店員によるユーザーへの的確なアドバイスはいまも重要
CPU単体のオンラインとオフラインの購買構成比は、半々くらいだと言う。新型コロナの流行前と比較しても、5~10%程度しか変わっておらず、ユーザーの多くがいまだに店頭で店員と相談して購入することにこだわっていることが見て取れる。自分の選択に間違いないか店員の意見を聞いて確認したり、自分がどんなマシンを組み上げるつもりか披露することに醍醐味を感じていたりといった目的で、ショップに足を運んでいるようだ。AMDは店員とユーザーのコミュニケーションも重視している。ユーザーの用途によっては、高額な最高性能の製品ばかりが正解となるわけではなく、CPUの性能を抑えてメモリーやストレージの容量を増やしたり、グラフィックカードやディスプレイに投資を振り分けたほうが、同じコストで目的により合致する快適さが得られる場合もある。財布の上限がシビアなときほど、バランスの取れたパーツ選びが重要であり、店員の的確なアドバイスは顧客満足に直結するのだ。
リテールに対しては定期的に研修会や勉強会を実施して、それらを収録した動画ファイルも共有できるようにし、教育ツールもリクエストに応じて提供している。近年はオンラインが普及して、勉強会の実施や教育ツールの提供がオンラインでやりやすくなっているそうだ。特に勉強会は、CPUだけ単独でやるよりも、グラフィックカードやマザーボードなどと一緒に実施したほうが理解が深めやすく喜ばれるという。
海外の事例を積極的に取り入れる
今後の施策についてはどうだろうか。AMDはワールドワイドで展開する企業のため、海外で上手くいった事例で国内に適用できそうなものは積極的に取り入れていきたいと考えている。たとえば、いままで国内ではTikTokを使ったプロモーションは展開したことがないが、TikTok経由での購買の強いベトナムやインドネシアなどでは、TikTokでのプロモーションをテスト的に行っており、日本でも似たようなことができないか検討している。また、ベトナム支社からはリモートワークに関する興味深い事例も報告されたという。「ベトナムも日本と同様、新型コロナの影響でリモートワークが増え、人と会う業務や事務所で行う作業がやりづらい状況が続いている。そんななか、リモートコントロールアプリを利用して、ユーザーとのコミュニケーションを図っている」と小澤氏。
コンテンツクリエイターやエンジニアがハードウェアを導入する際、使用するソフトウェアの組み合わせによる挙動の確認や、ワークフローでのパフォーマンスのチェックなど、いわゆる動作検証を事前に求めるケースは少なくない。通常は検討中の依頼主に機材を送って検証してもらうが、現在の情勢では機材の発送や受け取り、テストのために事務所に行くといった行為が気軽に行えなくなってしまった。
そこで必要な機材をセットした上で、クライアントにクラウド経由のリモートコントロールで検証してもらおうというわけだ。回線さえしっかりしていれば、現在のネットワーク環境は遅延がほとんど発生しない。ベトナム支社は、これにより外出や出社の制限による動作検証の問題を解決した。それどころか、AMDで用意する機材を減らせるため、従来以上に色々なクライアントに検証してもらいやすくなったという。まさに必要は発明の母である。小澤氏は国内で同様の展開が可能かどうか、ライセンスの確認などを急いでいるそうだ。
CPUとGPUを両方持つ強みを活かす
現在、PC業界でCPUとGPUの両方を市場に提供しているのは、AMDのみである。これはAMDにとって活かすべき大きな強みだ。CPUのRyzenとGPUのRadeonの頭文字を取り「R+R」と呼び、パソコンを選ぶときは、R+Rで揃えたほうがパーツの相性も良くて、性能面だけでなく安心感の上でもおすすめできると、エンドユーザーやリテールにアピールしている。また、AMDではCPUとGPUを一つにした、統合型プロセッサー「APU」の販売にも力を入れる。8月にはデスクトップ向けのAPU「Ryzen 7 5700G」と「Ryzen 5 5600G」を発売したばかりだ。
高性能な製品を継続的にリリースしながらも、製品力に寄りかからず、ポストコロナ時代における草の根の営業活動やコミュニティ支援も視野に入れて展開する。「今までできなかったことが、Ryzenを使ったらできるようになったと言われると本当にうれしい」。そう語る小澤氏の言葉は、AMDの社員だけでなく、きっとAMDのファンとも共有されている思いなのだろう。コアなファンの支えのあるAMDだからこそ、いまの時代にマッチしてシェアを伸ばしていると言えそうだ。(ライトアンドノート・諸山泰三)