携帯オーディオでソニー再起か? 1年ぶりシェア20%奪還でアップル追撃へ
ソニーが6月に発売したウォークマンEシリーズが好調だ。昨年7月以降、携帯オーディオの販売台数シェア10%台で足踏みしていた同社だが、この6月、「Eシリーズ効果」で久々に20%台を奪還。昨年に続き、再びアップル追撃に立ち上がった形だ。その要因は何か? 携帯オーディオ市場の現状を「BCNランキング」のデータでまとめた。
ソニーが6月に発売したウォークマンEシリーズが好調だ。昨年7月以降、携帯オーディオの販売台数シェア10%台で足踏みしていた同社だが、この6月、「Eシリーズ効果」で久々に20%台を奪還。昨年に続き、再びアップル追撃に立ち上がった形だ。その要因は何か? 携帯オーディオ市場の現状を「BCNランキング」のデータでまとめた。
●1位から4位までが固定しているなか、5位に小さな「異変」
まず6月のデータから見てみよう。カラーバリエーションなどを合算した販売台数シェアランキングのトップ20だ。またしても、1・2・3・4フィニッシュを決めたのはiPod。昨年9月の発売以来10か月連続1位の「iPod nano 2GB」は、いまだに14.3%とダントツの強さ。2位が同4GBで9.8%、3位が同1GBで9.1%。4位は第5世代のiPodの30GBバージョンだった。3位・4位で入れ替わりはあるものの、2月以降はこの4モデルが1位から4位を独占し続けている。6月では4機種で実に41.2%ものシェアを占めており、iPodファミリーの天下はまだまだ続いている。ただし、従来ならこの後に、iPod Shuffle 512MBモデルや1GBモデル、iPodの60GBモデルなどが続くところだが、6月では小さな「異変」が見られた。
上位陣を伺うようにシェア4.9%で同率5位に登場する2つのモデルが、6月に発売されたばかりのソニーのウォークマンEシリーズだ。メモリが2GBの「NW-E003」と512MBの「NW-E002」で、昨年11月に発売したメモリタイプ「Aシリーズ」の下位モデル。デザインこそ「香水瓶」のイメージを継承しているものの、インターフェイスなど、その他の部分は大幅に変更された。
まず目玉の変更点は、対応音楽フォーマットにWMAとAACが加わった点。特にAACはライバルメーカー、アップルが採用しているファイル形式なだけに、一部では「アップルに対する敗北宣言ではないか」と見る向きもあったようだ。しかし同社では「オープン戦略の一環」と位置づけ、幅広いユーザーの取り込みを狙う。AACを再生できるようになって、iTunesに楽曲を溜め込んでいるユーザーの買い替えや買い増し需要も見込める。もちろんユーザーにとっても、アップル・ソニー両方のファイルフォーマットが使えるメリットは大きい。
●AAC対応の一方、機能の絞り込みによる低価格化も効いた?
こうした対応フォーマットの拡充以外の部分では、かなり機能を削り込んできた。メモリタイプの「Aシリーズ」と比べると、まず特徴的だったジョグシャトルがなくなり、単純なボタン操作によるインターフェイスになった。USB端子を内蔵し、PCなどにダイレクトに接続できるように変更。またシリーズの特徴でもある有機ELディスプレイは健在だが、表示行数を3行から1行に、さらにバッテリーを小さくして、連続再生時間が50時間から短くなって28時間になった。チューナーも付いていない。
同社では「買い替え・買い増し需要も狙うが、基本的にはAシリーズとは別路線の入門機と位置づけている。そのため単純なボタン操作とUSB端子内蔵というシンプルな仕様を選択した」(マーケティング部)と説明している。こうした「シンプル化」は価格にも現れており、売れ筋の1GBモデルの実勢価格は1万3000円前後。競合モデルの「iPod Shuffle 1GB」は、アップルストア価格で1万1900円と微妙な価格差だ。店頭では「わずか1000円の差でディスプレイが付いてバッテリー持続時間が倍以上あるため、Shuffleの1GBよりもEシリーズの1GBモデルがお買い得感は高い」(大手量販店)という声が聞かれた。
また、「今、同じ1GB同士なら、やはりiPod nanoの1GBモデルと比較することが多い」(同)という声も聞かれた。しかし、nanoの1GBは薄くディスプレイが充実している一方、アップルストアで1万7800円とやや高めの価格。少し安いがディスプレイのない「iPod Shuffle 1GB」と機能は充実しているがやや高い「iPod nano 1GB」。その狭間に「価格が安めでディスプレイ付きのものが欲しい」というエアポケットができていたのかもしれない。こうした層の受け皿として、「Eシリーズ」がうまくはまった、という見方もできそうだ。一方アップルでは、「Eシリーズ」の好調は把握しているとしながらも、Shuffleのテコ入れなど今後の方針については「お答えできない」(広報部)とコメントを避けた。
そのほか、11位のシャープ「MP-S200」は512MBのメモリタイプで、カラビナ型が特徴のモデルがランクイン。同社が6月に発売したmini SDカードに対応する「MP-B200」は20位につけている。SDカード対応といえば、今年1月メーカー別販売台数シェアを初の10%と大台に乗せた松下の「D-snap Audio」シリーズも健闘しており、14位の「SV-SD770V」をはじめ、15、17位にそれぞれランクインしている。
●本格追撃には、大容量メモリタイプとHDDタイプのテコ入れが必要か?
