こうしたニーズに応えるオーディオメーカーの回答として、ユーザーをうならせたのが2023年3月に発売されたハーマンインターナショナルの「JBL Tour Pro 2」だった。同社初のフラグシップモデルとして登場した同モデルは音響老舗メーカーならではの徹底した音作りだけでなく、ディスプレイ搭載の充電ケースがもたらす利便性の向上が大きな話題を呼んだ。
2023年3月に発売されたハーマンインターナショナルの「JBL Tour Pro 2」
ディスプレイ搭載の充電ケースが話題を呼んだ
スマホ連携が前提となる完全ワイヤレスイヤホンでは、複雑な操作をスマホで行うものというのが常識となっていたが、JBL Tour Pro 2はケース単体でバッテリ残量のチェックやモード切り替えをできるようにするなど、目からウロコの進化で唯一無二の評価を得た。
そんなエポックメイキングな一台となったJBL Tour Pro 2に、10月3日、早くも後継機となる「JBL Tour Pro 3」が登場した。完全ワイヤレスイヤホンの全方位におけるアップデートを完了したように思えた前モデルだが、JBL Tour Pro 3はさらにその先があることを示し、想像以上の進化を遂げている。本記事では実機を触った感想をレポートし、同モデルの提示する新しい価値について解説したい。
10月3日に発売された「JBL Tour Pro 3」
カラーはブラックとラテの2色展開
ラテは前モデルのシャンパンゴールドよりやや茶系統が濃くなり高級感がアップしている
ハイブリッドデュアルドライバーでさらに磨かれた音質&ノイキャン
JBL Tour Pro 3の音質においてもっとも注目すべきポイントは、同モデルがJBLの完全ワイヤレスイヤホンとして初めてデュアルドライバーを採用したことだ。バランスドアーマチュアドライバーとダイナミックドライバーの2つを搭載することで、低域は力強く、高域は明瞭さの際立つメリハリのあるサウンドを実現。特性が偏っていたり、バランスはよくても物足りなさを感じたりする完全ワイヤレスイヤホンが多い中、オールマイティかつハイレベルな音に仕上げた。
JBL Tour Pro 3の装着イメージ
外耳道にぴったりと密着し、安定感は抜群
露出した部分のデザインもメタリックとマットな質感を組み合わせており、
さりげないおしゃれさがある
実際に音を聴いてみると、そのクオリティの高さは楽曲ジャンルを問わず実感できた。前モデルでも完成度の高さが印象的だったが、JBL Tour Pro 3の高域へのアプローチを耳にすると、さらに伸びしろがあったのかと驚かされる。デュアルドライバーはハイエンドの有線イヤホンなどでよくみられる仕様だが、これをボディが小さい完全ワイヤレスイヤホンにおいて実現したことは長年の技術の蓄積があるJBLブランドならではといえるだろう。
前モデルは定位感の再現が抜群な空間サウンドも秀逸だったが、JBL Tour Pro 3はそのレベルも引き上げている。チップセットの高性能化で正確性が高まったことに加え、新搭載したヘッドトラッキング機能で臨場感をさらにブースト。ライブ映像やスポーツ中継などを視聴する際に効果を発揮してくれそうだ。
唯一無二の魅力であるスマートディスプレイはもっと頼れる存在に
JBL Tour Pro 2の唯一無二の魅力であった充電ケースに備わったスマートディスプレイは特に進化が顕著だ。こちらは前モデルが初搭載だったこともあり、多くの変更が加えられている。まずはスクリーンが前モデルから約29%大型化。表示できる情報が増え、視認性がアップ、そしてシンプルにデザインが洗練されてガジェットとしての魅力を高めている。
JBL Tour Pro 3も当然そのあたりのケアに抜かりはない。音声をクリアに伝えられるように六つのマイクを搭載するだけでなく、AIノイズ低減アルゴリズムを採用することで、ワンランク上の快適性を目指した。具体的には一定時間ノイズが発生する乗り物や雑踏の音はもちろん、雷や人の声など突発的に発生するノイズもしっかり低減し、音声が相手によりクリアに伝えられるようになった。
また、新しい角度から完全ワイヤレスイヤホンの価値を高めてくれる要素として、触れておきたいのが拡張性だ。JBL Tour Pro 3はトランスミッター機能を新搭載し、一般的なBluetooth接続以外にオーディオトランスミッターとAURACAST(オーラキャスト)にも対応した。
あまり聞き慣れない用語かもしれないので、少し説明を加えておきたい。まずはオーディオトランスミッターについて。完全ワイヤレスイヤホンと接続したいデバイス(代表的な例がテレビ)によってはBluetooth接続で音声を送受信できない場合がある。こんなときに使われるのが、オーディオトランスミッターだ。専用デバイスは数千円するが、JBL Tour Pro 3は充電ケースにその機能を持たせた。
JBL Tour Pro 2は完全ワイヤレスイヤホンがまだ新しいカテゴリで進化の余地はあるということを感じさせてくれたセンセーショナルなモデルだった。それではJBL Tour Pro 3はどのようなモデルか。筆者は前モデルが提示した進化がユーザーにもたらす価値を最大化したモデルという印象を持った。
JBL Tour Pro 2が多少市場の様子を伺いながらの展開だったとすれば、JBL Tour Pro 3はその成功を受けて、アクセル全開で踏み込んできた…それくらいモデルチェンジと呼ぶには大きなアップデートが行われている。
冒頭にデータも交えて紹介したように、完全ワイヤレスイヤホンは音楽視聴だけでなく、生活の幅広いシーンで欠かせなくなり、ユーザーはさまざまな角度から製品を検証する必要が出てきた。高音質が前提の時代だからこそ、全方位でオーディオ体験を塗り替えることに挑戦しているJBL Tour Pro 3をいま聴いておくべき/触っておくべき一台として推しておきたい。(フリーライター・小倉 笑助)