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日本初「空飛ぶクルマ」の屋外での無人飛行成功で拓ける未来

時事ネタ

2021/07/03 19:00

 6月4日、空飛ぶクルマの実現に向けて大きな一歩が踏み出された。岡山県倉敷市で航空宇宙産業の実現を目指すMASCとアーバン・エア・モビリティ事業を展開する中国・広州のEHangホールディングスが、空飛ぶクルマ「Ehang216」の日本初となる国交省の機体認証と屋外試験飛行の許可を取得した飛行に成功したのだ。2040年に100兆円ともいわれる新しい市場の創造に向けて動き出した。法整備やルールづくりはこれからだが、今回の試験飛行の意義についてMASC東京事務局に話を聞いた。

6月4日に日本初の屋外試験飛行許可を取得した飛行に成功した空飛ぶクルマ「Ehang216」
(MASCの公式YouTube動画より、以下同じ)

2023年の事業スタートが目標

 一般社団法人MASC(岡山県倉敷市水島地域への航空宇宙産業クラスターの実現に向けた研究会)は、「水島を次世代のエアモビリティの城下町にする」というスローガンのもと、文字通り航空宇宙分野の先端技術関連のビジネスを地元で広げる。MASCは、それを実現するための、いわばインキュベーション的な役割を担う。

 今回、MASCが所有するEhang216という空飛ぶクルマが、管轄する国交省航空局から識別記号「JX-0168」として登録。日本初となる屋外試験飛行の許可を得て、岡山県笠岡飛行場で日本初の屋外飛行試験を成功させた。

 わずか5分間の無人飛行だったが、大きな一歩となった。機体の制御やフライトのプログラミングなどはEHangホールディングスのエンジニアが担った。

 経産省と国交省が示す空飛ぶクルマのロードマップによると、2023年の事業スタートを目標に据えるなど、実現化に向けた動きは意外に早い。まずはモノの移動からスタートし、その次に地方での人の移動、そして20年代後半には都市での人の移動を目指している。
 
経産省と国交省の「空飛ぶクルマ」の実現に向けたロードマップ(一部抜粋)

空飛ぶクルマの飛行高度は150m以上

 ここで、空飛ぶクルマについてあらためて説明すると、いわゆるドローンとは異なる。空飛ぶクルマは、ドローンと通常の航空機・ヘリコプターの間に位置づけられ、航空法による「航空機」の適用となる。海外ではeVTOL(イーヴイトール、Electric Vertical Take-Off and Landing=電動垂直離着陸機)などと呼ばれる。

 ドローンと空飛ぶクルマ、航空機別に飛行高度と管理システムを区分する。ドローンは高度150m以下で、ドローン向けの運行管理システムがある。その上の150m以上の高度が空飛ぶクルマとなるが、高度の上限や管理システムはまだ決まっていない。航空機やヘリコプターは、空飛ぶクルマよりも上の飛行高度で、システムは航空交通管理システム(ATM)で運用している。

 ちなみに、EHnag216は2人乗りの仕様だが、まだ日本における有人飛行やパイロット同乗の有無などの法律が定まっていないため、今回の試験飛行は無人で行われた。

 このように、まだ何も決まってない中での今回の試験飛行には、どのような意義があるのだろうか。MASC東京事務局の鋤本浩一氏は「世界的にも議論はまだはじまったばかりで、今はスタート地点にいる。そうした中、世界から遅れをとらないためにも、政府から許可を得て実際に屋外で空飛ぶクルマを飛ばした意味は大きい」と語る。
 
MASCが保有するEhang216

自動車産業と同じ市場構造が空に生まれる

 また、新たに生まれる空飛ぶクルマの市場にも期待が膨らむ。鋤本氏は「世界の航空産業の市場規模は2019年に88兆円といわれ、これが40年には空飛ぶクルマだけで100兆円の市場が生まれると試算されている。運行・運用するための免許制度、修理サービスやメンテナンス、観光やエアタクシーなど新しいサービス産業が創出される。自動車産業と同じような市場構造が、空に新しく生まれると考えればわかりやすいのではないか」と語る。

 もちろん、ドローンを使った物資輸送と同じように、離島や中山間に住む人々の課題解決や医療サービスの提供などのビジネスが広がることは言うまでもない。日本の人口が減る中、新たな道路や鉄道がつくれなくても、空を移動することができれば、交通インフラに関する社会的な負担も抑えられるだろう。

 6月下旬、岡南飛行場に保管されているEhang216の実物を取材してきた。まず驚いたのは、コクピットにヘリコプターのような複雑な計器が一切ないこと。正面にタブレット端末が2台並べられているが、それはタッチパネルで操作するものではなく、表示されたものを見るだけのモニターに過ぎないという。

 Ehangホールディングスによると、タブレット端末は機体をジャンプスタートするためのもので、主な目的はフライトに関するデータを表示するという。飛行全体のプロセスは自律的で、Ehang216はコマンド&コントロールシステムによって管理されるオートパイロットで運行されるとのことだ。
 
Ehang216の内部は座席のほか2台のタブレット端末があるだけ

 操縦かんのない内部を見て、人とテクノロジーの信頼関係が必須であると感じた。機体の強度や運行のプログラム制御に絶対的な安全が担保されなければいけない。事故が起きないための仕組みや、万が一に事故が起きたときの責任の所在、保険、補償など、乗り越えるべき課題も多い。

 MASCでは、まずは23年、24年に目視外の有人エリアで飛行するための基準(レベル4)の制定を目標に据える。そして、それまでに蓄積したノウハウの地域間連携や共有などを進めていく。鋤本氏は「地元に実装する際に地元の理解が不可欠になる。ラストワンマイルで果たすべきMASCの役割は大きい」と語る。

 地元住民に受け入れられるためにも、空飛ぶクルマが地域に与える恩恵やメリットなどを丁寧に説明していく必要がある。空飛ぶクルマの実用化に向けて動き出したMASCの今後の活躍に期待したい。(BCN・細田 立圭志)