テクノロジーによってありとあらゆるものが進化を遂げている昨今。補聴器もその例に漏れず、ここ数年でいくつかのブレイクスルーを経て、次世代と呼ぶにふさわしい先進的なモデルが登場してきている。その流れをリードするのが、デンマークに本社を構えるオーティコン補聴器だ。10月25日に発売された「Oticon Own(オーティコン オウン)」シリーズは、耳あな型補聴器に高度な人工知能であるDNN(ディープニューラルネットワーク)を世界で初めて搭載(2022年8月末時点・同社調べ。DNN搭載モデルはオウン1~3)。優れた音質とオーダーメイドならではの一人ひとりに合わせた優れたフィット感を実現した。では、具体的にオウンはユーザーにとって、どんなメリットがあるのか。オーティコン補聴器の設計思想、実際の製造現場や販売現場で拾ったリアルな声をもとに魅力に迫った。
その先進的なアプローチの基礎となっているのが、「BrainHearing(ブレインヒアリング)」という考え方だ。一般的に耳で音を聞くと思われがちだが、実際のところは脳で音を理解している。同社は独自の研究から補聴器専用の高性能チップを開発し、音を聞く脳の働きを最適にサポートすることで、聞き取りに費やす努力を軽減することを実証。ユーザーが快適かつ明瞭に音を聞きとることができるように支援する。
近年の研究では、脳には周囲の音の全体像を「捉える」システムと、その情報のなかから興味のある音に「集中する」システムがあり、それらが連携して働くことで環境のなかから自分が聞きたい音を自在に選んで聞いていることが判明しているという。このような研究からも、まずは脳で音の情景の全体像を描けるように「周囲のあらゆる音を届ける」という、ブレインヒアリングの考え方に基づく同社の製品開発コンセプトの妥当性が裏付けされている。
オープンの系譜は「Oticon Opn S(オープン S)」「Oticon More(モア)」へと受け継がれ、性能や使い勝手がブラッシュアップされている。こうした積み重ねが今回の先進の耳あな型補聴器“オウン”の開発につながった。
オウンの心臓部といえる高性能チップには、同社の最新プラットフォームである「ポラリス」を採用している。そのポラリスが可能にする、実際の環境から収集した1200万の音の情景をもとに訓練された補聴器専用の人工知能「DNN」は、静かな環境からさまざまな人が集うにぎやかな環境まで、周囲の状況を正確に認識し、意味のある音と背景騒音とのコントラストを明確にする。これにより自然でよりクリアな聞こえを可能にした。同社の研究では、DNNによる機能を無効にした場合との比較で、この機能を有効にすると、にぎやかな環境における会話の手がかりへのアクセスを最大30%高め、聞くための持続的な努力を30%軽減することを実証している。
さらに、これまでさまざまな場面で補聴器ユーザーを悩ませてきた、帽子をかぶる、電話を取るなどの急な動作や姿勢を変えた際に予期せず起こる「キーン」といったハウリングを、検出器による音響分析と高度な処理システムの組み合わせによって防いでいる。
耳の形は一人ひとり異なるため、注文時に受け取った耳型や形状の好みなどに合わせて、一つひとつ設計、製造を行う。工場内には3Dスキャナーや3Dプリンタなどの最新の機器と、設計・造形・組立て・仕上げ・最終の品質検査に至るまで熟練の技術者による丁寧な手仕事が世界に一つだけのオーダーメイド製品を創り出している。さらに、工程を細かく数値化し、細部まで効率化された国内工場は、受注から出荷までを4営業日とスピーディーに製品を届けている。
耳あなに挿入するタイプの補聴器はユーザーの耳にぴったりとフィットさせる必要があるため、外耳道までの耳型をとる。一般的にはシリコン樹脂を耳に注入して作成していくのだが、型を採るのに時間がかかることに加え、高度なスキルが要求されるために仕上がりにバラつきがあった。この問題を解決するのがオトスキャンだ。短時間の耳のスキャニングで精度の高い耳型を作成することができ、ユーザーからの満足度を高めている。なお、このオトスキャンは店舗スタッフの業務効率化に加え、製造工程を短縮することにもつながっている。
今回は実際に補聴器を求めてヒヤリングストアに来店した、吉田豊さんに話を聞くことができた。吉田さんは77歳で打楽器奏者として長年音楽業界に従事している。数年前から加齢による聞こえにくさを実感するようになり、補聴器販売店の扉を叩いた。実は過去に一度補聴器を試したが、演奏の際、わずかな聞こえのタイムラグを感じたほか、デジタル的な音が気になり使用を断念。ただ聞こえにくさで仕事に支障を感じることが増えたことや以前に補聴器を試してから月日が経過したこともあって、補聴器の進化を期待して再訪したとのことだ。
補聴器を購入する際には、まず専門家による綿密なカウンセリングからスタートする。「どんなときに聞こえづらいのか」「聞こえをよくすることでどんなことがしたいのか」といった内容を聞き出し、「ユーザーの求めること」と「補聴器によって実現できること」のギャップが出ないようにお互いの理解を深めていく。その後、補聴器を合わせるための聴力測定や、言葉の聞き取りテストを実施。聞き取りにくい高さの音や言葉を調べる。
