戦に向けて40V型以上のモデルを7機種投入、全世界でほぼ同時に発売する。最上位モデル「X2500シリーズ」は、初の50インチ台となる52V型をはじめ、46V型、40V型を展開。付加価値モデル「V2500シリーズ」、スタンダードモデル「S2500シリーズ」でも40V型、46V型を中心に据える。
また、「Xシリーズ」全機種、「Vシリーズ」の42V、46V型では水平1920×垂直1080画素のフルハイビジョン(フルHD)パネルを搭載。独自開発のバックライトで色の再現力も向上させた。40V型以上モデルの実勢価格は「Xシリーズ」が45-80万円前後、「Vシリーズ」は40-50万円前後、最も安い「Sシリーズ」で35-45万円前後の見込みだ。
ソニーでは「大型」という付加価値で価格競争をかわし、液晶パネルの歩留まりを上げるなどのコストダウンを進めて1台あたりの収益を高める戦略。井原副社長は「年末商戦で世界シェアは今よりも拡大できる」と自信を見せる。
●亀山第2工場「AQUOS」で巻き返しを図るシャープ
液晶テレビ最大手のシャープも年末商戦向けの液晶テレビ「AQUOS(アクオス)」を発表した。8月に稼働した亀山第2工場製パネルを搭載する。大型液晶パネルを効率的に生産できるようになったたことで、これまで手薄だった40インチ台モデル中心に拡充。世界で同時に発売する。
ラインアップはフルHDパネルを採用した42V、46V、52V型。高性能のデジタルアンプで音響面でも機能を向上させたほか、DVDレコーダーやサラウンドシステムをリモコン1つで操作できるのも特徴。実勢価格は52V型が60万円前後、46V型は50万円前後、42V型で45万円前後の見込み。
「シャープが日本だけで液晶をやっている会社というイメージを変える、世界へのステップ」(片山幹雄専務)と、新製品を位置付け、これまで弱いと言われてきた海外でのブランド力強化を図る。
さらに亀山第2工場モデルで狙うのは米国などでの買い替え需要。50-60V型のリアプロジェクションテレビの人気が高いエリアで液晶へのスイッチを狙う。新製品は台数ベースで半分以上を海外市場に振り向ける計画。また、大規模な販促活動も海外で展開する。片山専務は「世界シェア1位を狙う」(同)と鼻息も荒い。
●1桁シェアの国内大型市場をはたして主流にできるのか?
このように、液晶テレビメーカー各社とも、大型モデルで世界市場を見据えた戦略を打ち出している。大型画面のリアプロが普及している米国をはじめとする海外市場では、大型液晶テレビが受け入れられる素地は大きいだろう。しかし国内ではどうだろう? デジタル放送の普及のによるハイビジョンの浸透で、大型モデルの需要が高まることは間違いないが、主流のサイズを40V型以上の大型にシフトさせるだけの力があるかどうかは疑問だ。
「BCNランキング」で、「40V型以上」の占める割合を販売台数ベースで算出したところ、直近の8月でも液晶テレビ全体の6%ほど。過去1年でも1桁台で推移しており、液晶テレビ市場全体での割合はまだ低いのが現状だ。
一方、液晶テレビ市場で中心となっている「32・37V型」は3月以降、シェアを30%から40%台に急速に伸ばした。トリノ五輪が終わり、6月のサッカーワールドカップ(W杯)に向けた商戦が3月頃から立ち上がり、主力モデルとして販売されたことがシェア増加を後押ししたと見られる。W杯以降も40%台と高い水準をキープしているが、この背景には、期待したほど盛り上がらなかったW杯の影響で在庫がダブつき価格が下落。結果として販売台数では堅調だったのではないかと考えられる。
メーカー各社は国内をはじめとするW杯商戦での在庫調整はすでに終わった、あるいは終わりつつあるというが、急速に安くなった32・37V型の勢いが続けば、40V型以上の市場拡大に水をさしかねない状況だ。
●「BRAVIA」が優勢の大型市場
40V型以上の液晶テレビ市場でメーカー別の販売台数シェアを見てみると、ソニーがトップ。ソニーは「BRAVIA」で発売当初から40V型クラスを商品の中核に据える戦略を打ち出しており、この狙いが見事に当たった。去年10月に第1弾の発売後、それまでトップだったシャープとシェアが逆転。以降、急速にシェアを伸ばし、一時は70%を超えた。その後も常に50%以上のシェアを安定して獲得している。
液晶テレビ全体ではトップシェアを誇るシャープだが、40V型以上ではシェアは2位で、その動きは冴えない。ソニーが「BRAVIA」を発売してからは、下降線をたどり、5月には24.7%までシェアを落とした。直近の8月では30%まで何とか回復した格好だ。
シャープは40V型台モデルでは、これまで45V型を1機種しか販売しておらず、この市場では苦しい戦いを強いられてきた。しかし、亀山第2工場モデル投入で「タマが揃った」(片山専務)として、巻き返しを図る。
シェア3位の東芝は液晶テレビ「REGZA(レグザ)」で、広視野角のIPS(横電界)のフルHD液晶パネルを採用するなど、全モデルを一新。新機種でシェアを拡大したい考えだ。
