<ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第4回 久留米工業高等専門学校
久留米工業高等専門学校(前田三男校長)は、昨年の全国高等学校プログラミングコンテスト(プロコン)競技部門で優勝し、文部科学大臣賞を獲得した。しかし、優勝を獲得したものの、国際化企画として参加した海外チームの予想以上の健闘に苦戦を強いられた。元メンバーの2人に昨年の結果を通して学んだことを振り返るとともに、今年参加するメンバーに勝利にかける意気込みを聞いた。
自己研鑽が創造性の原点
久留米工業高等専門学校(前田三男校長)は、昨年の全国高等学校プログラミングコンテスト(プロコン)競技部門で優勝し、文部科学大臣賞を獲得した。しかし、優勝を獲得したものの、国際化企画として参加した海外チームの予想以上の健闘に苦戦を強いられた。元メンバーの2人に昨年の結果を通して学んだことを振り返るとともに、今年参加するメンバーに勝利にかける意気込みを聞いた。(田沢理恵●取材/文)
●競技で接した海外勢 予想外の実力に奮起
久留米高専は昨年のプロコン競技部門「ハートを捜せ」で優勝、文部科学大臣賞を獲得した。
競技の内容は電子ジグソーパズルのようなもので、パズルの完成図をもとに、バラバラに断片化されたパーツが原画のどこに当てはまるかを高度な画像処理で判別する競技だった。
昨年メンバーとして参加した制御情報工学科5年の田中祐輝さんは、「実はあまり自信がなかったんです」と当時の心境を明かす。 昨年は、プロコンの国際化を図るために、ベトナムからハノイ工科大学、モンゴルからモンゴル科学技術大学を招いたのだが、この海外勢が予想をはるかに上回る大健闘をしたのだ。
彼らが、圧倒的な速さで正解を積み重ねていく姿に「正直、びっくりしました」と、同じく昨年の参加メンバー益田和樹さんは振り返る。久留米高専は優勝を獲得したものの「彼らは画像処理に関する海外論文を研究したうえで、プログラムをつくりこんできた」と、その実力を評価する。
今年、益田さんはプロコン自由部門に参加する。一方の田中さんは、ICPC(世界最大規模の計算機学会が主催する国際規模のプログラミングコンテスト)への出場を決めた。昨年、ICPCの国内予選を通過し、アジア予選で100数チームのなかで25位に入った。大健闘と言っていい。しかし、参加者のほとんどが大学生で、「思いつきもしないアルゴリズムを繰り出す」ライバルに舌を巻いた。「自分たちはまだまだだな」と実感した。今年は再度新たな気持ちで、ICPCに挑む。
今年の競技部門に出場する制御情報工学科2年の櫨畑智公さんは、昨年優勝のプレッシャーを感じながらも、「優勝する気持ちでいる。昨年より順位を落とすわけにはいかない」と頼もしい返事。「ルールを徹底的に理解して、最適のアルゴリズムを探し出していく」。
同じく2年生の城・亮さんは、「みんなの足を引っ張らないように」と謙虚。今回のチームには、去年の参加メンバーの5年生もいる。その先輩を頼りに「とにかくついていきます」と話す。競技部門は、プログラミング技術のほかに、ボードゲーム的なテクニックも必要になる。どこでうまくパソコンを使うかがポイントなのだそうだ。
競技部門OBの5年生の益田さんは、進路として九州工科大学を、田中さんは東京工業大学への編入を目指している。2人ともプロコンへの参加を通して、もっと学びたくなって大学進学を決めたそうだ。益田さんは、「プロコンを含めていろいろな経験ができたため、進学の面接ではプロコンの経験をアピールしたい」と胸を張る。将来の目標は、益田さんは、プログラムに触れる仕事、田中さんは、プログラマかソフト工学の研究者を目指している。
●自分で考えるのが基本 先輩の経験を生かして
久留米高専には、部員20名強のプロコン同好会がある。プロコンだけでなく、会津大学主催の「パソコン甲子園」や、4年生以上の高学年はICPCなど、さまざまなコンテストに出場することで、「地力とアルゴリズムの力をつけることができる」と担当教官の黒木祥光助教授は話す。「そうして身につけた力が、社会に出てからの成果につながる」という。アルゴリズムの力を鍛えるためには、数学が必要。黒木助教授は、基礎として必要な数学の教育に力を入れている。
