<ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第3回 津山工業高等専門学校
津山工業高等専門学校(阿部武治校長)は、一昨年、昨年と全国高等専門学校プログラミングコンテスト(プロコン)自由部門で文部科学大臣賞を受賞した実力校。そのリーダーにプロコンで得たもの、プロコン連覇を支えた教学環境などを取材し、併せて現役の後輩たちに今年のプロコンにかける意気込みを語ってもらった。
連覇はもはや過去の遺産
津山工業高等専門学校(阿部武治校長)は、一昨年、昨年と全国高等専門学校プログラミングコンテスト(プロコン)自由部門で文部科学大臣賞を受賞した実力校。そのリーダーにプロコンで得たもの、プロコン連覇を支えた教学環境などを取材し、併せて現役の後輩たちに今年のプロコンにかける意気込みを語ってもらった。(佐々木 潔●取材/文)
●ネット内の足跡を視覚化 最優秀賞を3回も受賞
2年生で初参加したプロコンでいきなり最優秀賞(文部科学大臣賞)を受賞。3年生での審査員特別賞を挟んで、さらに4・5年生と最優秀賞(連覇)を達成した井上恭輔さん。
いまは同校の専攻科に進学した井上さんに、プロコンの感想を問うと、「結果よりも4年間継続してチャレンジしたことで得た経験がいちばん大きかった」という答えが返ってきた。
同校から初のエントリーとなった2年生の時は、「自分もチームも手探り状態で、十分なスキルを持っていなかったために苦しい思いをしました」と振り返る。だが、一昨年からはインターネットにおけるコミュニケーション・ツールにテーマを絞り込み、“デスクトップ作業領域の共有”から“ブラウジング・コミュニケーター”へと進化させた。
それが、昨年の「超次元コラボレーションブラウザ」である。井上さんたちのチームは、ブラウザのリンク機能をMAPとして表現することで視覚化できるようにした(これをエクスターリンクと呼ぶ)。さらに時間軸を加えて、人がアクセスした跡をフットマークとして記録する。人の往来が少ないリンクは細道として、往来の激しいリンクは太い道として表示され、まるでアリの巣のようなチャートで視覚化される。いわばWeb閲覧の履歴共有を通じてネット上の他者とつながろうとするシステム。
相手とつながって仲良くなったならばブラウザ同士を相互に接続し、他の利用者の検索の経路やさまざまな情報を交換しながら、ネットサーフィンを楽しもうというものだ。
「ネットで人と知り合う場合、相手が書いたプロフィールを頼りに、この人とは気が合いそうだと判断してつながりを持つわけですが、僕らが考えたのはネット内の行動を視覚化することによって、フィーリングを確かめ合うツールです」と井上さんは語る。
指導教官の寺元貴幸講師も、「ネットのリソースはそのままで、別の世界を出現させるという、これまでにない発想を視覚的に表現できた」と高く評価する。
井上さんはこの4月、専攻科に進学しコミュニケーション・システムの研究にいそしんでいる。
今年は独創的なソフトウェア技術や事業アイデアを公募しその開発を支援するIPA(情報処理推進機構)主催の「未踏ソフトウェア創造事業」に公募して、研究成果を世に問いたいということだ。
●親子2代で部活を引っ張る 新しい発想でプロコンに挑戦
津山高専では指導教官がテーマを与えたり、研究・開発の細部に立ち入ることは一切行っていない。技術的な問題は自分たちで解決しなさいというスタンスで、一歩引いたところから見守る方針を厳守しているそうだ。「その代わり、研究が行き詰まった時などの精神的なケアには細心の注意を払っている」と情報工学科の岡田正教授はいう。 同校は岡山県の内陸部にあることから、寮で生活する学生の割合が他校に比べて高く、共同生活によって気心を通じ合いお互いを磨くという伝統があることも、部活動には大いに役立っているようだ。
なかでも、システム研究部は創立以来30年以上の歴史を誇る名門クラブ。30人超の部員を引っ張っていく谷口孝仁さん(電子制御工学科)は、父親がシステム研究部の創設者で親子二代にわたるリーダー役。井上恭輔さんというスターを輩出し、その井上さんを慕って入部した部員が多いが、今年の課題は一からのスタート。技術やノウハウは先輩から継承しつつ、新しい発想でプロコンに挑む。
