パリ五輪が閉幕した。4年に1度の夏季五輪に際して、カメラ各社からプロ向けのフラグシップカメラが登場するのは恒例だ。今年は、キヤノンが「EOS R1」を発表。パリでは多くのテスト機が稼働した。ソニーとニコンは東京五輪に向け、2021年に先んじてフラグシップモデルを投入済み。ここにキヤノンのモデルが加わったことで、カメラ主要3社のフラグシップモデルが出そろった。いずれもミラーレス一眼カメラ(ミラーレス)だ。レンズ交換型カメラ全体では、ミラーレスの販売台数構成比は95%以上。被写体が激しく動くスポーツ撮影では、一眼レフが有利と言われていたが、プロの世界でも、ついにミラーレスの時代に切り替わった。しかし、気になるのは価格の高騰だ。全国2400店舗の家電やカメラ量販店、ネットショップの実売を集計するBCNランキングで、ミラーレス市場の販売状況と価格の変動についてまとめた。
ミラーレス市場は、コロナ禍を終えて好調に推移。販売台数、金額とも前年比で2桁の伸びを示す月が大半を占めている。22年7月時点の前年比では、販売台数が113.0%、販売金額では121.0%だった。この7月では、台数こそ116.3%と2年前と同様の伸びだが、金額で130.9%と大幅に伸びた。ミラーレスの販売台数メーカーシェアは7月現在で、ソニーが49.7%とほぼ半数を握り、次いでキヤノンが20.2%、ニコンが12.6%という構造。ソニーは6月の33.3%から急激にシェアを上げた。8月1日に同社が実施した値上げの影響だ。値上げ前の駆け込み購入で売り上げが積み上がった。
特に売れているのが同社の大ヒット商品「VLOGCAM ZV-E10」。22年7月以降25カ月連続で販売台数1位を維持している。特にこの7月の販売台数シェアは3割に迫る29.3%。驚くべき売り上げを記録した。人気の秘密は価格の安さだ。21年7月の発売当初のボディー単体市場推定価格は、税込みで7万8000円前後で大幅に10万円を下回る。しかし、この8月2日に発売したばかりの後継モデル「VLOGCAM ZV-E10 II」の市場推定価格は、ボディー単体で税込み15万3000円。機能が進化しているとはいえ、ほぼ倍の価格への値上げは大きい。新旧モデルを当面併売するが、後継モデルの登場でさらに旧モデルの価格の安さが際立つ格好だ。
ミラーレス市場全体の平均単価(税抜き、以下同)も上昇している。22年7月時点では13万5100円だったが、この7月には16万8200円と実に2年間で24.5%も上昇した。象徴的なのは、7月にキヤノンが発表したEOS R1の価格だ。税抜き市場推定価格は99万円、税込みではなんと108万9000円。レンズ交換型カメラの主要メーカーが発売する、35mmフルサイズのフラグシップカメラの売価が、久々に100万円の大台に乗せた。キヤノンの戸倉剛イメージンググループ管掌 副社長執行役員は、価格設定について「グローバルで展開している商品であるため、為替相場の変動によるところが大きい」と話す。確かにドル円相場では、足元では一服感があるものの、このところ継続的な円安が進行していた。そのあおりも受けて国内販売価格が上昇している。
ミラーレスの平均単価とドル円相場の動きを比較すると、これらは連動している。ドル円相場の上昇に、やや遅れてミラーレスの平均単価が上昇する傾向にあるようだ。3年前の21年7月の価格を1とした指数で動きをみると、上昇率の大きさが分かる。21年7月のドル円相場は終値が1ドル109円53銭。同年7月のミラーレス市場の平均単価は12万4900円だった。一方この7月では、ドル円相場の終値が1ドル150円91銭で指数が1.38、ミラーレス市場の平均単価は前述の通り16万7800円で指数が1.34。いずれも3割を超える上昇率だ。
平均単価が上昇する一方で、ZV-E10のように安価なカメラが突出して売れているミラーレス市場。ユーザーのニーズとメーカーの価格戦略が乖離している部分もありそうだ。労働政策研究・研修機構の調査では、この3年間の月間給与額の上昇率は、わずか3.2%。さらに一般の消費者にとって、今やカメラといえばスマートフォン(スマホ)という意識が強い。そんな背景にあって、カメラの価格がさらに上昇していけば、カメラユーザーのすそ野を広げるのは難しそうだ。一方で、カメラは「スマホとは全く違う特別な写真専用機」という位置づけから、多少価格は高くてもさらに高機能化し、スマホとの違いをより先鋭化した方がいいという考えもある。現在、多くのカメラメーカーがとっている戦略だ。足元のミラーレス好調は、コロナ禍で一時止まってしまった需要の穴埋め、という要素が大きい。カメラ愛好家の需要が一巡した後、価格上昇が著しいミラーレス市場は、はたしてどこまで好調を維持できるだろうか。(BCN・道越一郎)
