• ホーム
  • トレンド
  • ビックカメラの木村一義新社長に聞いた、15年ぶりのトップ交代の意味

ビックカメラの木村一義新社長に聞いた、15年ぶりのトップ交代の意味

インタビュー

2020/09/26 18:00

 2期連続の減益が見込まれる状況の中、ビックカメラは8月27日、突如として15年ぶりの社長交代人事(9月1日付)を発表した。新型コロナウイルスでビジネス環境が大きく変わり、これまでよりもさらに難しい舵取りが求められている。都市型店舗のビックカメラと郊外型のコジマを、グループとしてどのようにまとめていくのか。木村一義社長に聞いた。

取材・文/細田 立圭志・南雲 亮平 写真/松嶋 優子

ビックカメラ 木村一義代表取締役社長

新型コロナで環境が一変

──2020年8月期決算の期末とはいえ、8月27日に発表された社長交代人事は青天の霹靂でした。こういうと失礼かもしれませんが、社長交代というと若返りが想起されます。

木村一義社長(以下、敬称略) 皆さん驚かれていますが、一番驚いているのは私自身です。2期連続の減益が見込まれるということで、状況の改善を図るために宮嶋宏幸社長(当時、現・副会長)から声がかかりました。

 小売業全体でみても、新型コロナ以前は都市部への人の流入やインバウンドが、ターミナル駅に構えた都市型店舗を後押ししていました。それが新型コロナで一変し、今では逆に郊外店が多いコジマに強い追い風が吹いています。在宅勤務の導入や三密を避けて車で移動するといった行動様式の変化によって、家の近くの店で買い物するお客様が増え、都市型と郊外型で明暗が分かれる形になりました。

──社長のミッションを教えてください。

木村 前期の業績は新型コロナの影響で説明がつきます。しかし、さらに前の期の大幅な減益については、詳細に分析する必要があります。ビックカメラにとって、大きな構造転換の時期にきているということです。

 そして、ビックカメラが今後、大きく構造転換を図るのであれば、これまでの延長線上では難しいでしょう。私は、7年前に証券会社という異業種からグループ会社のコジマにきている上、現在でも他企業の社外取締役を務めています。ビックカメラの社長に専念してほしいという声もありますが、こうした異業種で培った経営経験や、業界の慣習にとらわれない視点をもっていることで、大胆に、そして機動的に変革していけます。こうした「経験」を生かすことが、今回の私に求めれているミッションだと考えています。
 
7年前に証券会社から家電量販店に転身した木村社長

「商品力」で価格競争から脱却

――前々期のお話をされましたが、ビックカメラの課題はどこにあり、どのように解決するのでしょうか。

木村 まずは、商品力の強化による収益構造の変革です。成功している小売業に共通しているのはSPA(製造小売)などによる商品力の高さです。ほかで扱っていないオリジナリティのある商品で勝負しています。一方、厳しい状況に置かれている家電量販業界は、メーカーから仕入れたナショナルブランドの商品を売っているため、競争する武器が価格しかありません。

 もはや本部で一括仕入れをして、それを各店舗で売る、なんていうのは家電量販業界だけですよ。ほかの業界は、消費者に近いところで仕入れに注力するなど、明らかにビジネスモデルが変わっています。リアルの店舗を持つわれわれは、お客様と最も近い距離でビジネスをしているのですから、商品力や開発力は、こうしたマーケットインの発想を反映できるはずです。

 メーカーですらプロダクトアウトからマーケットインに変わりつつあるのに、われわれは一括で仕入れて売っているという、これ事態がおかしなことです。仕入れの差額による価格競争だけでは厳しいです。まずは商品力を鍛えていきます。

 しかし、今すぐにSPAになるということは残念ながらできません。ですので、これまで以上に目利きの鋭い調達力を鍛えて、時代の少し先を行く商品やサービスを取り入れていくことが大事になります。例えば、現在でも展開しているプライベートブランド(PB)商品の売上比率を2~3割に上げていくなどです。

――メーカーとの関係も変わっていきますね。

木村 変わるというか、変えていかなければいけません。同じ商品を仕入れて扱っていれば、差別化するのは価格しかなくなってしまいます。

――売上高を伸ばすための時間を買うという意味では、業界再編につながるM&Aも考えられます。

木村 同業で規模を大きくするためのグループ間の再編成や、トップラインを伸ばすためのM&Aは考えていません。もう、そういう時代ではありません。ただ、結果的に売り上げを伸ばすということでいえば、われわれが扱っていない異業種のM&Aはあり得ます。それも、まったくの飛び地にはいきません。お客様の仕事や生活、まさに暮らし全般につながることであればあり得ますね。

──コロナ禍で伸びたECにも力を入れていくのでしょうか。

木村 小売業の収益構造はシンプルで、売上高×粗利益率-経費です。成長戦略を描く際に売上高の伸びしろがあるのはECで、今後も伸びるでしょう。しかし、全体の多くを占める都市型のビックカメラの売上高を1割も2割も高めていくことは、そう簡単なことではありません。となれば、粗利益を上げるためには、いかに生産性を高めてコストを下げるかが大事になってきます。

[次のページ]ビックカメラとコジマの関係は?

  • 1
  • 2

次へ