自由部門の3人(山本さん、青木さん、藤原さん)はいずれもプログラミングを基礎としつつ、それを生かして異業種や異分野で活躍したいという猛者揃い。競技部門の3人(高山さん、山下さん、谷口さん)は、数学が好きで計算を生かせる競技部門を志願した。 昨年、一昨年のプロコン経験者(自由部門)を競技部門にコンバートし、陣容をすべて入れ替えて臨む。
部のOBでもある指導教官の寺元講師は、「過去の成功体験にしがみつくことなく、失敗から学んでほしい」と部員を鼓舞する。
●独創性に富む人材の育成を 阿部武治校長
津山高専の教育理念は「自律・創造・自由」。阿部武治校長によると、10年ほど前に教育方針を転換し、学生の創造性を育てるための自律的で自由な環境づくりを目指してきた。1年生の時から取り組むテーマと目標を各自に設定させ、それを教員がサポートしながら、独習時間やクラブ活動を単位として認定するというユニークな教学スタイルを定着させている。
「自分で目標を立てて、チャレンジをするという自律的・創造的な人材育成が津山高専の独特の校風を育んできた」という。
独立行政法人化によって、他の高専や大学でも、研究を視野に入れた独創的な人材育成の必要性が着目されるようになったが、そうした時代の変化に先駆けて、独創性を重んじる教育に取り組んできたともいえる。
プロコンでの3回におよぶ最優秀賞獲得などの活躍は、長期間にわたる「校風」づくりという地道な努力が実りつつあることを示している。昨年は高専ロボコンでも優勝し、その実力を示した。「他校では先生が一緒になって作品づくりに手を貸すこともあるが、本校では自分で考え取り組ませる。そこから自律・創造の精神が育まれる」と阿部校長は語る。
来年は全国生涯学習フェスティバル「まなびピア」が岡山県で、プロコンも津山市で開催される。日頃の教育の成果を広く世間に問う絶好の機会でもある。
※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第3回 津山工業高等専門学校」は、週刊BCN 2006年6月12日発行 vol.1141に掲載した記事を転載したものです。
連覇はもはや過去の遺産
メンバー総入れ替えで、失敗を恐れずに挑戦
津山工業高等専門学校(阿部武治校長)は、一昨年、昨年と全国高等専門学校プログラミングコンテスト(プロコン)自由部門で文部科学大臣賞を受賞した実力校。そのリーダーにプロコンで得たもの、プロコン連覇を支えた教学環境などを取材し、併せて現役の後輩たちに今年のプロコンにかける意気込みを語ってもらった。(佐々木 潔●取材/文)
●ネット内の足跡を視覚化 最優秀賞を3回も受賞
2年生で初参加したプロコンでいきなり最優秀賞(文部科学大臣賞)を受賞。3年生での審査員特別賞を挟んで、さらに4・5年生と最優秀賞(連覇)を達成した井上恭輔さん。
いまは同校の専攻科に進学した井上さんに、プロコンの感想を問うと、「結果よりも4年間継続してチャレンジしたことで得た経験がいちばん大きかった」という答えが返ってきた。
同校から初のエントリーとなった2年生の時は、「自分もチームも手探り状態で、十分なスキルを持っていなかったために苦しい思いをしました」と振り返る。だが、一昨年からはインターネットにおけるコミュニケーション・ツールにテーマを絞り込み、“デスクトップ作業領域の共有”から“ブラウジング・コミュニケーター”へと進化させた。
それが、昨年の「超次元コラボレーションブラウザ」である。井上さんたちのチームは、ブラウザのリンク機能をMAPとして表現することで視覚化できるようにした(これをエクスターリンクと呼ぶ)。さらに時間軸を加えて、人がアクセスした跡をフットマークとして記録する。人の往来が少ないリンクは細道として、往来の激しいリンクは太い道として表示され、まるでアリの巣のようなチャートで視覚化される。いわばWeb閲覧の履歴共有を通じてネット上の他者とつながろうとするシステム。
相手とつながって仲良くなったならばブラウザ同士を相互に接続し、他の利用者の検索の経路やさまざまな情報を交換しながら、ネットサーフィンを楽しもうというものだ。
