<ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第11回 木更津工業高等専門学校
木更津高専は今回、自由部門と課題部門に1年生のチームをエントリーさせた。低学年における専門教育という要望を受け、その一環としてプログラミングに取り組んだのである。残念ながら予選通過はならなかったが、プロコンを教学に具体的に生かした試みとして注目される。競技部門では3年生を中心に強力なチームを構成し、平成12年度準優勝校という過去の実績に劣らぬ成果を虎視眈々と狙っている。
先輩の経験や成果を同好会で継承
木更津高専は今回、自由部門と課題部門に1年生のチームをエントリーさせた。低学年における専門教育という要望を受け、その一環としてプログラミングに取り組んだのである。残念ながら予選通過はならなかったが、プロコンを教学に具体的に生かした試みとして注目される。競技部門では3年生を中心に強力なチームを構成し、平成12年度準優勝校という過去の実績に劣らぬ成果を虎視眈々と狙っている。(佐々木 潔●取材/文)
●低学年の専門教育として、プロコン挑戦を取り入れる
NHKがバックアップする高専ロボコンは、今や高専を語るうえでの代名詞になりつつあるが、現場を取材してみると意外にもプロコンをロボコンよりも評価する声が聞こえてくる。
ロボコンは目に見える形で成果を世に問うことができ、全国ネットを通じて広く高専の存在を知らしめた意義は大きいが、現場の先生方に聞くと、ロボコンは大がかりすぎて、高専生のすべてにロボコンのような体験をさせることは、不可能だということなのだ。一方、プロコンは取り組みを授業にフィードバックしやすく、多くの学生に追体験させることができることから、もっと積極的に利用したいというのである。
木更津高専に話を戻すと、今回、同校は自由部門・課題部門とも1年生のチームでエントリーしたものの予選通過はならなかった。ちなみにテーマは「子供でも使えるビジュアルプログラミングツール」と「高齢者支援システム」だった。
プログラミング研究同好会顧問の栗本育三郎教授によると、たまたま自らが情報工学科1年生の担任になり、低学年における専門教育の一環としてプログラミングに取り組んだそうだ。クラスの3分の1が参加し、前者ではかのアラン・ケイが提唱したSqueakの使い勝手の向上を目指して、また、後者では在宅介護をネットワークで支援するシステムを実現すべく、つい2か月前に中学を卒業したばかりの学生が、必死にチャレンジしたのだ。
栗本先生の話が面白い。「本人たちは予選に通るつもりで取り組んでいますから、父兄面談なんかで、ウチの子は全国大会に出るんだと張り切ってやっています、という話が出るぐらいでした」。あえなく落選したものの、栗本先生は「全国の高専1年生のなかで、君たちほど努力した学生はいない」と励ました。先生に落選の理由を尋ねると、「1年生ですから、まず意図したシステムについての表現力が足りない。もうひとつは、構想したものを実現する手立てがない。だけど、この結果を正面から受け止める学生が出てくるならば、それは将来プロコンに挑戦するグループのコアになるかもしれません」という答えが返ってきた。
●蓄積した技量を集大成し、やるからには優勝を狙いたい
木更津高専にはプログラミング研究同好会というプロコンの出場母体があるが、他校と違うところはプロコンのたびにメンバーを集めてチームを構成し、プロコンが終わるとチームも自然に解体していたことだ。
このため、平成12年度に競技部門で準優勝、13─14年度は課題部門で2年連続敢闘賞、15年度は自由部門で審査員特別賞と、一定の成績を収めつつも、優勝常連校としての確固たるポジションにはまだ到達していないようだ。
良くいえば、失敗の積み重ねのなかから学ぶ、成功よりも失敗の経験を尊ぶという、高専ならではの手法に愚直にこだわり、成功するための集団をつくるとか、勝つためのクラブを目指すという考え方を採ってこなかったのだ。しかし、これでは先輩が得た成果を後輩に継承することができないということで、3年前から次第にクラブとしての日常的な活動を重視するようになってきた。自由部門で審査員特別賞を獲得した年の上級生が中心となって、そうした雰囲気が醸成されたのである。
