<ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第1回 茨城工業高等専門学校
今年の全国高等専門学校第17回プログラミングコンテスト(高専プロコン、主催・高等専門学校連合会)は、茨城県にある茨城工業高等専門学校(茨城高専、角田幸紀校長)を舞台に、開催される。5月末で応募が締め切られ、10月の決勝戦に向けた激しい闘いがスタートする。優秀チームはBCNが昨年度に創設したITジュニア賞の有力な受賞対象となる。
今年の決勝戦は茨城が舞台
今年の全国高等専門学校第17回プログラミングコンテスト(高専プロコン、主催・高等専門学校連合会)は、茨城県にある茨城工業高等専門学校(茨城高専、角田幸紀校長)を舞台に、開催される。5月末で応募が締め切られ、10月の決勝戦に向けた激しい闘いがスタートする。優秀チームはBCNが昨年度に創設したITジュニア賞の有力な受賞対象となる。本連載では次世代のIT技術立国を担う“ITジュニア”たちを取材し、若い世代のモノづくりにかける情熱を紹介する。第1回目は今年の高専プロコンの主管校である茨城高専に登場してもらった。(安藤章司●取材/文)
●主管校の面目をかけて、7チームが校内予選に
高専プロコンは全国63校の高等専門学校(高専)に学ぶ学生を対象としたコンピュータプログラムのコンテストだ。高専は中学校を卒業した15─20歳までの学生を対象に5年間の一貫教育を行う技術系の教育機関で、プロコンは今年で17回目。
今年の主管校である茨城高専は、まず手始めに全国の高専学生に参加を呼びかけるポスターを制作し、着々と準備を進めている。図柄やキャッチコピーは自校の学生とともに考えた。ポスターに採用されたキャッチコピーは、「広がる思い水平線を越えて」。太平洋に面した美しい国営ひたち海浜公園に隣接した同校の立地環境をよく表している。プロコン担当の森龍男副校長学生主事は、「われわれの年代なら茨城のイメージとして水戸黄門や納豆が多いが、学生たちは太平洋に思いを馳せた」という。海を越えてプロコンの認知度が高まれば、国境を越えて参加する学生も増える。このキャッチには、学生たちのそうした意気込みが込められている。
今年、茨城高専では7つのチームがプロコンへの参加に名乗りを上げた。だがプロコンの規定で1学校につき5チームまでしか参加できないため校内予選を実施した。公式予選の前に選別をするのは茨城高専では3年ぶりのこと。学生の高い関心がうかがい知れる。昨年のプロコンを振り返ると「まさかの予選敗退」(杉村康 電子情報工学科教授)という苦い経験があり、学生たちもそのことをよく知っている。決戦会場を提供する主管校のチームとして、他校をリードする作品で勝負に臨みたい──。茨城高専は学生たちの熱い思いで満ちている。
●最新のソフトを独習し、未知の領域へと挑む
プロコンの種目は「課題部門」「自由部門」「競技部門」の3つからなる。「課題部門」の今年のテーマは「子供心とコンピュータ」。コンピュータソフトを活用した子供向けの知育教材やゲーム、育児支援システムなど「子供の持つ無邪気な心を大切にした心温まるアイデア」(柴田尚志副校長 教務主事電子情報工学科教授)が出品テーマとなる。自由部門は先進的なコンピューティング環境に役立つ独創的なソフトで優劣を競う。課題、自由ともに既存の考え方にとらわれないオリジナルのアイデアを求めており、「若い世代の柔軟な発想」(同)が求められる。
課題と自由の各部門が審査員による評価で順位が決まるのに対して、競技部門は参加チームの直接対決によって勝敗を決める。コンピュータを用いた数学的な一種のゲームでありソフトのアルゴリズムが勝負ポイントになる。いずれの部門も独創的なアイデアを重視するものの、プロコンである以上、プログラミング技術は一定水準を満たしていなければならない。茨城高専の学生にとって、実はこの点が気にかかるところだという。
本科で5年間の一貫教育を受けたのち、さらに上級の2年間の専攻科へ進学した情報・電気電子工学専攻1年・額賀啓行さんは「市販のソフト開発ツールを自ら購入して半ば独学で作品の構想を練っている」と話す。ソフトの進歩は非常に速いものがあり、学生たちはいずれも授業の範囲を越えた新しいプログラムを学習し、作品に取り込んでいく。自ら未知の領域に取り組んでいく姿勢を学ぶことこそが、プロコン最大の狙いだ。
