【背景、徳島より41】徳島の小さな港町に住んでいると、漁師さんからたくさん魚をいただきます。先日、漁師さんから「磯魚」を大量にいただき、名前もさばき方もわからないところから調理をスタート。漁師さんは普段は食べずにリリースするのがほとんどの磯の魚たち。確かに、臭いのきつい魚もありましたが、煮付けにしたり、焼いたりしたら、あら絶品!都会では味わえない新鮮な魚たちのフルコースを紹介します。
漁師さんに磯魚をいただいた時、私が最初に発した言葉です。
磯魚とは、岩場や磯場に生息する魚の総称。カサゴ、メバル、カワハギ、ベラなど、岩礁地帯を好んで泳ぐ魚たちがこれにあたります。「見た目が派手」「独特の臭みがあるものも」「食べにくい」などの理由で、一般的な魚屋さんではあまり見かけません。
でも、実は磯魚は昔から日本人の食卓を支えてきた功労者なんです。特に戦後の食糧難の時代には、貴重なタンパク源として重宝されていたそう。「子供の頃は、よう食べた」と地元のおばあちゃんは懐かしそうに話してくれたこともあります。
磯魚という言葉すら知らなかった都会育ちの筆者。しかし、地元の方々の話を聞くうちに「いつか食べてみたい!」という憧れの魚になっていきました。
というのも、移住してからの6年間でブリやカツオや、そのほか漁師さんが「おいしいから食べてみ」とおすすめしてくれる魚はあらかた経験済み。逆に漁師さんが「よう食わんわ」という磯魚への興味が次第に大きくなっていったのでした。
ある日の朝、近所の漁師さんから電話が。「その日獲れた魚の中に、磯魚がようけおる」とのことで、自転車の荷台に山積みにして魚を持ってきてくれました。
ビニール袋には、尻尾の水玉模様が特徴的な大きな魚に、ちょっとひょうきんな顔をした魚。「これ全部、食べられるんですか?」と尋ねると、漁師さんは「煮付けにしたら、どれも美味いで」と太鼓判を押してくれました。
その日にいただいた魚は、カワハギが5匹、40cmほどの大きなタカノハダイが2匹。さらには「おまけ」と言って、立派な伊勢海老まで入れてくれました。なんてありがたい!普段なら高級料亭でしか出会えない伊勢海老が「おまけ」とは。港町の暮らしって、なんて贅沢なんでしょう。
さばき方を調べてみると意外と簡単そうでしたが、実際にやってみるとこれが難しい。「皮と身の間に包丁を入れて...」というYouTubeの解説動画を見ながら、おそるおそる包丁を入れます。
カワハギの皮はザラザラとしていて、その名の通り、剥ぐように皮を取っていきます。その様子はまさに「カワハギ」!名前の由来に感動しました。
人生初めてのカワハギさばきは、最初の1匹目は悪戦苦闘しましたが、2匹目、3匹目と経験を重ねるうちに、どんどんコツがつかめてきました。4匹目になると、きれいに皮が剥けていく快感を味わえるように!
身は想像以上にプリプリで、淡白な味わい。シロカワハギは臭みがなく、刺身でそのまま食べられました。
「カワハギの刺身は肝醤油で食べるとうまい」とのことだったので、肝を壊さないように丁寧に取り出して、少し湯掻いて醤油とあえて肝醤油に。濃厚な肝とあっさりとした白身の相性は抜群で、とんでもなくおいしかったです。
ちなみに、カワハギの皮は昭和初期までヤスリとしても使われていたんだそうです。魚のさばき方を練習すると、魚の意外な知識を得られるので、それも楽しみのひとつになっています。
シロカワハギの次はクロカワハギに挑戦。こちらはかなり強い磯の臭いがあったので、漁師さんに教わった通り煮付けと焼き魚にすることにしました。
内臓を取り除いたら肝はそのまま鍋に入れて煮るだけ。焼き魚は塩をふってグリルへ。結果、臭いも気にならなくなり、ふっくらとした白身をとてもおいしくいただきました。
赤みがかった体に、でっぱった口。尻尾には水玉模様があり、体にはうっすらと縞模様が見えます。
「名前はわからん(笑)」と漁師さんが言うので、Googleフォトで写真検索してみるとタカノハダイというタイの一種とのこと。しっかりと下処理をすれば、とてもおいしい魚だというので、包丁を握る手にも力が入ります。
まずは表面に熱湯をかけて鱗をとっていきます。鱗は硬く、包丁を入れるのに一苦労。普段スーパーで買う魚とは、まるで違う手ごたえです。四苦八苦しながら3枚に下ろし、とりあえず煮付けにしました。
さばいてみるとクロカワハギ同様に磯臭さは強かったですが、煮付けてみたら気にならなくなりました。初めて食べる魚でしたが、見た目からは想像できない上品な白身の味わい。思わず「うまい!」と声が出るほどの味でした。
そして、この日のメインディッシュは大ぶりの伊勢海老!