ここで、少しさかのぼった時点から、メーカー別の販売台数シェア推移を見てみよう。多少のデコボコはありながらも安定的に首位を走り続けるアップル。それに対し、05年7月以降、10%中盤で足踏みをするソニーは、6月で新たな動きを見せているという構図だ。途中、今年1月には、SDメモリカードをメディアとして使うユニークな製品を擁する松下が急激に追い上げた影響で、アップルが久々の50%割れを喫した。市場に変化の兆しか、と思ったのも束の間、勢いは持続しなかった。そしてこの6月、ソニーが20%超えを果たし、アップルを50%割れに持ち込んだ。追撃が本格化するかどうかは、これからの勢い次第だろう。
ソニーでは「これほど売れるとは思っていなかった」(マーケティング部)と、当初の予想を大きく上回って「Eシリーズ効果」が出ていることを明らかにした。しかし、平均販売単価の推移を見ると、必ずしも有利な状況とはいえない。
アップルとの比較では、昨年6月時点ではほぼ同レベルだったものが、それ以降はアップルが2万円台で安定しているのに比べ、ソニーは単価の下落が激しい。最大の要因はHDDタイプの不振とメモリ4GBモデルの不在だ。アップルは第5世代のiPodが好調な上、単価の高い2GBと4GBのnanoも絶好調。単価の下落に苛まれずにすんでいる。ところがソニーのHDDタイプは「ウォークマンAシリーズ」6GBモデルと20GBモデルがふるわず、両方あわせてもシェア1.8%に過ぎない状態。この部分のテコ入れをしない限り、単価の安い製品で勝負せざるを得ず、シェア逆転をも視野に入れた本格的なアップル追撃は難しそうだ。(WebBCNランキング編集長・道越一郎)
*「BCNランキング」は、全国のパソコン専門店や家電量販店など23社・2200を超える店舗からPOSデータを日次で収集・集計しているPOSデータベースです。これは日本の店頭市場の約4割をカバーする規模で、パソコン本体からデジタル家電まで115品目を対象としています。
ソニーが6月に発売したウォークマンEシリーズが好調だ。昨年7月以降、携帯オーディオの販売台数シェア10%台で足踏みしていた同社だが、この6月、「Eシリーズ効果」で久々に20%台を奪還。昨年に続き、再びアップル追撃に立ち上がった形だ。その要因は何か? 携帯オーディオ市場の現状を「BCNランキング」のデータでまとめた。
●1位から4位までが固定しているなか、5位に小さな「異変」
まず6月のデータから見てみよう。カラーバリエーションなどを合算した販売台数シェアランキングのトップ20だ。またしても、1・2・3・4フィニッシュを決めたのはiPod。昨年9月の発売以来10か月連続1位の「iPod nano 2GB」は、いまだに14.3%とダントツの強さ。2位が同4GBで9.8%、3位が同1GBで9.1%。4位は第5世代のiPodの30GBバージョンだった。3位・4位で入れ替わりはあるものの、2月以降はこの4モデルが1位から4位を独占し続けている。6月では4機種で実に41.2%ものシェアを占めており、iPodファミリーの天下はまだまだ続いている。ただし、従来ならこの後に、iPod Shuffle 512MBモデルや1GBモデル、iPodの60GBモデルなどが続くところだが、6月では小さな「異変」が見られた。
上位陣を伺うようにシェア4.9%で同率5位に登場する2つのモデルが、6月に発売されたばかりのソニーのウォークマンEシリーズだ。メモリが2GBの「NW-E003」と512MBの「NW-E002」で、昨年11月に発売したメモリタイプ「Aシリーズ」の下位モデル。デザインこそ「香水瓶」のイメージを継承しているものの、インターフェイスなど、その他の部分は大幅に変更された。
まず目玉の変更点は、対応音楽フォーマットにWMAとAACが加わった点。特にAACはライバルメーカー、アップルが採用しているファイル形式なだけに、一部では「アップルに対する敗北宣言ではないか」と見る向きもあったようだ。しかし同社では「オープン戦略の一環」と位置づけ、幅広いユーザーの取り込みを狙う。AACを再生できるようになって、iTunesに楽曲を溜め込んでいるユーザーの買い替えや買い増し需要も見込める。もちろんユーザーにとっても、アップル・ソニー両方のファイルフォーマットが使えるメリットは大きい。
●AAC対応の一方、機能の絞り込みによる低価格化も効いた?
