【拝啓、徳島より27】徳島県西部に位置する美馬市脇町は風光明媚な山間の小さな街です。漆喰の白壁と瓦屋根が続くノスタルジックな街並みは「うだつの街並み」と呼ばれ、古き良き昭和の香りを今に伝えています。レトロな看板が残る軒先には地域の方々の心遣いもちらり。古民家をリノベーションしたカフェや雑貨屋さんも多く、街歩きにはぴったりです。古き良き風情と新しさが共存する街の様子をご紹介します。
吉野川流域はもともと林業や養蚕業、藍染の原料となるすくもの生産などが盛んだったエリア。人と物が行き交い、豊かな自然の恩恵を受けながら、大変活気ある街だったと言います。
現在の脇町近辺は、当時の栄華をほんのり残しながらも、全体的に静かな田舎町という印象。長閑な田園風景も残り、まさに「田舎のおばあちゃんち」といった空気が街全体を包んでいます。
車を降りると、思わず伸びをしたくなる景色。周囲をぐるりと囲む山並みは緑が目に眩しいほどでした。
道の駅に車を止めて、徒歩で「脇町うだつの街並み」へ。一歩足を踏み入れると、そこはまるで昭和時代にタイムスリップしたよう。舞台のセットのようですが、よくよく見ると、長い年月を重ねてできた細かな傷や汚れが、なんとも言えない風合いを作り出しています。
街並みの大きな特徴が「うだつ」と呼ばれる防火壁です。隣の家との境目、2階の壁から飛び出たように作られていて、家紋が入った豪華な鬼瓦が載せてあります。
うだつを家に取り付けることは、その家が裕福な証拠。そのため、「出世しないこと」「地位や名誉が上がらないこと」などを表す「うだつがあがらない」の語源になったそうです。
確かに街を歩いていると、うだつが上がった家は、しっかりとした太い梁が残り「どうだ!!!」と言わんばかりの佇まい。商家や住居だった建物がほとんどですが、武家のお屋敷のような趣ある家が多いのが印象的でした。
街のランドマークは、1934年に芝居小屋として建てられた「脇町劇場 オデオン座」。戦前は歌舞伎座として、戦後は映画の上演などを行っていた場所です。
「オデオン座」のフォントや壁面のカラフルな飾りがなんともいい雰囲気を醸し出しています。映画のロケ地として使われたこともあるのも納得です。内部は見学でき、芝居小屋として使われた当時のまま、観客席や控室が残っていました。
通りには古い民家を再利用したかわいらしいカフェや雑貨屋さんがたくさん並んでいます。建築当時の趣を生かしながら現代風にアレンジしたお店はどこもフォトジェニックで、写真好きにはたまりません。
リノベーションされた建物のなかには、コワーキングスペースやゲストハウス、リモートワークオフィスに利用されている場所もありました。
働き方や暮らし方が多様化した現代ならではの古民家活用方法に、驚き半分、羨ましさ半分。レトロな雰囲気を楽しみながら、ゆっくりワーケーションをする旅もいいですよね。
通りには若い人たちの姿もちらほらあり、新しい活気が今まさに生まれているようでした。「昔」と「今」が程よく融合した空気感そのものが、この街の魅力なのかもしれません。
例えば、玄関前に置かれた長椅子の上には、ザルにこんもりともられた松ぼっくりがあり、1個100円から販売中でした。代金は「投入口へ」とのこと。旅の思い出にひとつ、いただいて帰りました。
また、とあるお店の軒先には年代物の「ボンカレー」の看板が。モデルさんの和服姿がなんとも時代を感じさせますね。「牛肉 野菜入り」の文字も素敵です。この看板が掲げられた当時の街はどんな様子だったのでしょうか。想像を膨らませながら、先へと進みます。
散策中、ふと道端を見ると「←水仙が咲いています」と手書きのお知らせを発見。地域の人たちの気遣いでしょうか。矢印に従って小道を進むと、空き地いっぱいに白い水仙の花が咲いていて、思わずにっこり。少し傾いた太陽とのコントラストもとてもきれいでした。
最後に立ち寄った酒屋兼お土産屋さんでは、地域のおじさんやおばさん方が井戸端会議中。私が訪れた日(2月上旬)は冬真っ只中だったので、ストーブの上にのせられたタライの中に、熱燗の小瓶がちょこんと置いてありました。
「どっからきたん?」
「ようきたね?」
自然と始まる会話に気分もほっこり。晩酌をご一緒することはできませんでしたが、もし近くに宿をとっていたら、もっと楽しい出会いもあったかもしれないなと思い、改めて再訪を決意したのでした。
「脇町いいとこ、一度はおいで。一度と言わずに、またおいで」
お店を出るときに酒屋のお母さんが、歌うようにかけてくれた言葉をリピートしながら帰路につきました。(フリーライター・甲斐イアン)
■Profile
甲斐イアン
徳島在住のライター、イラストレーター。千葉県出身。オーストラリア、中南米、インド・ネパールなどの旅を経て、2018年に四国の小さな港町へ移住。地域活性化支援企業にて、行政と協力した地方創生プロジェクトの広報PR業務に従事。21年よりフリーランスとなり、全国各地の素敵なヒト・モノ・コトを取材しています。
香川と徳島をつなぐ交通の要所として栄えた
