いつ発売? チューナーレステレビ、TVS REGZA、シャープ、ソニーに聞いた
関心が高まるチューナーレステレビ。そもそも放送波は見ない、NHKの受信料を支払いたくない、という人たちが特に注目している。しかし、BCNの調べでは、テレビの販売台数に占める割合は6月でわずか0.9%に過ぎない。まだごく一部のメーカーしか販売していないからだ。本格的な普及には有名メーカーの参入が不可欠。そこで、液晶テレビでトップシェアを競うTVS REGZAとシャープ、有機ELテレビでトップシェアのソニーの各社に「チューナーレステレビをいつ売り出すのか」を聞いた。
開口一番「今のところチューナーレステレビを発売する計画はなく、考えてもいない」と話すのは、TVS REGZAの営業本部 本部長 笹川知之 取締役副社長だ。同社のテレビのリモコンには、最上部にネット動画のダイレクトボタンが13個もある。ネット動画の重要性はよく分かっている。「2020年に調査したところ、ネット動画が1日に延べ90分も視聴されているということが分かった。これは地上波キー局の1局分に相当する。びっくりした」という。しかし「ドン・キホーテが発売した時には注目したが、わざわざチューナーを外して、ユーザーの番組選択の幅を狭めるメリットはない」。笹川 副社長はそう語る。
もちろんユーザーからすれば、チューナーレステレビならNHKの受信料を支払わなくて済む、というのは大きなメリットだ。しかし、単にテレビをチューナーレスにしただけでは受信料から逃れることはできない。煩雑な手続きを経て初めて、受信料から解放される。一方、他にチューナー付きテレビが1台でもあれば支払う必要がある。また、持っているカーナビにテレビ機能がついていればダメ、ワンセグ放送が受信できるスマホやテレビが受信できるパソコンなどを持っていても同様にダメだ。買うだけで受信料の問題がすぐ解決するわけではない、という点も、チューナーレステレビの発売を考えない理由でもあるのだろう。
TVS REGZAの商品戦略本部 商品企画部 槇本修二 シニアプロジェクトプロデューサーは、「確かにネット動画の重要性は高まっている。しかし、われわれは放送波のコンテンツにネットのコンテンツが加わったという認識。REGZAには、本体のハードディスクに撮りためた番組を適切に選び出すざんまい機能がある。この対象をネット動画にも広げることで、放送波とネット動画の区別なく、好きなコンテンツを見つけやすいという強みがある。この強みをお客様にしっかりアピールして、さらに販売を伸ばしていきたい」と話す。
チューナーレステレビに積極的なのがシャープだ。TVシステム事業本部 Global商品企画統括部 国内商品企画部 鈴木正幸 部長は、「チューナーレステレビのニーズはあると思う。社内で検討はしている。放送局に気を遣っているということも一切ない。もしやるとすれば、安さを売りにするのではなく、違った視点でスタイリッシュなものにしたいと思っている」と話す。1999年、当時としては最も大きな20型の液晶テレビを世界で初めて発売したシャープ。以来「液晶のシャープ」として確固たるブランド力を確立。長年販売台数でトップシェアを続けてきた。
しかし21年と22年、2K未満の液晶テレビではTVS REGZAにトップの座を明け渡した。さらに今年の上半期では、4K以上の液晶テレビでもTVS REGZAにトップシェアを譲った。シェア下落の要因を鈴木 部長は「シャープにはハイビジョンのネット対応モデルがなかった。そこでREGZAさんにコテンパンにやられた。この1月にようやく発売にこぎつけ、台数が伸び始めた」と明かす。ネット対応テレビの重要性を最も感じているのは、おそらくシャープだろう。よりネット動画対応に力を入れることを考え、チューナーを外すことまでも視野に入れ始めたといえそうだ。
チューナーレステレビに対して、中立的な立場をとるのがソニーだ。ソニーマーケティングのプロダクツビジネス本部 ホームエンタテインメントプロダクツビジネス部 大矢昌幸 統括部長は「若い方を中心に、チューナーレステレビへの関心が高まっているということは認識している。しかし、あえて放送波を切り捨て、選択肢を減らすことは考えにくい」と話す。一方で「このまま放送波離れが進み、ユーザーの選択肢から放送波が外れるようであれば、考えざるを得ない。決してチューナーレステレビを否定するわけではない」とも。15年にAndroid TVを搭載、21年にはGoogle TVを搭載と国内メーカーではネット対応が早かった同社。現状では基本的にはすべてのテレビでネット動画に対応する。その他、例えば今年から一部モデルでビデオ会議のZoomにも対応するなど、さらなる「高機能化」も進めている。
