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パナソニック、現場の社員から発信する「サステナブルな取り組み」

経営戦略

2023/10/19 17:00

 個々の事業部や部門、製品ごとにサステナブルな取り組みを長年にわたって続けていても、個々に情報を発信していては、なかなかユーザーまで伝わりにくい。パナソニックが9月に開催した「サステナブルな家電とくらし」セッションは、普段は別々の職場で働いている社員が集まり、サステナブルなものづくりの背景や取り組みを紹介した。サステナビリティに関する情報発信の在り方としても参考になりそうだ。

パナソニックが開催した
「サステナブルな家電とくらし」セッション

身近に感じてもらうためドライヤーの取っ手にも採用

 「サステナブルな家電とくらし」セッションにおける「サステナブルなものづくり」では、ドライヤーとシェーバー、洗濯機、デジタルAV機器の商品企画担当者やパッケージデザイン担当者が登壇。各々が「サステナブル」というテーマに絞って製品のこだわりを紹介した。順番に紹介しよう。
 
ビューティ・パーソナルケア事業部
ヘアケア商品企画課の中尾彰氏

 「ヘアードライヤー ナノケア EH-N40J」の商品企画を担当するビューティ・パーソナルケア事業部 ヘアケア商品企画課の中尾彰氏は「環境を配慮したサステナブルな要素は商品を企画する上でとても大切にしていること」と語り、新色のミストグレーを採用した塗料の事例を紹介した。

 新色ミストグレーでは、バイオマスペイントという、従来の石油由来成分に替えて植物由来成分を10%以上配合している塗料を使っている。ただ単に環境にやさしい素材を使うだけでなく、ユーザーが毎日触る取っ手の部分にも採用した。「毎日使うドライヤーを触る箇所に使えば、サステナブルな取り組みを身近に感じてもらえる」(中尾氏)という狙いからだ。

 また、毎日使うドライヤーは消費電力量が気になる。この点については、ナノケア史上最大風量で髪を速く乾かすことで、使用時間を短縮し、消費電力の削減につなげている。
 
くらしプロダクトイノベーション本部
ビューティ課の齋藤由紀美氏

 ドライヤーのパッケージデザインを担当した、くらしプロダクトイノベーション本部 ビューティ課の齋藤由紀美氏は、包装材のプラスチック使用量を約95%削減した取り組みを紹介。従来のパッケージは全面カラー印刷だったが、今回は紙の裏面を表面に使うことでクラフトの素材感を前面に打ち出したデザインを採用した。パッケージのデザイン性を高めながら、インク量の削減にもつなげた。

 さらに、プラスチック素材を使っていた緩衝材も抜本的に見直し、古紙を利用した「パルプモールド」という素材に切り替えた。
 
ドライヤーのパッケージデザインに
おけるサステナブルな取り組み事例

 こうしたドライヤーの商品企画やパッケージデザインにおける取り組みは、同社が実施した、環境問題に関心が高く、自然由来の素材などにこだわるZ世代の意識調査と合致するものでもある。

シェーバーにサステナブルな素材を利用し、ひんやりとした触感を得る

 「ラムダッシュ パームイン ES‐PV6A」の商品デザインを担当する、くらしプロダクトイノベーション本部ビューティ課の別所潮氏は「環境への配慮と顧客価値の両立を目指した。サステナブルな素材を生かして、長く使ってもらうデザインにこだわった」と語る。
 
くらしプロダクトイノベーション本部
ビューティ課の別所潮氏

 サステナブルな素材とは、本体素材に新採用した「NAGORI(なごり)」だ。NAGORIは、海水を淡水化する過程で発生する海洋ミネラル成分を使っている。海洋ミネラル成分は通常、淡水化する際に海に放出されるものだが、塩分濃度の上昇やサンゴ礁の消失など環境を損なう要素になっていた。これを再利用し、樹脂に複合した。
 
右端にあるのが海洋ミネラル成分を
利用した「NAGORI」のペレット

 NAGORIの本体素材への使用でプラスチック素材の削減につなげるのはもちろんだが、熱伝導率が高いミネラルはひんやり、かつしっとりとした触感が得られる。実際、パームインの本体を触ってみるとつるつるの小石のような、ひんやりとした感じがする。見た目だけなら印刷技術でカバーできるそうだが、しっとりとした触感までは再現できないとのこと。

