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スパコン京で活躍した本物のCPUが「京コンピュータ前」駅に最後の里帰り

オピニオン

2021/05/30 18:35

 「京コンピュータ前」。なんて素敵な駅名だろう。神戸空港から三宮に向かう神戸新交通ポートアイランド線(ポートライナー)に乗って1駅目。初めてこの駅名を見つけたときには、慌ててカメラを取り出して写真を撮った。世界広しといえども、一国を代表するスーパーコンピュータ(スパコン)の愛称を名乗る駅なんてどこにもないだろう。何とか前なんてバス停みたいだが、東京にだって西武新宿線に新井薬師前という駅もある。立派な新交通システムの駅だ。その「京」が6月18日を最後に駅名から消える。スパコンの京は2年前に7年間の役目を終え、すでにシャットダウンされている。いつまでも古い名称を引きずるわけにはいかない。

スパコン京に搭載されていた実際のCPUが
「京コンピュータ前」駅に里帰り

 写真は、京に搭載されていた実際のCPUだ。20年に理化学研究所(理研)が募った寄付に応じた者への返礼品として、1000個限定で無償譲渡された。形見分けのようなものだ。駅名から名前が消える前に里帰りさせて、大活躍の証しとして撮影した。

 今では表面にきれいなプリントが施されシリアルナンバーが打たれ小さな桐の箱に収まってはいるが、京で稼働していた富士通製のSPARC64 VIIIfxそのもの。およそ7億6000万個のトランジスタを備え、水冷30度時で58Wの電力を消費する。8コア、2.0GHzで動作しピーク性能は128ギガ・フロップス。PC用のCPUと比較すると、158.4ギガ・フロップスのインテルSandy Bridge世代・Core i7よりやや遅い程度でしかない。

 しかし、スパコン全体ともなればスケールはケタ違い。このCPUを実に8万8128個も搭載してぶん回し、毎秒およそ10ペタ・フロップス、1京5100兆回の計算能力を実現させた。「京」の由来だ。
 
理研が実施した「Society5.0 に向けた高性能計算科学研究支援及び研究者育成支援に関する寄付金」に対して5万円以上寄付した希望者に、理研が資産として管理していたCPUをはじめとする京本体の一部が無償で譲渡された

 京といえば、民主党政権時の2009年「2位じゃダメなんでしょうか」と蓮舫議員にいじめられたスパコンとしても有名だ。悪名高き事業仕分けの結果、予算は一旦凍結されたが後に奇跡の復活。1120億円をかけて、理研と富士通が共同開発した。共用開始は12年9月。19年8月まで稼働した。気象予測や医療をはじめ、多くの分野で活躍。延べ1万1095人が活用した。

 スパコンの世界ランキングでは、2011年に「TOP500」で2回首位を獲得したのを皮切りに、産業利用の国際性能指標「HPCG」で3回、ビッグデータ処理の国際性能ランキング「Graph500」では10回も1位を獲得。見事に蓮舫の鼻を明かした。名前がユニークだったこともあって、スパコンの存在を世に広く知らしめたのも京の功績の一つだ。
 
かつて「京」が稼働し、現在は「富岳」が活躍している理研の計算科学研究センター

 駅名は、6月19日から「計算科学センター(神戸どうぶつ王国・「富岳」前)」に変わる。かつて京が活躍していた理研の計算科学研究センターでは、3月9日に後継のスパコン「富岳」の共用を開始。すでに新型コロナウイルス感染症の感染経路分析などで大活躍している。さよなら京。よく頑張った。そしてお疲れ様。(BCN・道越一郎)