●フルHD、接続機能……付加価値で消費者は呼び込めるか
40V型以上のモデルは実勢価格が軒並み40万円以上。誰もが気軽に買える値段ではない。店頭では徐々に売れ行きが伸びてきているというが、「夏商戦以降売れているのは40V型で、37V型と価格があまり変わらない機種が人気」(ビックカメラ)という側面もあることから、画面サイズより価格を重視している消費者も少なくない。さらに、価格がこなれる“買い時”を待っている人も多いはずだ。
一方メーカーでは、大画面化に加えハイビジョン映像を余すところなく表示できるフルHDパネルや高度な画像処理回路を使った高い画質やHDD-DVDレコーダーなどの周辺機器との連携をはじめとする接続機能、オーディオ並みの音響機能などの付加価値を武器に画面以外での商品力を高め、消費者にアピールする。
「大画面+高機能」というメーカーの訴えを消費者は冷静に見ており、市場が盛り上がらなければ、32V、37V型のような価格の体力勝負にもつれ込む可能性もある。はたしてメーカーの思惑通り市場は拡大するのか、年末商戦の動向が注目される。
*「BCNランキング」は、全国のパソコン専門店や家電量販店など22社・2200を超える店舗からPOSデータを日次で収集・集計しているPOSデータベースです。これは日本の店頭市場の約4割をカバーする規模で、パソコン本体からデジタル家電まで115品目を対象としています。
メーカー各社の新製品が出揃い、まもなく年末商戦に向けた戦いが本格化する液晶テレビ。06年のキーワードは「大型化」だ。売れ筋サイズの32・37V型で価格下落が進む中、メーカーは「大画面」という付加価値で収益増を狙う。大画面化の進展が早い世界市場も見据えた戦略だ。一方、国内市場に目を向ければ、「大画面」がどれだけ支持されるかは未知数。液晶テレビメーカーが描く戦略は国内市場で成功するのか?「BCNランキング」で探った。
●「大型」を付加価値に価格競争をかわす
「液晶テレビの大型化トレンドを牽引する」――8月末、液晶テレビ「BRAVIA(ブラビア)」の年末商戦モデル発表会で、ソニーの井原勝美副社長はこう宣言した。ソニーが新ブランド「BRAVIA」を投入したのは昨年の10月。その当初から40V、46V型モデルもラインアップし、大型液晶テレビ市場を開拓してきたという自負からの言葉だ。
実際店頭でも「37V型よりもちょっと大きい“お得感”で人気がある」(大手量販店店員)ことでシェアを拡大。「テレビ事業が収益の上がる事業になるまで、もう一歩」(井原副社長)のところまで、販売を伸ばしてきた。06年は年末商戦に向けて40V型以上のモデルを7機種投入、全世界でほぼ同時に発売する。最上位モデル「X2500シリーズ」は、初の50インチ台となる52V型をはじめ、46V型、40V型を展開。付加価値モデル「V2500シリーズ」、スタンダードモデル「S2500シリーズ」でも40V型、46V型を中心に据える。
また、「Xシリーズ」全機種、「Vシリーズ」の42V、46V型では水平1920×垂直1080画素のフルハイビジョン(フルHD)パネルを搭載。独自開発のバックライトで色の再現力も向上させた。40V型以上モデルの実勢価格は「Xシリーズ」が45-80万円前後、「Vシリーズ」は40-50万円前後、最も安い「Sシリーズ」で35-45万円前後の見込みだ。
ソニーでは「大型」という付加価値で価格競争をかわし、液晶パネルの歩留まりを上げるなどのコストダウンを進めて1台あたりの収益を高める戦略。井原副社長は「年末商戦で世界シェアは今よりも拡大できる」と自信を見せる。
●亀山第2工場「AQUOS」で巻き返しを図るシャープ
液晶テレビ最大手のシャープも年末商戦向けの液晶テレビ「AQUOS(アクオス)」を発表した。8月に稼働した亀山第2工場製パネルを搭載する。大型液晶パネルを効率的に生産できるようになったたことで、これまで手薄だった40インチ台モデル中心に拡充。世界で同時に発売する。
ラインアップはフルHDパネルを採用した42V、46V、52V型。高性能のデジタルアンプで音響面でも機能を向上させたほか、DVDレコーダーやサラウンドシステムをリモコン1つで操作できるのも特徴。実勢価格は52V型が60万円前後、46V型は50万円前後、42V型で45万円前後の見込み。
「シャープが日本だけで液晶をやっている会社というイメージを変える、世界へのステップ」(片山幹雄専務)と、新製品を位置付け、これまで弱いと言われてきた海外でのブランド力強化を図る。
さらに亀山第2工場モデルで狙うのは米国などでの買い替え需要。50-60V型のリアプロジェクションテレビの人気が高いエリアで液晶へのスイッチを狙う。新製品は台数ベースで半分以上を海外市場に振り向ける計画。また、大規模な販促活動も海外で展開する。片山専務は「世界シェア1位を狙う」(同)と鼻息も荒い。
●1桁シェアの国内大型市場をはたして主流にできるのか?
