PC業界をある程度長く知っている人ならば、ここ数年のCPU(プロセッサー)市場の異変を知らない者はいないだろう。2019年夏、家電量販店やECショップのPOSデータを集計する「BCNランキング」で、CPUカテゴリーにおけるメーカー別販売金額シェアで、AMDがインテルを抜いて一番手となった。
これまで高いコストパフォーマンスが魅力で選ばれてきたAMDだが、高性能で高価なCPUでもインテルと対等に渡り合っている。2021年に入ってからも両社は互角の勝負を続けており、当分は目を離せない状況が続くだろう。AMDのこの躍進の背景には何があったのか。日本AMDのストラテジック・アカウントセールス本部 代理店事業部 小澤俊行マネージャーに話を聞いた。
エンドユーザーからの支持も急速に拡大している。実のところ、大多数のエンドユーザーは技術力をそれほど重視するわけではない。多数の専門用語と製品投入サイクルのペースに付いていけない多くのユーザーは、スペック表を見比べたり、メーカーの売り文句を検証したりするよりも、信頼する友人知人や技術に明るいユーザーの太鼓判、つまり「評判」や「印象」を気にするからだ。
「まずはリテールやBTOメーカーとの協業施策などで露出を増やした。それにより、ユーザーの選択肢にRyzenが入るようになった。このとき気をつけたのは、リテールやBTOメーカーとの間で約束したことをきちんと実行することだ。新型コロナウイルスの流行により、あらゆる業界で約束を守ることの困難な状況が多数発生したが、そのなかでも当社は約束を履行にこだわった」と小澤氏。
リテールからは厳しい言葉をもらうこともあったというが、その言葉こそ製品の売上を伸ばすための重要な情報だと指摘する。小澤氏は「改善を求める言葉は厳しい内容が多くなりがちだが、その言葉は販売のプロ達が『売るために必要だ』と思ったからこそ出てきたもの。我々は何を期待されているのか、我々に応えられる内容なのか、より良い状態を目指すにはきちんと検討しなくてはならない。それは現場にいる担当や日本支社だけでなく、本社も同じ認識だ。当社は競合に比べるとまだまだ企業規模は小さいが、それを『身軽に動ける』というメリットに変えている」と述べる。
並行してユーザーのコミュニティの中に積極的に入っていったことも、「評判」や「印象」が向上する大きな要因となった。ここで助けになったのが「昔からのAMDファンの支えだった」そうだ。「ユーザー同士でRyzenやRadeonの話題で盛り上がってくれた。情報が拡散できるTwitterやFacebookといったソーシャルメディアのある時代だからこそ、AMDの良さが伝わった」(小澤氏)。
「昨今はゲームだけではなく、ゲームの裏で動作するアプリケーションも増えている。動画キャプチャやYouTubeなどに実況と一緒にアップロードする作業は、マシンパワーを非常に使う。マルチスレッド対応が真価を発揮するシーンでもある。家庭のインターネット回線も速くなっており、今まで1080pや720pの30fpsでしか配信できなかったユーザーが、4Kや60fpsなどで配信するようになってきた。CPUやGPUへの負荷もどんどん大きくなり、マシンに求められるパフォーマンスは高まっている。RyzenやRadeonはこのニーズに応えるペースで進化しているため、最先端のユーザーから支持が得られている」。
ビジネスシーンでも、AMDのCPUは注目されている。たとえば、これまで映画制作のプロダクションなどがCGで一つのシーンを作る場合、CGのレンダリングのために専門のクラウドサービスに依頼して、一週間や二週間という時間をかけてやっと完成した絵が返ってくるというスパンだった。しかし、Ryzen Threadripperを利用すれば、それが数時間で足元のPCでできるようになった。これはコンテンツクリエイターにとって単に時間と費用が抑えられるだけでなく、今までできなかったさまざまなアイデアを試みるチャンスになっている。
GPUはCPU以上に平均単価が上昇しているパーツだ。AMDではユーザーの選択肢の幅を広げるため、8月にコストパフォーマンスを重視した「Radeon RX 6600 XT」を発売した。これは6000番台の中でローエンドとなるモデルで、CPUからGPUのメモリーへのアクセスを高速化するAMD Smart Memory Accessに対応する。RX 6700 XTが1440p出力をターゲットにし、RX 6800以上のハイエンドが4K出力をターゲットとしているのに対し、RX6600 XTは1080p出力をターゲットにしている。高解像度を必要としないユーザーにとっては魅力的な製品といえるだろう。
これまで高いコストパフォーマンスが魅力で選ばれてきたAMDだが、高性能で高価なCPUでもインテルと対等に渡り合っている。2021年に入ってからも両社は互角の勝負を続けており、当分は目を離せない状況が続くだろう。AMDのこの躍進の背景には何があったのか。日本AMDのストラテジック・アカウントセールス本部 代理店事業部 小澤俊行マネージャーに話を聞いた。
いまの時代だからこそAMDの良さが伝わった
