インクジェットバトルの勝者は? カギ握る「インク」の売り上げ
インクジェット式のプリンタや複合機は、今や個人で定番の出力プラットフォームになった。現在は、プリンタならキヤノン、複合機ならエプソンがそれぞれトップの販売シェアを持つ。しかし、しくみは同じようなふたつのハード、合算したほうが両社の力関係がより明確になりそうだ。 そして、インクの売り上げはどうなっているのか? 「BCNランキング」データに隠されていた「インクジェットバトル」の勝者とその構造を探る。
インクジェット式のプリンタや複合機は、今や個人で定番の出力プラットフォームになった。現在は、プリンタならキヤノン、複合機ならエプソンがそれぞれトップの販売シェアを持つ。しかし、しくみは同じようなふたつのハード、合算したほうが両社の力関係がより明確になりそうだ。 そして、インクの売り上げはどうなっているのか? 「BCNランキング」データに隠されていた「インクジェットバトル」の勝者とその構造を探る。
●売れ筋「インクジェットハード」は?
このところ、インクジェット「プリンタ」のキヤノン、インクジェット「複合機」のエプソンという構図がだいぶ定着してきた。販売金額のシェアでもその傾向ははっきりと現れている。しかし、「インクを紙に吹き付けて印字する機械とそのインクの販売」というビジネスモデルを考えると、多少の機能の差こそあれ「プリンタ」「複合機」をことさらに分ける必要もないように思われる。そこで、「プリンタ」と「複合機」を合算し、仮に「インクジェットハード」と名づけ集計してみた。 まずは「インクジェットハード」の売れ筋のランキングだ。販売台数シェアトップはエプソンの複合機「Colorio PM-A870」。ベストセラーとも言われた「PM-A850」の後継機だ。メモリを本体に差し込み、2.4型の液晶モニタで画像を確認しながらダイレクトプリントが可能。CD-Rなどへの印刷こそ対応していないが、写真画質の美しさはもはやプリント専用機に遜色ない。実売価格も2万円台前半にまで落ちてきて、かなりお買い得感が高い。L版のプリントスピードは57秒、ランニングコストは21.7円(同社Webサイト)となっている。
一方ランキング2位は、キヤノンのプリンタ「PIXUS iP4100」。プリンタらしからぬスッキリしたデザインも今となってはおなじみ。人気の中級モデルだ。写真の高コントラスト化を図る染料系ブラックインクと、耐水性に優れた顔料系ブラックインクを両方搭載。完全双方向印刷で印字スピードも速い。実勢価格も1万円中盤と手頃。プリントスピードはL版1枚につき42秒、ランニングコストは9.2円(同社Webサイト)とされている。
3位以下、エプソン複合機、キャノンプリンタと仲良く交互に並び、TOP10までではこの2社だけ、という2人勝ちの状況だ。メーカーごとの販売金額のシェアで比較すると、価格帯が高めの複合機で成功しているエプソンが「インクジェットハード」全体でのシェアが高く50%。キヤノンにおよそ10%の差をつけてトップという結果になった。
●実は、インクの売り上げはハードを上回っている
ハードウエアと並んで重要な商材は「インク」だ。インクは販売単位がまちまちで、販売個数によるランキングは何かと不都合があるので、やはり販売「金額」のシェアでみていきたい。ここでもエプソンがインクジェットハードで築いたアドバンテージを活かして強い。2位キヤノンに20%以上の差をつけてトップだ。
ここで、インクの種類についての動向も少し見てみよう。最近では詰め替え品やリサイクル品、互換品と、純正以外の選択肢も増えたように見える。しかし金額ベースではわずか5%にも満たない水準。少々の価格の安さより、純正の信頼性を選ぶユーザーが圧倒的に多いようだ。また、インクの種類では、依然として染料系インクが約8割で、残りがほぼ顔料系という構成だ。
次に、インクの売上規模を「インクジェットハード」と比較してみた。実に過半数を占めるのはインクのほうだ。複合機とプリンタの売上で残りを分け合うという形。つまり、インクは、ハードウェア以上にビッグビジネスということになる。各社が躍起になって新しいインクや印字方式を開発する理由もここにありそうだ。その産物なのか副産物なのか、しばらく前に比べて、インクジェットハードの出力は格段に美しくなった。しかし、各社が次々と打ち出す独自機能をカートリッジに組み込んでいくためか、インクの値段はなかなか下がらない。
