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郊外の家電量販店は「85インチ」テレビの提案も 「壁寄せスタイル」が定着の予感

【地デジ移行から10年・3】 地上デジタル放送の完全移行から10年。都市と郊外の家電量販店のテレビ売り場を取材してきた。最終回は、ホームセンターのニトリが島忠を買収して話題になった共同店舗第1号の2階にオープンした「コジマ×ビックカメラ ニトリホームズ宮原店」と「コジマ×ビックカメラ新座店」を訪れた。郊外店らしく65型以上の大画面テレビを軸に訴求し、セットで提案する「壁寄せスタイル」が、今後の新しいトレンドになる可能性を感じた。

有機ELのインチ単価は2008年のプラズマ並み

 家電量販店・ネットショップのPOSデータを集計する「BCNランキング」によると、数年前まで高嶺の花だった有機ELテレビのインチ単価は年々下がり、2020年は4197円となった。15年の9023円から半分以下で、08年のプラズマテレビのインチ単価4359円に並ぶ水準である。

 BCNランキングによる薄型テレビの販売台数指数推移でも、07年を100とした場合、20年は104.1だった。販売台数規模が07年並み、インチ単価が08年並みという状況からみても、薄型テレビの値ごろ感が出てきたことがわかる。ちなみに、20年の液晶テレビのインチ単価は1724円。小型サイズの販売台数ボリュームが大きいためだが、液晶なら有機ELテレビよりもさらに大画面が狙えることも意味する。
 
「BCNランキング」による薄型テレビの販売台数指数推移
 
9月23日にオープンした
「コジマ×ビックカメラ ニトリホームズ宮原店」

 21年9月23日にさいたま市北区にオープンしたばかりの「コジマ×ビックカメラ ニトリホームズ宮原店」の宮輝生店長は、コジマ×ビックカメラ 西友ひばりヶ丘店での手腕が期待されて新店に送り込まれた。「コロナ禍の郊外店では昼間に来店されるお客様が以前よりも増え、巣ごもり需要でたこ焼き器やホットプレートなどの調理家電が売れた。テレビも前年比で二桁以上の売れ行きだった」と20年のコロナ禍の様子を語る。

 21年の家電市場は、前年の特別定額給付金やテレワーク需要の反動減に見舞われているが、宮原店はオープン後1カ月を過ぎて取材したときも、順調な滑り出しとのことだった。
 
「テレビは65インチから提案する」と語る宮輝生店長

リアル店舗の実演で納得して購入

 新店らしく、天井のLEDライトは自在に調光できる。そのため有機ELテレビのコーナーは、液晶テレビのコーナーよりも少し暗めにし、より映像がきれいに見えるようにしている。

 郊外に立地する同店では、10年前に40インチ前後のテレビを購入したお客の買い替えが増えている。そうしたお客に、65インチから提案する。理由は「テレビのフレームが狭額縁になっていることもあり、お客様が50インチ台の新しいテレビにせっかく買い替えても、『あれ?思ったよりも小さいな』とがっかりされることを避けるため」と話す。
 
LED照明の照度を調光して有機ELのコーナーは薄暗くする

 メーカー指定で購入しにくるお客が多いのも、同店の商圏ならではの特徴といえる。ソニーやシャープ、パナソニック、TVS REGZAなどのメーカー別展示を採り入れている。

 しかも、メーカーカタログにあるタイプ別一覧と同じ配置でテレビを展示しているので、お客はカタログを見ながら実物を比較しやすい。販売員もスムーズな接客ができる。商圏の特徴やニーズに合わせて、展示手法を柔軟に変えているのだ。
 
画面の振動で音が出ている様子がわかるデモコーナー

 さて、同店でもネットとは違うリアル店舗ならではの実演コーナーに力を入れる。例えば、画面を振動させて高音質を出力することで、映像と音が一体になる臨場感をつくり出すソニーの「アコースティック サーフェス オーディオ」技術の実演コーナー。

 横に寝かせたBRAVIAの画面の上に、小さなビーズが入った透明容器が置いてある。映し出されたアニメーションから曲が流れると、容器の中のビーズが細かく上下に跳ねる。画面そのものが振動している様子を視覚に直接に訴えるデモである。大画面テレビを寝かせて設置できるのも、売り場が広い郊外店ならではだろう。
 
