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騒がしい環境での個人の聞き取り能力を測定し数値化する新しい「ACT(アクト)テスト」によって、補聴器ユーザーの雑音下での聞こえが変わる?

販売戦略

2024/04/12 16:00

 聴力低下によって聞こえづらくなり補聴器をつけるものの、駅や飲食店など大勢の人の声や周囲の音が混ざり合う場所での聞き取りに苦労している人は多いという。日本における難聴者と補聴器の実情に関する大規模市場調査、「ジャパントラック2022」によると、補聴器ユーザーの満足度が最も低い項目として、「騒音下での聞き取り」が報告されている。2021年にJournal of the American Academy of Audiologyで国際的に発表された論文でも、補聴器ユーザーの86%が雑音下での会話に不満を抱えていることが明らかになっている。

ACTテストを搭載するアフィニティーコンパクト
(インターアコースティクス製)

雑音下での聴取能力を数値で可視化する「ACT」

 もちろん、現在販売されている補聴器の多くは、周囲の喧噪(けんそう)、突発音、ハウリング、風切り音などの雑音が聞き取りの邪魔にならないように低減するような、さまざまな先進機能を備えている。だが、雑音がある中でそもそも会話などの「聞きたい音」をどれほど明確に聞き取れるか(雑音下聴取能)は人によって異なる。騒がしい環境での聞き取り能力がどのくらいなのかをより正確に測定し把握した上で、補聴器の雑音抑制など、騒音下の聞き取りサポート機能の強弱を、個人に合わせて調整(フィッティング)することが理想である。しかしながら、これまではデフォルト(中程度の強さ)設定のまま、調整者の主観による調整、試行錯誤しながらの調整など、調整方法が統一されていないことが現実であった。

 難聴者の聞こえを補聴器で向上するためには、単に音を増幅させるだけでなく、上記に述べたように雑音抑制機能など補聴器機能の適切な調整が必要となる。そのためには、雑音下聴取能(雑音下での聞き取りがどの程度できるのか)を把握することが重要である。従来行われている聞こえのテスト(純音聴力検査・測定)では静かな環境で聞こえる一番小さい音の大きさを測定するにとどまり、雑音下聴取能を把握することは困難であったという。

 この雑音下聴取能を数値化できるのが、デマント・ジャパン ダイアテックカンパニー(24年4月1日付でダイアテックジャパンに聴覚診断機器事業を承継)が今年1月18日に発表した「ACT(アクト)テスト」だ。ACTはAudible Contrast Thresholdの略で、可聴コントラスト閾値と訳される。ACTテストを搭載しているアフィニティーコンパクト(インターアコースティクス社製)という機器を使用すると、従来の聞こえのテストに続けて同じ装備を用いて、測定時間平均約2分という短い時間で測定できるため、被検者にとっても耳鼻科医師や補聴器販売従事者など聴覚ケアの専門家にとっても、少ない負担で今までにない有用な情報を取得することが可能となる。このほど、デマント・ジャパンはACTに関する報道関係者向けのセミナーを神奈川県川崎市の本社で開催した。
 

国際共同研究で確かめられたACTテストの有用性

 冒頭に登壇したデマント・ジャパンの齋藤徹社長は、「現在、先進国では65歳以上の高齢者人口が増加しており、それに伴い加齢による難聴者も増加している。2021年ランセット委員会が難聴は認知症の危険因子であると公表し、難聴は認知症の危険因子であり、家族への負担増や医療費増大などの社会問題にも発展する」と指摘。それにもかかわらず、日本の補聴器普及率(約15%)は欧米(約35から50%)に比べて低く、「補聴器を使う難聴者にとっての最大の悩みは『雑音下での会話』である」との現状を報告した。

 雑音下聴取能は、通常スピーカーから雑音を流しながら長時間の検査で測定しているが、検査時間がかかるなど、被検者への負担が大きいことが課題であった、ACTテストなら短時間で測定、数値化でき、その結果に基づいて補聴器をより適切に調整できるとアピールした。
 
デマント・ジャパンの齋藤徹社長

 このACTテストについては、日本とドイツによる共同研究・国際共同臨床実験がすでに始まっている。「雑音下語音聴取検査の現状と課題、ACT共同研究・国際共同臨床試験」について、オンラインで登壇した済生会宇都宮病院 主任診療科長・聴覚センター長である、新田清一先生が従来の雑音下語音聴取検査法にはいくつかの課題があった」と説明。そこで、ドイツのリューベック応用科学大学と日本のオトクリニック東京の2施設にて、ドイツ人81人、日本人19人の研究協力者に対して純音聴力検査、ACT、HINT(雑音下での文章復唱テスト)の三つのテストを実施し、ACTテストの有用性を調査したという。

 プレゼンの最後に、「ACTのいい点は短時間で簡便であること、設備はアフィニティーコンパクトだけでいいこと、次にドイツ語と日本語であまり変わらず、世界的に汎用性があるだろうということ、また一番は雑音下の補聴器を装用した状態の効果を予測でき、これにより多少補聴器機能の設定の指標になるということだ」(新田先生)と説明した。
 
オンラインで登壇された、
済生会宇都宮病院 主任診療科長・聴覚センター長新田清一先生

 さらに、オーティコン補聴器 フェローで米国オーディオロジストの資格を持つ田中智英巳氏が登壇し、同じ年齢、聴力検査結果も同じ40代の2人の例を紹介し、ACTテストの活用事例が説明された。
 

 純音聴力検査の結果はほぼ同じであるにもかかわらず、補聴器をつけない状態でAさんは騒がしいレストランでも会話がよく聞き取れ、Bさんは騒がしいレストランでは、聞き取りが困難であるという。ACTテストから二人のACTの測定値が異なることが判明、この結果に基づき補聴器の雑音抑制などの補聴器機能を調整した。Aさんは、補聴器機能を“弱”に、Bさんは、“強”に設定したところ、Bさんも雑音下での聞き取りが向上したという。
 

 ACTテストの結果は画面上に正常、軽度、中等度、高度の4レベルで示され、そのレベルをもとに補聴器の雑音抑制などの機能の強弱をユーザーの能力に合わせて個別設定すると、補聴器の初期設定(ファーストフィット)の精度が上がることが期待されている。このACT値は、基本的にはどのメーカーの補聴器のフィッティングでも指標にできるという。

 また、オーティコン補聴器では将来的に、ACT値、純音聴力閾値(聞こえる一番小さな音の大きさ)、年齢を入力すると、補聴器の調整が自動処方できるようになるという。

 ACTテスト結果に基づき、個人の聞こえのニーズにあわせて適切に補聴器機能の調整をすることで、難聴者に騒がしい環境でのよりよい聞こえを提供できることが期待されている。ACTテストが聴覚ケアの新スタンダートになれば、難聴者の騒音下の聞こえが向上し、人々はより会話を楽しめるかもしれない。