こうした対応フォーマットの拡充以外の部分では、かなり機能を削り込んできた。メモリタイプの「Aシリーズ」と比べると、まず特徴的だったジョグシャトルがなくなり、単純なボタン操作によるインターフェイスになった。USB端子を内蔵し、PCなどにダイレクトに接続できるように変更。またシリーズの特徴でもある有機ELディスプレイは健在だが、表示行数を3行から1行に、さらにバッテリーを小さくして、連続再生時間が50時間から短くなって28時間になった。チューナーも付いていない。
同社では「買い替え・買い増し需要も狙うが、基本的にはAシリーズとは別路線の入門機と位置づけている。そのため単純なボタン操作とUSB端子内蔵というシンプルな仕様を選択した」(マーケティング部)と説明している。こうした「シンプル化」は価格にも現れており、売れ筋の1GBモデルの実勢価格は1万3000円前後。競合モデルの「iPod Shuffle 1GB」は、アップルストア価格で1万1900円と微妙な価格差だ。店頭では「わずか1000円の差でディスプレイが付いてバッテリー持続時間が倍以上あるため、Shuffleの1GBよりもEシリーズの1GBモデルがお買い得感は高い」(大手量販店)という声が聞かれた。
また、「今、同じ1GB同士なら、やはりiPod nanoの1GBモデルと比較することが多い」(同)という声も聞かれた。しかし、nanoの1GBは薄くディスプレイが充実している一方、アップルストアで1万7800円とやや高めの価格。少し安いがディスプレイのない「iPod Shuffle 1GB」と機能は充実しているがやや高い「iPod nano 1GB」。その狭間に「価格が安めでディスプレイ付きのものが欲しい」というエアポケットができていたのかもしれない。こうした層の受け皿として、「Eシリーズ」がうまくはまった、という見方もできそうだ。一方アップルでは、「Eシリーズ」の好調は把握しているとしながらも、Shuffleのテコ入れなど今後の方針については「お答えできない」(広報部)とコメントを避けた。
そのほか、11位のシャープ「MP-S200」は512MBのメモリタイプで、カラビナ型が特徴のモデルがランクイン。同社が6月に発売したmini SDカードに対応する「MP-B200」は20位につけている。SDカード対応といえば、今年1月メーカー別販売台数シェアを初の10%と大台に乗せた松下の「D-snap Audio」シリーズも健闘しており、14位の「SV-SD770V」をはじめ、15、17位にそれぞれランクインしている。
●本格追撃には、大容量メモリタイプとHDDタイプのテコ入れが必要か?
ここで、少しさかのぼった時点から、メーカー別の販売台数シェア推移を見てみよう。多少のデコボコはありながらも安定的に首位を走り続けるアップル。それに対し、05年7月以降、10%中盤で足踏みをするソニーは、6月で新たな動きを見せているという構図だ。途中、今年1月には、SDメモリカードをメディアとして使うユニークな製品を擁する松下が急激に追い上げた影響で、アップルが久々の50%割れを喫した。市場に変化の兆しか、と思ったのも束の間、勢いは持続しなかった。そしてこの6月、ソニーが20%超えを果たし、アップルを50%割れに持ち込んだ。追撃が本格化するかどうかは、これからの勢い次第だろう。
ソニーでは「これほど売れるとは思っていなかった」(マーケティング部)と、当初の予想を大きく上回って「Eシリーズ効果」が出ていることを明らかにした。しかし、平均販売単価の推移を見ると、必ずしも有利な状況とはいえない。
アップルとの比較では、昨年6月時点ではほぼ同レベルだったものが、それ以降はアップルが2万円台で安定しているのに比べ、ソニーは単価の下落が激しい。最大の要因はHDDタイプの不振とメモリ4GBモデルの不在だ。アップルは第5世代のiPodが好調な上、単価の高い2GBと4GBのnanoも絶好調。単価の下落に苛まれずにすんでいる。ところがソニーのHDDタイプは「ウォークマンAシリーズ」6GBモデルと20GBモデルがふるわず、両方あわせてもシェア1.8%に過ぎない状態。この部分のテコ入れをしない限り、単価の安い製品で勝負せざるを得ず、シェア逆転をも視野に入れた本格的なアップル追撃は難しそうだ。(WebBCNランキング編集長・道越一郎)
*「BCNランキング」は、全国のパソコン専門店や家電量販店など23社・2200を超える店舗からPOSデータを日次で収集・集計しているPOSデータベースです。これは日本の店頭市場の約4割をカバーする規模で、パソコン本体からデジタル家電まで115品目を対象としています。