今回の競技部門出場チーム(3年生4人、2年生1人)は情報工学科に所属し、全員が昨年の課題部門にかかわった経験を持つ。プログラムづくりを担当する大和田真広さんは、「競技部門はアルゴリズムがものをいうので、これまで蓄積した技量を結集してプログラムをつくりたい」と意気込む。また、昨年までのVisual C++ とは開発ツールを変えたので、そのマスターを個人的な目標にしているとも語る。
今回用いる開発ツールは Delphi で、これは同じくプログラムを担当する黒坂竜之助さんが言い出しっぺ。黒坂さんによれば、「Delphiで競技のシミュレータをつくり、それを改良しながら仕上げていくほうが、いいものを早くつくれる」というので、その提案を全員が受け入れたものだ。
パズルが好きだという小野塚大貴さんは、今回の競技部門のテーマについて、「画像を扱わない分だけプログラムに割く労力が少なく、アイデアで勝負できる面もあるのでは…」と期待しつつ、「やるからには優勝を狙う」とたくましく宣言した。
●プロコンはPBLに適している 河上恭雄校長
木更津高専は、体験や実技を重視しつつ実践的な技術者を養成するという高専本来の主旨に沿いながら、最近では、PBL(Problem Based Learning=問題解決型授業)を導入するなど新たな試みを行っており、その具体的な実践テーマとしてプロコンやロボコンを位置づけている。
同校では、
(1)第1期生からインターンシップを取り入れて単位に組み入れた
(2)卒業研究とは別に3年次を中心とする特別研究(小中学校の総合学習に相当する)に取り組み、その成果を本に著した(『探求心に火を付ける?授業「特別研究」の挑戦』学術図書出版社)
(3)学生寮に群制度を敷いて自治に委ねるとともに切磋琢磨させた
──といった独自の取り組みを積み重ねてきた。一昨年の夏には、「ものづくり夢フェスタ?高専からはじまるものづくり新世紀」を、ロボコン提唱者の森政弘東工大名誉教授や、映画「ロボコン」の古厩智之監督を招いて、地元千葉県のかずさアカデミアホールで開催するなど、ユニークな活動を展開している。
「創立時にわずか3学科でのスタートだったことから、教員と職員、専門教員と一般教員、学科同士の垣根をつくらないようにして一体運営に努めてきた成果が、さまざまに結実しつつある現れでしょう」というのが、同校の“学風”を語る河上校長の弁である。
※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第11回 木更津工業高等専門学校は、週刊BCN 2006年8月7日発行 vol.1149に掲載した記事を転載したものです。
先輩の経験や成果を同好会で継承
新たな開発ツールで競技部門に挑戦
木更津高専は今回、自由部門と課題部門に1年生のチームをエントリーさせた。低学年における専門教育という要望を受け、その一環としてプログラミングに取り組んだのである。残念ながら予選通過はならなかったが、プロコンを教学に具体的に生かした試みとして注目される。競技部門では3年生を中心に強力なチームを構成し、平成12年度準優勝校という過去の実績に劣らぬ成果を虎視眈々と狙っている。(佐々木 潔●取材/文)
●低学年の専門教育として、プロコン挑戦を取り入れる
NHKがバックアップする高専ロボコンは、今や高専を語るうえでの代名詞になりつつあるが、現場を取材してみると意外にもプロコンをロボコンよりも評価する声が聞こえてくる。
ロボコンは目に見える形で成果を世に問うことができ、全国ネットを通じて広く高専の存在を知らしめた意義は大きいが、現場の先生方に聞くと、ロボコンは大がかりすぎて、高専生のすべてにロボコンのような体験をさせることは、不可能だということなのだ。一方、プロコンは取り組みを授業にフィードバックしやすく、多くの学生に追体験させることができることから、もっと積極的に利用したいというのである。
木更津高専に話を戻すと、今回、同校は自由部門・課題部門とも1年生のチームでエントリーしたものの予選通過はならなかった。ちなみにテーマは「子供でも使えるビジュアルプログラミングツール」と「高齢者支援システム」だった。
プログラミング研究同好会顧問の栗本育三郎教授によると、たまたま自らが情報工学科1年生の担任になり、低学年における専門教育の一環としてプログラミングに取り組んだそうだ。クラスの3分の1が参加し、前者ではかのアラン・ケイが提唱したSqueakの使い勝手の向上を目指して、また、後者では在宅介護をネットワークで支援するシステムを実現すべく、つい2か月前に中学を卒業したばかりの学生が、必死にチャレンジしたのだ。
