運動会をハイビジョンで? 売れる10万円台のハイビジョンビデオカメラ
実勢価格が10万円台で、事実上初の家庭用ハイビジョンデジタルビデオカメラとなったソニーの「HDR-HC1」。これがいま売れている。「BCNランキング」では発売直後に2位、以降3位と高順位をキープ。現在、平均価格が7万円?8万円程度のデジタルビデオカメラだが、HC1はその倍前後もする高価な商品。それなのに、どうしてこんなに売れているのか? いよいよビデオカメラもハイビジョンの時代に突入するのか? ソニーマーケティングに聞いた。
実勢価格が10万円台で、事実上初の家庭用ハイビジョンデジタルビデオカメラとなったソニーの「HDR-HC1」。これがいま売れている。「BCNランキング」では発売直後に2位、以降3位と高順位をキープ。現在、平均価格が7万円?8万円程度のデジタルビデオカメラだが、HC1はその倍前後もする高価な商品。それなのに、どうしてこんなに売れているのか? いよいよビデオカメラもハイビジョンの時代に突入するのか? ソニーマーケティングに聞いた。
●発売以来ランキング2位、3位と好調を維持するHC1
HC1の「BCNランキング(カラーバリエーション合算値)」推移を見ると、発売日を含む05年7月第2週で2位、販売台数シェア16.8%を記録した。7月最終週の直近集計でも3位(10.2%)と好調に推移している。HC1を担当するソニーマーケティング・モバイルネットワークプロダクツマーケティング部・PVMK課シニアマーケティングマネジャーの佐藤淳氏は、「店頭プロモーションによって、ハイビジョンとはどんなものかを知らなかった層にも、良さを認識してもらう戦略を進める。これによって製品単体で10%シェアを目指す」という目標を掲げる。今のところその水準はクリアしていると言ってよさそうだ。
●まず、「値ごろ感」でハイアマチュアが動いた
ホームユースを想定した初のハイビジョンビデオカメラ。テレビコマーシャルも少し違った演出を試みた。まず通常は製品発売後に流すところを発売前から開始。さらに、新たなカテゴリーの製品が「生まれる」というコンセプトから赤ちゃんのモチーフを採用。発売日の7月7日をクローズアップして新製品の誕生を印象づけた。こうした戦略は、まずハイビジョンの良さを「知っている」ユーザー層を動かした。
発売直後の購入層は、ハイビジョンに興味を持つ「ハイアマチュア」のユーザーによる予約購入が多かったという。この彼らを動かした影の立役者といえるのが、同社が昨年発売した民生用ハイビジョンカメラ「HDR-FX1」で実勢価格は40万円弱。FX1の存在を知っているなら、さらに、欲しいと思っていたなら20万円を下回るHC1は、お買い得に感じるだろう。
もちろんこの値付けは「戦略的なものだった」と佐藤シニアマネジャーは明かす。「HC1の価格は、最初から設定していたもの。FX1を知っているハイアマチュアには大いに値ごろ感を感じてもらえる水準。一方、ビデオカメラを必要とする普通の家族が普通に購入できる価格帯も調査した。その結果20万円以下の価格が、ターゲット層にマッチするという結果となった」
サイズも、FX1に比べ半分になったような印象だ。「FX1のサイズを1リットルから2リットルのペットボトルとすれば、HC1は500ミリリットル。誰にでも持ち歩けるサイズが、このサイズだと考えた」(佐藤シニアマネジャー)
小型化には新たに開発したCMOSセンサーが貢献している。高速処理を実現しながら搭載枚数は1枚ですむというのが大きな特徴だ。FX1が3枚のCCDを搭載しているのに比べ、低価格、省スペースを実現した。一方、ハイビジョン映像をリアルタイムでMPEG2に圧縮するコーデックエンジンは同じものを採用。高画質を保ちながら省スペースを実現する製品設計を行った。