プロコンの指導については、勝つためにどの手法を使うかという「手法の選び方がポイント」になる。学生たちには、画像処理などの参考書を与えるが、あとは、基本的に自分たちで考えさせる。
最終的に勝負の差がつくのは「作り込み」の段階。予行演習後に手直しをするが、それまでにどれだけベースを固められるか、いつまでに何をやるのかという「本番までのスケジューリングが重要」。こうしたプロジェクト管理を「実際に経験した先輩に教えてもらえることが重要な経験になる」と語る。
プロコンの出場経験は、「地力につながっていることは間違いない」として、実社会でこの経験が役立つことを期待している。
●自己確立の基礎を固める 前田三男校長
久留米高専の前身は、昭和14年設立の久留米高等工業学校。戦後の学制改革で再編が行われたが、高専で最初に卒業生を送り出した。現在は、産学連携が「他の高専に比べてトップクラス」。第三セクターの久留米リサーチ・パークや企業との共同研究にも取り組んでいる。
前田校長は、昨年4月に九州大学エレクトロニクス分野の教授から赴任。大学と高専の学生の違いをこう語る。
「大学生は大人なので、自分たちで創造性を生み出すよう指導する。しかし、高専の1?3年生はまだ学生自身が子供。そのため、まずは1?3年でしっかりと自分を確立できるよう基礎を固める教育を基本としている」
高専の5年間で「とにかく自分を磨き、自分とは何かを模索することで、創造性が生まれる」という。
学生には、自我を確立し、自分を磨くように指導している。
また、高専の特徴は、「入学後にいろいろな進路を選べること」だと話す。5年生で大学に編入したり、大学編入後に大学院に進むなどといったエリートコースにも道は開かれている。5年生で卒業すれば短大卒業レベルと見なされる。「どのレベルでもそれぞれ社会的な役割があり、自分の努力でいろいろな道を選べることが高専の優れたシステムだと思う」と話す。
※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第4回 久留米工業高等専門学校」は、週刊BCN 2006年6月19日発行 vol.1142に掲載した記事を転載したものです。
自己研鑽が創造性の原点
プロコンの経験が社会で役立つ
久留米工業高等専門学校(前田三男校長)は、昨年の全国高等学校プログラミングコンテスト(プロコン)競技部門で優勝し、文部科学大臣賞を獲得した。しかし、優勝を獲得したものの、国際化企画として参加した海外チームの予想以上の健闘に苦戦を強いられた。元メンバーの2人に昨年の結果を通して学んだことを振り返るとともに、今年参加するメンバーに勝利にかける意気込みを聞いた。(田沢理恵●取材/文)
●競技で接した海外勢 予想外の実力に奮起
久留米高専は昨年のプロコン競技部門「ハートを捜せ」で優勝、文部科学大臣賞を獲得した。
競技の内容は電子ジグソーパズルのようなもので、パズルの完成図をもとに、バラバラに断片化されたパーツが原画のどこに当てはまるかを高度な画像処理で判別する競技だった。
昨年メンバーとして参加した制御情報工学科5年の田中祐輝さんは、「実はあまり自信がなかったんです」と当時の心境を明かす。 昨年は、プロコンの国際化を図るために、ベトナムからハノイ工科大学、モンゴルからモンゴル科学技術大学を招いたのだが、この海外勢が予想をはるかに上回る大健闘をしたのだ。
彼らが、圧倒的な速さで正解を積み重ねていく姿に「正直、びっくりしました」と、同じく昨年の参加メンバー益田和樹さんは振り返る。久留米高専は優勝を獲得したものの「彼らは画像処理に関する海外論文を研究したうえで、プログラムをつくりこんできた」と、その実力を評価する。
今年、益田さんはプロコン自由部門に参加する。一方の田中さんは、ICPC(世界最大規模の計算機学会が主催する国際規模のプログラミングコンテスト)への出場を決めた。昨年、ICPCの国内予選を通過し、アジア予選で100数チームのなかで25位に入った。大健闘と言っていい。しかし、参加者のほとんどが大学生で、「思いつきもしないアルゴリズムを繰り出す」ライバルに舌を巻いた。「自分たちはまだまだだな」と実感した。今年は再度新たな気持ちで、ICPCに挑む。
