勉学と対極に位置付けられることもある“ゲーム”が、姿を変えようとしている──。北米教育eスポーツ連盟(NASEF ※読みナセフ 以下、北米ナセフ)は、ゲームを競技として捉えるeスポーツを高校生の学習や教育を促進するための効果的ツールとして活用し、教育を支援する団体だ。eスポーツを通して、知能向上、社会性・情動性を育む社会感情学習などに取り組む。3月のサミットを皮切りに、日本本部「NASEF JAPAN (※読みナセフジャパン 以降ナセフジャパン)」も本格的に動き始めた。どのような未来を描いているのか、松原昭博会長に話を聞いた。
── 「ゲームなんてしてないで、勉強しなさい」と、多くのゲーマーが耳にしたはずです。そういった印象を持たれたゲームが、どのように教育につながるのでしょうか。
松原(敬称略) eスポーツに興味のある生徒はたくさんいます。中には、何よりもeスポーツやゲームが得意という人もいるでしょう。夢中で遊んでいるそれを禁止したところで、結局は隠れて遊ぶはずです。私たちも子どものころはそうでしたから。
子どもがそんなにも情熱を注いでいるなら、いっそのこと好きなことを通して学んでもらえばいいと。学習用のタイトルをつくるのではなく、“楽しく遊んでいる時間”の一部をそのまま“教育的な価値を自然に享受できる時間”として楽しんでもらうこと。それがナセフジャパンの使命であり、北米ナセフ創設のきっかけになった考え方です。
── “大人”が正しく導くことで、楽しい時間から学びを生み出すわけですね。
松原 ある程度のコントロールが無いと、楽しい思い出だけになってしまいますからね。例えば高校にeスポーツ部があって、顧問の先生がいて、先輩がいる。そして、規律に則り、目標を目指し切磋琢磨する。こうした環境を整えるサポートもしていきます。
環境だけでなく、eスポーツに教育的な価値を付加する方法も提供していきます。学びの時間を生み出すにも、学年や生徒の性格などによって、それぞれ適した手段を考えなければなりません。学校独自、あるいは先生個人で探ることもできますが、もっと効率的に生徒を導くことができるよう、参考になるデータ・カリキュラムを提供することがナセフジャパンの役割です。
そのための仕組みとして、ナセフジャパンには先生もしくは学校が登録できる「メンバーシップ会員」制度があります。ご登録いただくと、eスポーツを通した学習を実践している学校が取り入れている手法やその成果、専門家による分析やケースに応じた対処など、様々なデータを閲覧することができます。
── 先に取り組んでいる海外の事例は多いかもしれませんが、もっと身近な日本の事例などもあるのでしょうか。
松原 身近な例として、すでに日本国内で先駆的な取り組みをされている先生方にナセフジャパンのフェローとなって頂いております。そこで開発された日本の教育現場ですでに実践されているコンテンツも紹介していきます。
── それだけの恩恵が受けられるにもかかわらず、メンバーシップは年会費や登録費はかからないそうですね。
松原 はい、無料です。また、権利はたくさんありますが、義務を課すことはありません。環境構築に向けたハードルはできるだけ低くしておきたいのです。
── いうなれば、先生もしくは学校が「メンバーシップに登録する」こと自体が唯一のハードルということでしょうか。メリットばかりなら登録しても損はなさそうですが。
松原 6月1日時点の登録学校数は84校ですが、そう簡単には拡がりません。認知度が不足しているというのはもちろんありますが、eスポーツ自体が社会的に“いいもの”という認識ではない場合もあります。こればかりは、実績を積み上げて認めてもらうしかありません。eスポーツが教育のきっかけになる、と。
また、登録しなくても閲覧できるコンテンツもあります。先生個人が「いい」と思っても、学校自体が否定的なケースもあります。そうした時にも、材料さえそろえば先生が学校を説得できる場合もあるでしょう。そのための事例紹介でもあります。生徒がそれをもとに先生を説得して、登録につながることもあるかもしれません。
さらに、eスポーツに取り組む、あるいは取り組もうとする先生や学校、メンバーシップに向けて定期的に説明会やセミナーも開催します。“教育×eスポーツ”をコンセプトに、オンラインで集まっていただく想定です。eスポーツ部のはじめ方や授業に取り入れる方法など、多くのコンテンツを用意しています。
── 3月に行われたシンポジウムでお聞きしましたが、eスポーツの大会なども頻繁に開催されるとのことでした。部活や生徒にとっては短期的な活動目標になり得ますから、それを契機に登録する先生や学校もあるかもしれませんね。
松原 地域予選から行う「MAJOR」と、誰でも参加できる「EXTRA」という大会を計画しています。毎月なんらかの大会を開催することで、士気を高めていただくとともに、実力を測る場として活用していただくのが当面の目標です。将来的には、もっと学習的な要素もうまく取り入れられるよう、模索していきます。
