【5分でわかる最新経済キーワード・1】 ウミガメがプラスチック製のレジ袋を食べて死に至る、というニュースがかつて話題になりました。さらには、5ミリ以下の微細な「マイクロプラスチック」が世界中の海に拡散していて、海洋生物のみならず実は人間にも深刻な影響を与えているのではないかとの懸念が大きく広がっています。こうしたことを解決するための新しい経済システムとして「サーキュラーエコノミー」が注目されています。
サーキュラーエコノミーとは、一言でいえば、製品の元になる原材料ばかりでなく廃棄される製品をも「資源」と考えて、これらを循環させていくという新しい経済システムのことです。
わが国では2000年に「循環型社会形成推進基本法」が制定されました。サーキュラーエコノミーは「循環型経済」と訳されますので、この種のテーマはすでに20年以上前から存在していました。しかし、いまだ解決の道筋が見えない環境問題や資源問題に対し、循環型経済のあり方をもう一段進化させて、解決に導こうとする試みがサーキュラーエコノミーなのです。
リニア経済下において、人々は資源を手に入れ生産活動を行い製品を消費しては、余り物や壊れ物、不要になった製品などを破棄するという一方向的な経済活動を行ってきました。家電リサイクル法などは、この反省から生まれた経緯があります。
しかしながらこうした動きは、廃棄物の一部を再資源化(リユース)する試みにすぎません。一方、サーキュラーエコノミー下では、製品・サービスの設計段階で資源の回収および再利用を考慮することが求められます。
図でおわかりのように、サーキュラーエコノミーでは廃棄物は環境に排出されることなく、クローズドに循環するシステムを目指します。投入した資源やできあがった製品は、その価値をできるだけ減ずることなく維持し、循環させることで、環境に負荷をかけない経済成長の実現を目指します。
グローバル・フットプリント・ネットワークという国際的シンクタンクは、世界の人々がもし日本人と同じ生活をするのであれば、地球は2.8個必要だと計算しています。ちなみにアメリカ人と同じ生活レベルならば、地球が5個必要になります。地球が許容してくれる範囲内での経済活動が必要であり、サーキュラーエコノミーはその実現を目的とした経済モデルなのです。
(1)廃棄や汚染を取り除くこと
(2)製品と原材料を高い価値を保ったまま循環させつづけること
(3)自然を再生すること
「廃棄」はリニア経済の負の側面であり、「汚染」もまたかつての公害問題から現在のプラスチック問題まで脈々と続いてきた歴史があります。リニア経済からの脱却は必然といえるでしょう。
原材料と製品を経済システムの中でできるだけ循環させることで、廃棄や汚染の最小化につなげます。すると、製品の価値は、破棄されず使用される期間が長くなればなるほど増大し、これによって、原材料自体の価値も最大限に引き出されることになります。この良好な循環を維持することが、サーキュラーエコノミーの原則となっており、製品の設計(デザイン)は、この循環の維持に大きく関係します。
コンビニなどで大量に排出される賞味期限切れ食材が話題になりましたが、そうした資源も、家畜のエサとする、バイオガスの生成を行う、堆肥として安全に自然に返すといった利用が考えられます。いわゆるカスケード利用と呼ばれるもので、廃棄物を別の用途に使い、さらにその後も別の用途に活かすといった資源の有効利用を設計段階から考える必要があるのです。
最後の三つ目、「自然を再生すること」は少々難問です。コンビニの賞味期限切れの弁当を堆肥に戻す例はわかりやすい話ですが、資源とは生物由来のものだけではありません。例えば、鉄やアルミニウム、プラスチックなど枯渇が想定される資源もあります。
エレン・マッカーサー財団では、「生物資源のサイクル」と「技術資源のサイクル」の二つに循環のかたちを分けて議論しています。前者はコンビニ弁当、後者は鉄やアルミとお考えください。同財団は、技術資源に関して長期的な循環はなかなか得にくいと考えています。
例えば製品が長持ちすれば、新しい製品が売れにくくなるからです。そこで製品をユーザーが「所有」するのではなく、必要なときに必要な分だけ「利用」するというビジネスモデルを想定しています。メーカーが製品の所有権を有し、それを長い期間多くに人々に利用してもらうという考え方です。
一見、唐突に感じられますが、すでに車や住まい、家具や衣服などのシェアリングサービスは普通に行われています。「サブスクリプション」もすでに耳慣れた言葉です。不用品の売り買いを行うフリマも盛んですし、こうした新しい経済活動が注目されているのも、必然と思えます。
サーキュラーエコノミーは、従来の経済システムの限界と新時代への指針を示しています。そして、その実現は、私たち一人ひとりの生活スタイルにも関係しています。2020年代の生き方の指針として注目していく必要がありそうです。(アーカイブ代表取締役・陣内一徳)
■Profile
陣内一徳(じんない・かずのり)
三菱UFJビジネススクエア『月刊SQUET』の企画編集、また、単行本の企画・編集・原稿執筆、社史・周年誌などの企画制作も継続的に行っている。
サーキュラーエコノミーとは?