2011年3月の42型プラズマテレビと最新の55型有機ELテレビとの消費電力比較

 1階がディスカウントスーパーのオーケー、1階と2階がニトリホームズということもあり、週末は家族連れも多い。そんなお客が、大画面テレビに買い替える際に気になるのが消費電力。パナソニックのコーナーでは、11年3月発売された42型プラズマ「ビエラ」と、最新の55型4K有機EL「ビエラ」の消費電力を比較している。

 画面の小さなプラズマビエラが391.6Wであるのに対し、それより大画面の4K有機ELビエラが72.3W。有機ELの方が圧倒的に省エネなのがわかる。2台のテレビには同じ映像が流れ、消費電力の数字はシーンに応じてリアルタイムに変動する。こうした安心や納得が実感できるのも、リアル店舗ならではだろう。

 そうはいっても、65インチのテレビは大きすぎるのではないかと心配するお客も少なくない。そもそも、テレビ台も奥行きのあるタイプに買い替えなければならない。そこで提案するのが「壁寄せスタイル」である。
 
大画面でも部屋が広く感じる「壁寄せスタイル」を提案

 テレビを壁面に寄せて設置できる壁寄せスタンドを使うことで、今あるテレビよりも空間が生まれて部屋が広く感じるようになるという。テレビの背面と壁面の空間が縮まることで、新たな空間が生まれるというわけだ。

 もっとも同店の場合、同じフロアに家具専門店のニトリがあるので、テレビラックが置けるほど広い家に住むお客をニトリの売り場まで案内することもあるそうだ。

 壁寄せスタイルなら、「壁掛けテレビ」のように壁に穴を開けたり専門の施工技術が必要になったりしない。大画面テレビの新しいスタイルとして定着しそうだ。

驚きの「85インチ」から提案

 壁寄せスタイルに力を入れているのは、次に取材した埼玉県新座市の「コジマ×ビックカメラ新座店」でも同じだった。土田正信店長は「壁寄せスタンドはよく売れている。画面が大きくなっても圧迫感が少ないことを説明している」と語る。テレビ売り場の奥など、来店客の視点の先に壁寄せスタイルを展示し、目に留まるよう工夫している。
 
「コジマ×ビックカメラ新座店」

 提案する際も「最初は85型から提案する」と土田店長は語る。この連載で取材した店の中で、一番大きなサイズからのアプローチだ。85型から説明して65型に落ち着くのと、75型から説明して55型に落ち着くのとでは、顧客の満足感が大きく異なるという。
 
「いい商品を買いたいというお客様の期待に応えたい」と語る土田正信店長

 来店するお客は「大きなテレビがほしい」というニーズが強く、展示する中心サイズも以前の75インチから、今では85インチに変えたほど。LDK化でリビングが広くなっているのと、コロナ禍で家族でリビングにいる時間が増えたことも関係しているようだ。
 
新座店でも「壁寄せスタンド」が売れている

 「安いものを数多くではなく、接客の中でお客様のニーズを聞きながら、ご満足いただけるテレビを案内したい。店側では、それを案内できる環境を用意することで、お客様の期待に応えたい」と土田店長は語る。実際、液晶や有機ELの違いだけでなく、4Kや8Kの違いも理解して来店するお客も少なくないという。

 「いいテレビがほしい」というお客には8Kと4Kの比較コーナーに案内し、画面にルーペをあてて覗いてもらいながら、R(赤)、G(緑)、B(青)の画素の一つひとつのきめ細かさが違うことを理解してもらう。
 
ルーペを使えば、4Kと8Kの違いが一目瞭然

 もちろん、前回の記事で紹介した「最適視聴距離」の説明も、75型や85型の提案では欠かせない。床には、最適視聴距離の位置がわかるようにしている。これに壁寄せスタンドをセット提案することで、「大きなテレビがほしい」というお客の期待に応えられる。

 地デジ移行から10年が経ち、今まさにテレビの買い替えサイクルに突入している。そろそろ今のテレビは買い替え時かな。そう思ったなら家電量販店に足を運んでみると、きっと新しい発見に出会えるはずだ。(BCN・細田 立圭志)


*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコン本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計しているPOSデータベースで、日本の店頭市場の約4割(パソコンの場合)をカバーしています。