ドンキ創業者の安田氏「最後の使命果たす」、国産食品の流通革命で海外市場に挑む
ディスカウントストア「ドン・キホーテ」を展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)は10月23日、日本の農畜水産物の輸出拡大に向けた生産者とPPIHグループの会員制組織「PPIC(Pan Pacific International Club)」を発足すると発表した。東京・帝国ホテルで開催された発足会では、創業会長 兼 最高顧問の安田隆夫氏が登壇し、今回の取り組みを自身にとっての「最後の社会的使命」として訴えた。
同社は中長期経営計画において、30年に売上高1兆円を目指すとしているが、その内訳の3000億円を占めるのが農水畜産物だ。実際に「ジャパンブランド・スペシャリティストア」をコンセプトとする店舗では日本の食品が現地ファン獲得の大きなファクターになっており、香港の店舗では売上構成比の85%を食品が占めているという(日本の店舗は約30%)。
PPIC発足には「国産農水畜産物が成長を推進するエンジン」を安定させたいという思惑だけでなく、海外進出にあたって生産者側の課題となっている「安定出荷先の確保」や「市場・天候に左右される出荷価格」などを解消したいという狙いもある。
同組織の会員になると海外店舗への出荷に向けた商談に参加でき、継続的かつ安定的な商品出荷が可能になる。また、PPIHのPOSデータを活用した海外のマーケット情報も提供するとしており、作付計画や製造計画のサポートを受けることもできるようになる。
入会対象者は生鮮食品に携わる事業者および団体。過去のPPIHとの取引実績は問わない。入会はウェブサイトから申し込み、書類などによる審査が行われる。入会審査は10日前後。入会費用は無料。会員は商談を経てトライアルで商品を輸出し、実績を確認したのちに継続的契約に至るという流れだ。
移住した当初は新しく商売を始める気はなかったというが、シンガポールで国産食品が日本の一般的な価格の2~4倍で販売されていることを知り、義憤に駆られたという。「輸送代にはそれほどコストはかからず、関税はかからない。調べてみたところ、輸出に関する煩雑な手続きに対する補填としてのハーモニープライスと呼ばれる価格が設定されていることが分かった。一部の裕福な層しか日本の食品を口にすることはできない。これはおかしなことだ」。
日本の安売り王の反骨心に火が付いた。ハーモニープライスを破壊するために独自の安定したスキームを構築し、17年にシンガポールに「DON DON DONKI(ドンドンドンキ)オーチャードセントラル店」をオープン。「狙い通りに日本の食品を求めて連日お客さまが殺到した。テナントのオーナーと話したところ、同じテナント内のルイ・ヴィトンより売り上げが良いという。日本の食品はルイ・ヴィトン以上のスーパーブランドだと確信した」。
安田創業会長は日本市場は「世界一のレッドオーシャン」で、生産者も流通業者も少ない利ザヤでしのぎを削らなければならず、「オールアンハッピーだ」という見解を示す。「デフレが常態化し、消費者は口が肥え、少子高齢化で胃袋は縮むばかり。いわば勝者なき市場だ」。
PPICは作る側と売る側が運命共同体としてレッドオーシャンを脱し、海外市場に打って出なければならないという安田創業会長の思いに端を発している。「シンガポールでの成功から1年が経ったころに『生産と販売が一気通貫でなければ負けてしまう』と感じ始め、年々その思いを強くした。昨年末にPPICのビジョンが固まり準備してきた」。
安田創業会長はPPICの取り組みに「最後の果たすべき社会的使命」という決意をにじませる。PPIHが成功の秘訣であるプライシング戦略と販売力を還元することで、同社の海外事業拡大だけでなく、日本全体の農畜水産物輸出拡大まで志す。
「世界に日本食の流通革命を起こす。海外で日本の食品はいくらでも売れる。生産者も流通業者もオールハッピーという状況を作り出すことができる」。新型コロナウイルスの影響でインバウンド需要は壊滅的状況に陥っている一方、海外におけるアウトバウンドは好調だ。古希を過ぎてなお気力充実する日本の安売り王が官民を巻き込んで世界に勝負を挑む。(BCN・大蔵大輔)
絶好調の海外事業 日本の食品が成長の推進力に
