アップル1GBテコ入れの理由、iPodに1GB nano投入とshuffle値下げの裏事情

特集

2006/02/09 04:09

 アップルコンピュータは2月7日、ベストセラーの携帯オーディオ iPod nano(nano)に1GBモデルを追加投入すると同時に 512MBと1GBのiPod shuffle(shuffle)の値下げを発表した。なぜ今、同社はこんな戦略に打って出たのか? 「BCNランキング」を使ってその背景を探った。

 アップルコンピュータは2月7日、ベストセラーの携帯オーディオ iPod nano(nano)に1GBモデルを追加投入すると同時に 512MBと1GBのiPod shuffle(shuffle)の値下げを発表した。なぜ今、同社はこんな戦略に打って出たのか? 「BCNランキング」を使ってその背景を探った。



●一見好調のアップルに忍び寄る黒い影、一体何が起こった?

 携帯オーディオ全体の販売台数では、週次ベースで一時6割目前までシェアを拡大したアップル。その後もiPodというブランドの強さは相変わらずでトップシェアを維持し続けている。しかし、年末から年初にかけてシェアは下降曲線を描き始め、直近1月のBCNランキングでは45.5%と久々に5割の大台を割り込んできた。



 ソニーや松下をはじめとする競合の巻き返しがはじまっていることが一因だ。とはいえアップルも動画対応の第5世代iPodやnanoなど相変わらず好調。最新の機種別BCNランキングでもトップ10のうち実に9モデルがアップルで占められており、一見アップルに死角はないように見える。では一体何が起こっているのか?

●1GBでは2位から7位に、512MBでも1位から2位に転落

 実は全体の販売台数シェア押し下げた原因は shuffleだった。同じメモリタイプのnanoがあまりにもヒットしたため注目はnanoに集中。shuffle購買予備群のかなりの数がnanoに流れたのではないかとも考えられる。その影響で、shuffleは512MBも1GBもシェアを大きく落とした。特に落ち込みが目立つのは1GBタイプだ。



 1GBのメモリタイプに絞り、携帯オーディオ販売台数のメーカー別シェア推移を見るとその不調は歴然。昨年9月の段階では2割を超えるシェアを維持しソニーに次いで2位だったものが、1月の時点でなんと3.5%にまで激減。メーカー別ランキングでは7位にまで大きく順位を下げた。また、shuffle 512MBタイプも、1GBほど激しくはないにしても、やはりシェアを大きく落とし、9月は33.8%で1位だったものが1月には14.2%と2位に転落した。2月に予定していた1GB nanoやshuffleの値下げを前に、生産や出荷を絞ったのではないかと想像もできるが、アップルでは「特にそのようなことはしていない」(広報部)と否定している。



●気がつけば、shuffleは追いつかれてしまっていた

 shuffle不調のもうひとつの要因、それは価格だ。メモリタイプの携帯オーディオで、容量別の平均単価推移を見てみると、いずれの容量も価格は右肩下がりの状況。ただし、従来のnanoのカテゴリーである2GBと4GBに関しては、競合が少ないこともあり、大きな下落は生じていない。



 さらに、1GBと512MBで容量別に切り出して、shuffle や nano の価格と比較してみると、状況がよくわかる。一番大きく打撃を受けたshuffleの1GBと、メモリタイプ1GBの平均単価推移を見ると、昨年1月時点では大きなアドバンテージを持っていたshuffleだが、06年1月時点で、平均単価が発売当初の価格に追いついてほぼ同レベルに達した。価格下落を受けて05年6月に一度値下げを行っているとはいえ、ディスプレイがないshuffleにとって、この現象は極めて厳しいと言わざるを得ない。

●1GBをテコ入れせよ!

 そこで、アップルは大幅な値下げを行い、再び価格の優位性を取り戻すことで、シェア奪還を狙っているようだ。1月時点では1GBタイプの平均単価はおよそ1万7000円前後。それに対してshuffleの新価格1万1900円は充分戦える水準だと言えるだろう。また、このカテゴリーに同じく投入するnanoの価格は1万7800円と、平均価格をやや上回るものの、クリックホイールとディスプレイを持つiPodとしては初の1万円台の製品。ブランド力を考えると、こちらの価格設定もなかなか的を射たものになっている。いずれにせよ、大きく落ち込んだメモリ1GBカテゴリーへのテコ入れ材料としては非常に強力だ。


 同じく、shuffle512MBについても価格の問題は大きかった。現状では1GBと異なりshuffle512MBタイプは平均価格を下回っているものの、徐々に差を詰められている状況。追いつかれるのは時間の問題だっただろう。ここで一気に7900円に値下げすることで、再び大きな価格アドバンテージが生まれることになった。



●「嬉しい驚き」を期待したい

 こうした戦略投下によって、アップルの不安材料となっていたメモリタイプ1GBと512MBの落ち込みはある程度カバーできそうだ。さらに、携帯オーディオ全体でマーケットシェアの減少傾向にも歯止めがかかってくるだろう。結果的にメモリ1GBのカテゴリーにnanoとshuffleが同居することになったわけだが、いずれメモリタイプはnanoにシフトしていくのではないか? この問いに対して同社は、いつものように「将来のことに関しては答えられない」(広報部)として明らかにしなかった。

 今回のラインアップの整理や値下げは、マーケティング判断としてまったく正しいとは思うものの、個人的にはある種の手詰まり感を感じたことも否めない。ビジネスとして打つべき手を打ったに過ぎず、それ以上の思い入れが伝わってこないからだ。今後もアップルがこうした「微調整」を続けるようであれば、トップシェアの地位は危ういかもしれない。競合各社は虎視眈々とiPodの座を狙っている。やはり、nanoで味わったような「嬉しい驚き」のある製品をアップルには期待したい。そして競合他社にもそれを超えるようなコンセプトの製品を大いに期待したい。(WebBCNランキング編集長・道越一郎)

*当初の原稿で、iPod shuffle 1GB の価格推移について、05年6月に行われた値下げが反映されていなかったため、グラフと本文にその事実を追記しました。

*「BCNランキング」は、全国のパソコン専門店や家電量販店など18社・2200を超える店舗からPOSデータを日次で収集・集計しているPOSデータベースです。これは日本の店頭市場の約4割をカバーする規模で、パソコン本体からデジタル家電まで115品目を対象としています。