NICTとJAXA、世界で初めて低軌道の人工衛星と地上とで光通信に成功
独立行政法人の情報通信研究機構(NICT、長尾真理事長)と宇宙航空研究開発機構(JAXA、立川敬二理事長)は4月7日、JAXAの光衛星間通信実験衛星「きらり」と東京都小金井市にあるNICTの光地上局間の光通信実験が成功したと発表した。低軌道で地球を周回する人工衛星と光地上局とを結ぶ光通信実験が成功したのは世界で初めて。
光通信は、肉眼では見えない赤外線を用いたレーザー光を使って行うデジタル通信技術。「きらり」のような低軌道で地球を周回する衛星と地上局の間で光通信を行う際には、温度による屈折率の変化、風や対流、乱流、大気による吸収・散乱、雲などによる遮断によって通信状態が大きな影響を受ける。そのため、軌道速度約7km/秒と高速で移動する衛星と地上局との間で正確にレーザー光のやりとりを行うのは難しかった。しかし今回、高度約600kmを周回する「きらり」と光地上局との間で実施した光通信実験で3月31日、双方向通信に成功。高速で飛ぶ低高度地球周回衛星と地上局間での大気の影響を初めて実測できた。
光通信技術は将来的に、衛星間を結ぶ光通信システム、ビル間を接続する回線、航空機などとの空間通信などでの利用が期待されている。マイクロ波を使った無線通信システムと比較すると、周波数割り当てや免許の問題がなく、高速大容量の通信を実現できる点で優れている。さらに他の通信システムとの干渉がなく、ケーブルの敷設コストがかからないなどのメリットもある。一方、光を使って信号を伝送するために気象条件の影響を受けやすく、運用距離が短くなるなどの制約が課題となっている。
今後「きらり」は、欧州宇宙機関(ESA)の「先端型データ中継技術衛星(ARTEMIS)」との衛星間の光通信実験のほか、NICTやドイツ航空宇宙機関(DLR)等の機関が所有する光地上局との通信実験を継続し、宇宙環境下での光衛星間通信機器の性能確認、大気の影響評価などを行う予定。