「ネットで人と知り合う場合、相手が書いたプロフィールを頼りに、この人とは気が合いそうだと判断してつながりを持つわけですが、僕らが考えたのはネット内の行動を視覚化することによって、フィーリングを確かめ合うツールです」と井上さんは語る。
指導教官の寺元貴幸講師も、「ネットのリソースはそのままで、別の世界を出現させるという、これまでにない発想を視覚的に表現できた」と高く評価する。
井上さんはこの4月、専攻科に進学しコミュニケーション・システムの研究にいそしんでいる。
今年は独創的なソフトウェア技術や事業アイデアを公募しその開発を支援するIPA(情報処理推進機構)主催の「未踏ソフトウェア創造事業」に公募して、研究成果を世に問いたいということだ。
●親子2代で部活を引っ張る 新しい発想でプロコンに挑戦
津山高専では指導教官がテーマを与えたり、研究・開発の細部に立ち入ることは一切行っていない。技術的な問題は自分たちで解決しなさいというスタンスで、一歩引いたところから見守る方針を厳守しているそうだ。「その代わり、研究が行き詰まった時などの精神的なケアには細心の注意を払っている」と情報工学科の岡田正教授はいう。 同校は岡山県の内陸部にあることから、寮で生活する学生の割合が他校に比べて高く、共同生活によって気心を通じ合いお互いを磨くという伝統があることも、部活動には大いに役立っているようだ。
なかでも、システム研究部は創立以来30年以上の歴史を誇る名門クラブ。30人超の部員を引っ張っていく谷口孝仁さん(電子制御工学科)は、父親がシステム研究部の創設者で親子二代にわたるリーダー役。井上恭輔さんというスターを輩出し、その井上さんを慕って入部した部員が多いが、今年の課題は一からのスタート。技術やノウハウは先輩から継承しつつ、新しい発想でプロコンに挑む。
自由部門の3人(山本さん、青木さん、藤原さん)はいずれもプログラミングを基礎としつつ、それを生かして異業種や異分野で活躍したいという猛者揃い。競技部門の3人(高山さん、山下さん、谷口さん)は、数学が好きで計算を生かせる競技部門を志願した。 昨年、一昨年のプロコン経験者(自由部門)を競技部門にコンバートし、陣容をすべて入れ替えて臨む。
部のOBでもある指導教官の寺元講師は、「過去の成功体験にしがみつくことなく、失敗から学んでほしい」と部員を鼓舞する。
●独創性に富む人材の育成を 阿部武治校長
津山高専の教育理念は「自律・創造・自由」。阿部武治校長によると、10年ほど前に教育方針を転換し、学生の創造性を育てるための自律的で自由な環境づくりを目指してきた。1年生の時から取り組むテーマと目標を各自に設定させ、それを教員がサポートしながら、独習時間やクラブ活動を単位として認定するというユニークな教学スタイルを定着させている。
「自分で目標を立てて、チャレンジをするという自律的・創造的な人材育成が津山高専の独特の校風を育んできた」という。
独立行政法人化によって、他の高専や大学でも、研究を視野に入れた独創的な人材育成の必要性が着目されるようになったが、そうした時代の変化に先駆けて、独創性を重んじる教育に取り組んできたともいえる。
プロコンでの3回におよぶ最優秀賞獲得などの活躍は、長期間にわたる「校風」づくりという地道な努力が実りつつあることを示している。昨年は高専ロボコンでも優勝し、その実力を示した。「他校では先生が一緒になって作品づくりに手を貸すこともあるが、本校では自分で考え取り組ませる。そこから自律・創造の精神が育まれる」と阿部校長は語る。
来年は全国生涯学習フェスティバル「まなびピア」が岡山県で、プロコンも津山市で開催される。日頃の教育の成果を広く世間に問う絶好の機会でもある。
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※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第3回 津山工業高等専門学校」は、週刊BCN 2006年6月12日発行 vol.1141に掲載した記事を転載したものです。