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どうなる? オリンパスのカメラ、事業売却で再起は可能なのか

オピニオン

2020/06/28 18:10

 オリンパスがカメラ事業を手放すことになった。9月末をめどに一旦映像事業を切り離し新会社を設立し投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)に譲渡。その後、最終的な引受先を探すことになる。映像事業は3期連続の赤字。オリンパスブランドの確立に寄与したカメラ事業だが、経営的に足かせになっているとの判断だ。

事業の売却に伴い「OLYUMPUS」ブランドが残るのか、まだわからない

 竹内康雄・取締役代表執行役社長兼CEO・最高経営責任者は、昨年から複数のメディアに対し事業売却をイメージさせる発言をしており、一部では時間の問題ともいわれていた。映像事業には、カメラのほかにICレコーダーや双眼鏡など、一般消費者向けの製品群が含まれている。今回の決定で、同社はコンシューマービジネスから撤退することになった。

 事業譲渡で気になるのはブランド名だ。オリンパスには、ミラーレス一眼のOM-DやPEN、レンズのZUIKOなどのブランドがある。しかし、最も大きなブランドは社名の「OLYMPUS」そのものだ。同社によると、「OLYMPUSも含め、新会社によるブランド名の使用については現在検討中」(広報関係者)としており、カメラにOLYMPUSを記した製品を今後も維持できるかどうかは未知数だ。

 同様の分社化で成功したのはVAIOだ。PCブランドのとして知名度の高いブランド名を看板にソニーから独立し再出発を遂げた。一方、カメラ業界は伝統的にカメラ本体に社名を大きく記し、ブランドとして活用してきた。万が一使えなくなるとすれば、OLYMPUSの文字が消えたカメラボディにブランド力はなくなってしまうだろう。
 

 デジタルカメラ市場でのオリンパスの位置づけはどうなのか。国内の販売台数シェアを見ると、この3年間で大きな変化はなく、販売面で赤字体質を脱却することはできなかった。販売台数シェアは、常に5~8%と1ケタ台。メーカー別ランキングは4位か5位にとどまる。2018年の夏ごろまではキヤノン、ニコン、ソニーに次ぐ4位のポジションを維持していた。

 しかし18年夏以降、コアな層を取り込むニッチ戦略が成功した富士フイルムに追い抜かれ、19年の年末商戦では、5位が定位置になってしまった。同じマウントで製品展開するパナソニックも7位に甘んじており、マイクロフォーサーズ陣営はこのところ、ぱっとしない状況だ。

 カメラ業界全体も前年割れの連続で苦境にあえいでいる。特にこの4月、5月はコロナ禍の影響をもろに受け、前年比で7割減まで急激に落ち込んだ。オリンパスも同じく販売縮小に苛まれている。18年5月から20年5月まで、販売台数の前年同月比で、前年を上回ったのはわずか3回だけ。残りのほとんどの月は2ケタ割れが続いた。

 カメラ市場全体に比べれば、オリンパスのマイナス幅はややマイルドだったが、もともと4位、5位の台数シェアでは、販売縮小の打撃が大きい。コロナ禍では、さらに打撃を受けている。ただし、事業譲渡は「時間をかけて準備を進めてきた。コロナ禍の影響で突然決めたわけではない。時期が偶然重なってしまった」(広報関係者)としている。
 

 オリンパスは、レンズ交換型デジタルカメラではとても保守的な戦略を貫いてきた。03年に、自社で開発し4/3型の撮像素子を採用した「フォーサーズシステム」引っ提げてデジタル一眼レフを発売。08年に、拡張規格「マイクロフォーサーズシステム」を発表。ミラーレス一眼市場に、パナソニックとともに先鞭をつけた。マウントの変更と、一眼レフからミラーレスへの大転換は遂げたものの、レンズ交換型カメラの撮像素子サイズは03年以降ずっと4/3型を採用し続け、今日に至っている。

 他のレンズ交換型デジカメを手掛けるメーカーは、4/3型よりもサイズが大きく、高画質が期待できるAPS-Cやフルサイズの撮像素子を主力として展開。いずれも複数のセンサーサイズで市場ニーズの掘り起こしを狙っているが、オリンパスは唯一4/3型にこだわり続けてきた。あるいは、他のサイズに手が回らなかったというのが実状だったのかもしれない。

 フィルムカメラ時代、小型で機動力のあるレンズ交換型カメラといえば、オリンパスの一眼レフ、OM-1だった。小型・軽量はある意味でカメラの正義でもあり、これを貫くための4/3型という位置づけだ。完全にデジタルに移行した現在でも、このOM-1の成功を引きずっているのかもしれない。
 
競合他社のフルサイズミラーレスへ参入発表が相次いだ2018年、ドイツ・ケルンで開催された
フォトキナに出展したオリンパス。前回までライカの定位置だったホール1を借り切って展示を展開。
しかし目立った新製品もなく、スペースを持て余していた

 19年10月、創業100周年を迎えた同社。100周年に先だって、この年の2月、新たなフラッグシップモデルが登場した。100年の集大成と思われた「OM-D E-M1X」だったが、これには驚いた。「でかい」からだ。小型・軽量にこだわってきた同社が、そのコンセプトを自ら否定するようなカメラを、頂点のカメラとして新たにリリースしたのだ。

 さらに、11月にミドルレンジのOM-D E-M5 Mark III、今年の2月に発売したOM-D E-M1 Mark IIIと矢継ぎ早に新製品をリリースしたものの、いずれもマイナーチェンジにとどまり、進化が見えにくい仕上がりに終わった。

 4/3型センサーは適度に「小さい」ためピントの合う範囲が深めで、動画との親和性が高いと評価する向きもあるが、オリンパス自身は動画に対する取り組みは及び腰だった。一方マイクロフォーサーズの盟友パナソニックは、早くから動画を意識した製品をラインアップ。一部プロ向け機材にもマイクロフォーサーズを取り入れた。最近では動画版のブログを配信するVlogger向け新製品を投入予定だ。小型シネマカメラの豪・Blackmagic Designは、マイクロフォーサーズ規格を採用、ハイエンドの動画撮影市場で一定の評価を獲得している。
 
2018年2月に横浜で開催されたCP+で、ひときわ目を引いたオリンパスの参考出展。
同社の挑戦する姿勢が垣間見えた

 オリンパスでは、「現在公表しているロードマップに基づく製品開発は継続する」としてカメラ事業の継続を表明。詳細は未定だが、「事業譲渡で、映像部門で働く従業員は、一部がオリンパスに残り、多くが新会社に移籍する」見込み。オリンパスのカメラ事業は、サポートなども含めてそのまま受け継がれる。

 事業譲渡にあたって、同社が強調していたのは「カメラ事業を継続するために行った決断。新会社に移行した後もカメラ事業は継続していく」という点だ。

 投資ファンドのノウハウも取り入れることで、9月までに赤字体質からの脱却を目指すという同社。これまでなしえなかったことが、この短期間に実現できるかは疑問が大きい。

 最終的にどの企業の傘下になるかで方向性は大きく変わるが、新会社に移行した後も映像事業を継続し、その上で黒字事業に蘇らせるカギは「挑戦」だ。強力な手振れ補正機構やレンズの完成度の高さなど、もともと高い技術力を持つ同社に必要なのは「挑む勇気」だ。保守的な体質から抜け出し「古き良きカメラ事業」から脱却できるかどうかに、全てがかかっている。新生オリンパスが挑む課題は、そのまま日本のカメラ産業に突き付けられた課題そのものでもある。(BCN・道越一郎)