 そもそも本体サイズは、通常のラムダッシュよりも体積比で約70%の小型化を実現しているので、プラスチック使用量は30%削減。パッケージでも本体を包むビニールを削減するなどして環境に配慮している。

大型家電の洗濯機は、取り組み自体が環境に大きな影響

 洗濯機の商品企画を担当するランドリー・クリーナー事業部 ドラム洗商品企画課の中込光輝氏は「家電製品の中でも洗濯機はサイズが大きいので、サステナブルな取り組みそのものが環境に与えるインパクトも大きい」と語り、実は10年以上も前から再生プラスチックを使っている事例を紹介した。
 
ランドリー・クリーナー事業部
ドラム洗商品企画課の中込光輝氏

 再生プラスチックはドラム式とタテ型の両方の洗濯機で採用している。例えばタテ型の「インバーター全自動洗濯機 NA-FA7H2」では、製品全体のプラスチック量に占める約40%を再生プラスチックに置き換えている。

 再生プラスチックは強度の低下や黒色になったりするデメリットがあるが、設計による改善で強度を保ったり、水圧や激しい振動、製品の外観などに影響を及ぼさない「裏板」や「台枠」などで使うなど工夫している。
 
サイズの大きな洗濯機のサステナブルな取り組みは、
環境へのインパクトも大きい

新開発した機能からのアプローチ

 一方の「ドラム式洗濯乾燥機 NA-LX129Cシリーズ」のサステナブルな事例では、衣類のロングライフ化を実現する、新しい洗濯コースの搭載をアピールする。

 それが「はっ水回復」コースの搭載である。アウトドアウェアなどで着用頻度が増えるにつれて低減するはっ水機能を回復させるコースだ。
 
NA-LX129Cシリーズに新搭載した
「はっ水回復」コース

 はっ水加工された衣類の表面に備わっている「はっ水基」は、最初は立っていて水分の付着を防ぐが、使っているうちに倒れてしまい、その隙間から水分が入って衣類に浸透してしまう。そこで、ヒートポンプ乾燥の熱(熱処理工程)を利用してはっ水基を立たせて、はっ水機能を回復させるのだ。

 加える熱の温度帯と時間は非公表とのことだが、新しく開発した機能からのサステナブルなアプローチ事例である。

サステナブルな取り組みが本末転倒にならないように

 エンターテインメント&コミュニケーション デザイン三課の佐藤徹氏は、激しい振動に弱い精密デバイスを多く搭載するデジタルAV機器のパッケージデザインを担当している。
 
エンターテインメント&コミュニケーション
デザイン三課の佐藤徹氏

 パナソニックは15年前の2008年に、パナソニックとナショナルの二つのブランドをパナソニックに一本化する事業を実施した。その際、ほぼすべての製品のパッケージで茶色の段ボールにブルーのパナソニックのロゴをあしらったデザインを採用した。包装のエシカル化に取り組んできた歴史は古いのだ。

 顧客の目線で必要な表示項目を一つ一つ取捨選択して見直したり、発泡スチロールがメインだった緩衝材を、折り紙のように組み立てられる折り込み段ボール化したり、古紙を固めるパルプモールドを採用したりした。テレビで推定16トン、プライベート・ビエラで推定11トンもの発泡スチロールの削減につなげた。
 
ビエラのパッケージでも環境に
配慮した取り組みを実施

 だが、課題もあった。環境に配慮した段ボールやパルプモールドを使うとサイズが大きくなる。容積が大きくなると、トラック1台当たりで運べる輸送効率が下がり環境に負荷を与え、本末転倒になってしまうのだ。

 そこで現状のサイズを上回らないというルールを設けて、組み立て方やレイアウトを試行錯誤しながら段ボールやパルプモールドを採用するようにした。

 これまで紹介してきたように、日々の職場におけるサステナブルな取り組みは地道で、あまり目立たないものかもしれない。しかし、総合家電メーカーであるパナソニックのような大企業全体でみると、環境に与えるインパクトはとてつもなく大きい。今回のような製品や部門を横断して「サステナブルな取り組み」を紹介するイベントは、有意義なものだったといえるだろう。(BCN・細田 立圭志)
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