【日本全国を制覇したバンワーカーが教える至福のあれこれ・2】日本各地には、その土地ならではの特色を持つさまざまなソースかつ丼が存在する。ソースかつ丼に造詣の深い友人が「群馬と新潟に行くのなら、絶対に外せない名店がある」と熱心にすすめるので、彼の言葉を信じて二大ご当地ソースかつ丼を食べ比べるという贅沢(酔狂?)な旅に出かけることにした。
実は7年前、同じ桐生市の「藤屋食堂」でソースかつ丼を食べたことがある。その時はまだソースかつ丼にあまり馴染みがなかったので、こんなにおいしいものだったのかと感動したことを今も覚えている。志多美屋は、この藤屋食堂と並んで桐生の二大ソースかつ丼店として知られているとのこと。否が応でも期待が高まる。
楽しみすぎてランチが始まる11時の少し前に店に着いたのだが、すでに店内の入り口前に数人の客が並んでいた。「さすが人気店!」と思いつつ、入り口の前にある紙に名前を書いて開店時間まで待っていると、入り口が開いた。
席に座り、まずはメニューを眺める。ソースかつ丼にはヒレとロースがあり、通常の注文でヒレが提供される。カツの数も4個と6個から選択可能だったが、まだ食べ比べツアーの序盤ということで4個にしておいた。このほかレディースセットもあり、カツが3個になる代わりにデザートかグラスビールがついてくるそうだ。レディースセットにビールが付くだなんて、桐生には酒豪の女性が多いのだろうか。
おそらく揚げたてを提供するためだろう。注文してから料理が届くまでに少し時間がかかるが、その甲斐あって熱々のカツが食べられる。たっぷりと特製ソースをくぐらせた分厚いヒレカツが、ご飯の上にこんもりと鎮座している。見た目からして、食べ応えは十分。
さっそく一口齧りつくと、ソースが絡んでいるにもかかわらず、カツの衣がしっかりとサクサクしている。しかも、これだけ分厚いカツなのに、お肉は驚くほど柔らかく、箸でスッと切れてしまう。
良い油を使っているのか、揚げ物が苦手な筆者でも全く油っこさを感じさせない。特製ソースは甘みと酸味のバランスが見事で、カツの旨味を引き立てながらも主張し過ぎることがない。ソースはご飯にも程よくしみ込んでおり、最後の一口まで飽きることなく美味しく食べられた。
ここで注文したのは、新潟を代表する「タレかつ丼」。タレかつ丼をソースかつ丼というジャンルに入れていいかどうかは悩むところだが、ソースかつ丼好きの友人からは「ソースかつ丼というカテゴリに含めて良し」とのお墨付きをいただいたので問題ないということにする。
メニューには控えめに「かつ丼」とだけ記されているが、かつ丼とはとてもいえない代物が運ばれてきた。志多美屋と比べるとやや薄めのロースカツが4枚、ご飯の上に美しく並ぶ。カツは志多美屋同様に柔らかく、サクッとした食感が楽しめる。一番の大きな違いは、やはりこのタレだろう。醤油、みりん、酒を煮切ったような甘塩っぱい味わいが、カツとご飯を見事に調和させている。
タレは醤油の風味が主役でありながら、決して濃すぎることなく、上品な味わいに仕上がっていた。カツ一口、ご飯一口のリズムで食べ進めていくと、あっという間にご飯がなくなってしまうほど。これぞ究極の「おかず」といえるだろう。お米は最後の一粒まで、きれいに平らげてしまった。
志多美屋のソースかつ丼は、ソースの風味を生かしながらも決して主張し過ぎることなく、カツのおいしさを最大限に引き出している。一方、とんかつ太郎のタレかつ丼は、醤油の風味を基調としながら、絶妙な甘みと塩味のバランスで、より和風な味わいを実現している。
あえて個人的な好みをいえば、醤油好きの筆者は新潟のタレかつ丼に軍配を上げたいところ。しかし、これは純粋に個人の好みの問題であって、品質や完成度を示すものではない。むしろ、普段ソース系の揚げ物を避ける筆者に「おいしい!」といわしめた志多美屋のソースかつ丼こそ、その実力の高さを証明しているともいえるだろう。
群馬のソースかつ丼、新潟のタレかつ丼。どちらも、その土地で長年愛され続けてきた理由が分かる極上の一品だった。それぞれに異なる特徴を持ちながら、どちらも揚げ物としての完成度が極めて高く、ソースかつ丼という料理の奥深さを感じさせてくれた。ということで、ここは一旦「引き分け」としよう。
いずれにしても、双方とも文句なしのソースかつ丼の名店だ。関東甲信越方面への旅の際はぜひ立ち寄ってみてほしい。きっと記憶に残る食体験が得られるだろう。それにしても、ソースかつ丼という料理が、地域によってこれほど異なる進化を遂げているなんて知らなかった。ほかの地域のソースかつ丼も気になるので、またおいしい(おもしろい?)ソースかつ丼に出会えたらレポートする。(マイカ・井上真花)
■Profile
井上真花
雑誌、書籍、新聞やWeb記事などを制作する編集プロダクション「有限会社マイカ」の代表取締役。コロナ禍を機にフルリモート体制となり、自作キャンピングカーを職場とする「バンワーク」を実践中。2024年7月に全国制覇を果たした。
まずは群馬県桐生市の老舗「志多美屋本店」