ミラーレス市場は、コロナ禍を終えて好調に推移。販売台数、金額とも前年比で2桁の伸びを示す月が大半を占めている。22年7月時点の前年比では、販売台数が113.0%、販売金額では121.0%だった。この7月では、台数こそ116.3%と2年前と同様の伸びだが、金額で130.9%と大幅に伸びた。ミラーレスの販売台数メーカーシェアは7月現在で、ソニーが49.7%とほぼ半数を握り、次いでキヤノンが20.2%、ニコンが12.6%という構造。ソニーは6月の33.3%から急激にシェアを上げた。8月1日に同社が実施した値上げの影響だ。値上げ前の駆け込み購入で売り上げが積み上がった。
特に売れているのが同社の大ヒット商品「VLOGCAM ZV-E10」。22年7月以降25カ月連続で販売台数1位を維持している。特にこの7月の販売台数シェアは3割に迫る29.3%。驚くべき売り上げを記録した。人気の秘密は価格の安さだ。21年7月の発売当初のボディー単体市場推定価格は、税込みで7万8000円前後で大幅に10万円を下回る。しかし、この8月2日に発売したばかりの後継モデル「VLOGCAM ZV-E10 II」の市場推定価格は、ボディー単体で税込み15万3000円。機能が進化しているとはいえ、ほぼ倍の価格への値上げは大きい。新旧モデルを当面併売するが、後継モデルの登場でさらに旧モデルの価格の安さが際立つ格好だ。
ミラーレス市場全体の平均単価(税抜き、以下同)も上昇している。22年7月時点では13万5100円だったが、この7月には16万8200円と実に2年間で24.5%も上昇した。象徴的なのは、7月にキヤノンが発表したEOS R1の価格だ。税抜き市場推定価格は99万円、税込みではなんと108万9000円。レンズ交換型カメラの主要メーカーが発売する、35mmフルサイズのフラグシップカメラの売価が、久々に100万円の大台に乗せた。キヤノンの戸倉剛イメージンググループ管掌 副社長執行役員は、価格設定について「グローバルで展開している商品であるため、為替相場の変動によるところが大きい」と話す。確かにドル円相場では、足元では一服感があるものの、このところ継続的な円安が進行していた。そのあおりも受けて国内販売価格が上昇している。
ミラーレスの平均単価とドル円相場の動きを比較すると、これらは連動している。ドル円相場の上昇に、やや遅れてミラーレスの平均単価が上昇する傾向にあるようだ。3年前の21年7月の価格を1とした指数で動きをみると、上昇率の大きさが分かる。21年7月のドル円相場は終値が1ドル109円53銭。同年7月のミラーレス市場の平均単価は12万4900円だった。一方この7月では、ドル円相場の終値が1ドル150円91銭で指数が1.38、ミラーレス市場の平均単価は前述の通り16万7800円で指数が1.34。いずれも3割を超える上昇率だ。
平均単価が上昇する一方で、ZV-E10のように安価なカメラが突出して売れているミラーレス市場。ユーザーのニーズとメーカーの価格戦略が乖離している部分もありそうだ。労働政策研究・研修機構の調査では、この3年間の月間給与額の上昇率は、わずか3.2%。さらに一般の消費者にとって、今やカメラといえばスマートフォン(スマホ)という意識が強い。そんな背景にあって、カメラの価格がさらに上昇していけば、カメラユーザーのすそ野を広げるのは難しそうだ。一方で、カメラは「スマホとは全く違う特別な写真専用機」という位置づけから、多少価格は高くてもさらに高機能化し、スマホとの違いをより先鋭化した方がいいという考えもある。現在、多くのカメラメーカーがとっている戦略だ。足元のミラーレス好調は、コロナ禍で一時止まってしまった需要の穴埋め、という要素が大きい。カメラ愛好家の需要が一巡した後、価格上昇が著しいミラーレス市場は、はたしてどこまで好調を維持できるだろうか。(BCN・道越一郎)