マイクロプラスチックはプラスチック製品の生産段階で発生し、紫外線や雨風にさらされて劣化することでも生じ、回収されないまま世界中の海を漂っています。人間の経済活動が引き起こしたこのような深刻な事態を、自らの手で解決すべく「サーキュラーエコノミー」という言葉が生まれました。サーキュラーエコノミーとは、一言でいえば、製品の元になる原材料ばかりでなく廃棄される製品をも「資源」と考えて、これらを循環させていくという新しい経済システムのことです。
わが国では2000年に「循環型社会形成推進基本法」が制定されました。サーキュラーエコノミーは「循環型経済」と訳されますので、この種のテーマはすでに20年以上前から存在していました。しかし、いまだ解決の道筋が見えない環境問題や資源問題に対し、循環型経済のあり方をもう一段進化させて、解決に導こうとする試みがサーキュラーエコノミーなのです。
地球が許容する範囲内の経済活動を
図はサーキュラーエコノミーの概念図です。かつての単線的な「リニア経済」が、リサイクルを中心とした「リユース経済」へと移行しつつありますが、今後はさらに「サーキュラー経済」に変わらなければならないとしています。ちなみにこの図をつくったオランダ政府は、サーキュラーエコノミー達成の目標年を2050年としています。リニア経済下において、人々は資源を手に入れ生産活動を行い製品を消費しては、余り物や壊れ物、不要になった製品などを破棄するという一方向的な経済活動を行ってきました。家電リサイクル法などは、この反省から生まれた経緯があります。
しかしながらこうした動きは、廃棄物の一部を再資源化(リユース)する試みにすぎません。一方、サーキュラーエコノミー下では、製品・サービスの設計段階で資源の回収および再利用を考慮することが求められます。
図でおわかりのように、サーキュラーエコノミーでは廃棄物は環境に排出されることなく、クローズドに循環するシステムを目指します。投入した資源やできあがった製品は、その価値をできるだけ減ずることなく維持し、循環させることで、環境に負荷をかけない経済成長の実現を目指します。
グローバル・フットプリント・ネットワークという国際的シンクタンクは、世界の人々がもし日本人と同じ生活をするのであれば、地球は2.8個必要だと計算しています。ちなみにアメリカ人と同じ生活レベルならば、地球が5個必要になります。地球が許容してくれる範囲内での経済活動が必要であり、サーキュラーエコノミーはその実現を目的とした経済モデルなのです。
新時代の生活スタイルとして定着?
もう少し詳しく見ていきましょう。国際的なサーキュラーエコノミー推進団体、エレン・マッカーサー財団は、サーキュラーエコノミーには次の三つの原則があると主張しています。(1)廃棄や汚染を取り除くこと
(2)製品と原材料を高い価値を保ったまま循環させつづけること
(3)自然を再生すること
「廃棄」はリニア経済の負の側面であり、「汚染」もまたかつての公害問題から現在のプラスチック問題まで脈々と続いてきた歴史があります。リニア経済からの脱却は必然といえるでしょう。
原材料と製品を経済システムの中でできるだけ循環させることで、廃棄や汚染の最小化につなげます。すると、製品の価値は、破棄されず使用される期間が長くなればなるほど増大し、これによって、原材料自体の価値も最大限に引き出されることになります。この良好な循環を維持することが、サーキュラーエコノミーの原則となっており、製品の設計(デザイン)は、この循環の維持に大きく関係します。
コンビニなどで大量に排出される賞味期限切れ食材が話題になりましたが、そうした資源も、家畜のエサとする、バイオガスの生成を行う、堆肥として安全に自然に返すといった利用が考えられます。いわゆるカスケード利用と呼ばれるもので、廃棄物を別の用途に使い、さらにその後も別の用途に活かすといった資源の有効利用を設計段階から考える必要があるのです。
最後の三つ目、「自然を再生すること」は少々難問です。コンビニの賞味期限切れの弁当を堆肥に戻す例はわかりやすい話ですが、資源とは生物由来のものだけではありません。例えば、鉄やアルミニウム、プラスチックなど枯渇が想定される資源もあります。
エレン・マッカーサー財団では、「生物資源のサイクル」と「技術資源のサイクル」の二つに循環のかたちを分けて議論しています。前者はコンビニ弁当、後者は鉄やアルミとお考えください。同財団は、技術資源に関して長期的な循環はなかなか得にくいと考えています。
例えば製品が長持ちすれば、新しい製品が売れにくくなるからです。そこで製品をユーザーが「所有」するのではなく、必要なときに必要な分だけ「利用」するというビジネスモデルを想定しています。メーカーが製品の所有権を有し、それを長い期間多くに人々に利用してもらうという考え方です。
一見、唐突に感じられますが、すでに車や住まい、家具や衣服などのシェアリングサービスは普通に行われています。「サブスクリプション」もすでに耳慣れた言葉です。不用品の売り買いを行うフリマも盛んですし、こうした新しい経済活動が注目されているのも、必然と思えます。
サーキュラーエコノミーは、従来の経済システムの限界と新時代への指針を示しています。そして、その実現は、私たち一人ひとりの生活スタイルにも関係しています。2020年代の生き方の指針として注目していく必要がありそうです。(アーカイブ代表取締役・陣内一徳)
■Profile
陣内一徳(じんない・かずのり)
三菱UFJビジネススクエア『月刊SQUET』の企画編集、また、単行本の企画・編集・原稿執筆、社史・周年誌などの企画制作も継続的に行っている。