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キヤノンがKissにさようなら──ドル箱ブランドEOS Kiss終息間近で販売激減

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2023/05/07 18:30

 レンズ交換型カメラをマニアの手から解放し「普通の人」に普及させた一大ブランド、キヤノンの「EOS Kiss」が終わる。同社のエントリーモデルにはKissブランドを冠することが多かったが、新製品は2020年11月発売の「EOS Kiss M2」が最後。この3月に発売したエントリーモデル「EOS R50」からはKissの名前が消えた。販売状況を見てもKissが終息に向かっているのは明らかだ。キヤノンのレンズ交換型カメラのうち、Kissシリーズが販売台数に占める割合は、過去3年に限っても最高で75.8%に上った。しかし、この3月には39.7%と4割を下回った。販売金額でも最高の6割超から32.1%と半減した。キヤノンはドル箱ブランドKissから卒業しようとしている。全国2300店舗の実売データを集計するBCNランキングで明らかになった。


 Kissの初号機は1993年発売のフィルム一眼レフカメラ「EOS Kiss」だ。実はKissブランドを冠したのは日本市場のみ。アジアやヨーロッパでは「EOS 500」として発売。北米では「EOS REBEL XS」という名称だった。ちなみにREBELは反逆者という意味。一見、Kissとは真逆のブランドイメージだ。しかし、両者には通じるものもある。当時、レンズ交換型カメラは一部の好事家が主なユーザー。「普通の人」には縁遠いものだった。それを一気に身近な存在に大転換させた反逆者こそがKissだったわけだ。子育て世代の「ママ層」をターゲットにプロモーションを展開。ファミリーに一眼レフという潮流を生み出すことに成功した。

 デジカメの時代に突入した2003年。Kissもデジタル化し「EOS Kiss Digital」として新登場した。08年には「EOS Kiss Digital X」の後継モデルとして「EOS Kiss X2」を発売。商品名からデジタルが消え、本格的なデジカメ時代の到来を宣言した。その後、レンズ交換型カメラのミラーレス化を受け、18年にKissブランド初のミラーレスモデル「EOS Kiss M」を発売。20年発売の現行モデル「EOS Kiss M2」が引き継いだ。一眼レフとしてのKiss最後の製品は同年発売の「EOS Kiss X10i」。この年以降、Kissの新製品は登場していない。Kissは、キヤノンのレンズ交換型カメラの過半を占める売れ筋。Kissが売れれば全体の売り上げも伸びる。まさに大黒柱的存在だった。

 現在、キヤノンのレンズ交換型カメラには3種類のレンズマウント規格が混在している。フィルム時代から継続する一眼レフ用のEFマウント、Kissのミラーレス化で採用したEF-Mマウント、そして、新世代のミラーレス用RFマウントだ。3種類もあるのは主要メーカーでキヤノンだけ。マウントが異なればレンズの構造も異なるため、開発工数がかさむ。とても非効率だ。ユーザーにとっても、マウントが異なるとレンズの流用ができず、使い勝手が悪い。いずれのマウントも現在使用しているユーザーは無視できない。すぐにやめるわけにはいかないが、時間をかけて徐々に製品を整理し、最終的にはRFマウントに収れんさせていくことになるだろう。
 
最期のKissになるかもしれない「EOS Kiss M2」(左)と
新エントリーモデル「EOS R50」

 3月発売のエントリーモデル「EOS R50」は、今後の主流、RFマウント。つまり、RFマウントの製品には、エントリーモデルであってもKissブランドは使用しない、というわけだ。キヤノンはまだ、Kissの終息を宣言していない。関係者は「もうしばらくはお付き合いください」と話し、当面は販売継続するとしている。ミラーレスのEOS Kiss M2、EOS Kiss MはEF-Mマウント、一眼レフのEOS Kiss X10iなどはEFマウントだ。徐々にフェードアウトさせるレンズマウントのエントリーモデルについて、今後、新製品を登場させることはないだろう。結果、Kissは消えることになるわけだ。

 カメラのユーザー層もこの10年で激変した。日常的な撮影機材はスマートフォン(スマホ)に取って代わり、あえてカメラを使うのは限られた層になりつつある。これまでKissがターゲットにしていた層も、多くはスマホに移行してしまった。キヤノンは流出ユーザーを深追いせず、新たなユーザー層開拓に舵を切ろうとしている。Kissに別れを告げ、誰を招き入れるのか。次世代のカメラはどんなものなのか。トップシェアメーカーの「次の手」に期待したい。(BCN・道越一郎)