このように、液晶テレビメーカー各社とも、大型モデルで世界市場を見据えた戦略を打ち出している。大型画面のリアプロが普及している米国をはじめとする海外市場では、大型液晶テレビが受け入れられる素地は大きいだろう。しかし国内ではどうだろう? デジタル放送の普及のによるハイビジョンの浸透で、大型モデルの需要が高まることは間違いないが、主流のサイズを40V型以上の大型にシフトさせるだけの力があるかどうかは疑問だ。
「BCNランキング」で、「40V型以上」の占める割合を販売台数ベースで算出したところ、直近の8月でも液晶テレビ全体の6%ほど。過去1年でも1桁台で推移しており、液晶テレビ市場全体での割合はまだ低いのが現状だ。
一方、液晶テレビ市場で中心となっている「32・37V型」は3月以降、シェアを30%から40%台に急速に伸ばした。トリノ五輪が終わり、6月のサッカーワールドカップ(W杯)に向けた商戦が3月頃から立ち上がり、主力モデルとして販売されたことがシェア増加を後押ししたと見られる。W杯以降も40%台と高い水準をキープしているが、この背景には、期待したほど盛り上がらなかったW杯の影響で在庫がダブつき価格が下落。結果として販売台数では堅調だったのではないかと考えられる。
メーカー各社は国内をはじめとするW杯商戦での在庫調整はすでに終わった、あるいは終わりつつあるというが、急速に安くなった32・37V型の勢いが続けば、40V型以上の市場拡大に水をさしかねない状況だ。
●「BRAVIA」が優勢の大型市場
40V型以上の液晶テレビ市場でメーカー別の販売台数シェアを見てみると、ソニーがトップ。ソニーは「BRAVIA」で発売当初から40V型クラスを商品の中核に据える戦略を打ち出しており、この狙いが見事に当たった。去年10月に第1弾の発売後、それまでトップだったシャープとシェアが逆転。以降、急速にシェアを伸ばし、一時は70%を超えた。その後も常に50%以上のシェアを安定して獲得している。
液晶テレビ全体ではトップシェアを誇るシャープだが、40V型以上ではシェアは2位で、その動きは冴えない。ソニーが「BRAVIA」を発売してからは、下降線をたどり、5月には24.7%までシェアを落とした。直近の8月では30%まで何とか回復した格好だ。
シャープは40V型台モデルでは、これまで45V型を1機種しか販売しておらず、この市場では苦しい戦いを強いられてきた。しかし、亀山第2工場モデル投入で「タマが揃った」(片山専務)として、巻き返しを図る。
シェア3位の東芝は液晶テレビ「REGZA(レグザ)」で、広視野角のIPS(横電界)のフルHD液晶パネルを採用するなど、全モデルを一新。新機種でシェアを拡大したい考えだ。
●フルHD、接続機能……付加価値で消費者は呼び込めるか
40V型以上のモデルは実勢価格が軒並み40万円以上。誰もが気軽に買える値段ではない。店頭では徐々に売れ行きが伸びてきているというが、「夏商戦以降売れているのは40V型で、37V型と価格があまり変わらない機種が人気」(ビックカメラ)という側面もあることから、画面サイズより価格を重視している消費者も少なくない。さらに、価格がこなれる“買い時”を待っている人も多いはずだ。
一方メーカーでは、大画面化に加えハイビジョン映像を余すところなく表示できるフルHDパネルや高度な画像処理回路を使った高い画質やHDD-DVDレコーダーなどの周辺機器との連携をはじめとする接続機能、オーディオ並みの音響機能などの付加価値を武器に画面以外での商品力を高め、消費者にアピールする。
「大画面+高機能」というメーカーの訴えを消費者は冷静に見ており、市場が盛り上がらなければ、32V、37V型のような価格の体力勝負にもつれ込む可能性もある。はたしてメーカーの思惑通り市場は拡大するのか、年末商戦の動向が注目される。
*「BCNランキング」は、全国のパソコン専門店や家電量販店など22社・2200を超える店舗からPOSデータを日次で収集・集計しているPOSデータベースです。これは日本の店頭市場の約4割をカバーする規模で、パソコン本体からデジタル家電まで115品目を対象としています。