• ホーム
  • トレンド
  • <2025年どうなる家電量販店>デンキが復活した「ヤマダデンキ」とインバウンドで好調の「ビックカメラ」

<2025年どうなる家電量販店>デンキが復活した「ヤマダデンキ」とインバウンドで好調の「ビックカメラ」

 アフターコロナで家電量販企業の市場環境が変化している。市場全体でみると、エアコンの販売がけん引して家電量販各社の業績を改善させた。都市部でのインバウンド消費も力強い。家電量販各社の2024年上期の決算数字を振り返りながら、25年の市場を占う。今回はヤマダデンキとビックカメラからみていく。

ヤマダデンキとビックカメラ

インバウンドとプレミアム消費で好調、不安材料は物価高騰

 2024年の家電流通市場を振り返ると、全国的な暑さが長引いたことで主力商品であるエアコンの出荷が全体をけん引して好調だった。また、アフターコロナで消費者の行動が活発化。巣ごもり需要から、「推し活」に代表されるリアルイベントへの参加や、旅行など外出イベントに関連する理美容機器が好調だった。
 
エアコンの販売が家電量販各社の業績に大きく貢献

 また、都市部に店舗を多く構える家電量販企業の業績改善に大きく寄与したのがインバウンドの復活だ。政府は2030年のインバウンドを6000万人、消費額15兆円を目標に掲げる。今後は首都圏だけではなく、地方にどれだけ波及させるかが課題となるだろう。

 そのためにも、ロードサイドに立地する郊外の家電量販店にインバウンドをどのように送客するかという問題を解決する必要がある。
 
都市部ではインバウンド消費が活発に

 一方で、活発な消費活動の先行き不透明感を強くするのが、円安による光熱費や原料をはじめとしたあらゆる物価の高騰だ。消費者の節約志向が強まる動きもある。家電量販企業では、お手頃価格ゾーンの品揃えを強化するために、自社や他社とのコラボによるPBの開発・販売に力を入れている。

 もっとも、家電製品の価格が高騰しても、自分にとって本当に価値があると感じれば多少高くても購入する「プレミアム消費」や、日ごろの頑張りに対して自分のために購入する「ごほうび消費」のニーズを捉えた商品も存在する。

 以前のような単純に、豊富な品揃えだけでは売上高は拡大できない。メリハリのある精度の高い商品選定が、経営戦略上も重要となる。なお、ここ数年の各家電量販企業の取り組みのひとつである「家電以外」の非家電領域で収益を上げる傾向は、引き続きみられる。

ヘアドライヤー、電気シェーバーが二桁伸長

 具体的に市場全体のデータをみよう。白物家電の国内出荷統計をまとめている日本電機工業会(JEMA)の24年度上期(金額ベース)は1兆3440億円(前年同期比102.5%)と前年を上回った。

 全体の37%を占めるエアコンが5049億円(109.4%)と好調だったほか、ヘアドライヤーは250億円(同113.4%)、電気シェーバーは265億円(同119.7%)と二桁伸長。電子レンジも450億円(同108.5%)と好調だった。
 
ヘアドライヤーは二桁伸長

 一方で、冷蔵庫は2136億円(同92.2%)、洗濯機は1904億円(同94.4%)と前年を下回った。2商品の落ち込みについてJEMAは「物価高による消費者の節約志向が続いている」と分析している。

ノートPCは前年同期比128.7%

 テレビや音響機器などデジタル家電の国内出荷データをまとめる電子情報技術産業協会(JEITA)では、24年1~10月の国内出荷金額は市場全体で8482億円(同92.6%)と前年割れだった。

 ただ、23年は映像機器、オーディオ関連機器、カーAVC機器の全部門で前年割れだったのに対し、24年は映像機器が4149億円(同103.5%)となるなど明るい兆しもある。ちなみに、オーディオ関連機器は517億円(同91.8%)、カーAVC機器は3817億円(同83.2%)だった。
 
「AI PC元年」として売り場でもアピール

 ノートPCも好調だ。PC全体では24年4~10月の国内出荷金額は4877億円(同121.3%)と大きく伸長。中でもノートPCの4191億円(同128.7%)が全体を引っ張っている。