大矢 統括部長は「直近1年のテレビ購入者に毎年調査を行っているが、年々放送波を視聴する時間は減っている。しかしネット動画を見たりゲームをしたりといった時間を加えると、むしろテレビを使う時間は増えている」と話す。そのため、今年から、これまでのように画質や音質の良さを大きく訴えるスタイルから、テレビで得られる体験を重視するスタイルに、コミュニケーションをシフトしたという。テレビで何ができるのかをより重視し始めたわけだ。「コンテンツが手の中からリビングへ」とシフトして、スマホの小さな画面で見ていたネット動画が大画面テレビで楽しめることも積極的にアピールしている。
一方でソニーは、すでに法人向けにチューナーレステレビを販売している。オフィスや商業施設、教育機関などを対象とする製品だ。一般消費者は購入できないものの、製品自体が存在するのは間違いない。いったん、一般向けに販売すると決めさえすれば、最短距離で展開できる体制が整っているのはソニー、と見ることができるだろう。
メーカー各社とも、放送波をきれいに見せる技術はほぼ完成の域に近づいている。追加の開発コストはあまりかからない。一方で、テレビのネット対応は、今や必須。現在各社で同じように取り組んでいるのは、放送波で得た高画質化ノウハウを、どうネット動画に応用するか。画質のばらつきが大きなネットコンテンツを、いかにきれいに見せるかに開発リソースを投入している。同様に、放送波とは比べ物にならないほど広大に広がる選択肢から、どうやって視聴者が望むコンテンツを選び出すかも、テレビの差別化の大きな要素になっている。
テレビの製造コストに占める割合で最も大きいのは、液晶や有機ELなどのパネルだ。仮にチューナーを取り外したとしても、製造コストが劇的に下がるわけではない。主要メーカーが安さを武器にチューナーレステレビを販売することは考えにくい。しかし、チューナーの有り無しに拘わらず、メーカー各社の開発の主戦場は、すでに、放送波ではなくネット動画中心にシフトしている。放送事業者自身もネット動画に注力する動きが出始めている今、チューナーは事実上「おまけ」的な存在に変化しつつある。あたかも製品の色を選ぶような一つのバリエーションとして、テレビのチューナーレスモデルが一般化するのは、そう遠い将来ではなさそうだ。(BCN・道越一郎)
開口一番「今のところチューナーレステレビを発売する計画はなく、考えてもいない」と話すのは、TVS REGZAの営業本部 本部長 笹川知之 取締役副社長だ。同社のテレビのリモコンには、最上部にネット動画のダイレクトボタンが13個もある。ネット動画の重要性はよく分かっている。「2020年に調査したところ、ネット動画が1日に延べ90分も視聴されているということが分かった。これは地上波キー局の1局分に相当する。びっくりした」という。しかし「ドン・キホーテが発売した時には注目したが、わざわざチューナーを外して、ユーザーの番組選択の幅を狭めるメリットはない」。笹川 副社長はそう語る。
もちろんユーザーからすれば、チューナーレステレビならNHKの受信料を支払わなくて済む、というのは大きなメリットだ。しかし、単にテレビをチューナーレスにしただけでは受信料から逃れることはできない。煩雑な手続きを経て初めて、受信料から解放される。一方、他にチューナー付きテレビが1台でもあれば支払う必要がある。また、持っているカーナビにテレビ機能がついていればダメ、ワンセグ放送が受信できるスマホやテレビが受信できるパソコンなどを持っていても同様にダメだ。買うだけで受信料の問題がすぐ解決するわけではない、という点も、チューナーレステレビの発売を考えない理由でもあるのだろう。
TVS REGZAの商品戦略本部 商品企画部 槇本修二 シニアプロジェクトプロデューサーは、「確かにネット動画の重要性は高まっている。しかし、われわれは放送波のコンテンツにネットのコンテンツが加わったという認識。REGZAには、本体のハードディスクに撮りためた番組を適切に選び出すざんまい機能がある。この対象をネット動画にも広げることで、放送波とネット動画の区別なく、好きなコンテンツを見つけやすいという強みがある。この強みをお客様にしっかりアピールして、さらに販売を伸ばしていきたい」と話す。
