エレコムの石見新社長に聞いた、海外とBtoB事業による成長のシナリオ
PC周辺機器ベンダーであるエレコムの業績は、2023年3月期に13年ぶりの減収、初の2年連続の減益に陥ったが、このほど発表された24年3月期決算は増収増益に転じ、明るい兆しが見え始めた。3月1日付で石見浩一副社長執行役員が共同社長執行役員(COO)に就任。6月の定時株主総会で代表取締役社長執行役員(COO)に就任する予定だ。創業者の葉田順治会長が長年掲げてきた海外進出を推進するキーパーソンとなる。エレコムの成長に向けたシナリオを聞いた。
取材・文/細田 立圭志
石見浩一共同社長執行役員(COO)(以下、敬称略) 前職はIT業界のサービス系企業でコールセンターやデジタルマーケティングなど様々なサービスをお客様にダイレクトに提案してきました。事業開発や営業、サービス、管理に至るまでのすべてを担当し、創業者と一緒に仕事をしてきました。創業者のご子息が社長のときに、39歳の私を副社長に引き上げていただき、それから56歳まで17年間、企業経営を担ってきました。
私が入社したときは売上高580億円の会社でしたが、39歳のときは約1200億円、最終的に3760億円で従業員7万人弱の規模になりました。特に後半の10~12年間は成長分野である海外事業を中心に欧米、韓国、中国、ASEAN地域で1000億円ぐらいの事業を従業員の皆さんと一緒につくってきました。
――21年7月のBCNのインタビューで葉田会長は、まさにエレコムの売上高約1000億円を、海外事業で1000億円、BtoB事業で1000億円を積上げて合計3000億円にしたいと語っていました。
石見 海外と法人事業を伸ばしていくという点で、葉田の言っていることは今でも変わっていません。創業者は成長にものすごく貪欲なので、従業員も含めて一緒にどのようにして向かっていくのか。前職で築いたノウハウを、本職でもリードしていきたいと思います。
――エレコムでの1年は、どのように過ごされたのですか。
石見 23年8月は工場など実際の現場を見ました。9月はBtoB事業のアドバイスや提案などをしました。私のミッションは、まさに海外営業の責任とBtoB事業の成長なので。
しかしご存じの通り、海外事業はまだ十分な規模ではありません。まずは人材を採用して育てるところからスタートする状況です。私が培ってきた経営手法は、プロパーのDNAを大切にしながら、外部からも新しい人材を入れてミックスさせながら事業や人材、組織を進化させるというものです。それをやりたいと葉田に伝えました。
石見 できる人材を現地に送るのと同時に、現地でも採用します。ミックスすることが重要です。やはり現地の市場を理解しないことには、なかなかうまくことを運べません。もちろん、本社から現地をサポートする機能もつくる必要があります。3カ月ほど働いて、いろいろと課題が見えてきました。
また既に海外市場で活躍しているメーカーがいるので、エレコムはそこと何を差別化していくのか、どのような製品でどう戦っていくのかなど、自社の強みをつくっていかなければなりません。
――海外にはコンシューマ製品で進出するのですか。
石見 はい。まずはコンシューマ領域で進出し、その後BtoB事業の可能性を模索していきます。われわれは家電量販の事業モデルで成り立ってきたので、その強さを海外でも発揮できると考えています。ただし、まずは大手ECで販売して、そこでブランド認知を拡大していく考えです。
――エリアは北米からですか。
石見 中国や韓国、シンガポールには既に進出しているので、そこはさらに改善しながら、北米に新規参入していきます。北米と欧州は似ているところもあるので、欧州も一緒に入っていきたいですね。
また、iFデザインアワードで金賞を獲得したアウトドア用モバイルバッテリの「NESTOUT」のような尖った製品ブランドは、エレコムでダイレクト販売する実験をしています。ECと直販をミックスさせながら、EC事業のモデルを構築していこうとテストしているところです。
石見 創業者と一緒に働くのはどんな場面でも激闘が付きまといますが、私自身は面白いと感じています。エレコムという会社を、日本発の面白いブランドとして世界に打って出ていきたいということで葉田と一致しています。
――日本発ブランドを海外に広めたいという話はわくわくしますね。家電業界で少なくなったように思います。どちらかというと中国やアジアのベンチャーに攻め込まれて、受け身に終始している印象です。
石見 味の素のときも海外部でしたし、トランスコスモスのときもほぼゼロだった海外事業部を1000億円規模にしました。20代前半に米国で暮らしていたときから、外資系ではなく日本の企業でしか働かないと決めていました。これは私のライフワークです。日本発のブランドを世界で戦えるようにしたいと決めていましたから、結果的にそれをずっとやり続けていますね。