「こんな立派な伊勢海老を素人がさばいていいのかな...」と少しビビりながらも緊張する手つきで挑戦。頭と身を分け、内臓を取り除き、尾の部分までしっかり処理。なんとか刺身とみそ汁にこぎつけました。
新鮮な伊勢海老の味わいは格別です!甘みのある身とコクのあるみそ汁に、全員が「贅沢~!」と笑顔になりました。
「趣味は魚さばきです」と言える生活
「魚をさばくの、めちゃくちゃ好きだ!」
合計4時間の格闘の末、刺身、煮魚、焼き魚、味噌汁と、磯魚のフルコースを作ったあとの達成感は本当に大きなものでした。都会で暮らしていた頃の私からは、想像もできない変化です。
朝、漁師さんに魚をいただき、昼に調理方法を考え、夜に魚と向き合い、おいしい料理を友人たちに振る舞う。とても楽しい一日を過ごせました。移住当初は恐る恐るだった魚さばきが、今では立派な趣味になっていることに自分でも驚きです。
漁師さんがリリースしてしまう魚たちも、私たちの食卓を豊かにしてくれる素晴らしい食材。これからも魚料理の腕を磨いていきたいと思います。そしてなにより、「今日はどの魚をさばこうかな?」と贅沢な悩みを持てる生活に心から感謝です。(フリーライター・甲斐イアン)
■Profile
甲斐イアン
徳島在住のライター、イラストレーター。千葉県出身。オーストラリア、中南米、インド・ネパールなどの旅を経て、2018年に四国の小さな港町へ移住。地域活性化支援企業にて、行政と協力した地方創生プロジェクトの広報PR業務に従事。21年よりフリーランスとなり、全国各地の素敵なヒト・モノ・コトを取材しています。
磯魚って何?
「これ、食べられるん?」漁師さんに磯魚をいただいた時、私が最初に発した言葉です。
磯魚とは、岩場や磯場に生息する魚の総称。カサゴ、メバル、カワハギ、ベラなど、岩礁地帯を好んで泳ぐ魚たちがこれにあたります。「見た目が派手」「独特の臭みがあるものも」「食べにくい」などの理由で、一般的な魚屋さんではあまり見かけません。
でも、実は磯魚は昔から日本人の食卓を支えてきた功労者なんです。特に戦後の食糧難の時代には、貴重なタンパク源として重宝されていたそう。「子供の頃は、よう食べた」と地元のおばあちゃんは懐かしそうに話してくれたこともあります。
磯魚という言葉すら知らなかった都会育ちの筆者。しかし、地元の方々の話を聞くうちに「いつか食べてみたい!」という憧れの魚になっていきました。
というのも、移住してからの6年間でブリやカツオや、そのほか漁師さんが「おいしいから食べてみ」とおすすめしてくれる魚はあらかた経験済み。逆に漁師さんが「よう食わんわ」という磯魚への興味が次第に大きくなっていったのでした。
漁師さんからの超豪華なお裾分け
「食いたい言うとったやろ。ようけあるから魚やるわ」ある日の朝、近所の漁師さんから電話が。「その日獲れた魚の中に、磯魚がようけおる」とのことで、自転車の荷台に山積みにして魚を持ってきてくれました。
ビニール袋には、尻尾の水玉模様が特徴的な大きな魚に、ちょっとひょうきんな顔をした魚。「これ全部、食べられるんですか?」と尋ねると、漁師さんは「煮付けにしたら、どれも美味いで」と太鼓判を押してくれました。
その日にいただいた魚は、カワハギが5匹、40cmほどの大きなタカノハダイが2匹。さらには「おまけ」と言って、立派な伊勢海老まで入れてくれました。なんてありがたい!普段なら高級料亭でしか出会えない伊勢海老が「おまけ」とは。港町の暮らしって、なんて贅沢なんでしょう。
カワハギってめっちゃカワハギだった!
