ソニー、PDA撤退を決定、名機CLIEが辿った「本家なき個性派」の悲劇
ソニーは、同社が開発するPalm OS搭載PDA「クリエ」について、今後新たな製品の販売を行わないことを決定した。まだ同社からの正式なアナウンスはないが、一部報道ではすでに事実として報じられている。国内唯一のPalmメーカーが撤退することにより、日本のPalmユーザーは事実上国産のPalm端末を手に入れる手段を失ってしまうことになる。PDAの販売ランキング(図)でも常にトップメーカーとして君臨し続けた同社の撤退は、今後のPDA市場に大きな波紋を投げかけそうだ。
ソニーは、同社が開発するPalm OS搭載PDA「クリエ」について、今後新たな製品の販売を行わないことを決定した。まだ同社からの正式なアナウンスはないが、一部報道ではすでに事実として報じられている。国内唯一のPalmメーカーが撤退することにより、日本のPalmユーザーは事実上国産のPalm端末を手に入れる手段を失ってしまうことになる。PDAの販売ランキング(図)でも常にトップメーカーとして君臨し続けた同社の撤退は、今後のPDA市場に大きな波紋を投げかけそうだ。
ソニーが初代クリエを発売したのは2000年7月。当時のPalm市場には、本家であるPalm以外にも、Handspring、日本IBMなど、多くのメーカーが参入していた。PDAユーザーは日に日に増大し、市場全体が右肩上がりだったこの時代、PDA市場にビジネスチャンスありと判断したソニーは、後発ながら参入を決めた。
その後、約5年間にわたって、ソニーは精力的に新製品を市場に投入し続けたが、クリエの活躍とは裏腹に、PDA市場は勢いを失っていった。01年8月にはHandspringが日本市場を撤退し、翌02年2月には日本IBMが撤退した。同年9月には、PalmComputingの日本法人までもが撤退を決めた。いつの間にか、日本のPalmメーカーはソニー1社だけとなってしまった。
それでもまだ、ソニーは諦めなかった。03年10月末に発売された「PEG-TJ25」は、「手帳代わりに手軽に使えるクリエ」というキャッチフレーズで、それまでのクリエとは一線を画した製品。PDAの基本コンセプトである「PIM管理」にスポットを当てたアプローチと、6色のカラーバリエーション、2万円を切る価格が功を奏し、一気にクリエユーザーの裾野を広げた。
翌年2月には、その上位機種である「PEG-TH55」を発売。新開発の手帳機能「クリエ オーガナイザー」を搭載し、手書き感覚で使用できるインターフェイスを実現した。「デジタル手帳」というコンセプトが多くのPalmユーザーに受け入れられ、店頭で品切れとなるほどの人気商品となった。その結果、昨年8月にはPDA市場の約70%ものシェアを獲得するまでになった。
この結果は、同社にとって追い風であると同時に、皮肉な現象でもあった。もともと、多くのメーカーが参入する大きなPDA市場において「特色のある、ソニーらしい製品」を発信するというスタンスが、クリエの商品コンセプトの柱だった。「TJ25」や「TH55」のように、PalmOSのコンセプトである「PIM」に絞り込んだ製品は、本来ソニーではなく本家であるPalmComputing社が発信すべき製品であった。しかし、その本家が存在しない今、日本のPalmユーザーは主流製品をソニーに求めるようになった。その結果、図らずもソニーは市場全体のメインストリームになってしまったというわけである。
一方、ソニーは同社が得意としているAV機能を生かした製品の開発にも情熱を傾けた。03年2月には、PDAとして初めて200万画素CCDカメラを搭載したクリエ「NZ90」を発売。満を持しての挑戦だったが、予想以上に売り上げは伸びなかった。04年10月には、PDAとして初めてカラー有機ELディスプレイを搭載した「VZ90」を発売。音楽再生や動画再生などをメイン機能とし、ハイエンドユーザーをターゲットとした意欲的な製品だったが、9万8000円という価格が仇となり、これもまた同社の予測を下回る結果となった。
主流がなければ、アンチ主流の個性も際立たない。「NZ90」や「VZ90」のように先進的な製品を発信しながら、一方では「TJ25」や「TH55」のようにメインストリーム的な製品をも提供しなければならなくなったところに、ソニーの苦悩があったといえる。主流でありながら、アンチ主流でもあるという一人二役を演じながらも、どうにか日本のPDA市場を育てようと工夫を重ねてきたが、昨年12月に出した「ソニーらしい」製品である「VZ90」のシェア推移を見ると、「PDA市場をつくりながら、そのなかでソニーらしい製品を発信していきたい」という同社の願いは適わなかったと判断せざるを得なかったのだろう。