現在、高校生向けのeスポーツの大きな大会は、「全国高校eスポーツ選手権」と、「STAGE:0」の二つです。これらの出場を目指している高校生は多くいると思いますが、それぞれ開催が年に1回であるため、期間が開きすぎてしまいます。
ですので、気軽に参加できる大会として「MAJOR」と「EXTRA」で間を補います。また、種目に関しても、要望の多い競技タイトルを採用していきます。長期的な目標と短期的な目標を持つことで、常に部活動に活気が出るのではないでしょうか。
── 北米ナセフではeスポーツを通じてキャリア教育なども実践していましたが、日本でも同様の施策を考えているのでしょうか。
松原 ナセフジャパンでも、「Beyond the Game Challenge」というイベントを用意しています。eスポーツは競技シーンだけではなく、それを支えるスタッフは欠かせません。高校生の将来のキャリア選択や自身の可能性を拡げるコンテスト形式のアクティブラーニングを軸としたイベントです。eスポーツイベントの企画書や、大会ロゴ、ポスターなどの作品を提出していただく形のコンテストです。また、クリエイティブ部門としてマインクラフトやフォートナイトでもさまざまな作品を募集する予定です。
この他、eスポーツを通じてさまざまなチャレンジを行う「eスポーツ・ウィンターキャンプ」も企画しています。学校の枠を越えて、同じ関心や新しいことに取り組む高校生たちの交流の場を生み出すとともに、非日常の環境で成長するきっかけを作り出します。
── さまざまなプログラムやサポート体制を整えるにはかなりのリソースが必要になるかと思います。
松原 あらゆるものを無償で提供する計画ですから、その通りですね。ですので、こちらも実績を積み重ねることで、将来的には当団体の理念や活動に賛同していただいた方に、支援していただくような形を想定しています。
──お話を通して、“ゲーム”ではなく“eスポーツ”という言葉を意識して使っていらっしゃいました。その理由をうかがえますか。
松原 “ゲーム”と“eスポーツ”の違いについてよく聞かれます。eスポーツとは、“競技”であり、我々はゲームの持つ「競技性」という部分に焦点をあてているからです。私たちが「eスポーツ」と呼ぶのは、「対戦相手と競い合ってゲームをプレーする行為」ですので、そこには自然とコミュニケーションが生まれます。そのコミュニケーションを大切にするため、「ゲーム」とは明確に分けて呼んでいます。
また、先ほどの話に出た通り、「ゲーム」は勉学と対極に語られることも少なくありません。頭ごなしに否定されてしまう可能性があるわけです。そうした事態を避けるためでもあります。しかし我々は、eスポーツを通して、ゲームの社会的な地位向上も並行して進めていきます。“ゲームが得意”という生徒が輝ける環境を作ることが、子どもたちの可能性を拡げることにもつながるはずですから。
── 「ゲームなんてしてないで、勉強しなさい」と、多くのゲーマーが耳にしたはずです。そういった印象を持たれたゲームが、どのように教育につながるのでしょうか。
松原(敬称略) eスポーツに興味のある生徒はたくさんいます。中には、何よりもeスポーツやゲームが得意という人もいるでしょう。夢中で遊んでいるそれを禁止したところで、結局は隠れて遊ぶはずです。私たちも子どものころはそうでしたから。
子どもがそんなにも情熱を注いでいるなら、いっそのこと好きなことを通して学んでもらえばいいと。学習用のタイトルをつくるのではなく、“楽しく遊んでいる時間”の一部をそのまま“教育的な価値を自然に享受できる時間”として楽しんでもらうこと。それがナセフジャパンの使命であり、北米ナセフ創設のきっかけになった考え方です。
── “大人”が正しく導くことで、楽しい時間から学びを生み出すわけですね。
松原 ある程度のコントロールが無いと、楽しい思い出だけになってしまいますからね。例えば高校にeスポーツ部があって、顧問の先生がいて、先輩がいる。そして、規律に則り、目標を目指し切磋琢磨する。こうした環境を整えるサポートもしていきます。
環境だけでなく、eスポーツに教育的な価値を付加する方法も提供していきます。学びの時間を生み出すにも、学年や生徒の性格などによって、それぞれ適した手段を考えなければなりません。学校独自、あるいは先生個人で探ることもできますが、もっと効率的に生徒を導くことができるよう、参考になるデータ・カリキュラムを提供することがナセフジャパンの役割です。
そのための仕組みとして、ナセフジャパンには先生もしくは学校が登録できる「メンバーシップ会員」制度があります。ご登録いただくと、eスポーツを通した学習を実践している学校が取り入れている手法やその成果、専門家による分析やケースに応じた対処など、様々なデータを閲覧することができます。
── 先に取り組んでいる海外の事例は多いかもしれませんが、もっと身近な日本の事例などもあるのでしょうか。
松原 身近な例として、すでに日本国内で先駆的な取り組みをされている先生方にナセフジャパンのフェローとなって頂いております。そこで開発された日本の教育現場ですでに実践されているコンテンツも紹介していきます。
