佐賀県武雄市といえば、2022年9月に開業した西九州新幹線、下り線の始発「武雄温泉駅」がある市として一躍有名になった。本来なら博多から長崎までつながるはずの路線だが、まず武雄温泉から長崎までの区間で開業。博多から武雄温泉までの区間は当面「リレーかもめ」という特急でつなぎ、武雄温泉駅で乗り換えるという営業形態をとっている。新幹線の利用者にとっては不便だが、武雄市にとっては来訪者を増やすチャンス。新幹線で直接長崎に行けるようになったことも「広域観光」という観点から可能性が広がってきた。その武雄市が3月1日、独自に開発した「人流データプラットフォーム」の本格運用を開始した。観光客の回遊促進や災害対策に役立てる。その本当の狙いはどこにあるのか。
人流データベースは、武雄温泉駅に設置した人流分析用カメラから得られる人の動きと、スマートフォン(スマホ)アプリから得られる位置情報をもとにした人の流れがベース。スマホ用Webサイト「たけお日和」やJR武雄温泉駅などに設置したデジタルサイネージで情報発信を行っていく。もちろん、プライバシー保護の観点から、カメラ画像をはじめ収集した各種データは自動分析後すぐに破棄、分析後のデータに個人情報は含まない。スマホ用のWebサイト、たけお日和では、「観光地にぎわい情報予測」として、人流データベースの分析結果を「賑わい」予測として活用。「武雄温泉駅」「武雄温泉楼門」「温泉通りエリア」「武雄温泉物産館」など主要10カ所の観光スポットの賑わい状況の予測が、時間、曜日別にわかるようになっている。これを参考に、混雑を避けて観光するもよし、人が集まっている人気スポットを目指すもよし。観光客は自由に選ぶことができる。
また、近年2度の大規模な水害に苛まれた武雄市だけに、人流データベースから得た情報をもとに作成した「災害時避難シミュレーションのイメージ動画」を閲覧することもできる。観光客でも、水害時の避難を想定し、「武雄温泉駅」「武雄図書館」「武雄温泉物産館」から最寄りの避難所までの安全な経路をあらかじめ確認しておくことができる。複数の交通手段を統合した経路が検索できる「mixway(ミクスウェイ)」も、たけお日和から利用可能。JRでの移動ばかりでなく、武雄市内のバス移動などもカバーする。さらに、武雄温泉駅などに設置したデジタルサイネージでは、賑わいスポットやタイムリーな観光案内などのコンテンツを表示して情報発信を行う。
今回のプロジェクトには、ソフトウェア協会(SAJ)・スマートシティ研究会の取り組みが深く関わっている。22年、SAJと武雄市は、地域活性とスマートシティの実現にむけた包括連携協定を締結。現地視察やヒアリング、綿密なミーティングを重ね、今回の稼働にこぎつけた。移動検索の技術提供を行ったヴァル研究所の菊池宗史 代表取締役は、同研究会の主査も務め、システムをまとめ上げる中心的な人物として貢献した。菊池 代表取締役は「武雄市の動きはとてもアクティブ。行政機関の中では、その行動力とチャレンジ精神は素晴らしいと思う」と話す。
今回のシステムでは、7社のサービスとデータを連携させて一つのシステム群を構築。今後の変更や拡張などにも柔軟に対応できる体制をとった。武雄温泉駅などに設置した人流分析カメラシステムはネクストウェア、デジタルサイネージはビーティスが担当。このほか、多言語情報サイトはシステムシンク、流動人口データはAgoop、災害シミュレーションはフォーラムエイト、移動検索はヴァル研究所、データ基盤開発はオープンストリームがそれぞれ担当した。予算は初年度の構築費でおよそ5300万円。デジタル田園都市国家構想交付金の活用事業として採択され、予算のうち半分は補助金で賄われる。次年度以降の維持費は1000~1500万円程度を見込む。
武雄市役所 企画部 デジタル政策課の古川慎治 課長は「地域の事業者や団体に声をかけてグループディスカッションを行った。その中に『市内で行うイベントにどれくらいの人が来るのか、予測できるものがあればいい』という意見があった。アルバイトの配置や仕入れ量の決定に役立つからだ。そこからヒントを得て、人流データを活用し新しい価値をつくっていこうと考えた」と話す。
武雄市役所 企画部 デジタル政策課 デジタル推進係の古賀大揮 係長は「3年前にデジタル推進室ができ、その時には自分1人だった。課になった現在は総勢5人で業務にあたっている。SAJと協定を結んでから、プロジェクトが加速度的に進展。武雄市が何をすればいいのかが、見えるようになってきた。市長の意識も大きく変わった。一番大事なのは基盤をつくること。データをもとにしたデジタル化だということがわかった」と話す。
また古川 課長は「今回の『にぎわい情報』は、あくまでもきっかけ。データを活用する基盤をつくった段階だ。今後はさまざまなデータを使った、いろいろなサービスを提供していきたい。これが産業や市の活性化につながり、新たな価値を生み出すと考える。ゆくゆくは、武雄市に新しい店を出す場合、どこにすればいいか、といった基礎データも提供できるようにしたい。個人の事業主では、なかなか得られないデータを市が提供できるようになれば、活性化につながる。行政データや各種データのオープン化を通じて、データにもとづいた支援を行政が行い、人や企業を武雄市に誘致するという姿を目指している」と語った。
