マイナンバーカードの最新事情

時事ネタ

2021/11/16 18:30

 オンライン行政手続きやコンビニでの証明書発行にも使え、2021年10月20日からは健康保険証としても利用できるようになったマイナンバーカードの最新状況をまとめる。便利なようだが、取得してみると実際問題として使いづらさも見えはじめてきている。今回は、マイナンバーカードの実態を知り、有効活用できる方法をいくつか提案する。

政府が普及を進めるマイナンバーカード(画像はイメージ)

マイナンバーカードの交付状況

 2021年10月1日時点で、総務省が発表しているマイナンバーカードの発行状況は次のとおりである。

総人口:1億2665万4244人
交付枚数:4867万2550枚
交付率:38.4%

特別区
人口:957万2763人
交付枚数:404万4587枚
交付率:42.3% 

指定都市
人口:2754万9061人
交付枚数:1113万9521枚
交付率:40.4% 

市(指定都市を除く) 
人口:7886万5174人
交付枚数:29,79万1,898枚
交付率:37.8% 

町村
人口:1066万7246人
交付枚数:369万6544枚
交付率:34.7%

出典:総務省 https://www.soumu.go.jp/main_content/000773377.pdf
※人口統計は2021年1月1日時点のもの

 マイナンバーカードの交付状況は約38%、四捨五入しても4割で、決していいとは言えない。特に市町村では、34.7~37.8%の交付状況と低く、政令指定都市や特別区でさえも40.4~42.3%という状態。10人に4人の割合でしかマイナンバーカードを活用できる状態にないのが分かる。

 注意してほしいのはマイナンバーカードを持っているだけでは何もメリットが受けられないこと。証明書の発行も、行政手続きのオンライン化もその人自身が操作しなければ意味がなく、マイナンバーカードの恩恵は受けられない。

 もちろん、健康保険証としての利用が21年10月20日から可能になったが、この事実を知らない人もまだ多い。わざわざしまい込んであるマイナンバーカードを引っ張り出してくるよりは、普段使用するカードケースや財布に入っている健康保険証をそのまま使った方が楽なのも事実である。私たち国民からするとそのためだけにマイナンバーカードをよく使う一軍の財布に移動するかというと、多くの人はそうしないだろうし、そうするメリットが感じられない。

 そもそも、マイナンバーカードを使わないことで何か不利益を被るわけでもない。

 さらにマイナンバーカードの実態を見ていこう。

地域別マイナンバーカード交付状況

 日本国内で最もマイナンバーカードの発行が進んでいるのは、市では石川県加賀市が70%、町村では大分県姫島村と新潟県粟島浦村の同率75.6%である。

石川県加賀市
人口:6万5307人
交付枚数:4万5714枚
交付率:70%

大分県姫島村
人口:1933人
交付枚数:1461枚
交付率:75.6%

新潟県粟島浦村
人口:344人
交付枚数:260枚
交付率:75.6%

 都道府県で見てみると、日本の首都東京でさえ交付率は41.7%という状況で、最も交付率が高いのは宮崎県の49.8%である。また、北関東の栃木県は35.7%、群馬県は32.4%、茨城県は36.8%である。

東京都
人口:1384万3525人
交付枚数:577万1844枚
交付率:41.7%

宮崎県
人口:108万7372人
交付枚数:54万1063枚
交付率:49.8%

栃木県
人口:195万5402人
交付枚数:69万8885枚
交付率:35.7%

群馬県
人口:195万8185人
交付枚数:63万4127枚
交付率:32.4%

茨城県
人口:290万7678人
交付枚数:107万0878枚
交付率:36.8%

沖縄県
人口:148万5484人
交付枚数:45万0387枚
交付率:30.3%

 オンライン手続きなどの関係で最も恩恵を受けそうな離島沖縄県は交付率30.3%で、日本で最も交付率が低くなっている。

 マイナンバーカードは16年に交付が開始されたが、約5年経過した21年10月の時点で国民の4割にしか交付できていないというのが実態だ。

年齢・男女別マイナンバーカード交付状況


 続いて、総務省が発表している年齢、性別ごとのマイナンバーカード交付状況を見ると、人口に対する交付枚数率が最も高い層は、44.5~46.1%に到達している60~74歳である。

 全国での交付状況と比べると60~74歳への交付状況は一歩進んでいるが、全体で見れば十分に進んでいるとは言い難い状況だ。特に0~14歳の層は、子ども本人だけでなく、親が同伴しての手続きになるため、親が手続きすればマイナンバーカードは交付できるのだが、実態は25~31.9%の交付率である。

 男女の交付率で見ても男性は39.0%、女性は37.9%の交付率で人口比を考慮すると男性の方が交付は進んでいるが、さほど大きな差はない。

普及率低迷の理由を探る

 まず政府は「デジタル時代のパスポート」としてマイナンバーカードを推進しているが、このカードそのものがアナログでデジタルではない。

 実際問題、胸に手を当てなくとも、この1年間を振り返ってみてほしい。マイナンバーを打ち込んだ、または、マイナンバーを要求されたことが何回あっただろうか。確定申告、税務情報の提出の他にマイナンバーカードを活用しただろうか。おそらく、マイナンバーカードを持っている人の中でも年間1回か2回程度しかマイナンバーを使っていないはずだ。

