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パナソニック コネクト、生成AI導入1年で労働時間18.6万時間を削減

経営戦略

2024/06/26 18:00

 パナソニック コネクトは6月25日に、米OpenAIの大規模言語モデルをベースに開発した自社向けAIアシスタントサービス「ConnectAI」の、2023年6月~2024年5月の期間における活用実績と今後の活用構想を発表致した。

パナソニック コネクトにおける
生成AI導入1年の実績

検索エンジン代わりや戦略策定の基礎データで効果

 同社は、生成AIによる業務生産性向上、社員のAIスキル向上、シャドーAI利用リスクの軽減を目的として、ChatGPTをベースとしたAIアシスタントサービスを国内全社員約1万2400名に、2023年2月から展開している。

 社員に対して、生成AIを活用することでどれだけの時間が削減できたかを尋ねたところ、1回あたり平均約20分の削減につながっていることがわかった。比較的削減時間が短い活用ケースは、検索エンジン代わりのような単純な質問のやり取り、長い時間の削減につながる活用ケースとしては戦略策定の基礎データ作成などがみられる。

 これらの結果を踏まえて、生成AI導入にあたって掲げていた目標の達成結果をみると、「生成AIによる業務生産性向上」については1年で全社員18.6万時間の労働時間を削減しており、アクセス回数(12カ月)は139万6639回、直近3カ月の利用回数は前年同期比で41%増加した。「社員のAIスキル向上」については、検索エンジン代わりのような用途から戦略策定や商品企画といった1時間以上の生産性向上につながる利用が増え、製造業らしい活用(素材に関する質問、製造工程に関する質問など)も増加している。「シャドーAI利用リスクの軽減」については、16カ月間に情報漏洩、著作権侵害などの問題は発生しなかった。

 「ConnectAI」では、社員が的確にプロンプトを入力できるよう、プロンプトエンジニアリングの観点に基づいてユーザーインターフェースをカスタマイズするとともに、トップ画面にはよくある日常業務15件のプロンプトサンプルを用意している。6月17日には、さらに生産性を向上すべく、プロンプト添削機能が新たに追加された。
 
プロンプト添削機能の使用イメージ

 あわせて、2023年9月に実施された自社固有の公開情報(ウェブサイト・ウェブページ約3700ページ、ニュースリリース495ページ、対外向けのパナソニック コネクトホームページ3200ページ)を元に回答してくれる、全社員を対象にした自社特化AIの試験運用における、一定の精度での回答が可能であったという結果を踏まえて、2024年4月からは自社固有の社外秘情報である品質管理630件、1万1743ページに対しても回答してくれるAIの活用を開始しており、品質管理規定や過去の事例を元に製品設計時の品質についての質問できるようになった。同機能には、回答結果の真偽を社員自身が確認するための、回答の引用元を表示する機能も実装している。
 
品質管理規定や過去の事例を元にした、
製品設計時の品質についての質問およびそれに対する回答例

 そのほか、経験者のノウハウに依存するため情報が共有されにくい、事例の検索とその精査・判断に膨大な時間を要するといった製造業における品質管理の課題を解決すべく、「ConnectAI」では社内にある品質管理規定や過去に発生した品質問題の参照を可能にした。同機能は、リリース以来日々の業務で活用されており、回答に対する社員の評価は3.5点(5点満点)と高い水準に達している。今後は、数年をかけて同機能を活用していくことによって、経験者でも判断が難しい設計段階での問題や部品に起因する問題、製造方法や作業手順の問題について原因の特定を容易にして、手戻りの時間も減らせるようにすることで、人手不足を補うとともにより短い時間で精度の高いものづくりにつなげていくことを目指す。

 これまでの生成AI活用を通じて、自社固有の質問や最新の公開情報への回答、回答における正確性の担保ができない、という課題が明らかになった。今後は、自社データの整備を構造的に進め、「パナソニック コネクトコーパス」を構築していく。
 
「パナソニック コネクトコーパス」の
イメージ

 さらに、自社データの対象範囲を拡大して、品質管理に加えて人事の研修サポートや社内ITサポート、カスタマーセンターといった社内サービスへも拡大する。人事では、まず生成AIが社員に適した研修を提案する研修特化AIの導入を進めていき、PowerPointやExcel、PDFといった非構造化データに加えて、業務システムなどに蓄積された構造化データも対象に加える。データが整ってきた段階で、個人の職種や権限に応じて回答する個人特化AIの導入も検討していく。
 
パナソニック コネクトにおける今後のAI戦略

 将来的に同社は、スウェーデンの哲学者であるニック・ボストロム氏が提唱している人工知能の3つの発展段階に沿って、今後AIがエージェント型への進化を遂げてゆくと見込んでいる。現在の1つの問いかけに対して回答するAI(オラクル型)から、今後は課題を明確にすることで目的を達成するために連続したタスクを他のシステムと連携して完了するAI(ジーニー型)へと進化を遂げ、さらには長期的な目標を持って計画・立案・タスクの実行・最終確認まで持続的に状況を判断しながら業務を遂行し続けるAI(ソブリン型)が登場すると予測しており、このような進化が実現すれば最小限の人の介入で自律的にAIが業務をこなすオートノマスエンタープライズ(自律型の企業)が今後実現できる、との考えを示した。
 
オラクル型AIの利用イメージ
 
ジーニー型AIの利用イメージ
 
ソブリン型AIの利用イメージ