<ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第15回 富山商船高等専門学校

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2006/09/13 15:25

 富山商船高等専門学校(富山商船)は、今回の第17回プロコンで競技部門に出場する。競技部門には連続出場しているものの、ここ数年は受賞を逃している。昨年も競技部門に出場したが、2回戦で敗れてしまった。今回は、3年生にして「ソフトウェア開発技術者」資格を取得した学生がチームを引っ張り、着々と準備を進めている。優勝の期待は大きい。

リーダーはIPAの資格保有者
技術力でチームを引っ張る


 富山商船高等専門学校(富山商船)は、今回の第17回プロコンで競技部門に出場する。競技部門には連続出場しているものの、ここ数年は受賞を逃している。昨年も競技部門に出場したが、2回戦で敗れてしまった。今回は、3年生にして「ソフトウェア開発技術者」資格を取得した学生がチームを引っ張り、着々と準備を進めている。優勝の期待は大きい。(田沢理恵●取材/文)

●スロースターターを排し、準備万端で本戦に臨む

 富山商船では、コンピュータ部のメンバーが、プロコンを中心としたコンテストにチャレンジしている。部員は十数名で、そのうちの情報工学科3年生の新川昌典さん、部長の大澤悠輔さん(同学科4年生)、山口翔生さん(同学科1年生)の3名が競技部門に出場する。

 今回の競技部門のプログラムのタイトルは、富山県で呼ばれている出世魚の名前のひとつ「ガンド」(ブリの若魚)にした。出世魚の名前は、先輩から受け継いだもの。チームリーダーの新川さんは、3年生にしてIPA(情報処理推進機構)の「ソフトウェア開発技術者」資格を取得している突出した技術力の持ち主。現在、「ガンド」をつくり上げている最中だ。

 同校はここ数年、プロコンでの受賞から遠ざかっていたが、新川さんは「出場するからには優勝したい」という意気込みを示しており、篠川敏行・情報工学科教授も「今回は、それなりにやってくれるだろう」と、新川さんの力量に期待をかけている。

 実際に、今回は昨年までの取り組みとは違う。コンピュータ部の部員たちは、「ぎりぎりになってエンジンがかかる?悪しき伝統?があった」と苦笑いする。昨年までを振り返ると、大会当日になんとか間に合わせるといった習慣がついていたのだという。しかし、今年は全体的に昨年よりも早く取りかかり、本番に向けた段取りも計画通り進んでいる。



●プロコン参加を通じて広い世界に触れてほしい

 コンピュータ部顧問の山口晃史・情報工学科助教授は、学生たちがプロコンにチャレンジすることで「自分たちにどれくらいの力があるのか力試しをさせる」のが目的だが、本音では「技術的なことを学ぶというよりは、むしろ、大会に出ることで人間性、社会性を学んできてほしい」と思っているそうだ。

 「情報工学科の学生は、プログラミングは得意だが、電子回路などハードウェア関連が苦手な傾向がある」ため、必要に応じてアドバイスすることがある。だが、技術的な指導はほとんど行わない。「顧問の仕事は予算や場所、そのほか必要なものを提供する裏方がメイン。やるのは学生本人たちだから」と、きっぱりと言い切る。

 「高専は狭い空間で、狭い社会。学生たちにとっては、プロコンへの参加をよい機会として外へ出ることは大変重要なことだ」という。「会場に行けば、他校の学生がどんなプログラムをつくっているのかを目の当たりにでき、参考になる。広い世界へ出て行き、同じ価値観を持った学生どうしが触れ合って、いろいろなことを吸収してくることが一番大切」と、賞を狙うだけでなく、参加することの意義の深さを強調している。

 そのほか、高専では高校生のように、大学受験がないことから、5年間を無為に過ごしてしまうことにもなりかねない。

 コンピュータ部の部員自身も、「目標があるとぜんぜん違う」(情報工学科4年生の関喜史さん)など、プロコンを含め目標を持つことの大切さを実感してきている。 今年は、ACM/ICPC(国際大学対抗プログラミングコンテスト)にもチャレンジし、国内予選で60─70位までの間に入った。「あと1点で国内予選を通過できた」(競技部門メンバーでコンピュータ部部長の大澤さん)のだが、惜しくもアジア予選への出場は果たせなかった。

 しかし、各種大会へのチャレンジが自分たちの実力を試すきっかけになっていることを噛み締めている。大澤さんは、「今年は、例年に比べて新しいことをやっていこうとしている」と、部の活動を評価している。

 コンピューター部の部員は、情報工学科の学生だけでなく、国際流通学科の学生(2年生の宮田健朗さん)も入部している。宮田さんは、「プログラミング自体は苦手」だが、コンピュータを使うことが好きで入部した。宮田さんには、異なる視点からアイデアを出してもらったり、プレゼンテーションの仕方をアドバイスしてもらっているという。

 部員たちは、活発な意見交換を重ね、切磋琢磨しながら本戦に臨もうとしている。

●自主性と品格のある専門家を育成 千葉貢校長

 富山商船は、今年7月に創立100周年を迎えた。全国の国立高専55校のなかには、5つの商船高専があるが、そのなかでも日本海側では唯一の存在だ。同校がある富山県射水市周辺は、「中国、ロシア、韓国と貿易関係をもっている企業が多い」。地元企業に国際的な視野をもって活躍できる人材を送り出すためにも、同校では1996年からは高専では珍しい学科「国際流通学科」を設置した。

 教育システムが5年間の高専と高校を比較すると、高校は、多くの生徒が大学受験に向けて勉強するという流れができているが、「高専生の場合は、大学受験を目標とするのではなく、モノづくりなどの具体的なテーマに向かって取り組んでいく。そのなかで、プロコンなどのコンテストにチャレンジする意義は、各々の知識を集約してチームで目標達成を体験させるいい機会になる」と、教育の一環として有意義だとしている。

 千葉貢校長は、「学生生活のなかで、専門的な技術、知識を蓄えていかなければならないが、それだけでは企業では通用しない」と言い切る。

 「学生たちには自分で考えて行動してほしい」と、主体性を重視した教育に力を入れる。さらに、主体性にとどまらず、社会や企業で信頼されるリーダーになる資質を身につけるためにも、「自主性と品格のある専門家の育成」に重点をおいている。

BCN ITジュニア賞
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今年1月27日に開催されたBCN AWARD 2006/
ITジュニア賞2006表彰式の模様


※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第15回 富山商船高等専門学校は、週刊BCN 2006年9月11日発行 vol.1153に掲載した記事を転載したものです。