 多くの人は、住民票の取得や確定申告は年に1回あればいいほうだが、それだけのためにマイナンバーカードを取得する意味があるかというと、ない。たまにしか用事がない住民票の本籍地が書いてある戸籍謄本などを入手する時には、同時に役所とその周辺で済ませるべき用事があるので結局役所に出向くはずである。

 つまり、マイナンバーカードを使用してコンビニで発行することにメリットがある人はいないわけではないが、非常に限られており、カードを物理的に必要としていることからデジタルではなくアナログなのだ。スマートフォン(スマホ)だけで完結するようになって初めて本来のデジタルパスポートとなる。理想は顔認証や指紋認証での発行だが、プライバシーやセキュリティの不安からそう簡単には進まないだろう。

 そんな所に、コロナ禍が世界と日本を襲い今に至っている。スマホでできるビデオ会議やテレワークが推進されたのはデジタルの普及と言えるが、マイナンバーカードはそうではない。

マイナンバー普及に向けた取り組み

 マイナンバーカードを普及させるために政府はさまざまな策を講じてきた。

 中でもマイナポイントは、キャッシュレス決済と合わせて目玉施策であったが、21年4月時点で付与対象期間が終了し、対象者でもマイナポイントの申し込み・チャージ・利用が21年12月末まで延長はされているが、付与期間は終了しているのでこれ以上の伸びは期待できそうもない。

マイナポータルが便利かも!?

 そんなわけで、ここまではマイナンバーカードの酷評となってしまっているが、したくてしているわけではなく、事実を示しただけだ。しかし、今後「マイナポータル」というサービスがあることで、じわじわとマイナンバーカード取得率が伸びる可能性があることに気づいた。

________________________________________

マイナポータルとは…

 マイナポータルは、登録してログインすることで利用できるサービスで、行政手続きの電子申請、自身の情報の確認などが行えるサービスだ。

公式サイト
https://myna.go.jp/

________________________________________

 このマイナポータルで確認できることは次の通り。

●健康保険証情報
●特定健診情報・後期高齢者健診情報
●薬剤情報
●予防接種
●医療保険
●医療保険その他
●学校保健
●難病患者支援
●保険証の被保険者番号等
●医療保険情報の提供状況
●税・所得
●年金(年金その他)
●児童手当
●ひとり親家庭
●母子保健
●教育・就学支援
●障害児支援・小児慢性特定疾病医療
●世帯情報
●障害保健福祉
●生活保護
●中国残留邦人等支援
●介護・高齢者福祉
●雇用保険
●労災補償

 マイナポータル経由で、これらの情報が確認できる。一般のビジネスパーソンは、転職に伴って健康保険証の手続きが面倒だったが、マイナンバーカードで一元化されると転職の際の面倒が少し減るようだ。また、雇用保険や労災に関しての補償情報もマイナンバーカードで確認できるようで、これも転職時の面倒な手続きを少し減らすための第一歩になるだろう。

 子育て世代にとってもメリットがある。今までは子どものワクチン接種状況や児童手当、母子保健など子どもの情報管理が大変だったが、マイナポータルの利用があれば、スマホやPCからマイナポータルを通して情報の確認ができる。これはとてもありがたく、まさにデジタルなサービスだ。

 事業主はe-Taxの利用が可能となり、カードリーダーなどを必要とするが、自宅から確定申告ができるようになる。冬の寒い時期に、確定申告のために出かける用事が少し減り、テレワークの推進にもなるだろう。

 また、生活保護や高齢者福祉などにもマイナポータルが活用されるため、まだ身体が自由に動かせるうちにマイナンバーカードを取得だけしておき、生活と健康の急変に備えるのも一つの手だ。今、大丈夫でも明日には生活保護が必要な状況に陥るかもしれない、それがコロナ禍だ。

最も恩恵を受けているのは?

 マイナンバーカードの導入で最も恩恵を受けているのは、行政であろう。個人データが番号に紐付けされて管理しやすくなったことで、煩雑でミスの起きやすかった作業が、デジタル化で多少やりやすくなっているようである。

 ただし、現場の声を聞くと結局マイナンバーの厳重管理と、数字のダブルチェックなどを行うために作業工程の数はそこまで減っていないようだが、この調子でマイナンバーでの管理が進めば、数年、数十年先には、現場の作業は多少なりとも減っているはずだ、と願いたい。

マイナポータルの心配な所

 マイナポータルのウェブサイトやサービスはAmazonのAWS、cloudfrontを利用している。つまり、あのAWSが接続不良や落ちている場合はマイナポータルが使えなくなる。緊急を要する情報確認をすることはなさそうだが、いざ使いたい時に使えないのでは不便である。

 AWSを使っているということはリージョンの関係でリスク分散もできているはずだが、それでもうまくいかずに接続状況が不安定になるケースは何度かあった。そのため、マイナンバーカードと、マイナポータルに全てを頼るのは避けるべきで、マイナポータルでしか確認できない情報を持っているのはリスクになる。