今年の競技部門に出場する制御情報工学科2年の櫨畑智公さんは、昨年優勝のプレッシャーを感じながらも、「優勝する気持ちでいる。昨年より順位を落とすわけにはいかない」と頼もしい返事。「ルールを徹底的に理解して、最適のアルゴリズムを探し出していく」。
同じく2年生の城・亮さんは、「みんなの足を引っ張らないように」と謙虚。今回のチームには、去年の参加メンバーの5年生もいる。その先輩を頼りに「とにかくついていきます」と話す。競技部門は、プログラミング技術のほかに、ボードゲーム的なテクニックも必要になる。どこでうまくパソコンを使うかがポイントなのだそうだ。
競技部門OBの5年生の益田さんは、進路として九州工科大学を、田中さんは東京工業大学への編入を目指している。2人ともプロコンへの参加を通して、もっと学びたくなって大学進学を決めたそうだ。益田さんは、「プロコンを含めていろいろな経験ができたため、進学の面接ではプロコンの経験をアピールしたい」と胸を張る。将来の目標は、益田さんは、プログラムに触れる仕事、田中さんは、プログラマかソフト工学の研究者を目指している。
●自分で考えるのが基本 先輩の経験を生かして
久留米高専には、部員20名強のプロコン同好会がある。プロコンだけでなく、会津大学主催の「パソコン甲子園」や、4年生以上の高学年はICPCなど、さまざまなコンテストに出場することで、「地力とアルゴリズムの力をつけることができる」と担当教官の黒木祥光助教授は話す。「そうして身につけた力が、社会に出てからの成果につながる」という。アルゴリズムの力を鍛えるためには、数学が必要。黒木助教授は、基礎として必要な数学の教育に力を入れている。
プロコンの指導については、勝つためにどの手法を使うかという「手法の選び方がポイント」になる。学生たちには、画像処理などの参考書を与えるが、あとは、基本的に自分たちで考えさせる。
最終的に勝負の差がつくのは「作り込み」の段階。予行演習後に手直しをするが、それまでにどれだけベースを固められるか、いつまでに何をやるのかという「本番までのスケジューリングが重要」。こうしたプロジェクト管理を「実際に経験した先輩に教えてもらえることが重要な経験になる」と語る。
プロコンの出場経験は、「地力につながっていることは間違いない」として、実社会でこの経験が役立つことを期待している。
●自己確立の基礎を固める 前田三男校長
久留米高専の前身は、昭和14年設立の久留米高等工業学校。戦後の学制改革で再編が行われたが、高専で最初に卒業生を送り出した。現在は、産学連携が「他の高専に比べてトップクラス」。第三セクターの久留米リサーチ・パークや企業との共同研究にも取り組んでいる。
前田校長は、昨年4月に九州大学エレクトロニクス分野の教授から赴任。大学と高専の学生の違いをこう語る。
「大学生は大人なので、自分たちで創造性を生み出すよう指導する。しかし、高専の1?3年生はまだ学生自身が子供。そのため、まずは1?3年でしっかりと自分を確立できるよう基礎を固める教育を基本としている」
高専の5年間で「とにかく自分を磨き、自分とは何かを模索することで、創造性が生まれる」という。
学生には、自我を確立し、自分を磨くように指導している。
また、高専の特徴は、「入学後にいろいろな進路を選べること」だと話す。5年生で大学に編入したり、大学編入後に大学院に進むなどといったエリートコースにも道は開かれている。5年生で卒業すれば短大卒業レベルと見なされる。「どのレベルでもそれぞれ社会的な役割があり、自分の努力でいろいろな道を選べることが高専の優れたシステムだと思う」と話す。
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※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第4回 久留米工業高等専門学校」は、週刊BCN 2006年6月19日発行 vol.1142に掲載した記事を転載したものです。