データを武器に地域を活性化しようとする武雄市の試みは、とても意義深い。ハードウェアのインフラばかりでなく、より重要なのは、実は地域の情報そのものだ。武雄市では、それが災害対策や観光客を増やすことにもつながる。さらに事業を営む人を集め、住む人を集めることにもつながっていくだろう。データ主動で行政がどこまで地域の活性化を進めることができるのか、有望なモデルケースの一つとして見守っていきたい。(BCN・道越一郎)
人流データベースは、武雄温泉駅に設置した人流分析用カメラから得られる人の動きと、スマートフォン(スマホ)アプリから得られる位置情報をもとにした人の流れがベース。スマホ用Webサイト「たけお日和」やJR武雄温泉駅などに設置したデジタルサイネージで情報発信を行っていく。もちろん、プライバシー保護の観点から、カメラ画像をはじめ収集した各種データは自動分析後すぐに破棄、分析後のデータに個人情報は含まない。スマホ用のWebサイト、たけお日和では、「観光地にぎわい情報予測」として、人流データベースの分析結果を「賑わい」予測として活用。「武雄温泉駅」「武雄温泉楼門」「温泉通りエリア」「武雄温泉物産館」など主要10カ所の観光スポットの賑わい状況の予測が、時間、曜日別にわかるようになっている。これを参考に、混雑を避けて観光するもよし、人が集まっている人気スポットを目指すもよし。観光客は自由に選ぶことができる。
また、近年2度の大規模な水害に苛まれた武雄市だけに、人流データベースから得た情報をもとに作成した「災害時避難シミュレーションのイメージ動画」を閲覧することもできる。観光客でも、水害時の避難を想定し、「武雄温泉駅」「武雄図書館」「武雄温泉物産館」から最寄りの避難所までの安全な経路をあらかじめ確認しておくことができる。複数の交通手段を統合した経路が検索できる「mixway(ミクスウェイ)」も、たけお日和から利用可能。JRでの移動ばかりでなく、武雄市内のバス移動などもカバーする。さらに、武雄温泉駅などに設置したデジタルサイネージでは、賑わいスポットやタイムリーな観光案内などのコンテンツを表示して情報発信を行う。
今回のプロジェクトには、ソフトウェア協会(SAJ)・スマートシティ研究会の取り組みが深く関わっている。22年、SAJと武雄市は、地域活性とスマートシティの実現にむけた包括連携協定を締結。現地視察やヒアリング、綿密なミーティングを重ね、今回の稼働にこぎつけた。移動検索の技術提供を行ったヴァル研究所の菊池宗史 代表取締役は、同研究会の主査も務め、システムをまとめ上げる中心的な人物として貢献した。菊池 代表取締役は「武雄市の動きはとてもアクティブ。行政機関の中では、その行動力とチャレンジ精神は素晴らしいと思う」と話す。
今回のシステムでは、7社のサービスとデータを連携させて一つのシステム群を構築。今後の変更や拡張などにも柔軟に対応できる体制をとった。武雄温泉駅などに設置した人流分析カメラシステムはネクストウェア、デジタルサイネージはビーティスが担当。このほか、多言語情報サイトはシステムシンク、流動人口データはAgoop、災害シミュレーションはフォーラムエイト、移動検索はヴァル研究所、データ基盤開発はオープンストリームがそれぞれ担当した。予算は初年度の構築費でおよそ5300万円。デジタル田園都市国家構想交付金の活用事業として採択され、予算のうち半分は補助金で賄われる。次年度以降の維持費は1000~1500万円程度を見込む。
武雄市役所 企画部 デジタル政策課の古川慎治 課長は「地域の事業者や団体に声をかけてグループディスカッションを行った。その中に『市内で行うイベントにどれくらいの人が来るのか、予測できるものがあればいい』という意見があった。アルバイトの配置や仕入れ量の決定に役立つからだ。そこからヒントを得て、人流データを活用し新しい価値をつくっていこうと考えた」と話す。
武雄市役所 企画部 デジタル政策課 デジタル推進係の古賀大揮 係長は「3年前にデジタル推進室ができ、その時には自分1人だった。課になった現在は総勢5人で業務にあたっている。SAJと協定を結んでから、プロジェクトが加速度的に進展。武雄市が何をすればいいのかが、見えるようになってきた。市長の意識も大きく変わった。一番大事なのは基盤をつくること。データをもとにしたデジタル化だということがわかった」と話す。
また古川 課長は「今回の『にぎわい情報』は、あくまでもきっかけ。データを活用する基盤をつくった段階だ。今後はさまざまなデータを使った、いろいろなサービスを提供していきたい。これが産業や市の活性化につながり、新たな価値を生み出すと考える。ゆくゆくは、武雄市に新しい店を出す場合、どこにすればいいか、といった基礎データも提供できるようにしたい。個人の事業主では、なかなか得られないデータを市が提供できるようになれば、活性化につながる。行政データや各種データのオープン化を通じて、データにもとづいた支援を行政が行い、人や企業を武雄市に誘致するという姿を目指している」と語った。
データを武器に地域を活性化しようとする武雄市の試みは、とても意義深い。ハードウェアのインフラばかりでなく、より重要なのは、実は地域の情報そのものだ。武雄市では、それが災害対策や観光客を増やすことにもつながる。さらに事業を営む人を集め、住む人を集めることにもつながっていくだろう。データ主動で行政がどこまで地域の活性化を進めることができるのか、有望なモデルケースの一つとして見守っていきたい。(BCN・道越一郎)