逆に、「インクジェットハード」が出るたびに専用の新しいインクが開発され、インクカートリッジのバリエーションは数え切れないほどになってきた。カートリッジの形状も微妙に変化しつづけている。言わば技術力でサードパーティーの参入を阻むことによって、インクの価格を安定させる、という構造だ。
それでは「プリンタ」「複合機」に加え「インク」の売上も合算した形での、インクジェットビジネスの総合ランキングを見てみると、トップはやはりエプソンだ。とりもなおさず複合機でのシェア獲得が大きな要因だろう。
●コストパフォーマンスの高さで選ぶなら、「プリンタ単体」で選ぶべからず
こうしたインクを含めたトータルな価格が「コストパフォーマンス」という隠れた「性能」にモロに関わってくる。したがってプリンタ選びは本体のスペックや価格だけでなく、その後長く付き合うことになるインクについて、プライオリティを一段高く設定して吟味する必要がある。先ほど紹介したように、最近ではメーカーのWebサイトなどに、「ランニングコスト」が表示されるようになってきた。まずはこれを目安にしたい。
ただ、単に「インクカートリッジが安い」という理由だけで機種の選定を行ってしまうのは少々早急だ。たとえばインクは、そのグレードにより「耐オゾン(ガス)性」や「耐光性」といったプリント後の耐久年数が変わってくる。「高画質のデジカメ写真を恒久的に残しておきたい」なら、単価の高いインクカートリッジに対応したハイエンド機を選ぶのも悪くない選択。
逆に「用途は文書メインで写真は二の次」といった人には、単価の安いインクカートリッジに対応したエントリー機でも十分。このように、これからのプリンタ選びは、自分のニーズとインクを中心としたランニングコストを十分に吟味して選びたい。インクの売上が過半数を占めるからこそ、購入の際、店頭で聞いてみたいのはランニングコスト。年間出力枚数を試算するなどして、自分にとって一番パフォーマンスの高いマシンを選びたい。(市川昭彦<Aqui-Z>)
*「BCNランキング」は、全国のパソコン専門店や家電量販店など18社・2200を超える店舗からPOSデータを日次で収集・集計しているPOSデータベースです。これは日本の店頭市場の約4割をカバーする規模で、パソコン本体からデジタル家電まで113品目を対象としています。
インクジェット式のプリンタや複合機は、今や個人で定番の出力プラットフォームになった。現在は、プリンタならキヤノン、複合機ならエプソンがそれぞれトップの販売シェアを持つ。しかし、しくみは同じようなふたつのハード、合算したほうが両社の力関係がより明確になりそうだ。 そして、インクの売り上げはどうなっているのか? 「BCNランキング」データに隠されていた「インクジェットバトル」の勝者とその構造を探る。
●売れ筋「インクジェットハード」は?
このところ、インクジェット「プリンタ」のキヤノン、インクジェット「複合機」のエプソンという構図がだいぶ定着してきた。販売金額のシェアでもその傾向ははっきりと現れている。しかし、「インクを紙に吹き付けて印字する機械とそのインクの販売」というビジネスモデルを考えると、多少の機能の差こそあれ「プリンタ」「複合機」をことさらに分ける必要もないように思われる。そこで、「プリンタ」と「複合機」を合算し、仮に「インクジェットハード」と名づけ集計してみた。 まずは「インクジェットハード」の売れ筋のランキングだ。販売台数シェアトップはエプソンの複合機「Colorio PM-A870」。ベストセラーとも言われた「PM-A850」の後継機だ。メモリを本体に差し込み、2.4型の液晶モニタで画像を確認しながらダイレクトプリントが可能。CD-Rなどへの印刷こそ対応していないが、写真画質の美しさはもはやプリント専用機に遜色ない。実売価格も2万円台前半にまで落ちてきて、かなりお買い得感が高い。L版のプリントスピードは57秒、ランニングコストは21.7円(同社Webサイト)となっている。
