なぜ売れるトラックボール──モバイル需要で売上倍増

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2020/11/22 17:00

 テレワークが当たり前になると常在戦場、肌身離さずモバイルPCを持ち歩き、いつでどこでも仕事をこなせる、というのが、デキるビジネスマンの必須条件になりつつある。バッテリ駆動のワープロから始まって30有余年。長きにわたってモバイルワークをこなしてきた身として、やっと時代が追いついてきたとほくそ笑みながら、今日はルノアール、明日はコメダと、カフェをわたり歩いてテレワークをこなす今日この頃だ。

カフェの狭いテーブルでモバイルワークをする際も、トラックボールなら邪魔にならない

 PCの使い勝手は、CPUパワーやストレージのスピードといった基本性能だけでなく、ディスプレイやキーボード、ポインティングディバイスの良し悪しも大きく左右する。テレワークで使用するノートPCともなれば、機動力が落ちる外付けデバイスはできるだけ持ち歩きたくない。装備された入出力ディバイスの品質はとても重要だ。現在、2018年の11月に3万円で入手した中華ノートPCをメインマシンとして使っている。キーボードは打ちやすく問題ないが、時にトラックパッドがやや不安定になる。カーソルが飛んでしまうのだ。そこで、外付けのトラックボールを登場させることにした。

 自宅やオフィスでは、長年トラックボールを愛用してきた。マウスをトラックボールに持ち替えて20年以上経つ。その間、ずっとロジクールのTM-250という有線トラックボールを使ってきた。壊れるたびに買い替え、都合6台は購入したと思う。親指操作タイプの傑作で、手になじむ形状と赤のボールに黒ドットの毒々しい様相も気に入っている。しかし、現在は販売を終え、現用品としてオフィスで使う1台が残るのみ。いまだに人気があると見えて、米アマゾンに時々登場するデッドストック品にはプレミアム価格が付くほどだ。
 
初めてモバイルPCで実戦投入したトラックボール、エレコムのM-XT3UR(左)と、
長年愛用して相当くたびれてきたロジクールのTM-250

 生き残っていた自宅用のTM-250が壊れた2014年、後任としてエレコムのM-XT3URを就任させた。手になじむ形状を追求してモックアップを何度も削り直して作った「握りの極み」シリーズのハシリ。シルバーグレーのボールは地味で面白みには欠けるが、こだわりぬいた形状は良く手になじむ。TM-250の後継ぎとして遜色ないフォルムだ。14年当時、特に有線トラックボールは絶滅寸前で製品バリエーションは数えるほどしかなかった。万が一、M-XT3URの販売が終えてもしばらくは耐えられるよう、予備も含め3台まとめて購入し、ストックしておいた。

 今回モバイル用に始動させたのが、そのうちの1台だ。かさばるのが難点だが、どうせネット会議用のヘッドセットも持ち歩いている。ついでとばかり一緒に持ち歩くことにした。モバイル環境でのトラックボールの利点は、何といっても使用時の省スペース性。オフィスや自宅の乱雑な机でも、置くことができれば、それで機能する。マウスのように余計なスペースを必要としない。これは、モバイルワークでも生きてくる利点だ。ルノアールの狭い机でもちょうど手のひらほどの面積が確保できれば、フルスペックのポインティングデバイスを使うことができる。
 

 微妙な操作が難しいタッチパッドよりもはるかに速く正確にポインターを動かせるため、生産性は大いに向上した。ふいにタッチパッドに触れて、カーソルが飛んでいってしまう「ノートPCあるある」からも解消され、快適なモバイルワーク環境が実現する。ただし欠点もある。ボール操作で図形を描くのはかなりの熟練が必要からだ。グラフィックを扱うなら、ペンタブレットやマウスを選択した方が幸せになれるだろう。

 マウスを筆頭にしたポインティングデバイスの売り上げは、このところ絶好調だ。特に、テレワークが急速に広がった4月以降は前年比で毎月150%前後の販売台数記録している。輪をかけて好調なのがトラックボールだ。6月に207.4%と昨年比で倍増。直近10月でも、199.2%と大きく伸びている。ポインティングディバイス全体に占める販売台数構成比は4%弱と思いっきり少数派であるものの、近年参入企業も増え、絶滅危惧種からは脱却しつつある。
 

 日本市場でシェアを争っているのはエレコムとロジクール。10月時点では、エレコムが51.9%でトップ。ロジクールが33.4%で追いかける寡占構造だ。しかし、3年前はロジクールの独壇場で、一時は6割近いシェアを誇っていた時期もあった。エレコムがラインアップを広げたことで、市場が活性化し、シェアも急上昇した。しかし、製品ごとの売れ筋では、依然ロジクールが強い。

 10月の販売台数シェアで16.1%とトップなのがM570t。愛用しているトラックボール、TM-250の無線版だ。次いで、同じくロジクールのMXTB1sが15.4%で2位。同じく無線トラックボールだが、税別平均単価が1万円を超えるハイスペックモデル。本体の角度を自由に変えることで、手首の負担を軽減できる。3位がエレコムのM-XT2DRで8.9%。握りの極みシリーズの流れをくむ持ちやすい形状は大きな特徴だ。

 モバイルワークで使うなら、マウスよりもトラックボールだ。ぜひ試してみてほしい。(BCN・道越一郎)