●画質の違いは一目瞭然、これを「体験」してもらう販促に注力
ハイアマチュア層に支持されるだけでは、シェア拡大は進まない。メインターゲットとなるのは、「ハイビジョン映像と、普通の映像の違いを認識していない人たち」である。ビデオカメラを購入するのは、子どもをもつファミリー層が圧倒的に多い。製品の発売後に流れたテレビコマーシャルは、子どもの運動会を撮影するものとした。ハイビジョン映像とはどんなものか、認識がない人に商品を購入してもらうためには、「店頭での販促活動」がものをいう。HC1の売れ行きが発売当初から好調である要因のひとつが、ソニー側と販売店の目標が一致し、店頭での積極的なアピールが行われた成果である。
「ビデオカメラは商品単価の下落、市場の縮小が進んでいる。我々も販売店も、状況を打破しなければならないという共通の問題意識を抱えていた。そのため、市場を変える、ということを強く意識した店頭プロモーションを展開することになった」
単価が下がったといっても、ビデオカメラは安価なものでも10万円弱。「一度の来店で製品を購入する人は少ない。一度来店してどの商品を購入すべきか、おおよそのターゲットを見定め、再度来店して購入する」のが普通のユーザー。そこで商品を下見に来た時点で、「ハイビジョン映像と、そうではない映像を見比べてもらって、その違いを理解してもらう」という作戦に出た。
ソニーが用意した什器は、以前の製品とHC1で撮影したリアルタイム映像を見比べ、その違いを認識してもらうというもの。以前の製品として利用されているものは、米国で発売されている製品ではあるが、買い換えを検討するユーザーが利用していると思われるものと同レベルのスペックだ。
佐藤シニアマネジャーは、「文書や口頭で説明して理解できなくても、自分の目で見て、ハイビジョン映像とはどんなものか一発で理解してもらえる、100人中、100人が驚く画質の違い」だと話す。このソニー側が用意した什器を利用した店舗は、全国で約1000店舗。この他に「店舗独自のオリジナルの販促セットを用意したところもあった」という。
「商品発売直後の7月9日、10日の土日は、ハイアマチュア層が主な購入者だった。それが16日、17日の土日には、子どもを撮影したい普通のユーザーが商品を購入してくれるようになった」。佐藤シニアマネジャーは、購入者に広がりが見え始めたと分析する。
●実は、ハイビジョン対応テレビを「持っていない」購入者も多い
ところで、ハイビジョンのビデオカメラが売れているというニュースを聞いて、疑問をもった人も多いのではないか? いくら、ハイビジョンで撮影したとしても、現在のところ、全ての家庭がハイビジョンを写せるテレビをもっているわけではないからだ。
ソニーマーケティングが今春行った調査では、ビデオカメラを購入する意欲のある人のうち、ハイビジョン対応テレビの所有者は10%だった。また、所有するテレビにはD3、D4の端子がついており、HC1で撮ったハイビジョン映像をそのままのクォリティで再生することが可能だったのは、25%に過ぎなかった。
一方、「HC1の購入者の中には、ハイビジョン環境が全くない人も相当数存在している」という。視聴環境が整っていないのに、ビデオカメラだけハイビジョン対応のものを選択することに疑問を感じるが、被写体の多くが「子どもである」ということに答えが隠されているようだ。
「ビデオカメラを購入する人は、その時点で最高品質の画質で子どもの映像を残したいと考えている。子どもを撮影するチャンスはその時しかない。将来、視聴環境が揃うことを見越して、現状ではハイビジョンを視聴できる環境がなくとも、HC1を選択するユーザーも多い」と佐藤シニアマネジャーは指摘している。
●05年はハイビジョンビデオカメラ元年になる?