葉田と会話する中で、エレコムの海外での成長をひしひしと感じたので、私のライフワークの第三章として役立ちたいと思いました。やはり日本の企業が元気になってほしいし、IT業界やPC周辺機器から元気になってくると、日本全体にもいい形で波及していきます。そのきっかけをつくりたいです。
石見 23年12月からBtoBの営業も担当するようになりました。この領域は前職で培ってきたところ。今は9割以上を代理店経由で販売しているので、まずは代理店経由で各エンドのお客様にサービスを提供していきます。
ただ、これまでは製品を軸とした販売でしたが、コト軸で売っていきたいです。例えばカメラがあり画像を検索する、検索した画像の分析データを出して、画像を検索するためのWi-Fiなど通信環境の工事、保守・メンテナンスもする。こうしたコトでつながっていくと、モノとサービスをソリューションとして提供するストックビジネスをつくれます。
例えば、DXアンテナとハギワラの売上高を合算すると約200億円ありますが、エレコムのBtoB事業は約170億円です。物売りが中心だと毎年4月にゼロから170億円をつくっていくことになります。私がやるべきことは、モノとサービスを絡めたコトを売ることで、お客様や代理店とのリレーションを深めていくことです。
――現在の売上構成比はコンシューマが約64%、法人が約36%ですが、数年後のイメージはありますか。
石見 全体としてはBtoBを伸ばすイメージです。買収は考慮せずに3年後には半々にしたいです。
エレコムは葉田が都度、注力すべき事業の方向を指し示しながら引っ張ってきて、それを実務の柴田さんがフォローして成長してきました。ただ1000億円になってから4年間は売り上げが伸びていませんし、利益は下がっています。
再び成長に向けてV字回復させることが私の使命だと認識しています。その際、海外や法人向け事業をきちんと立ち上げて、グループ経営を成長させていくということです。
――買収でいえば、テスコムのM&Aは驚きました。
石見 量販事業ではテスコムのM&Aが一つのいい事例になりました。定期的に買い替える製品は、売り上げとブランド認知の相乗効果を生みます。オポチュニティがあれば同じようなM&Aは今後もしていきたいですね。
エレコムの強みは、買収した企業をリストラクチャリングしてしっかりと黒字にしているところです。DXアンテナもハギワラも、今では利益を牽引する事業部門に成長しました。
テスコムでも同じ手法を取り入れています。リストラクチャリングして黒字化し、売り上げを伸ばして成長させていくノウハウは、エレコムの強みの一つです。
――石見社長の経営スタイルは?
石見 葉田と私は正道をいくなど同じ価値観を感じますが、創業者と同じことだけをしていては、成長軌道への取り組みは十分ではないと感じています。従業員一人一人の活力を向上させて、チームとして成果を導くことで大きく成長できる組織をつくります。ですので、エレコムの強みであるM&Aと現在の事業成長に取り組めば、再度成長への舵をきれると考えています。
また、私の経営におけるキーワードはCS(顧客満足)とES(従業員満足)を大切にする経営です。企業として存続していくには、顧客満足度を高めること。また、従業員に対しても、活力をもってもらいながら福利厚生や仕組み、文化をつくっていくと話しています。
人がいてはじめて事業が生まれ、人をベースに広げることで経営の成長が生まれる。これからは世界中の人材を活かしていけないと事業の継続が難しくなります。
現在推進している海外事業がきちんと立ち上がるまで3~5年は必要になります。それまでは、当社が強みとしているM&Aと、私が得意とするBtoB事業でソリューションビジネスをお客様に提案していきます。そうしながらBtoB事業の売り上げのうち2~3割をソリューションビジネスとして、残り7~8割を海外事業を含む製品で補っていけば、エレコムはもう一度成長軌道に乗れるはずです。
■Profile
石見 浩一(いわみ こういち)
1967年1月10日生。92年イリノイ大学院 修了、93年4月味の素入社。2001年3月トランスコスモス入社、02年6月同社取締役、03年6月同社常務取締役、05年6月同社専務取締役、06年6月同社取締役副社長、20年6月同社代表取締役副社長、22年6月同社代表取締役共同社長、23年4月同社顧問(現任)。23年7月エレコム副社長執行役員(現任)、24年1月ELECOM KOREA CO.,LTD. 代表理事(現任)、ELECOM SINGAPORE PTE.LTD. Managing Director(現任)、ELECOM SALES HONGKONG LIMITED. Director(現任)、ELECOM(深せん)商貿有限公司 董事(現任)、24年2月groxi代表取締役社長(現任)
