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兵庫に居ながら東京で接客!? モスバーガーの“分身ロボット”と話してみた

経営戦略

2020/08/16 17:30

【なぐもんGO・59】 モスバーガーが接客にロボットを活用する──。ロボットの店員と言えば「Pepper(ペッパー)」を想起するかもしれないが、今回は違う。筆者が取材に訪れると、レジにいたのは小型で愛らしいデザインのロボット。その名は「OriHime(オリヒメ)」。遠隔地から人が操作するタイプの“分身ロボット”だ。

モスフードサービスが実験導入した分身ロボット「オリヒメ」

分身ロボット「オリヒメ」とは

 モスフードサービスは7月27日、東京のJR大崎駅近くの店舗「モス&カフェ」で、オリヒメを活用した「ゆっくりレジ」というサービスの実験導入を開始した。オリヒメが担当するのは、レジ業務のうち、注文時の対応。遠隔地にいる操縦者(パイロット)がオリヒメを介して、店舗スタッフとして接客する仕組みになっている。

 オリヒメは全長約23cmのロボットだ。全体的に丸みを帯びており、ペンギンのような手がチャーミングに動く。オリィ研究所が「あらゆる人たちに、社会参加、仲間たちと働く自由を。」というビジョンのもと、子育てや介護、ハンディキャップにより外出困難な人など、より多くの人が参画しやすい社会の形成を目指して開発した。
 
JR大崎駅近くの「モス&カフェ」にオリヒメがいる

可愛らしいオリヒメと会話してみる

 早速、体験しようとオリヒメの前に立つと、「いらっしゃいませ!」とスピーカーから聞こえてくる女性の声で迎えられた。同時にオリヒメの片手が上がり、薄く緑色に光る大きな目がこちらを向く。「はじめまして、まやと申します」。ファーストフード店としては新鮮なあいさつに、思わずよろしくお願いします、と返してしまった。その後は通常のレジと同様に筆者は口頭で注文するだけ。注文が終わったら番号札をオリヒメに見せて、会計は有人のレジで行うことになっている。

 一連の流れは、通常の流れと変わらずスムーズだ。案内にあわせてコミカルに動きながら注文を取るオリヒメは可愛らしく、大崎店のスタッフと似た制服を着ている姿にも親しみがわく。無人レジとは比べるべくもなく、温かい接客に感じた。

 昨今、飲食店などではタッチパッドで注文するタイプが増えている。業務の効率化にはうってつけだが、店員に代わって客が入力作業を担当する形になってしまう。一方、ゆっくりレジではロボットを介して、その裏側に人の存在が感じられることから、注文がひとつの新しい体験になる。とくにオリヒメとのやり取りは特別な体験で、また来ようと思う要因になり得るだろう。
 
新しいレジとして「ゆっくりレジ」案内している

温かみが感じられるオリヒメの可能性

 「ゆっくりレジ」の企画を担当した、モスフードサービス 営業企画部 営業サポートグループの福田悠治チーフリーダーは「飲食店が抱える人手不足を解消するための手段の一つとして、実施に至った」と説明する。外出困難な人たちと社会の接点を目指すオリヒメのコンセプトと、モスフードサービスの経営理念「人間貢献・社会貢献」が合致したことも、企画の推進を後押ししたそうだ。

 人手不足解消なら、機械化も一つの手段だ。しかし、それでは温かみが足りないのだという。「当社は、フルセルフレジやセミセルフレジにも取り組んでいるが、機械だけでは少し味気ないという意見も出ていた。それならば、“向こう側”に人の存在が感じられるロボットにすれば、機械だけよりも温かい接客が可能になるはず」と、福田チーフリーダーは期待する。

 しかもオリヒメのパイロットは、場所を選ばず、社会的ハンディキャップの有無も問わない。例えば、足腰の衰えにより介護施設にいる元モス従業員の高齢者や、子育て中のお母さんでも、オリヒメを介することで店舗スタッフになることができる。今回の実験導入でパイロットを務めるのも、兵庫県在住で脊髄性筋萎縮症(SMA)という難病のある「まやちゃん」さんと、大阪府在住で先天性骨形成不全症のある「ヒロト」さんの2人だ。

 2人は1日2時間ずつ、交代でパイロットを務める。これまで、接客を受けた経験や敬語を使う機会が少なかったため、まずは言葉遣いから学んだという。福田チーフリーダーの「2人は実験導入の開始までに、相当量の研修や訓練を積んだ」という言葉通り、筆者が体験した限りでは、敬語を一から学んだとは思えないほど自然な接客だった。同時にオリヒメを操作する技術も身に付けており、まやさんは「まだ慣れてないです」と言いながらオリヒメの手を動かしていた。
 
店員と並んで接客するオリヒメ。下段には車いすや子ども用の分身も用意している

 操作する手順があるため、通常のレジと比べてどうしても時間はかかってしまう。その懸念をカバーするのが「ゆっくりレジ」というコーナー名だ。「慌てる必要がないレジなので、話をしながらの注文を楽しんでほしい」(福田チーフリーダー)。接触や飛沫の心配がなく、新型コロナウイルスの感染拡大を防止する策としても活躍しそうだ。

 今後はアップデートを重ねながら、ゆっくりレジを軌道に乗せるのが目標だという。会計機能を組み込み、オリヒメだけでレジ業務が完結する仕組みも検討している。登録制の単発バイトサービスのように、「14時~16時だけオリヒメに入る」といった働き方も考えられる。体験したなかでは、音質がクリアになると、もっと使いやすくなるかもしれない。ただ、会話をするには十分。もし近くを通ることがあれば、ぜひ一度、会いに行ってみてほしい。(BCN・南雲 亮平)