チューナーレステレビに積極的なのがシャープだ。TVシステム事業本部 Global商品企画統括部 国内商品企画部 鈴木正幸 部長は、「チューナーレステレビのニーズはあると思う。社内で検討はしている。放送局に気を遣っているということも一切ない。もしやるとすれば、安さを売りにするのではなく、違った視点でスタイリッシュなものにしたいと思っている」と話す。1999年、当時としては最も大きな20型の液晶テレビを世界で初めて発売したシャープ。以来「液晶のシャープ」として確固たるブランド力を確立。長年販売台数でトップシェアを続けてきた。
しかし21年と22年、2K未満の液晶テレビではTVS REGZAにトップの座を明け渡した。さらに今年の上半期では、4K以上の液晶テレビでもTVS REGZAにトップシェアを譲った。シェア下落の要因を鈴木 部長は「シャープにはハイビジョンのネット対応モデルがなかった。そこでREGZAさんにコテンパンにやられた。この1月にようやく発売にこぎつけ、台数が伸び始めた」と明かす。ネット対応テレビの重要性を最も感じているのは、おそらくシャープだろう。よりネット動画対応に力を入れることを考え、チューナーを外すことまでも視野に入れ始めたといえそうだ。
チューナーレステレビに対して、中立的な立場をとるのがソニーだ。ソニーマーケティングのプロダクツビジネス本部 ホームエンタテインメントプロダクツビジネス部 大矢昌幸 統括部長は「若い方を中心に、チューナーレステレビへの関心が高まっているということは認識している。しかし、あえて放送波を切り捨て、選択肢を減らすことは考えにくい」と話す。一方で「このまま放送波離れが進み、ユーザーの選択肢から放送波が外れるようであれば、考えざるを得ない。決してチューナーレステレビを否定するわけではない」とも。15年にAndroid TVを搭載、21年にはGoogle TVを搭載と国内メーカーではネット対応が早かった同社。現状では基本的にはすべてのテレビでネット動画に対応する。その他、例えば今年から一部モデルでビデオ会議のZoomにも対応するなど、さらなる「高機能化」も進めている。
大矢 統括部長は「直近1年のテレビ購入者に毎年調査を行っているが、年々放送波を視聴する時間は減っている。しかしネット動画を見たりゲームをしたりといった時間を加えると、むしろテレビを使う時間は増えている」と話す。そのため、今年から、これまでのように画質や音質の良さを大きく訴えるスタイルから、テレビで得られる体験を重視するスタイルに、コミュニケーションをシフトしたという。テレビで何ができるのかをより重視し始めたわけだ。「コンテンツが手の中からリビングへ」とシフトして、スマホの小さな画面で見ていたネット動画が大画面テレビで楽しめることも積極的にアピールしている。
一方でソニーは、すでに法人向けにチューナーレステレビを販売している。オフィスや商業施設、教育機関などを対象とする製品だ。一般消費者は購入できないものの、製品自体が存在するのは間違いない。いったん、一般向けに販売すると決めさえすれば、最短距離で展開できる体制が整っているのはソニー、と見ることができるだろう。
メーカー各社とも、放送波をきれいに見せる技術はほぼ完成の域に近づいている。追加の開発コストはあまりかからない。一方で、テレビのネット対応は、今や必須。現在各社で同じように取り組んでいるのは、放送波で得た高画質化ノウハウを、どうネット動画に応用するか。画質のばらつきが大きなネットコンテンツを、いかにきれいに見せるかに開発リソースを投入している。同様に、放送波とは比べ物にならないほど広大に広がる選択肢から、どうやって視聴者が望むコンテンツを選び出すかも、テレビの差別化の大きな要素になっている。
テレビの製造コストに占める割合で最も大きいのは、液晶や有機ELなどのパネルだ。仮にチューナーを取り外したとしても、製造コストが劇的に下がるわけではない。主要メーカーが安さを武器にチューナーレステレビを販売することは考えにくい。しかし、チューナーの有り無しに拘わらず、メーカー各社の開発の主戦場は、すでに、放送波ではなくネット動画中心にシフトしている。放送事業者自身もネット動画に注力する動きが出始めている今、チューナーは事実上「おまけ」的な存在に変化しつつある。あたかも製品の色を選ぶような一つのバリエーションとして、テレビのチューナーレスモデルが一般化するのは、そう遠い将来ではなさそうだ。(BCN・道越一郎)