取材・文/細田 立圭志
エレコムに移籍して1年で新社長に
――前職からエレコムに2023年7月に移籍してからまもなく1年になります。あらためて経歴を教えてください。石見浩一共同社長執行役員(COO)(以下、敬称略) 前職はIT業界のサービス系企業でコールセンターやデジタルマーケティングなど様々なサービスをお客様にダイレクトに提案してきました。事業開発や営業、サービス、管理に至るまでのすべてを担当し、創業者と一緒に仕事をしてきました。創業者のご子息が社長のときに、39歳の私を副社長に引き上げていただき、それから56歳まで17年間、企業経営を担ってきました。
私が入社したときは売上高580億円の会社でしたが、39歳のときは約1200億円、最終的に3760億円で従業員7万人弱の規模になりました。特に後半の10~12年間は成長分野である海外事業を中心に欧米、韓国、中国、ASEAN地域で1000億円ぐらいの事業を従業員の皆さんと一緒につくってきました。
――21年7月のBCNのインタビューで葉田会長は、まさにエレコムの売上高約1000億円を、海外事業で1000億円、BtoB事業で1000億円を積上げて合計3000億円にしたいと語っていました。
石見 海外と法人事業を伸ばしていくという点で、葉田の言っていることは今でも変わっていません。創業者は成長にものすごく貪欲なので、従業員も含めて一緒にどのようにして向かっていくのか。前職で築いたノウハウを、本職でもリードしていきたいと思います。
――エレコムでの1年は、どのように過ごされたのですか。
石見 23年8月は工場など実際の現場を見ました。9月はBtoB事業のアドバイスや提案などをしました。私のミッションは、まさに海外営業の責任とBtoB事業の成長なので。
しかしご存じの通り、海外事業はまだ十分な規模ではありません。まずは人材を採用して育てるところからスタートする状況です。私が培ってきた経営手法は、プロパーのDNAを大切にしながら、外部からも新しい人材を入れてミックスさせながら事業や人材、組織を進化させるというものです。それをやりたいと葉田に伝えました。
成長エンジンとなる海外事業をいかにして伸ばすか
――海外事業はどのようにして成長させていきますか。石見 できる人材を現地に送るのと同時に、現地でも採用します。ミックスすることが重要です。やはり現地の市場を理解しないことには、なかなかうまくことを運べません。もちろん、本社から現地をサポートする機能もつくる必要があります。3カ月ほど働いて、いろいろと課題が見えてきました。
また既に海外市場で活躍しているメーカーがいるので、エレコムはそこと何を差別化していくのか、どのような製品でどう戦っていくのかなど、自社の強みをつくっていかなければなりません。
――海外にはコンシューマ製品で進出するのですか。
石見 はい。まずはコンシューマ領域で進出し、その後BtoB事業の可能性を模索していきます。われわれは家電量販の事業モデルで成り立ってきたので、その強さを海外でも発揮できると考えています。ただし、まずは大手ECで販売して、そこでブランド認知を拡大していく考えです。
――エリアは北米からですか。
石見 中国や韓国、シンガポールには既に進出しているので、そこはさらに改善しながら、北米に新規参入していきます。北米と欧州は似ているところもあるので、欧州も一緒に入っていきたいですね。
また、iFデザインアワードで金賞を獲得したアウトドア用モバイルバッテリの「NESTOUT」のような尖った製品ブランドは、エレコムでダイレクト販売する実験をしています。ECと直販をミックスさせながら、EC事業のモデルを構築していこうとテストしているところです。
日本発の面白いブランドで世界に打って出る
――エレコムの現場を見てきた感想はいかがですか。石見 創業者と一緒に働くのはどんな場面でも激闘が付きまといますが、私自身は面白いと感じています。エレコムという会社を、日本発の面白いブランドとして世界に打って出ていきたいということで葉田と一致しています。
――日本発ブランドを海外に広めたいという話はわくわくしますね。家電業界で少なくなったように思います。どちらかというと中国やアジアのベンチャーに攻め込まれて、受け身に終始している印象です。
石見 味の素のときも海外部でしたし、トランスコスモスのときもほぼゼロだった海外事業部を1000億円規模にしました。20代前半に米国で暮らしていたときから、外資系ではなく日本の企業でしか働かないと決めていました。これは私のライフワークです。日本発のブランドを世界で戦えるようにしたいと決めていましたから、結果的にそれをずっとやり続けていますね。
