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コンパクトカメラは死んだのか【道越一郎のカットエッジ】

 カメラといえば、今やレンズ交換型のミラーレス全盛だ。しかし、折からの円安とインフレで平均単価はドンドン上昇。ボディーとレンズをセットで買えば100万円超え、という製品も珍しくなくなってきた。いくらスマートフォン(スマホ)との差別化を図るためとはいっても、レンズ交換型ミラーレスカメラは、普通の人が気軽に手を出せない存在になりつつある。一方、数万円で買えるコンパクトはどうか。カシオが去り、ニコンが開発を中止し、ソニーや富士フイルムがラインアップを大幅縮小。スマホに押されこのままカテゴリ―自体が消えてしまうのではないか、と危惧する向きもあるだろう。結論から言えば、全く死んではいない。全国2400店のカメラ・家電量販店、ネットショップの売り上げを集計する、BCNランキングで明らかにする。

 カメラの販売台数構成比は、コンパクトが依然として6割以上を占めている。販売金額構成比こそ、2割台後半から3割台前半と小さいものの、一定の売り上げは続いている。台数はしっかり出ていて、それなりに需要はある、というわけだ。平均単価は、レンズ交換型と同じように上昇している。特に、5万円以上(税抜き、以下同)の比較的高価格帯の構成比が高まっているのが目立つ。21年9月時点では、販売台数全体の6.8%に過ぎなかったが、この9月では33.2%まで上昇。インフレの影響が大きいと思われるが、同時に、少々高くてもいい製品が欲しいというユーザーが増えている、という可能性も高い。この価格帯では、キヤノンの「PowerShot SX740 HS」や「PowerShot G7 X Mark II」の人気が高い。また、7月にパナソニックが発売した高倍率ズームの「LUMIX FZ85D」も売れている。
 

 個人的な価格感覚では、カメラに100万円はいかにも高すぎる。いくらインフレだといっても、マニアではない普通の人にとって、カメラの値ごろは10万円台前半ぐらいまでがせいぜいではないだろうか。カメラ市場全体がシュリンクする中、利益率の高いカメラを売りたい、というメーカー側の思惑はある程度理解できる。しかし、ユーザーがどこまでもついて来れるわけでもないだろう。この9月、レンズ交換型カメラの販売前年比は、台数、金額とも大きな前年割れを喫した。10月にマイナス幅は縮小したものの前年割れは継続している。カメラや写真の愛好家による高額カメラ需要が一巡しつつあるようだ。少なくともコロナ禍の反動増による特需は終わった、と言っていいだろう。コンパクトも減速傾向で9月、10月と販売台数は微減。しかし金額は前年を上回って推移し、10月の販売金額は115.3%と二桁増を記録した。価格が上昇するミラーレスを前に、比較的高価格帯のコンパクトでも安く見えるようになった、ともいえそうだ。

 コンパクトカメラの市場構造はここ数年で大きく変わった。特に目立つのはプレーヤーの変化だ。9月の販売台数シェアの上位5社では、キヤノンがダントツ。PowerShotとIXYの両シリーズを柱に31.1%と大きなシェアを握っている。一方、2位の富士フイルムは、いわずと知れた爆売れの「instax mini Evo」の貢献が大きく13.4%のシェアを獲得。3位、4位のKODAKとケンコー・トキナーは、主要メーカーが撤退した「跡地」に進出した。コスパの良さを武器にシェアを伸ばし、市場を大きく変えた主役だ。そして、一桁シェアで地味ながらもTOP5に食い込んでいるのがGRシリーズを擁するリコーイメージング。フィルム時代から連綿と続くGRブランドは、今でも根強くファンが多い。8月にはショールーム「GR SPACE TOKYO」を表参道にオープンするほどだ。ある種の高級コンパクト需要を一手に引き受けている感すらある。街角で不意に出会った光景を素早く写し取る事に徹した「スナップシューター」を名乗るだけに、孤高の存在といってもいいだろう。限られた製造数しかないとはいえ、GRは抽選販売するほどの人気だ。
 
GRはいまだにファンが多い。カメラというより、
GRというカテゴリーの製品といってもいいかもしれない

 先日、とあるカメラメーカーが自社施設のオープニングイベントを開いた。地域の首長も招き、社長自ら案内して回った。件の社長は、取り出したスマホの画面を一生懸命指で操作しながら、首長に見せる写真を探していた。「日本を代表する大カメラメーカーの社長もスマホで写真かよ」と、大いにがっかりした。しかし考えてみれば、写真自体は自社のカメラで撮ったのだろう。でっかいカメラの小さい画面で写真を見せるわけにもいかず、写真を閲覧するためにやむを得ずスマホを使っているのかもしれない(多分違うだろうが)。いずれにせよ、カメラを使うと、撮ったはいいが撮った写真を見る手段が限られてしまうのが現状だ。それなら最初からスマホで撮ったほうが便利、となるのも致し方ないだろう。

 過去に、カメラが主、スマホが従というコンセプトの製品はあった。サムスンやLG、パナソニックがチャレンジしたのを覚えている。残念ながらいずれも失敗に終わったが、撮った写真を保存・閲覧できるという点で、少なくとも普通のカメラより優れた点はあった。これをアレンジして、写真を見ることにも特化したカメラがあってもいいんじゃないだろうか。「分厚いスマホ」になってしまうかもしれないが、いかにも窮屈なスマホで撮る写真には限界がある。とはいえ、弁当箱のようなフルサイズセンサーのボディーと大砲みたいに大げさな交換レンズの組み合わせで写真を撮るよりはマシ。大げさな機材は、かなり「カッコわるい」。スマホより「カッコよく」スパッといい写真が撮れて閲覧保存も容易なコンパクト。そんなカメラが中国あたりのメーカーからリリースされようものなら、カメラ市場はガラッと変わってしまうだろう。もちろん、コンパクトカメラにブレイクスルーをもたらすのは、日本メーカーの責務だとは思うのだが。(BCN・道越一郎)