 もっとも、全国の家電量販店やECショップのPOSデータをもとに集計したデータベースで、いま売れているデジタル家電が正確に分かる「BCNランキング」では、前年同期の数字が悪すぎたので今期がよく見える点は注意が必要だ。

 いずれにせよ、JEMAとJEITAのデータを見ても明らかなように24年上期を振り返ると全体としては決して悪い状況ではない。長引く猛暑という季節要因はあるが、アフターコロナの家電市場の回復も見て取れる。

最大手のヤマダHDは主力の「デンキ」が回復

 家電量販企業の25年3月期上期決算をみよう。最大手のヤマダホールディングス(ヤマダHD)の売上高は7960億100万円(同102.7%)、営業利益は232億2700万円(同114.1%)、経常利益は248億3100万円(同105.0%)の増収増益だった。

 セグメント別で見ても「デンキ」「住建」「金融」「環境」で前期を上回った。特に主力事業の家電販売の「デンキ」と「住建」は昨年が前年割れだったが、今期は前者が6585億4200万円(同102.2%)、後者が1266億1500万円(同105.5%)と回復した。

 住宅ローンやクレジットカード、災害保険などの「金融」も22億8900万円(同129.1%)、リユースやリサイクル事業の「環境」も169億3100万円(同103.7%)と、デンキ以外の領域の成長が注目だ。ここ数年取り組んでいる、家電販売以外の事業が成長エンジンになりつつある。
 
とにかく広い
「Tecc Life Select 湘南平塚店」

 下期は今期最大の目玉施策ともいえる店舗面積約1万3000平方メートルの「Tecc Life Select 湘南平塚店」が24年10月25日にオープンした。初日は近年まれに見る賑わいだったので、さらなる売上高の積み増しが期待されるだろう。主力の「デンキ」が完全復活すれば、ヤマダHDのさらなる進化につながりそうだ。

業界2位のビックカメラ、都市部のインバウンド需要を独り占め?

 アフターコロナでインバウンドが過去最高を記録している。日本政府観光局(JNTO)がまとめた24年1~11月のインバウンドは累計で3337万9900人となり、これまでの過去最高だった19年の年間累計を上回り、過去最多となった。年間で3500万人、消費額8兆円も超えそうな勢いだ。

 家電量販企業の中でインバウンド需要の取り込みに成功しているのは、都市部に多くの店舗を構えるビックカメラだ。
 
秋葉原の中央通りに立地する
「ビックカメラ AKIBA」

 決算期が8月のビックカメラの24年8月期連結決算は、売上高が9225億7200万円(前期比113.1%)と大幅に伸長。コロナ禍で落ち込んでいた免税売り上げは、円安や海外向け公式SNSでの発信、現地インフルエンサーとの連携強化、航空会社とのクーポン配布施策拡大などの効果で、コロナ前を超えて過去最高を記録した。

 利益面でも営業利益は243億8800万円(同171.6%)、経常利益は266億7400万円(同161.0%)、当期純利益は139億800万円(同473.6%)と絶好調だ。

 コロナ禍で需要がほぼゼロにまで消失したインバウンド需要が、現在は過去最高を更新しつづけ、それがビックカメラの業績にも反映されている。とりわけ、リアル店舗を持つ強みを存分に発揮している点は特筆される。

 インバウンドは大都市圏での消費が圧倒的に多く、地方への波及は少ない。そのためビックカメラの場合、インバウンドの増加に比例して1店舗当たりの来店者数は増える。インフラであるリアル店舗が、効率的な売り上げアップの効果を生み出している。

 ビックカメラグループで郊外型のコジマは、24年8月期上期(23年9~24年2月)は売上高1293億8500万円(同94.5%)と前年割れだったが、下期(24年3~8月)は1404億8300万円(同107.3%)と増収に転じた。
 
下期に力強さを見せたコジマ

 しかも上期は「音響映像」「家庭電化」「情報通信機器」「その他の商品」の全品目で前年同期を割っていたが、下期は一転、全品目で前年同期を上回った。その結果、通期でも2698億6800万円(同100.7%)と前年を上回った。

 コロナ禍は郊外の昼間人口が増えた巣ごもり需要で、郊外型のコジマの業績は好調だったが、アフターコロナの反動減に苦しむ時期もあった。今下期の力強さを見ると回復軌道に入っていくことが期待される。(BCN・細田 立圭志)
ギャラリーページ