競合他社には、同価格帯のハイビジョンデジタルビデオカメラはない。例えば昨日ビクターから発表されたハイビジョンビデオカメラ「GY-HD100」はレンズ交換ができる業界初の製品。だが、価格は50万円を超え、主にプロユースを想定したもの。秋から年末にかけての商戦で、HC-1クラスの競合製品が現れるかどうか、微妙な状況だ。
しかしこの売れ行きを見て、他社も黙っていないだろう。売れ筋のデジタル家電の中心的存在であるDVDレコーダーもハイビジョン対応機が増えはじめ、薄型テレビへの買い替え意欲も相変わらず旺盛。地デジもようやく認知され、いよいよ普及期へ、という状況は、すべてハイビジョンに向かっている。この流れがビデオカメラに波及するのは間違いない。問題はそれがいつか、ということだ。もしかすると、そのスタートは今年なのかもしれない。(フリージャーナリスト・三浦優子)
*「BCNランキング」は、全国のパソコン専門店や家電量販店など18社・2200を超える店舗からPOSデータを日次で収集・集計しているPOSデータベースです。これは日本の店頭市場の約4割をカバーする規模で、パソコン本体からデジタル家電まで113品目を対象としています。
*WebCNランキング編集部より記事訂正のお知らせ*
当初掲載しておりました表の「台数シェア」の数値に誤りがありましたので訂正いたしました。なお順位への影響はありせん。
実勢価格が10万円台で、事実上初の家庭用ハイビジョンデジタルビデオカメラとなったソニーの「HDR-HC1」。これがいま売れている。「BCNランキング」では発売直後に2位、以降3位と高順位をキープ。現在、平均価格が7万円?8万円程度のデジタルビデオカメラだが、HC1はその倍前後もする高価な商品。それなのに、どうしてこんなに売れているのか? いよいよビデオカメラもハイビジョンの時代に突入するのか? ソニーマーケティングに聞いた。
●発売以来ランキング2位、3位と好調を維持するHC1
HC1の「BCNランキング(カラーバリエーション合算値)」推移を見ると、発売日を含む05年7月第2週で2位、販売台数シェア16.8%を記録した。7月最終週の直近集計でも3位(10.2%)と好調に推移している。HC1を担当するソニーマーケティング・モバイルネットワークプロダクツマーケティング部・PVMK課シニアマーケティングマネジャーの佐藤淳氏は、「店頭プロモーションによって、ハイビジョンとはどんなものかを知らなかった層にも、良さを認識してもらう戦略を進める。これによって製品単体で10%シェアを目指す」という目標を掲げる。今のところその水準はクリアしていると言ってよさそうだ。
●まず、「値ごろ感」でハイアマチュアが動いた
ホームユースを想定した初のハイビジョンビデオカメラ。テレビコマーシャルも少し違った演出を試みた。まず通常は製品発売後に流すところを発売前から開始。さらに、新たなカテゴリーの製品が「生まれる」というコンセプトから赤ちゃんのモチーフを採用。発売日の7月7日をクローズアップして新製品の誕生を印象づけた。こうした戦略は、まずハイビジョンの良さを「知っている」ユーザー層を動かした。
発売直後の購入層は、ハイビジョンに興味を持つ「ハイアマチュア」のユーザーによる予約購入が多かったという。この彼らを動かした影の立役者といえるのが、同社が昨年発売した民生用ハイビジョンカメラ「HDR-FX1」で実勢価格は40万円弱。FX1の存在を知っているなら、さらに、欲しいと思っていたなら20万円を下回るHC1は、お買い得に感じるだろう。
もちろんこの値付けは「戦略的なものだった」と佐藤シニアマネジャーは明かす。「HC1の価格は、最初から設定していたもの。FX1を知っているハイアマチュアには大いに値ごろ感を感じてもらえる水準。一方、ビデオカメラを必要とする普通の家族が普通に購入できる価格帯も調査した。その結果20万円以下の価格が、ターゲット層にマッチするという結果となった」
サイズも、FX1に比べ半分になったような印象だ。「FX1のサイズを1リットルから2リットルのペットボトルとすれば、HC1は500ミリリットル。誰にでも持ち歩けるサイズが、このサイズだと考えた」(佐藤シニアマネジャー)
小型化には新たに開発したCMOSセンサーが貢献している。高速処理を実現しながら搭載枚数は1枚ですむというのが大きな特徴だ。FX1が3枚のCCDを搭載しているのに比べ、低価格、省スペースを実現した。一方、ハイビジョン映像をリアルタイムでMPEG2に圧縮するコーデックエンジンは同じものを採用。高画質を保ちながら省スペースを実現する製品設計を行った。
●画質の違いは一目瞭然、これを「体験」してもらう販促に注力