徳島市内から車で約1時間。四国の暴れ川、吉野川のすぐそばに位置し、南北を急峻な山々に挟まれた美馬市脇町は、古くから讃岐(香川県)と徳島をつなぐ交通の要所として栄えた場所です。吉野川流域はもともと林業や養蚕業、藍染の原料となるすくもの生産などが盛んだったエリア。人と物が行き交い、豊かな自然の恩恵を受けながら、大変活気ある街だったと言います。
現在の脇町近辺は、当時の栄華をほんのり残しながらも、全体的に静かな田舎町という印象。長閑な田園風景も残り、まさに「田舎のおばあちゃんち」といった空気が街全体を包んでいます。
車を降りると、思わず伸びをしたくなる景色。周囲をぐるりと囲む山並みは緑が目に眩しいほどでした。
道の駅に車を止めて、徒歩で「脇町うだつの街並み」へ。一歩足を踏み入れると、そこはまるで昭和時代にタイムスリップしたよう。舞台のセットのようですが、よくよく見ると、長い年月を重ねてできた細かな傷や汚れが、なんとも言えない風合いを作り出しています。
街並みの大きな特徴が「うだつ」と呼ばれる防火壁です。隣の家との境目、2階の壁から飛び出たように作られていて、家紋が入った豪華な鬼瓦が載せてあります。
うだつを家に取り付けることは、その家が裕福な証拠。そのため、「出世しないこと」「地位や名誉が上がらないこと」などを表す「うだつがあがらない」の語源になったそうです。
確かに街を歩いていると、うだつが上がった家は、しっかりとした太い梁が残り「どうだ!!!」と言わんばかりの佇まい。商家や住居だった建物がほとんどですが、武家のお屋敷のような趣ある家が多いのが印象的でした。
レトロかわいい街並みに胸キュン
古い街並みが続く通りを散策していると、思わず「かわいい!」と立ち止まってしまう場面が多々ありました。街のランドマークは、1934年に芝居小屋として建てられた「脇町劇場 オデオン座」。戦前は歌舞伎座として、戦後は映画の上演などを行っていた場所です。
「オデオン座」のフォントや壁面のカラフルな飾りがなんともいい雰囲気を醸し出しています。映画のロケ地として使われたこともあるのも納得です。内部は見学でき、芝居小屋として使われた当時のまま、観客席や控室が残っていました。
通りには古い民家を再利用したかわいらしいカフェや雑貨屋さんがたくさん並んでいます。建築当時の趣を生かしながら現代風にアレンジしたお店はどこもフォトジェニックで、写真好きにはたまりません。
リノベーションされた建物のなかには、コワーキングスペースやゲストハウス、リモートワークオフィスに利用されている場所もありました。
働き方や暮らし方が多様化した現代ならではの古民家活用方法に、驚き半分、羨ましさ半分。レトロな雰囲気を楽しみながら、ゆっくりワーケーションをする旅もいいですよね。
通りには若い人たちの姿もちらほらあり、新しい活気が今まさに生まれているようでした。「昔」と「今」が程よく融合した空気感そのものが、この街の魅力なのかもしれません。
みちくさが楽しすぎる街
今回、うだつの街並みを訪れて、「みちくさ食うのって楽しいな」と再確認しました。お店とお店の間の、なんでもない道端にも、ほっこりしたり、ワクワクしたりするものがたくさんありました。例えば、玄関前に置かれた長椅子の上には、ザルにこんもりともられた松ぼっくりがあり、1個100円から販売中でした。代金は「投入口へ」とのこと。旅の思い出にひとつ、いただいて帰りました。
また、とあるお店の軒先には年代物の「ボンカレー」の看板が。モデルさんの和服姿がなんとも時代を感じさせますね。「牛肉 野菜入り」の文字も素敵です。この看板が掲げられた当時の街はどんな様子だったのでしょうか。想像を膨らませながら、先へと進みます。
散策中、ふと道端を見ると「←水仙が咲いています」と手書きのお知らせを発見。地域の人たちの気遣いでしょうか。矢印に従って小道を進むと、空き地いっぱいに白い水仙の花が咲いていて、思わずにっこり。少し傾いた太陽とのコントラストもとてもきれいでした。
最後に立ち寄った酒屋兼お土産屋さんでは、地域のおじさんやおばさん方が井戸端会議中。私が訪れた日(2月上旬)は冬真っ只中だったので、ストーブの上にのせられたタライの中に、熱燗の小瓶がちょこんと置いてありました。
「どっからきたん?」
「ようきたね?」
自然と始まる会話に気分もほっこり。晩酌をご一緒することはできませんでしたが、もし近くに宿をとっていたら、もっと楽しい出会いもあったかもしれないなと思い、改めて再訪を決意したのでした。
「脇町いいとこ、一度はおいで。一度と言わずに、またおいで」
お店を出るときに酒屋のお母さんが、歌うようにかけてくれた言葉をリピートしながら帰路につきました。(フリーライター・甲斐イアン)
■Profile
甲斐イアン
徳島在住のライター、イラストレーター。千葉県出身。オーストラリア、中南米、インド・ネパールなどの旅を経て、2018年に四国の小さな港町へ移住。地域活性化支援企業にて、行政と協力した地方創生プロジェクトの広報PR業務に従事。21年よりフリーランスとなり、全国各地の素敵なヒト・モノ・コトを取材しています。