1時間程度でカウンセリングと測定が完了すると、次は耳あな型補聴器を作成するために耳の内部の型をとっていく。前述したように以前はシリコン樹脂を用いていたが、今回はオトスキャンを使用。目に見える形で正確な3Dモデルが作成できることもあり、吉田さんも感心した様子だった。
耳かけ補聴器で試聴を行い、試聴の結果、補聴器の機種とスタイルを選定し、耳あな補聴器を製造。後日、オウンを実際に日常生活で使ってみた吉田さんの感想はどのようなものだったのだろうか。
まず、サイズ感や着け心地について、「最初に装用した時、左側はぴったりと、右側はすこしゆるく感じたので、左右の装用感の微妙な違いを伝えた」という。日を追うごとに慣れてきたことと、右側はもともと耳あなのカーブが強いため、形状の違いが装用感に影響している可能性があり、聞こえに問題はないので、少し使用を続けて様子を見ることにしているそうだ。また、「ブラックのデザインも気に入っている」と嬉しそうに話してくれた。
補聴器の生活にも徐々に慣れ、仕事や生活のうえでも補聴器が欠かせない存在になっているそうだ。
かつて吉田さんが補聴器をためらっていた理由として性能面以外に挙げていたのが、外見が気になるということだ。オウンは、サイズの小さい順から「IIC」「CIC」「カナル(ITC)」「ハーフ」「フル」と5種類のスタイルがあり、カラーは、フェースプレート(※外から見える部分)でベージュとブラックの2色、シェルカラー(※耳の中に入る部分)でベージュ、ブラック、ブルー、レッド、クリアの5色をラインアップしている。
その中で吉田さんが選んだのは、Bluetooth搭載のカナル、カラーがブラックだ。来店当初は、目立たないIICを希望していたが、カウンセリングを通じて機能の充実を優先、カラーも思いきってブラックに変更したという。カウンセリングを通じて機能やサイズなどの説明のやりとりがあり、気持ちや決断が変わったようだ。
吉田さんのように、一度補聴器を断念した人は少なくないという。しかし、補聴器の進化は目まぐるしく、ユーザーの心理的負担も含めて専門家に相談してみると、これまでと違った体験が得られるかもしれない。
従来の補聴器の概念から脱却した「オープン」の次世代モデル
まずは、2016年発売の「Oticon Opn(オープン)」について説明したい。オープンが優れていたのは、一般的な補聴器のスタンダードであった「指向性」の集音ではなく、360°の音を処理する技術を導入したことだ。それまでは「指向性」の機能により、騒がしい場所では目の前で話す人の会話には集中できたが、それ以外の周囲の音に注意を払うのは難しかった。それが全方向の音をバランスよく適切に届けることで、目の前の会話以外の音も把握できるようになった。その先進的なアプローチの基礎となっているのが、「BrainHearing(ブレインヒアリング)」という考え方だ。一般的に耳で音を聞くと思われがちだが、実際のところは脳で音を理解している。同社は独自の研究から補聴器専用の高性能チップを開発し、音を聞く脳の働きを最適にサポートすることで、聞き取りに費やす努力を軽減することを実証。ユーザーが快適かつ明瞭に音を聞きとることができるように支援する。
近年の研究では、脳には周囲の音の全体像を「捉える」システムと、その情報のなかから興味のある音に「集中する」システムがあり、それらが連携して働くことで環境のなかから自分が聞きたい音を自在に選んで聞いていることが判明しているという。このような研究からも、まずは脳で音の情景の全体像を描けるように「周囲のあらゆる音を届ける」という、ブレインヒアリングの考え方に基づく同社の製品開発コンセプトの妥当性が裏付けされている。
オープンの系譜は「Oticon Opn S(オープン S)」「Oticon More(モア)」へと受け継がれ、性能や使い勝手がブラッシュアップされている。こうした積み重ねが今回の先進の耳あな型補聴器“オウン”の開発につながった。
オウンの心臓部といえる高性能チップには、同社の最新プラットフォームである「ポラリス」を採用している。そのポラリスが可能にする、実際の環境から収集した1200万の音の情景をもとに訓練された補聴器専用の人工知能「DNN」は、静かな環境からさまざまな人が集うにぎやかな環境まで、周囲の状況を正確に認識し、意味のある音と背景騒音とのコントラストを明確にする。これにより自然でよりクリアな聞こえを可能にした。同社の研究では、DNNによる機能を無効にした場合との比較で、この機能を有効にすると、にぎやかな環境における会話の手がかりへのアクセスを最大30%高め、聞くための持続的な努力を30%軽減することを実証している。
さらに、これまでさまざまな場面で補聴器ユーザーを悩ませてきた、帽子をかぶる、電話を取るなどの急な動作や姿勢を変えた際に予期せず起こる「キーン」といったハウリングを、検出器による音響分析と高度な処理システムの組み合わせによって防いでいる。