栗本先生の話が面白い。「本人たちは予選に通るつもりで取り組んでいますから、父兄面談なんかで、ウチの子は全国大会に出るんだと張り切ってやっています、という話が出るぐらいでした」。あえなく落選したものの、栗本先生は「全国の高専1年生のなかで、君たちほど努力した学生はいない」と励ました。先生に落選の理由を尋ねると、「1年生ですから、まず意図したシステムについての表現力が足りない。もうひとつは、構想したものを実現する手立てがない。だけど、この結果を正面から受け止める学生が出てくるならば、それは将来プロコンに挑戦するグループのコアになるかもしれません」という答えが返ってきた。
●蓄積した技量を集大成し、やるからには優勝を狙いたい
木更津高専にはプログラミング研究同好会というプロコンの出場母体があるが、他校と違うところはプロコンのたびにメンバーを集めてチームを構成し、プロコンが終わるとチームも自然に解体していたことだ。
このため、平成12年度に競技部門で準優勝、13─14年度は課題部門で2年連続敢闘賞、15年度は自由部門で審査員特別賞と、一定の成績を収めつつも、優勝常連校としての確固たるポジションにはまだ到達していないようだ。
良くいえば、失敗の積み重ねのなかから学ぶ、成功よりも失敗の経験を尊ぶという、高専ならではの手法に愚直にこだわり、成功するための集団をつくるとか、勝つためのクラブを目指すという考え方を採ってこなかったのだ。しかし、これでは先輩が得た成果を後輩に継承することができないということで、3年前から次第にクラブとしての日常的な活動を重視するようになってきた。自由部門で審査員特別賞を獲得した年の上級生が中心となって、そうした雰囲気が醸成されたのである。
今回の競技部門出場チーム(3年生4人、2年生1人)は情報工学科に所属し、全員が昨年の課題部門にかかわった経験を持つ。プログラムづくりを担当する大和田真広さんは、「競技部門はアルゴリズムがものをいうので、これまで蓄積した技量を結集してプログラムをつくりたい」と意気込む。また、昨年までのVisual C++ とは開発ツールを変えたので、そのマスターを個人的な目標にしているとも語る。
今回用いる開発ツールは Delphi で、これは同じくプログラムを担当する黒坂竜之助さんが言い出しっぺ。黒坂さんによれば、「Delphiで競技のシミュレータをつくり、それを改良しながら仕上げていくほうが、いいものを早くつくれる」というので、その提案を全員が受け入れたものだ。
パズルが好きだという小野塚大貴さんは、今回の競技部門のテーマについて、「画像を扱わない分だけプログラムに割く労力が少なく、アイデアで勝負できる面もあるのでは…」と期待しつつ、「やるからには優勝を狙う」とたくましく宣言した。
●プロコンはPBLに適している 河上恭雄校長
木更津高専は、体験や実技を重視しつつ実践的な技術者を養成するという高専本来の主旨に沿いながら、最近では、PBL(Problem Based Learning=問題解決型授業)を導入するなど新たな試みを行っており、その具体的な実践テーマとしてプロコンやロボコンを位置づけている。
同校では、
(1)第1期生からインターンシップを取り入れて単位に組み入れた
(2)卒業研究とは別に3年次を中心とする特別研究(小中学校の総合学習に相当する)に取り組み、その成果を本に著した(『探求心に火を付ける?授業「特別研究」の挑戦』学術図書出版社)
(3)学生寮に群制度を敷いて自治に委ねるとともに切磋琢磨させた
──といった独自の取り組みを積み重ねてきた。一昨年の夏には、「ものづくり夢フェスタ?高専からはじまるものづくり新世紀」を、ロボコン提唱者の森政弘東工大名誉教授や、映画「ロボコン」の古厩智之監督を招いて、地元千葉県のかずさアカデミアホールで開催するなど、ユニークな活動を展開している。
「創立時にわずか3学科でのスタートだったことから、教員と職員、専門教員と一般教員、学科同士の垣根をつくらないようにして一体運営に努めてきた成果が、さまざまに結実しつつある現れでしょう」というのが、同校の“学風”を語る河上校長の弁である。
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※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第11回 木更津工業高等専門学校は、週刊BCN 2006年8月7日発行 vol.1149に掲載した記事を転載したものです。