 結局はマイナポータルで確認しつつも、手元に紙に書いた状態で子どものワクチン接種情報や労災関係の情報、年金関連の情報をメモしておく必要はあるだろう。

 また、厚生労働省の発表では、80億~100億円かけたマイナポータルの稼働率は0.1%にも満たないようで、これがソシャゲならばサービスは終了しているはずだ。

 ただ、マイナポータルは行政と国民をつなぎ、情報提供をデジタル化するためのものなので、1年で投資した金額分の成果を回収する必要はなく、今後10年、20年とかけて役に立つサービスになっていってほしい。時間がかかるのは承知の上だが、それでも稼働率が低すぎるとどうしても心配にはなるだろう。

マイナポータル利用における欠点

 今後のマイナンバーカードの普及促進に一役買いそうなマイナポータル。実は導入までにいくつかの壁がある。
 対応端末は「iOS 13.1以上がインストールされたiPhone 7以降の機種」と、その他以下参考ページに記載のスマホが対応している。iPadは使用不可である。

参考:https://faq.myna.go.jp/faq/show/2587?back=front%2Fcategory%3Ashow&category_id=10&page=1&site_domain=default&sort=sort_access&sort_order=desc

________________________________________

 PCでマイナポータルを利用する場合は、ICカードリーダーを使用するか、新規登録時にスマホで2次元バーコードの読み取りをする必要がある。この時、マイナンバーカードと4桁の暗証番号も必要である。

 PCの動作環境も少し指定があり、OSはMicrosoft Windows 8.1または、Microsoft Windows 10で、ブラウザは

●Microsoft Internet Explorer 11
●Microsoft Chromium版Edge 79.0.309.65以上
●Chrome 69以上
●Firefox 68以上

 である必要がある。

 Macの場合は、ブラウザはSafari、Chrome 69以上、Firefox 68以上で同じであるがOSは

●macOS Big Sur(バージョン11.0以上)
●macOS Catalina(バージョン10.15以上)
●macOS Mojave(バージョン10.14以上)

 が対応しているもので、Macを持っていない人からすると何がなんだか分からない。

 Windows 10のPCを持っていて、Chromeブラウザのアップデートもできている人ならば難なく登録作業ができるだろうが、世間一般の方はこうした手続きが、この時点で分からないケースが多い。

 PCで操作する人は、このあとコードの読み取りと「マイナポータルAP」のインストールが待っている。ソフトウェアとしてPCにダウンロードしてインストールする必要があり、PCの容量がなくなっているケースはないはずだが、その人の使用しているPCの状況に左右される点が多いという不安要素がある。

 つまり、スマホで登録した方がいささか楽なのだが、画面が小さくて文字が読みづらい、操作が分からない、端末が古くて反応が遅いなどの面倒な点が出てくる。

 PCで操作する場合でも、まずは本体やブラウザのアップデートから行う必要があり、ネット回線の状態によっては数時間待つ必要が出てくる。ITに慣れている人であれば難なくこなせるだろうが、世の中の多くの人はこの時点でつまづくのが実態だ。

 それでなくても仕事と生活でいっぱいいっぱいで、年に1回、2回使うかどうか分からないもののためにエネルギーを使うには相当なきっかけとメリット、時間の余裕が必要になる。こうした実態や事情から、魅力が確かにあるマイナポータルの利用率も、マイナンバーカードの交付率もいまいち伸びていないのではないか。

マイナンバーカードの今後の見通し

 2021年10月現在、マイナンバーカードが健康保険証の役割も担うようになったが、今後は

●国立大学での利用
●ハローワークカード
●Androidスマホへの機能連携
●運転免許証との一体化

 などが行われる予定になっている。現状のマイナンバーカードは未成年の本人確認に活用できるちょうどよいカードだが、運転免許証と一体化した場合はどうなるのか、運用上のアナログな変化や対応に不安が残る。

 2024年に向けて少しずつマイナンバーカードを従来のシステムと統合していくようだが、根本的な登録の手間や需要の低さから、さらに画期的で、大きなメリットがある対策が必要になると考えられる。

 また、マイナポータル経由で起こるセキュリティリスクへの対処も必要だ。マイナポータルは登録していなければ、不正アクセスはできないはずだが、既に登録していれば、ログインして前述の情報を確認できる。子どものワクチン接種状況、世帯情報、税務情報などがを確認できるということは、ログインさえできてしまえば、それらの情報を第三者でも確認できてしまう可能性があるということで、その人の多くが筒抜けになるという不安がある。

 これまでの行政が起こしてきた年金機構の情報漏えいやかんぽ生命の不正契約などを経験している多くの国民はデジタル管理の点において、特に行政に対する不信感がぬぐい切れていない。

 まずは、行政が国民からの信頼を獲得して、個人データを任せてもいいと安心できるくらいになるは誠実な行政運営をする必要がある。全国民へのマイナンバーカード普及には、まだしばらく時間がかかりそうだ。(GEAR)