専門スタッフによる丁寧かつスピーディーな製造現場
ユーザーそれぞれにカスタマイズされたこの“オウン”という補聴器はどのように作られているのだろうか。その秘密は国内の受注を全て担っている国内自社工場に集約されている。工場内では、最新のコンピューターや機材が立ち並び、約100人のスタッフがそれぞれのエリアに分かれて作業を行っている。耳の形は一人ひとり異なるため、注文時に受け取った耳型や形状の好みなどに合わせて、一つひとつ設計、製造を行う。工場内には3Dスキャナーや3Dプリンタなどの最新の機器と、設計・造形・組立て・仕上げ・最終の品質検査に至るまで熟練の技術者による丁寧な手仕事が世界に一つだけのオーダーメイド製品を創り出している。さらに、工程を細かく数値化し、細部まで効率化された国内工場は、受注から出荷までを4営業日とスピーディーに製品を届けている。
「オトスキャン」でユーザーのストレスを軽減
オーティコン補聴器の強みは製品力や丁寧かつ迅速な生産体制だけではない。補聴器販売店と密に連携し、ユーザーが購入しやすい環境を整備しているのも同社の特長だ。例えば、補聴器専門店「ヒヤリングストア」では、ユーザーのストレスを軽減する先進の機器として、耳型採取に特化した3Dスキャナー「オトスキャン」を導入している。耳あなに挿入するタイプの補聴器はユーザーの耳にぴったりとフィットさせる必要があるため、外耳道までの耳型をとる。一般的にはシリコン樹脂を耳に注入して作成していくのだが、型を採るのに時間がかかることに加え、高度なスキルが要求されるために仕上がりにバラつきがあった。この問題を解決するのがオトスキャンだ。短時間の耳のスキャニングで精度の高い耳型を作成することができ、ユーザーからの満足度を高めている。なお、このオトスキャンは店舗スタッフの業務効率化に加え、製造工程を短縮することにもつながっている。
今回は実際に補聴器を求めてヒヤリングストアに来店した、吉田豊さんに話を聞くことができた。吉田さんは77歳で打楽器奏者として長年音楽業界に従事している。数年前から加齢による聞こえにくさを実感するようになり、補聴器販売店の扉を叩いた。実は過去に一度補聴器を試したが、演奏の際、わずかな聞こえのタイムラグを感じたほか、デジタル的な音が気になり使用を断念。ただ聞こえにくさで仕事に支障を感じることが増えたことや以前に補聴器を試してから月日が経過したこともあって、補聴器の進化を期待して再訪したとのことだ。
補聴器を購入する際には、まず専門家による綿密なカウンセリングからスタートする。「どんなときに聞こえづらいのか」「聞こえをよくすることでどんなことがしたいのか」といった内容を聞き出し、「ユーザーの求めること」と「補聴器によって実現できること」のギャップが出ないようにお互いの理解を深めていく。その後、補聴器を合わせるための聴力測定や、言葉の聞き取りテストを実施。聞き取りにくい高さの音や言葉を調べる。
1時間程度でカウンセリングと測定が完了すると、次は耳あな型補聴器を作成するために耳の内部の型をとっていく。前述したように以前はシリコン樹脂を用いていたが、今回はオトスキャンを使用。目に見える形で正確な3Dモデルが作成できることもあり、吉田さんも感心した様子だった。
耳かけ補聴器で試聴を行い、試聴の結果、補聴器の機種とスタイルを選定し、耳あな補聴器を製造。後日、オウンを実際に日常生活で使ってみた吉田さんの感想はどのようなものだったのだろうか。
まず、サイズ感や着け心地について、「最初に装用した時、左側はぴったりと、右側はすこしゆるく感じたので、左右の装用感の微妙な違いを伝えた」という。日を追うごとに慣れてきたことと、右側はもともと耳あなのカーブが強いため、形状の違いが装用感に影響している可能性があり、聞こえに問題はないので、少し使用を続けて様子を見ることにしているそうだ。また、「ブラックのデザインも気に入っている」と嬉しそうに話してくれた。
補聴器の生活にも徐々に慣れ、仕事や生活のうえでも補聴器が欠かせない存在になっているそうだ。
かつて吉田さんが補聴器をためらっていた理由として性能面以外に挙げていたのが、外見が気になるということだ。オウンは、サイズの小さい順から「IIC」「CIC」「カナル(ITC)」「ハーフ」「フル」と5種類のスタイルがあり、カラーは、フェースプレート(※外から見える部分)でベージュとブラックの2色、シェルカラー(※耳の中に入る部分)でベージュ、ブラック、ブルー、レッド、クリアの5色をラインアップしている。
その中で吉田さんが選んだのは、Bluetooth搭載のカナル、カラーがブラックだ。来店当初は、目立たないIICを希望していたが、カウンセリングを通じて機能の充実を優先、カラーも思いきってブラックに変更したという。カウンセリングを通じて機能やサイズなどの説明のやりとりがあり、気持ちや決断が変わったようだ。
吉田さんのように、一度補聴器を断念した人は少なくないという。しかし、補聴器の進化は目まぐるしく、ユーザーの心理的負担も含めて専門家に相談してみると、これまでと違った体験が得られるかもしれない。