ハイアマチュア層に支持されるだけでは、シェア拡大は進まない。メインターゲットとなるのは、「ハイビジョン映像と、普通の映像の違いを認識していない人たち」である。ビデオカメラを購入するのは、子どもをもつファミリー層が圧倒的に多い。製品の発売後に流れたテレビコマーシャルは、子どもの運動会を撮影するものとした。ハイビジョン映像とはどんなものか、認識がない人に商品を購入してもらうためには、「店頭での販促活動」がものをいう。HC1の売れ行きが発売当初から好調である要因のひとつが、ソニー側と販売店の目標が一致し、店頭での積極的なアピールが行われた成果である。
「ビデオカメラは商品単価の下落、市場の縮小が進んでいる。我々も販売店も、状況を打破しなければならないという共通の問題意識を抱えていた。そのため、市場を変える、ということを強く意識した店頭プロモーションを展開することになった」
単価が下がったといっても、ビデオカメラは安価なものでも10万円弱。「一度の来店で製品を購入する人は少ない。一度来店してどの商品を購入すべきか、おおよそのターゲットを見定め、再度来店して購入する」のが普通のユーザー。そこで商品を下見に来た時点で、「ハイビジョン映像と、そうではない映像を見比べてもらって、その違いを理解してもらう」という作戦に出た。
ソニーが用意した什器は、以前の製品とHC1で撮影したリアルタイム映像を見比べ、その違いを認識してもらうというもの。以前の製品として利用されているものは、米国で発売されている製品ではあるが、買い換えを検討するユーザーが利用していると思われるものと同レベルのスペックだ。
佐藤シニアマネジャーは、「文書や口頭で説明して理解できなくても、自分の目で見て、ハイビジョン映像とはどんなものか一発で理解してもらえる、100人中、100人が驚く画質の違い」だと話す。このソニー側が用意した什器を利用した店舗は、全国で約1000店舗。この他に「店舗独自のオリジナルの販促セットを用意したところもあった」という。
「商品発売直後の7月9日、10日の土日は、ハイアマチュア層が主な購入者だった。それが16日、17日の土日には、子どもを撮影したい普通のユーザーが商品を購入してくれるようになった」。佐藤シニアマネジャーは、購入者に広がりが見え始めたと分析する。
●実は、ハイビジョン対応テレビを「持っていない」購入者も多い
ところで、ハイビジョンのビデオカメラが売れているというニュースを聞いて、疑問をもった人も多いのではないか? いくら、ハイビジョンで撮影したとしても、現在のところ、全ての家庭がハイビジョンを写せるテレビをもっているわけではないからだ。
ソニーマーケティングが今春行った調査では、ビデオカメラを購入する意欲のある人のうち、ハイビジョン対応テレビの所有者は10%だった。また、所有するテレビにはD3、D4の端子がついており、HC1で撮ったハイビジョン映像をそのままのクォリティで再生することが可能だったのは、25%に過ぎなかった。
一方、「HC1の購入者の中には、ハイビジョン環境が全くない人も相当数存在している」という。視聴環境が整っていないのに、ビデオカメラだけハイビジョン対応のものを選択することに疑問を感じるが、被写体の多くが「子どもである」ということに答えが隠されているようだ。
「ビデオカメラを購入する人は、その時点で最高品質の画質で子どもの映像を残したいと考えている。子どもを撮影するチャンスはその時しかない。将来、視聴環境が揃うことを見越して、現状ではハイビジョンを視聴できる環境がなくとも、HC1を選択するユーザーも多い」と佐藤シニアマネジャーは指摘している。
●05年はハイビジョンビデオカメラ元年になる?
競合他社には、同価格帯のハイビジョンデジタルビデオカメラはない。例えば昨日ビクターから発表されたハイビジョンビデオカメラ「GY-HD100」はレンズ交換ができる業界初の製品。だが、価格は50万円を超え、主にプロユースを想定したもの。秋から年末にかけての商戦で、HC-1クラスの競合製品が現れるかどうか、微妙な状況だ。
しかしこの売れ行きを見て、他社も黙っていないだろう。売れ筋のデジタル家電の中心的存在であるDVDレコーダーもハイビジョン対応機が増えはじめ、薄型テレビへの買い替え意欲も相変わらず旺盛。地デジもようやく認知され、いよいよ普及期へ、という状況は、すべてハイビジョンに向かっている。この流れがビデオカメラに波及するのは間違いない。問題はそれがいつか、ということだ。もしかすると、そのスタートは今年なのかもしれない。(フリージャーナリスト・三浦優子)
*「BCNランキング」は、全国のパソコン専門店や家電量販店など18社・2200を超える店舗からPOSデータを日次で収集・集計しているPOSデータベースです。これは日本の店頭市場の約4割をカバーする規模で、パソコン本体からデジタル家電まで113品目を対象としています。
*WebCNランキング編集部より記事訂正のお知らせ*
当初掲載しておりました表の「台数シェア」の数値に誤りがありましたので訂正いたしました。なお順位への影響はありせん。