葉田と会話する中で、エレコムの海外での成長をひしひしと感じたので、私のライフワークの第三章として役立ちたいと思いました。やはり日本の企業が元気になってほしいし、IT業界やPC周辺機器から元気になってくると、日本全体にもいい形で波及していきます。そのきっかけをつくりたいです。
BtoB事業はモノとサービスを組み合わせたソリューションを提案
――BtoB事業はどのように進めますか。石見 23年12月からBtoBの営業も担当するようになりました。この領域は前職で培ってきたところ。今は9割以上を代理店経由で販売しているので、まずは代理店経由で各エンドのお客様にサービスを提供していきます。
ただ、これまでは製品を軸とした販売でしたが、コト軸で売っていきたいです。例えばカメラがあり画像を検索する、検索した画像の分析データを出して、画像を検索するためのWi-Fiなど通信環境の工事、保守・メンテナンスもする。こうしたコトでつながっていくと、モノとサービスをソリューションとして提供するストックビジネスをつくれます。
例えば、DXアンテナとハギワラの売上高を合算すると約200億円ありますが、エレコムのBtoB事業は約170億円です。物売りが中心だと毎年4月にゼロから170億円をつくっていくことになります。私がやるべきことは、モノとサービスを絡めたコトを売ることで、お客様や代理店とのリレーションを深めていくことです。
――現在の売上構成比はコンシューマが約64%、法人が約36%ですが、数年後のイメージはありますか。
石見 全体としてはBtoBを伸ばすイメージです。買収は考慮せずに3年後には半々にしたいです。
エレコムは葉田が都度、注力すべき事業の方向を指し示しながら引っ張ってきて、それを実務の柴田さんがフォローして成長してきました。ただ1000億円になってから4年間は売り上げが伸びていませんし、利益は下がっています。
再び成長に向けてV字回復させることが私の使命だと認識しています。その際、海外や法人向け事業をきちんと立ち上げて、グループ経営を成長させていくということです。
――買収でいえば、テスコムのM&Aは驚きました。
石見 量販事業ではテスコムのM&Aが一つのいい事例になりました。定期的に買い替える製品は、売り上げとブランド認知の相乗効果を生みます。オポチュニティがあれば同じようなM&Aは今後もしていきたいですね。
エレコムの強みは、買収した企業をリストラクチャリングしてしっかりと黒字にしているところです。DXアンテナもハギワラも、今では利益を牽引する事業部門に成長しました。
テスコムでも同じ手法を取り入れています。リストラクチャリングして黒字化し、売り上げを伸ばして成長させていくノウハウは、エレコムの強みの一つです。
――石見社長の経営スタイルは?
石見 葉田と私は正道をいくなど同じ価値観を感じますが、創業者と同じことだけをしていては、成長軌道への取り組みは十分ではないと感じています。従業員一人一人の活力を向上させて、チームとして成果を導くことで大きく成長できる組織をつくります。ですので、エレコムの強みであるM&Aと現在の事業成長に取り組めば、再度成長への舵をきれると考えています。
また、私の経営におけるキーワードはCS(顧客満足)とES(従業員満足)を大切にする経営です。企業として存続していくには、顧客満足度を高めること。また、従業員に対しても、活力をもってもらいながら福利厚生や仕組み、文化をつくっていくと話しています。
人がいてはじめて事業が生まれ、人をベースに広げることで経営の成長が生まれる。これからは世界中の人材を活かしていけないと事業の継続が難しくなります。
現在推進している海外事業がきちんと立ち上がるまで3~5年は必要になります。それまでは、当社が強みとしているM&Aと、私が得意とするBtoB事業でソリューションビジネスをお客様に提案していきます。そうしながらBtoB事業の売り上げのうち2~3割をソリューションビジネスとして、残り7~8割を海外事業を含む製品で補っていけば、エレコムはもう一度成長軌道に乗れるはずです。
■Profile
石見 浩一(いわみ こういち)
1967年1月10日生。92年イリノイ大学院 修了、93年4月味の素入社。2001年3月トランスコスモス入社、02年6月同社取締役、03年6月同社常務取締役、05年6月同社専務取締役、06年6月同社取締役副社長、20年6月同社代表取締役副社長、22年6月同社代表取締役共同社長、23年4月同社顧問(現任)。23年7月エレコム副社長執行役員(現任)、24年1月ELECOM KOREA CO.,LTD. 代表理事(現任)、ELECOM SINGAPORE PTE.LTD. Managing Director(現任)、ELECOM SALES HONGKONG LIMITED. Director(現任)、ELECOM(深せん)商貿有限公司 董事(現任)、24年2月groxi代表取締役社長(現任)