一方ランキング2位は、キヤノンのプリンタ「PIXUS iP4100」。プリンタらしからぬスッキリしたデザインも今となってはおなじみ。人気の中級モデルだ。写真の高コントラスト化を図る染料系ブラックインクと、耐水性に優れた顔料系ブラックインクを両方搭載。完全双方向印刷で印字スピードも速い。実勢価格も1万円中盤と手頃。プリントスピードはL版1枚につき42秒、ランニングコストは9.2円(同社Webサイト)とされている。
3位以下、エプソン複合機、キャノンプリンタと仲良く交互に並び、TOP10までではこの2社だけ、という2人勝ちの状況だ。メーカーごとの販売金額のシェアで比較すると、価格帯が高めの複合機で成功しているエプソンが「インクジェットハード」全体でのシェアが高く50%。キヤノンにおよそ10%の差をつけてトップという結果になった。
●実は、インクの売り上げはハードを上回っている
ハードウエアと並んで重要な商材は「インク」だ。インクは販売単位がまちまちで、販売個数によるランキングは何かと不都合があるので、やはり販売「金額」のシェアでみていきたい。ここでもエプソンがインクジェットハードで築いたアドバンテージを活かして強い。2位キヤノンに20%以上の差をつけてトップだ。
ここで、インクの種類についての動向も少し見てみよう。最近では詰め替え品やリサイクル品、互換品と、純正以外の選択肢も増えたように見える。しかし金額ベースではわずか5%にも満たない水準。少々の価格の安さより、純正の信頼性を選ぶユーザーが圧倒的に多いようだ。また、インクの種類では、依然として染料系インクが約8割で、残りがほぼ顔料系という構成だ。
次に、インクの売上規模を「インクジェットハード」と比較してみた。実に過半数を占めるのはインクのほうだ。複合機とプリンタの売上で残りを分け合うという形。つまり、インクは、ハードウェア以上にビッグビジネスということになる。各社が躍起になって新しいインクや印字方式を開発する理由もここにありそうだ。その産物なのか副産物なのか、しばらく前に比べて、インクジェットハードの出力は格段に美しくなった。しかし、各社が次々と打ち出す独自機能をカートリッジに組み込んでいくためか、インクの値段はなかなか下がらない。
逆に、「インクジェットハード」が出るたびに専用の新しいインクが開発され、インクカートリッジのバリエーションは数え切れないほどになってきた。カートリッジの形状も微妙に変化しつづけている。言わば技術力でサードパーティーの参入を阻むことによって、インクの価格を安定させる、という構造だ。
それでは「プリンタ」「複合機」に加え「インク」の売上も合算した形での、インクジェットビジネスの総合ランキングを見てみると、トップはやはりエプソンだ。とりもなおさず複合機でのシェア獲得が大きな要因だろう。
●コストパフォーマンスの高さで選ぶなら、「プリンタ単体」で選ぶべからず
こうしたインクを含めたトータルな価格が「コストパフォーマンス」という隠れた「性能」にモロに関わってくる。したがってプリンタ選びは本体のスペックや価格だけでなく、その後長く付き合うことになるインクについて、プライオリティを一段高く設定して吟味する必要がある。先ほど紹介したように、最近ではメーカーのWebサイトなどに、「ランニングコスト」が表示されるようになってきた。まずはこれを目安にしたい。
ただ、単に「インクカートリッジが安い」という理由だけで機種の選定を行ってしまうのは少々早急だ。たとえばインクは、そのグレードにより「耐オゾン(ガス)性」や「耐光性」といったプリント後の耐久年数が変わってくる。「高画質のデジカメ写真を恒久的に残しておきたい」なら、単価の高いインクカートリッジに対応したハイエンド機を選ぶのも悪くない選択。
逆に「用途は文書メインで写真は二の次」といった人には、単価の安いインクカートリッジに対応したエントリー機でも十分。このように、これからのプリンタ選びは、自分のニーズとインクを中心としたランニングコストを十分に吟味して選びたい。インクの売上が過半数を占めるからこそ、購入の際、店頭で聞いてみたいのはランニングコスト。年間出力枚数を試算するなどして、自分にとって一番パフォーマンスの高いマシンを選びたい。(市川昭彦<Aqui-Z>)
*「BCNランキング」は、全国のパソコン専門店や家電量販店など18社・2200を超える店舗からPOSデータを日次で収集・集計しているPOSデータベースです。これは日本の店頭市場の約4割をカバーする規模で、パソコン本体からデジタル家電まで113品目を対象としています。