電気電子システム工学科5年・海老原健一さんは「今回初めてプログラミングに挑戦するチームメイトもいる」と、初心者同士で別のチームを組んだ。決勝戦の会場となる今年は「この地で自分たちの見せ場をつくってやろう」という気概はあるものの、実質、これからが勝負だ。
やる気満々のITジュニアたちを支援する教員も例年にも増して熱心な指導を行っており、主管校の意気込みと期待はますます膨らんでいる。
●授業評価制度で国際標準の教育環境を
角田幸紀校長
茨城高専は全国の高専に先駆けて外部機関からの客観的な評価や学生アンケートを実施するなど、授業のレベルアップに努めている。2004年には技術者教育プログラムが社会の要求に合致しているかを評価する日本技術者教育認定機構(JABEE)から認定を受けた。高専の専攻科の中では早期認定のグループに属しており、「外部からの評価を積極的に受け入れ、国際レベルの教育を重視している」(角田幸紀校長)と胸を張る。
JABEE認定に先立つ01年には学生が授業をどう評価しているのかのアンケートを教職員の間で共有する取り組みを始めた。従来は学生に対する授業評価アンケートは担任の教員のみが参照していたが、教員同士が互いの授業に生かし、切磋琢磨できる仕組みに変えた。一連の改革は業務評価を厳しく問われる高専の独立行政法人化を見据えて行われたもので、「時代の変化に適応できる教育機関の体制づくり」に率先して対応してきた。
現在、茨城高専では「機械システム工学科」「電気電子システム工学科」などの5つ本科と専攻科が設けられており、1000人余りの学生が学んでいる。目覚ましい進歩を遂げるITは、こうした学科の境界を越えて影響を及ぼしており、「プロコンはさまざまな分野で学ぶ学生に深く関係する大会」として注目されている。
※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第1回 茨城工業高等専門学校」は、週刊BCN 2006年5月29日発行 vol.1139に掲載した記事を転載したものです。
今年の決勝戦は茨城が舞台
「広がる思い水平線を越えて」
今年の全国高等専門学校第17回プログラミングコンテスト(高専プロコン、主催・高等専門学校連合会)は、茨城県にある茨城工業高等専門学校(茨城高専、角田幸紀校長)を舞台に、開催される。5月末で応募が締め切られ、10月の決勝戦に向けた激しい闘いがスタートする。優秀チームはBCNが昨年度に創設したITジュニア賞の有力な受賞対象となる。本連載では次世代のIT技術立国を担う“ITジュニア”たちを取材し、若い世代のモノづくりにかける情熱を紹介する。第1回目は今年の高専プロコンの主管校である茨城高専に登場してもらった。(安藤章司●取材/文)
●主管校の面目をかけて、7チームが校内予選に
高専プロコンは全国63校の高等専門学校(高専)に学ぶ学生を対象としたコンピュータプログラムのコンテストだ。高専は中学校を卒業した15─20歳までの学生を対象に5年間の一貫教育を行う技術系の教育機関で、プロコンは今年で17回目。
今年の主管校である茨城高専は、まず手始めに全国の高専学生に参加を呼びかけるポスターを制作し、着々と準備を進めている。図柄やキャッチコピーは自校の学生とともに考えた。ポスターに採用されたキャッチコピーは、「広がる思い水平線を越えて」。太平洋に面した美しい国営ひたち海浜公園に隣接した同校の立地環境をよく表している。プロコン担当の森龍男副校長学生主事は、「われわれの年代なら茨城のイメージとして水戸黄門や納豆が多いが、学生たちは太平洋に思いを馳せた」という。海を越えてプロコンの認知度が高まれば、国境を越えて参加する学生も増える。このキャッチには、学生たちのそうした意気込みが込められている。