最初の訪問先は、群馬県桐生市の老舗「志多美屋本店」。正直、この店のことをあまりよく知らなかったが、桐生のソースかつ丼を代表する名店として、地元の人々はもちろん、遠方からの客も多く訪れる人気店だとか。実は7年前、同じ桐生市の「藤屋食堂」でソースかつ丼を食べたことがある。その時はまだソースかつ丼にあまり馴染みがなかったので、こんなにおいしいものだったのかと感動したことを今も覚えている。志多美屋は、この藤屋食堂と並んで桐生の二大ソースかつ丼店として知られているとのこと。否が応でも期待が高まる。
楽しみすぎてランチが始まる11時の少し前に店に着いたのだが、すでに店内の入り口前に数人の客が並んでいた。「さすが人気店!」と思いつつ、入り口の前にある紙に名前を書いて開店時間まで待っていると、入り口が開いた。
席に座り、まずはメニューを眺める。ソースかつ丼にはヒレとロースがあり、通常の注文でヒレが提供される。カツの数も4個と6個から選択可能だったが、まだ食べ比べツアーの序盤ということで4個にしておいた。このほかレディースセットもあり、カツが3個になる代わりにデザートかグラスビールがついてくるそうだ。レディースセットにビールが付くだなんて、桐生には酒豪の女性が多いのだろうか。
おそらく揚げたてを提供するためだろう。注文してから料理が届くまでに少し時間がかかるが、その甲斐あって熱々のカツが食べられる。たっぷりと特製ソースをくぐらせた分厚いヒレカツが、ご飯の上にこんもりと鎮座している。見た目からして、食べ応えは十分。
さっそく一口齧りつくと、ソースが絡んでいるにもかかわらず、カツの衣がしっかりとサクサクしている。しかも、これだけ分厚いカツなのに、お肉は驚くほど柔らかく、箸でスッと切れてしまう。
良い油を使っているのか、揚げ物が苦手な筆者でも全く油っこさを感じさせない。特製ソースは甘みと酸味のバランスが見事で、カツの旨味を引き立てながらも主張し過ぎることがない。ソースはご飯にも程よくしみ込んでおり、最後の一口まで飽きることなく美味しく食べられた。
続いては新潟市の人気店「とんかつ太郎」
続いて向かったのは、新潟市の人気店「とんかつ太郎」。友人からは「志多美屋ととんかつ太郎を続けて食べられるなんて、本当に羨ましい」といわれるほどの名店だそう。こちらも開店早々から行列ができる人気店だが、効率的な回転の速さもあって、それほど待たずに入店することができた。ここで注文したのは、新潟を代表する「タレかつ丼」。タレかつ丼をソースかつ丼というジャンルに入れていいかどうかは悩むところだが、ソースかつ丼好きの友人からは「ソースかつ丼というカテゴリに含めて良し」とのお墨付きをいただいたので問題ないということにする。
メニューには控えめに「かつ丼」とだけ記されているが、かつ丼とはとてもいえない代物が運ばれてきた。志多美屋と比べるとやや薄めのロースカツが4枚、ご飯の上に美しく並ぶ。カツは志多美屋同様に柔らかく、サクッとした食感が楽しめる。一番の大きな違いは、やはりこのタレだろう。醤油、みりん、酒を煮切ったような甘塩っぱい味わいが、カツとご飯を見事に調和させている。
タレは醤油の風味が主役でありながら、決して濃すぎることなく、上品な味わいに仕上がっていた。カツ一口、ご飯一口のリズムで食べ進めていくと、あっという間にご飯がなくなってしまうほど。これぞ究極の「おかず」といえるだろう。お米は最後の一粒まで、きれいに平らげてしまった。
どちらに軍配?
さて、この二大ご当地ソースかつ丼の勝負、どちらに軍配を上げるべきだろうか。正直なところ、甲乙付けがたい勝負だった。どちらも確かな技術と長年の経験に裏打ちされた極上の一品であることは間違いない。志多美屋のソースかつ丼は、ソースの風味を生かしながらも決して主張し過ぎることなく、カツのおいしさを最大限に引き出している。一方、とんかつ太郎のタレかつ丼は、醤油の風味を基調としながら、絶妙な甘みと塩味のバランスで、より和風な味わいを実現している。
あえて個人的な好みをいえば、醤油好きの筆者は新潟のタレかつ丼に軍配を上げたいところ。しかし、これは純粋に個人の好みの問題であって、品質や完成度を示すものではない。むしろ、普段ソース系の揚げ物を避ける筆者に「おいしい!」といわしめた志多美屋のソースかつ丼こそ、その実力の高さを証明しているともいえるだろう。
群馬のソースかつ丼、新潟のタレかつ丼。どちらも、その土地で長年愛され続けてきた理由が分かる極上の一品だった。それぞれに異なる特徴を持ちながら、どちらも揚げ物としての完成度が極めて高く、ソースかつ丼という料理の奥深さを感じさせてくれた。ということで、ここは一旦「引き分け」としよう。
いずれにしても、双方とも文句なしのソースかつ丼の名店だ。関東甲信越方面への旅の際はぜひ立ち寄ってみてほしい。きっと記憶に残る食体験が得られるだろう。それにしても、ソースかつ丼という料理が、地域によってこれほど異なる進化を遂げているなんて知らなかった。ほかの地域のソースかつ丼も気になるので、またおいしい(おもしろい?)ソースかつ丼に出会えたらレポートする。(マイカ・井上真花)
■Profile
井上真花
雑誌、書籍、新聞やWeb記事などを制作する編集プロダクション「有限会社マイカ」の代表取締役。コロナ禍を機にフルリモート体制となり、自作キャンピングカーを職場とする「バンワーク」を実践中。2024年7月に全国制覇を果たした。