AMDの好調の理由はとても一言で言い表せるものではない。もちろん製品力は大きな要因だ。業界をリードする7nmプロセスによる設計・製造、「Zen」ファミリーをゼロから再設計した「Zen3」コア・アーキテクチャー、最大64コア・128スレッドでワークステーションにも使えるハイエンドデスクトップ向けの最強CPU「AMD Ryzen Threadripper」など、高い技術力を誇る。そして、高性能な製品をコミットした通りの形で継続的にマーケットに提供したことは、OEMメーカーやリテーラーからの信頼を大きく底上げした。エンドユーザーからの支持も急速に拡大している。実のところ、大多数のエンドユーザーは技術力をそれほど重視するわけではない。多数の専門用語と製品投入サイクルのペースに付いていけない多くのユーザーは、スペック表を見比べたり、メーカーの売り文句を検証したりするよりも、信頼する友人知人や技術に明るいユーザーの太鼓判、つまり「評判」や「印象」を気にするからだ。
「まずはリテールやBTOメーカーとの協業施策などで露出を増やした。それにより、ユーザーの選択肢にRyzenが入るようになった。このとき気をつけたのは、リテールやBTOメーカーとの間で約束したことをきちんと実行することだ。新型コロナウイルスの流行により、あらゆる業界で約束を守ることの困難な状況が多数発生したが、そのなかでも当社は約束を履行にこだわった」と小澤氏。
リテールからは厳しい言葉をもらうこともあったというが、その言葉こそ製品の売上を伸ばすための重要な情報だと指摘する。小澤氏は「改善を求める言葉は厳しい内容が多くなりがちだが、その言葉は販売のプロ達が『売るために必要だ』と思ったからこそ出てきたもの。我々は何を期待されているのか、我々に応えられる内容なのか、より良い状態を目指すにはきちんと検討しなくてはならない。それは現場にいる担当や日本支社だけでなく、本社も同じ認識だ。当社は競合に比べるとまだまだ企業規模は小さいが、それを『身軽に動ける』というメリットに変えている」と述べる。
並行してユーザーのコミュニティの中に積極的に入っていったことも、「評判」や「印象」が向上する大きな要因となった。ここで助けになったのが「昔からのAMDファンの支えだった」そうだ。「ユーザー同士でRyzenやRadeonの話題で盛り上がってくれた。情報が拡散できるTwitterやFacebookといったソーシャルメディアのある時代だからこそ、AMDの良さが伝わった」(小澤氏)。
平均単価の上昇傾向はまだしばらく続く
CPUやGPU(グラフィックチップ)の単価は上がって来ている。AMDではこの傾向はしばらく続くと見ている。単価アップはリテールやBTOメーカーにとっては悪くない傾向だが、ユーザーから見ればにわかに歓迎できない傾向と言える。売上を伸ばすには、単価の高さに対する納得感が必要だ。AMDではより高い性能で、ユーザーに最も恩恵のある製品を供給しようという考えから、Ryzen 7やRyzen 9、あるいはRyzen Threadripperなどのハイエンド製品の製造・販売を強化している。「昨今はゲームだけではなく、ゲームの裏で動作するアプリケーションも増えている。動画キャプチャやYouTubeなどに実況と一緒にアップロードする作業は、マシンパワーを非常に使う。マルチスレッド対応が真価を発揮するシーンでもある。家庭のインターネット回線も速くなっており、今まで1080pや720pの30fpsでしか配信できなかったユーザーが、4Kや60fpsなどで配信するようになってきた。CPUやGPUへの負荷もどんどん大きくなり、マシンに求められるパフォーマンスは高まっている。RyzenやRadeonはこのニーズに応えるペースで進化しているため、最先端のユーザーから支持が得られている」。
ビジネスシーンでも、AMDのCPUは注目されている。たとえば、これまで映画制作のプロダクションなどがCGで一つのシーンを作る場合、CGのレンダリングのために専門のクラウドサービスに依頼して、一週間や二週間という時間をかけてやっと完成した絵が返ってくるというスパンだった。しかし、Ryzen Threadripperを利用すれば、それが数時間で足元のPCでできるようになった。これはコンテンツクリエイターにとって単に時間と費用が抑えられるだけでなく、今までできなかったさまざまなアイデアを試みるチャンスになっている。
GPUはCPU以上に平均単価が上昇しているパーツだ。AMDではユーザーの選択肢の幅を広げるため、8月にコストパフォーマンスを重視した「Radeon RX 6600 XT」を発売した。これは6000番台の中でローエンドとなるモデルで、CPUからGPUのメモリーへのアクセスを高速化するAMD Smart Memory Accessに対応する。RX 6700 XTが1440p出力をターゲットにし、RX 6800以上のハイエンドが4K出力をターゲットとしているのに対し、RX6600 XTは1080p出力をターゲットにしている。高解像度を必要としないユーザーにとっては魅力的な製品といえるだろう。