今年、茨城高専では7つのチームがプロコンへの参加に名乗りを上げた。だがプロコンの規定で1学校につき5チームまでしか参加できないため校内予選を実施した。公式予選の前に選別をするのは茨城高専では3年ぶりのこと。学生の高い関心がうかがい知れる。昨年のプロコンを振り返ると「まさかの予選敗退」(杉村康 電子情報工学科教授)という苦い経験があり、学生たちもそのことをよく知っている。決戦会場を提供する主管校のチームとして、他校をリードする作品で勝負に臨みたい──。茨城高専は学生たちの熱い思いで満ちている。
●最新のソフトを独習し、未知の領域へと挑む
プロコンの種目は「課題部門」「自由部門」「競技部門」の3つからなる。「課題部門」の今年のテーマは「子供心とコンピュータ」。コンピュータソフトを活用した子供向けの知育教材やゲーム、育児支援システムなど「子供の持つ無邪気な心を大切にした心温まるアイデア」(柴田尚志副校長 教務主事電子情報工学科教授)が出品テーマとなる。自由部門は先進的なコンピューティング環境に役立つ独創的なソフトで優劣を競う。課題、自由ともに既存の考え方にとらわれないオリジナルのアイデアを求めており、「若い世代の柔軟な発想」(同)が求められる。
課題と自由の各部門が審査員による評価で順位が決まるのに対して、競技部門は参加チームの直接対決によって勝敗を決める。コンピュータを用いた数学的な一種のゲームでありソフトのアルゴリズムが勝負ポイントになる。いずれの部門も独創的なアイデアを重視するものの、プロコンである以上、プログラミング技術は一定水準を満たしていなければならない。茨城高専の学生にとって、実はこの点が気にかかるところだという。
本科で5年間の一貫教育を受けたのち、さらに上級の2年間の専攻科へ進学した情報・電気電子工学専攻1年・額賀啓行さんは「市販のソフト開発ツールを自ら購入して半ば独学で作品の構想を練っている」と話す。ソフトの進歩は非常に速いものがあり、学生たちはいずれも授業の範囲を越えた新しいプログラムを学習し、作品に取り込んでいく。自ら未知の領域に取り組んでいく姿勢を学ぶことこそが、プロコン最大の狙いだ。
電気電子システム工学科5年・海老原健一さんは「今回初めてプログラミングに挑戦するチームメイトもいる」と、初心者同士で別のチームを組んだ。決勝戦の会場となる今年は「この地で自分たちの見せ場をつくってやろう」という気概はあるものの、実質、これからが勝負だ。
やる気満々のITジュニアたちを支援する教員も例年にも増して熱心な指導を行っており、主管校の意気込みと期待はますます膨らんでいる。
●授業評価制度で国際標準の教育環境を
角田幸紀校長
茨城高専は全国の高専に先駆けて外部機関からの客観的な評価や学生アンケートを実施するなど、授業のレベルアップに努めている。2004年には技術者教育プログラムが社会の要求に合致しているかを評価する日本技術者教育認定機構(JABEE)から認定を受けた。高専の専攻科の中では早期認定のグループに属しており、「外部からの評価を積極的に受け入れ、国際レベルの教育を重視している」(角田幸紀校長)と胸を張る。
JABEE認定に先立つ01年には学生が授業をどう評価しているのかのアンケートを教職員の間で共有する取り組みを始めた。従来は学生に対する授業評価アンケートは担任の教員のみが参照していたが、教員同士が互いの授業に生かし、切磋琢磨できる仕組みに変えた。一連の改革は業務評価を厳しく問われる高専の独立行政法人化を見据えて行われたもので、「時代の変化に適応できる教育機関の体制づくり」に率先して対応してきた。
現在、茨城高専では「機械システム工学科」「電気電子システム工学科」などの5つ本科と専攻科が設けられており、1000人余りの学生が学んでいる。目覚ましい進歩を遂げるITは、こうした学科の境界を越えて影響を及ぼしており、「プロコンはさまざまな分野で学ぶ学生に深く関係する大会」として注目されている。
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※本記事「<技術立国の夢を担う ITジュニアの群像 高専プロコンへの道>第1回 茨城工業高等専門学校」は、週刊BCN 2006年5月29日発行 vol.1139に掲載した記事を転載したものです。