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今こそ求められる新しい補聴器販売、「出張訪問」と「リモートケア」の可能性

インタビュー

2021/06/01 19:10

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、さまざまな業態がこれまでのあり方を見直すことを余儀なくされている。難聴者に欠かせない補聴器の販売店も例外ではなく、新たな販売手法を模索している最中だ。今回は、補聴器販売店ヒヤリングストアを展開するリードビジョンの清水大輔代表に「出張訪問」と「リモートケア」の二つの新しい手法について話を聞いた。

 ヒヤリングストアは現在、都内で8店舗を展開している。専門性の高さと手厚いサポートで都内在住者だけでなく、地方のユーザーからも支持を得ているという。地方では補聴器の専門店が少ない場所もあり、メガネ販売店に併設した店舗などで購入するしかないケースが多いからだ。

 新型コロナに対して清水氏は緊急事態宣言が発令されるより少し早い段階から対応に動いていた。「親族がニューヨークで働いていて日々状況を聞いていた。リスク管理上、すぐさま対策を打たなければならないと感じた」と語る。早期に店舗の休業を決め、再開後は現在に至るまで時短営業を行っている。
 
リードビジョンの清水氏にコロナ禍に対応した新たな
補聴器販売について話を聞いた

「出張訪問」のニーズはコロナ対策以外にも

 営業時間が少なくなった一方で、驚くべきことに業績は前年と比較して伸長したという。その要因として、マスクやパーテーションが日常化したことで補聴器の需要が顕在化したことがあげられる。マスクで口元が見えない、またパーテーション越しで声が聞き取りづらいなどの状況が発生し、補聴器に必要性を感じるユーザーが増えた。

 また、外出しづらい現状を踏まえ、新たにスタートした「出張訪問」も顧客から評価を得ている。これはコロナで来店できない顧客の自宅に店舗を丸ごと持って行くという移動店舗の発想だ。車は、キャンピングカーを改造したものを使用している。「キャンピングカーには聴力測定室も作られており、店舗と同じ業務が行えるようになっている。スタッフが自宅に入るのは感染対策の観点から不安に感じるお客様もいるが、車内であればそうしたこともない」(清水氏)。
 
改造したキャンピングカーで出張訪問を行っている
 
車の内部。店舗と同等の設備を備えている
 
防音性が高いので聴力測定も行える

 コロナ対策として始めた「出張訪問」だが、徐々に他のニーズもあることが分かってきた。補聴器ユーザーは高齢の方が多いので、外出には体力を要する。それが出張訪問であれば、自宅からちょっと出るだけで調整をしてもらえる。家族から補聴器を勧める場合も、店舗に連れていくよりは近くまできてもらった方がハードルが低い。
 
高齢の方にとっては外出する体力を消耗しないという利点もある

 清水氏は、「現在は1台のキャンピングカーで都内を中心に回っているが、ゆくゆくは台数を増やしてエリアを広げていきたい。帰省ついでに実家に来てもらい、親に補聴器を試してもらうなどの使い方もしてもらえるのではないかと考えている」と今後の展望を語る。

圧倒的に便利な「リモートケア」に対する期待は大きい

 スマートフォン(スマホ)を利用した「リモートケア」も昨今拡大している新しい販売手法だ。ちょうど広がり始めていたタイミングだったが、コロナをきっかけにユーザーが増えてきている。こちらは出張訪問と違い、販売スタッフは店舗から動く必要がない。

 例えば、オーティコン補聴器が提供している「Oticon RemoteCare」はユーザーがスマホに専用アプリをインストールしていれば利用することができる。アプリと補聴器をひも付けておけば、ビデオ電話でコミュニケーションをとりながら遠隔で補聴器の調整を行うことができる。
 
スマホに専用アプリをインストールしていれば、
どこからでも店舗のスタッフとコミュニケーションをとることができる

 「お客様にとってのメリットは、何といっても『時間をとらない』ということだ。職場や自宅から補聴器の調整ができるので、予約もとりやすい。特に遠方のお客様には利便性を感じていただけている」(清水氏)。スマホを所有していること、Wi-Fi通信ができる環境があること、などの条件はあるものの、利用したユーザーからの反応は良好だという。
 
リモートケアのメリットを語る清水氏

 清水代表取締役は、「リモートケアで得られる利便性は大きく、今後、店舗に行かない時代になっていくかもしれない。ただ店舗がなくなるということはなく、遠隔で手軽にケアを受ける便利さを優先する方と、店舗で実際に顔を合わせてコミュニケーションをとる安心感を優先する方の二極化が進んでいくと考えている」と今後の補聴器専門店のあり方について見解を示した。(BCN・大蔵大輔)