ソニーらしい製品にこだわった同社は、PDAというカテゴリに対する挑戦をいったん打ち切り、「クリエ」ブランドを手放すと決めた。しかし、「クリエ」ブランドが消滅しても、「情報携帯端末」というカテゴリ自体を諦めたわけではない。小型化という技術については、以前から高く評価されている同社。「クリエ」ブランドや「PDA」という束縛から解き放たれた時、自由な選択肢のなかから、ソニーは次にどんな道を選ぶのだろうか。今後の動きに注目したい。(フリージャーナリスト・井上真花)
ソニーは、同社が開発するPalm OS搭載PDA「クリエ」について、今後新たな製品の販売を行わないことを決定した。まだ同社からの正式なアナウンスはないが、一部報道ではすでに事実として報じられている。国内唯一のPalmメーカーが撤退することにより、日本のPalmユーザーは事実上国産のPalm端末を手に入れる手段を失ってしまうことになる。PDAの販売ランキング(図)でも常にトップメーカーとして君臨し続けた同社の撤退は、今後のPDA市場に大きな波紋を投げかけそうだ。
ソニーが初代クリエを発売したのは2000年7月。当時のPalm市場には、本家であるPalm以外にも、Handspring、日本IBMなど、多くのメーカーが参入していた。PDAユーザーは日に日に増大し、市場全体が右肩上がりだったこの時代、PDA市場にビジネスチャンスありと判断したソニーは、後発ながら参入を決めた。
その後、約5年間にわたって、ソニーは精力的に新製品を市場に投入し続けたが、クリエの活躍とは裏腹に、PDA市場は勢いを失っていった。01年8月にはHandspringが日本市場を撤退し、翌02年2月には日本IBMが撤退した。同年9月には、PalmComputingの日本法人までもが撤退を決めた。いつの間にか、日本のPalmメーカーはソニー1社だけとなってしまった。
それでもまだ、ソニーは諦めなかった。03年10月末に発売された「PEG-TJ25」は、「手帳代わりに手軽に使えるクリエ」というキャッチフレーズで、それまでのクリエとは一線を画した製品。PDAの基本コンセプトである「PIM管理」にスポットを当てたアプローチと、6色のカラーバリエーション、2万円を切る価格が功を奏し、一気にクリエユーザーの裾野を広げた。
翌年2月には、その上位機種である「PEG-TH55」を発売。新開発の手帳機能「クリエ オーガナイザー」を搭載し、手書き感覚で使用できるインターフェイスを実現した。「デジタル手帳」というコンセプトが多くのPalmユーザーに受け入れられ、店頭で品切れとなるほどの人気商品となった。その結果、昨年8月にはPDA市場の約70%ものシェアを獲得するまでになった。
この結果は、同社にとって追い風であると同時に、皮肉な現象でもあった。もともと、多くのメーカーが参入する大きなPDA市場において「特色のある、ソニーらしい製品」を発信するというスタンスが、クリエの商品コンセプトの柱だった。「TJ25」や「TH55」のように、PalmOSのコンセプトである「PIM」に絞り込んだ製品は、本来ソニーではなく本家であるPalmComputing社が発信すべき製品であった。しかし、その本家が存在しない今、日本のPalmユーザーは主流製品をソニーに求めるようになった。その結果、図らずもソニーは市場全体のメインストリームになってしまったというわけである。
一方、ソニーは同社が得意としているAV機能を生かした製品の開発にも情熱を傾けた。03年2月には、PDAとして初めて200万画素CCDカメラを搭載したクリエ「NZ90」を発売。満を持しての挑戦だったが、予想以上に売り上げは伸びなかった。04年10月には、PDAとして初めてカラー有機ELディスプレイを搭載した「VZ90」を発売。音楽再生や動画再生などをメイン機能とし、ハイエンドユーザーをターゲットとした意欲的な製品だったが、9万8000円という価格が仇となり、これもまた同社の予測を下回る結果となった。
主流がなければ、アンチ主流の個性も際立たない。「NZ90」や「VZ90」のように先進的な製品を発信しながら、一方では「TJ25」や「TH55」のようにメインストリーム的な製品をも提供しなければならなくなったところに、ソニーの苦悩があったといえる。主流でありながら、アンチ主流でもあるという一人二役を演じながらも、どうにか日本のPDA市場を育てようと工夫を重ねてきたが、昨年12月に出した「ソニーらしい」製品である「VZ90」のシェア推移を見ると、「PDA市場をつくりながら、そのなかでソニーらしい製品を発信していきたい」という同社の願いは適わなかったと判断せざるを得なかったのだろう。
ソニーらしい製品にこだわった同社は、PDAというカテゴリに対する挑戦をいったん打ち切り、「クリエ」ブランドを手放すと決めた。しかし、「クリエ」ブランドが消滅しても、「情報携帯端末」というカテゴリ自体を諦めたわけではない。小型化という技術については、以前から高く評価されている同社。「クリエ」ブランドや「PDA」という束縛から解き放たれた時、自由な選択肢のなかから、ソニーは次にどんな道を選ぶのだろうか。今後の動きに注目したい。(フリージャーナリスト・井上真花)