PPIHは2017年にASEAN地域に初進出。3年の短期間で3か国13店舗に店舗を拡大するなど、海外進出を加速している。新型コロナウイルス感染拡大の影響の中にあっても方針は変わらず、すでに4か国11店舗の新規出店も確定。売り上げは右肩上がりで2017年は487億円だったが、20年は1397億円を見込む。同社は中長期経営計画において、30年に売上高1兆円を目指すとしているが、その内訳の3000億円を占めるのが農水畜産物だ。実際に「ジャパンブランド・スペシャリティストア」をコンセプトとする店舗では日本の食品が現地ファン獲得の大きなファクターになっており、香港の店舗では売上構成比の85%を食品が占めているという(日本の店舗は約30%)。
PPIC発足には「国産農水畜産物が成長を推進するエンジン」を安定させたいという思惑だけでなく、海外進出にあたって生産者側の課題となっている「安定出荷先の確保」や「市場・天候に左右される出荷価格」などを解消したいという狙いもある。
同組織の会員になると海外店舗への出荷に向けた商談に参加でき、継続的かつ安定的な商品出荷が可能になる。また、PPIHのPOSデータを活用した海外のマーケット情報も提供するとしており、作付計画や製造計画のサポートを受けることもできるようになる。
入会対象者は生鮮食品に携わる事業者および団体。過去のPPIHとの取引実績は問わない。入会はウェブサイトから申し込み、書類などによる審査が行われる。入会審査は10日前後。入会費用は無料。会員は商談を経てトライアルで商品を輸出し、実績を確認したのちに継続的契約に至るという流れだ。
「日本の食品はルイ・ヴィトン以上のスーパーブランド」
PPIHの海外事業およびPPICに対する本気度は、安田隆夫創業会長がメディアもいる公の場に久しぶりに姿を見せたことからもうかがえる。安田創業会長は15年に会長 兼 CEOを退任した後、シンガポールに移住。海外事業拡大の指揮を執ってきた。移住した当初は新しく商売を始める気はなかったというが、シンガポールで国産食品が日本の一般的な価格の2~4倍で販売されていることを知り、義憤に駆られたという。「輸送代にはそれほどコストはかからず、関税はかからない。調べてみたところ、輸出に関する煩雑な手続きに対する補填としてのハーモニープライスと呼ばれる価格が設定されていることが分かった。一部の裕福な層しか日本の食品を口にすることはできない。これはおかしなことだ」。
日本の安売り王の反骨心に火が付いた。ハーモニープライスを破壊するために独自の安定したスキームを構築し、17年にシンガポールに「DON DON DONKI(ドンドンドンキ)オーチャードセントラル店」をオープン。「狙い通りに日本の食品を求めて連日お客さまが殺到した。テナントのオーナーと話したところ、同じテナント内のルイ・ヴィトンより売り上げが良いという。日本の食品はルイ・ヴィトン以上のスーパーブランドだと確信した」。
安田創業会長は日本市場は「世界一のレッドオーシャン」で、生産者も流通業者も少ない利ザヤでしのぎを削らなければならず、「オールアンハッピーだ」という見解を示す。「デフレが常態化し、消費者は口が肥え、少子高齢化で胃袋は縮むばかり。いわば勝者なき市場だ」。
PPICは作る側と売る側が運命共同体としてレッドオーシャンを脱し、海外市場に打って出なければならないという安田創業会長の思いに端を発している。「シンガポールでの成功から1年が経ったころに『生産と販売が一気通貫でなければ負けてしまう』と感じ始め、年々その思いを強くした。昨年末にPPICのビジョンが固まり準備してきた」。
安田創業会長はPPICの取り組みに「最後の果たすべき社会的使命」という決意をにじませる。PPIHが成功の秘訣であるプライシング戦略と販売力を還元することで、同社の海外事業拡大だけでなく、日本全体の農畜水産物輸出拡大まで志す。
「世界に日本食の流通革命を起こす。海外で日本の食品はいくらでも売れる。生産者も流通業者もオールハッピーという状況を作り出すことができる」。新型コロナウイルスの影響でインバウンド需要は壊滅的状況に陥っている一方、海外におけるアウトバウンドは好調だ。古希を過ぎてなお気力充実する日本の安売り王が官民を巻き込んで世界に勝負を挑む。(BCN・大蔵大輔)