こんな発言をすると炎上するかもしれないが、そろそろ「映え」信仰が落ち着いてほしい。
取材先でも「あんまり映えないけれど、これで良いですか」とか、「映えないから注文する人いなくて」といった声を聞くと、映え意識を余儀なくされる飲食店も辛いのだろうなと思う。確かに見た目の美しさも大事だが、料理は「食べる」ためのもので、「撮る」ために作られるのも何か違うなと。私が時代遅れなのだろうか。
前置きが長くなったが、「映え」ブームのずっと昔から、変わらず出している料理が図らずとも映えている店もある。
それが『喫茶フルール』、京都・長岡天神駅目の前で1969年から営業している店だ。創業者の岡本孫三さんがヨーロッパのレストランを思い描いて自ら設計して建てた、三角屋根のゴージャスな純喫茶。
不思議なフォントの看板も、表のショーウインドウの食品サンプルも、オレンジ色のファサードも、創業時からほぼそのまま。店内はもっと凄い。屋根に沿って三角形になった天井に張られたビロード、教会のようなステンドグラス、シャンデリア、なんと中央には池!
金魚が泳いでいるしヴィーナス像のようなオブジェも佇んでいる。きれいに整えられている店内は幾度か壁や椅子の張り替えをしたが「できる限り開店時のままを保っている」とのこと。現在ママとして店を切り盛りする幸子さんの細やかな心遣い、ホスピタリティが空間にそのまま表れているようだ。
さて、メニューの話。こちらの品書きにはドリンクからスイーツから定食まで、およそ喫茶店の域を超えた100種以上のメニューが書き連ねられている。クリームあんみつ、スパゲッティグラタン、トルコライス、カレーオムライス…。夜9時まで営業しているので家族で晩ご飯を食べに来る客も多いのだろう。まるでファミレス。
その中でもいま最も人気というのが、プリン。4種あるプリンメニューの中で、「ダブルプリン」がよく出るそうだ。
確かに、「今このビジュアル見ないよね!」と言いたくなるような、台座付きのパフェ皿に双子のように並んだ台形のプリン、ミカン、サクランボ、キウイ、パイナップル。フリルのように絞られた生クリーム。プリン・ア・ラ・モードと呼んだほうが相応しいかもしれない。
プリンは毎日店内で手作り。水を一滴も使わず、卵と牛乳を主体にオーブンで焼き上げる。ザ・昭和のプリン。カラメルの苦みもなんだか懐かしい。缶詰のミカンを食べたのはいつぶりだろう、と思いを馳せる。
昨今のレトロ喫茶ブームとプリンブームで、SNSにアップされたこのダブルプリンを目当てに来る女子が急増中だという。朝からプリンがよく出る。だが、ブームに乗じて作ったメニューではなく、創業当時からダブルプリンはあった。盛り付けも何も変えていない。
プリンも良いのだが、せっかくなので朝の1時間だけの限定メニューを食べておいてほしい。モーニングBセットのエッグトーストは、プリン以上にインパクトのあるビジュアルだ。
分厚すぎるトーストに、これでもかと詰まったスクランブルエッグ。これも映え狙いではなく、創業時からのメニュー。約50年前にこの料理を考案した先代、なんと斬新だったのだろう。
「喫茶フルール」の料理はどれも意図せずして映えている。ハンバーグとエビフライなどが丸皿に収まったフルールランチも、グリーンピースがのったナポリタンも、ごくシンプルなパフェも。
どんなにパチパチ写真を撮っても、ママさんはただ優しく言うのだ、「冷めるで~」「溶けるで~」と。
『喫茶フルール』
住所/京都府長岡京市天神1-8-2
電話/075-951-6759
※こちらの記事は、関西の食のwebマガジン「あまから手帖Online」がお届けしています。
取材先でも「あんまり映えないけれど、これで良いですか」とか、「映えないから注文する人いなくて」といった声を聞くと、映え意識を余儀なくされる飲食店も辛いのだろうなと思う。確かに見た目の美しさも大事だが、料理は「食べる」ためのもので、「撮る」ために作られるのも何か違うなと。私が時代遅れなのだろうか。
前置きが長くなったが、「映え」ブームのずっと昔から、変わらず出している料理が図らずとも映えている店もある。
54年間、時が止まった『喫茶フルール』
それが『喫茶フルール』、京都・長岡天神駅目の前で1969年から営業している店だ。創業者の岡本孫三さんがヨーロッパのレストランを思い描いて自ら設計して建てた、三角屋根のゴージャスな純喫茶。
不思議なフォントの看板も、表のショーウインドウの食品サンプルも、オレンジ色のファサードも、創業時からほぼそのまま。店内はもっと凄い。屋根に沿って三角形になった天井に張られたビロード、教会のようなステンドグラス、シャンデリア、なんと中央には池!
金魚が泳いでいるしヴィーナス像のようなオブジェも佇んでいる。きれいに整えられている店内は幾度か壁や椅子の張り替えをしたが「できる限り開店時のままを保っている」とのこと。現在ママとして店を切り盛りする幸子さんの細やかな心遣い、ホスピタリティが空間にそのまま表れているようだ。
さて、メニューの話。こちらの品書きにはドリンクからスイーツから定食まで、およそ喫茶店の域を超えた100種以上のメニューが書き連ねられている。クリームあんみつ、スパゲッティグラタン、トルコライス、カレーオムライス…。夜9時まで営業しているので家族で晩ご飯を食べに来る客も多いのだろう。まるでファミレス。
その中でもいま最も人気というのが、プリン。4種あるプリンメニューの中で、「ダブルプリン」がよく出るそうだ。
確かに、「今このビジュアル見ないよね!」と言いたくなるような、台座付きのパフェ皿に双子のように並んだ台形のプリン、ミカン、サクランボ、キウイ、パイナップル。フリルのように絞られた生クリーム。プリン・ア・ラ・モードと呼んだほうが相応しいかもしれない。
プリンは毎日店内で手作り。水を一滴も使わず、卵と牛乳を主体にオーブンで焼き上げる。ザ・昭和のプリン。カラメルの苦みもなんだか懐かしい。缶詰のミカンを食べたのはいつぶりだろう、と思いを馳せる。
昨今のレトロ喫茶ブームとプリンブームで、SNSにアップされたこのダブルプリンを目当てに来る女子が急増中だという。朝からプリンがよく出る。だが、ブームに乗じて作ったメニューではなく、創業当時からダブルプリンはあった。盛り付けも何も変えていない。
プリンも良いのだが、せっかくなので朝の1時間だけの限定メニューを食べておいてほしい。モーニングBセットのエッグトーストは、プリン以上にインパクトのあるビジュアルだ。
分厚すぎるトーストに、これでもかと詰まったスクランブルエッグ。これも映え狙いではなく、創業時からのメニュー。約50年前にこの料理を考案した先代、なんと斬新だったのだろう。
「喫茶フルール」の料理はどれも意図せずして映えている。ハンバーグとエビフライなどが丸皿に収まったフルールランチも、グリーンピースがのったナポリタンも、ごくシンプルなパフェも。
どんなにパチパチ写真を撮っても、ママさんはただ優しく言うのだ、「冷めるで~」「溶けるで~」と。
『喫茶フルール』
住所/京都府長岡京市天神1-8-2
電話/075-951-6759
※こちらの記事は、関西の食のwebマガジン「あまから手帖Online」がお届けしています。