いただいた磯魚は持って帰ってその日の夕食にすることにしました。量が多いので仕事を早めに切り上げて夕方から仕込みを開始。まずは調理の簡単そうなカワハギから着手しました。いただいたのはシロカワハギ3匹とクロカワハギが2匹。どちらも手のひら以上あり、とても立派でした。さばき方を調べてみると意外と簡単そうでしたが、実際にやってみるとこれが難しい。「皮と身の間に包丁を入れて...」というYouTubeの解説動画を見ながら、おそるおそる包丁を入れます。
カワハギの皮はザラザラとしていて、その名の通り、剥ぐように皮を取っていきます。その様子はまさに「カワハギ」!名前の由来に感動しました。
人生初めてのカワハギさばきは、最初の1匹目は悪戦苦闘しましたが、2匹目、3匹目と経験を重ねるうちに、どんどんコツがつかめてきました。4匹目になると、きれいに皮が剥けていく快感を味わえるように!
身は想像以上にプリプリで、淡白な味わい。シロカワハギは臭みがなく、刺身でそのまま食べられました。
「カワハギの刺身は肝醤油で食べるとうまい」とのことだったので、肝を壊さないように丁寧に取り出して、少し湯掻いて醤油とあえて肝醤油に。濃厚な肝とあっさりとした白身の相性は抜群で、とんでもなくおいしかったです。
ちなみに、カワハギの皮は昭和初期までヤスリとしても使われていたんだそうです。魚のさばき方を練習すると、魚の意外な知識を得られるので、それも楽しみのひとつになっています。
シロカワハギの次はクロカワハギに挑戦。こちらはかなり強い磯の臭いがあったので、漁師さんに教わった通り煮付けと焼き魚にすることにしました。
内臓を取り除いたら肝はそのまま鍋に入れて煮るだけ。焼き魚は塩をふってグリルへ。結果、臭いも気にならなくなり、ふっくらとした白身をとてもおいしくいただきました。
タカノハダイと伊勢海老との格闘
さて、カワハギの次は大きなタカノハダイの出番です。赤みがかった体に、でっぱった口。尻尾には水玉模様があり、体にはうっすらと縞模様が見えます。
「名前はわからん(笑)」と漁師さんが言うので、Googleフォトで写真検索してみるとタカノハダイというタイの一種とのこと。しっかりと下処理をすれば、とてもおいしい魚だというので、包丁を握る手にも力が入ります。
まずは表面に熱湯をかけて鱗をとっていきます。鱗は硬く、包丁を入れるのに一苦労。普段スーパーで買う魚とは、まるで違う手ごたえです。四苦八苦しながら3枚に下ろし、とりあえず煮付けにしました。
さばいてみるとクロカワハギ同様に磯臭さは強かったですが、煮付けてみたら気にならなくなりました。初めて食べる魚でしたが、見た目からは想像できない上品な白身の味わい。思わず「うまい!」と声が出るほどの味でした。
そして、この日のメインディッシュは大ぶりの伊勢海老!
「こんな立派な伊勢海老を素人がさばいていいのかな...」と少しビビりながらも緊張する手つきで挑戦。頭と身を分け、内臓を取り除き、尾の部分までしっかり処理。なんとか刺身とみそ汁にこぎつけました。
新鮮な伊勢海老の味わいは格別です!甘みのある身とコクのあるみそ汁に、全員が「贅沢~!」と笑顔になりました。
「趣味は魚さばきです」と言える生活
「魚をさばくの、めちゃくちゃ好きだ!」
合計4時間の格闘の末、刺身、煮魚、焼き魚、味噌汁と、磯魚のフルコースを作ったあとの達成感は本当に大きなものでした。都会で暮らしていた頃の私からは、想像もできない変化です。
朝、漁師さんに魚をいただき、昼に調理方法を考え、夜に魚と向き合い、おいしい料理を友人たちに振る舞う。とても楽しい一日を過ごせました。移住当初は恐る恐るだった魚さばきが、今では立派な趣味になっていることに自分でも驚きです。
漁師さんがリリースしてしまう魚たちも、私たちの食卓を豊かにしてくれる素晴らしい食材。これからも魚料理の腕を磨いていきたいと思います。そしてなにより、「今日はどの魚をさばこうかな?」と贅沢な悩みを持てる生活に心から感謝です。(フリーライター・甲斐イアン)
■Profile
甲斐イアン
徳島在住のライター、イラストレーター。千葉県出身。オーストラリア、中南米、インド・ネパールなどの旅を経て、2018年に四国の小さな港町へ移住。地域活性化支援企業にて、行政と協力した地方創生プロジェクトの広報PR業務に従事。21年よりフリーランスとなり、全国各地の素敵なヒト・モノ・コトを取材しています。