── それだけの恩恵が受けられるにもかかわらず、メンバーシップは年会費や登録費はかからないそうですね。
松原 はい、無料です。また、権利はたくさんありますが、義務を課すことはありません。環境構築に向けたハードルはできるだけ低くしておきたいのです。
── いうなれば、先生もしくは学校が「メンバーシップに登録する」こと自体が唯一のハードルということでしょうか。メリットばかりなら登録しても損はなさそうですが。
松原 6月1日時点の登録学校数は84校ですが、そう簡単には拡がりません。認知度が不足しているというのはもちろんありますが、eスポーツ自体が社会的に“いいもの”という認識ではない場合もあります。こればかりは、実績を積み上げて認めてもらうしかありません。eスポーツが教育のきっかけになる、と。
また、登録しなくても閲覧できるコンテンツもあります。先生個人が「いい」と思っても、学校自体が否定的なケースもあります。そうした時にも、材料さえそろえば先生が学校を説得できる場合もあるでしょう。そのための事例紹介でもあります。生徒がそれをもとに先生を説得して、登録につながることもあるかもしれません。
さらに、eスポーツに取り組む、あるいは取り組もうとする先生や学校、メンバーシップに向けて定期的に説明会やセミナーも開催します。“教育×eスポーツ”をコンセプトに、オンラインで集まっていただく想定です。eスポーツ部のはじめ方や授業に取り入れる方法など、多くのコンテンツを用意しています。
── 3月に行われたシンポジウムでお聞きしましたが、eスポーツの大会なども頻繁に開催されるとのことでした。部活や生徒にとっては短期的な活動目標になり得ますから、それを契機に登録する先生や学校もあるかもしれませんね。
松原 地域予選から行う「MAJOR」と、誰でも参加できる「EXTRA」という大会を計画しています。毎月なんらかの大会を開催することで、士気を高めていただくとともに、実力を測る場として活用していただくのが当面の目標です。将来的には、もっと学習的な要素もうまく取り入れられるよう、模索していきます。
現在、高校生向けのeスポーツの大きな大会は、「全国高校eスポーツ選手権」と、「STAGE:0」の二つです。これらの出場を目指している高校生は多くいると思いますが、それぞれ開催が年に1回であるため、期間が開きすぎてしまいます。
ですので、気軽に参加できる大会として「MAJOR」と「EXTRA」で間を補います。また、種目に関しても、要望の多い競技タイトルを採用していきます。長期的な目標と短期的な目標を持つことで、常に部活動に活気が出るのではないでしょうか。
── 北米ナセフではeスポーツを通じてキャリア教育なども実践していましたが、日本でも同様の施策を考えているのでしょうか。
松原 ナセフジャパンでも、「Beyond the Game Challenge」というイベントを用意しています。eスポーツは競技シーンだけではなく、それを支えるスタッフは欠かせません。高校生の将来のキャリア選択や自身の可能性を拡げるコンテスト形式のアクティブラーニングを軸としたイベントです。eスポーツイベントの企画書や、大会ロゴ、ポスターなどの作品を提出していただく形のコンテストです。また、クリエイティブ部門としてマインクラフトやフォートナイトでもさまざまな作品を募集する予定です。
この他、eスポーツを通じてさまざまなチャレンジを行う「eスポーツ・ウィンターキャンプ」も企画しています。学校の枠を越えて、同じ関心や新しいことに取り組む高校生たちの交流の場を生み出すとともに、非日常の環境で成長するきっかけを作り出します。
── さまざまなプログラムやサポート体制を整えるにはかなりのリソースが必要になるかと思います。
松原 あらゆるものを無償で提供する計画ですから、その通りですね。ですので、こちらも実績を積み重ねることで、将来的には当団体の理念や活動に賛同していただいた方に、支援していただくような形を想定しています。
──お話を通して、“ゲーム”ではなく“eスポーツ”という言葉を意識して使っていらっしゃいました。その理由をうかがえますか。
松原 “ゲーム”と“eスポーツ”の違いについてよく聞かれます。eスポーツとは、“競技”であり、我々はゲームの持つ「競技性」という部分に焦点をあてているからです。私たちが「eスポーツ」と呼ぶのは、「対戦相手と競い合ってゲームをプレーする行為」ですので、そこには自然とコミュニケーションが生まれます。そのコミュニケーションを大切にするため、「ゲーム」とは明確に分けて呼んでいます。
また、先ほどの話に出た通り、「ゲーム」は勉学と対極に語られることも少なくありません。頭ごなしに否定されてしまう可能性があるわけです。そうした事態を避けるためでもあります。しかし我々は、eスポーツを通して、ゲームの社会的な地位向上も並行して進めていきます。“ゲームが得意”という生徒が輝ける環境を作ることが、子どもたちの可能性を拡げることにもつながるはずですから。