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新しい事業に集中するための余力をつくる――エレコム 柴田幸生社長

インタビュー

2021/07/13 17:30

 2021年6月23日の午前、エレコムは定時株主総会を開催し、その後の取締役会で創業者の葉田順治社長が会長に、柴田幸生常務が社長に就任することが決議された。同日の14時、新社長に就任したばかりの柴田氏と葉田会長を、BCNの奥田喜久男会長がインタビューした。柴田社長の方針と葉田会長の展望を2回にわたって掲載する。

構成・文/細田 立圭志 写真/馬場 磨貴

エレコムの葉田順治会長(右)と柴田幸生社長

ワンマンではなく任せてもらえる

奥田 今日(6月23日)から柴田さんがエレコムの社長ですね。私は上場企業の社長が就任した当日にインタビューするのは初めてです。今、どんな心境ですか。

柴田幸生社長(以下、敬称略) 格好つけて言うわけではないですが、実感がないといったらおかしいですが、普段と変わらない気持ちです。新型コロナ禍なのであいさつ回りが難しい状況だったこともあるのかもしれません。株式市場や業界からも、まだ葉田がトップで会社を率いていると受け止められているのではないでしょうか。

 ただ、やらなければいけないことが私の中で整理されたこともあって、今は落ち着いた心境です。むしろ、(社長交代が伝えられた)2月や3月の方が、今後の会社のことを考えたりして苦しかったです。
 
中央がBCNの奥田喜久男会長

奥田 もう少し柴田さんにいじわるな質問をしたいのですがいいですか。葉田さんをどう評価していますか。

柴田 評価するなんて畏れ多いですが、エレコム全体からいうと、これまでは葉田が最初のトリガーとなって事業を推進してきました。ワンマンなように見られがちですが、そんなことはなく、むしろ多くのことを任せていただいています。うまくいっているときはもちろん、おかしいと思ったときも任せていただけます。小さな失敗で怒られることはありません。

葉田順治会長(以下、敬称略) 私がワンマンだというのは皆さんが勘違いされているところです。基本的に聞く耳をもっています。ただ、私が言い出したことは、だれにも止められない点は反省しています。チェックする機能をもたないといけませんね。

柴田 大きな方針を示したり、気になられた細かいこところだけパッパッと短く指摘いただきますが、じっと様子を見ていただけることがほとんどです。数字はよく確認されるので、数字が変なことにならない限りは任せてもらえます。

奥田 葉田さんと対等に話せるものなんですか。

柴田 とんでもないです。いつまでも師匠であることに変わりはありません。

葉田 30年以上、ずっと一緒に仕事をしていますからね。今、私は67歳ですが、60歳ぐらいのときに誰とは決めていませんでしたが、後進に譲らないといけないと考え、65歳で社長を退こうと考えていました。しかし、昨年からの新型コロナの影響で開発部門などに横たわっていた長年のおりのようなものが浮き彫りになり、荒療治をしました。これでなんとか柴田に継げるだろうと。

奥田 経営者なら思いますよね。きれいにして次にバトンを渡したいと。
 
「師匠であることは変わりない」と語る柴田幸生社長

会長が新しいことに集中するために負担を減らす

葉田 また、今の経営手法では売上高1000億円(注:2021年3月期の連結売上高は1080億5300万円、前期比7.1%増)が限界だと感じました。あと500億円なら伸ばせるかもしれませんが、1000億円、2000億円を積んでいくには戦略を大きく変えなければいけません。

 私はグループを俯瞰して、海外市場への進出やM&Aなどを手掛けていこうと考えています。社長交代はずっと前から考えていたことを実行に移しただけです。会社の規模を1000億円以上に成長させるには、今までの延長線上ではいけないということです。

奥田 売り上げの責任は柴田さんが持つのですか。

柴田 当然そうですね。業績について私の方でしっかりと責任を持つことで、葉田が新しい事業の取り組みに集中できます。これまでは、葉田が現実の数字と新しい事業の両方を見ていたので、新規事業に集中するための時間がとれなかったと思いました。その負担を減らすのが私のミッションです。

 足元の数字がしっかりして、初めて新しいことができます。まずは足元は私の方で担い、新しいことができる余力をつくりたいです。
 
海外市場への進出やM&Aを手掛けていくという葉田順治会長

奥田 しかし、長く一緒に仕事をしているとお互いに似てきませんか。

柴田 似ているということはないですね。

奥田 ほぉ。

柴田 私の方が功利的というかビジネスに関係した付き合いが多いですが、葉田はジャンルに関係なくてもどんどん入っていって、そこからビジネスにつなげたりします。

奥田 確かに柴田さんの手法は、葉田さんの社交性とか人脈づくりとは少し違いますよね。
 
経営のバトンが引き継がれた当日のインタビューが実現した

モノ売りからの脱却を武器に

柴田 例えば、5年ほど前から舵を切ったBtoB事業に関しても、戦略をだいぶ変え、今後の方向性が見えてきました。モノ売りから脱却し、工事やサービス、特にネットワークをセットにして販売できることが武器になっています。これにソフトを組み合わせれば、単純なモノ売りから脱することができると考えています。

奥田 なるほど、具体的ですね。

柴田 画期的だったのが、自社の製品だけでは受注できなかったネットワークの案件が、他社の業務用製品を組み合わせるなどして、われわれがフロントに立ちながら組み立てられるようになったことです。足りないものや重要なものは自社でつくったり、ウインウインで他社の製品を組み合わせたりする方法です。

葉田 子会社には、新卒も含めて頼りになる技術者がいますし、ネットワークがつながらないときのファームウエア解析などもできますから。

奥田 新社長がこれから年月を刻んでいくと、これまでのエレコムとはかなり違った事業構造になりそうですね。わかりやすい事業構造というか。葉田さんはふわーっと構想がどんどんと膨らんでいって、外から見ていると、たまに、あれとあれはどうなっていくんだろうと考えたりすることがありました。

葉田 今度は違います。どう組み立てていくかだと思います。M&Aなどは柴田と相談しながら進めていきます。

奥田 いま、柴田と相談してとおっしゃった?(笑)先ほど、売上高3000億円の今後の話も出たので、今度は葉田さんの会長としての展望について聞きましょう。(つづく)