ファーウェイ・ジャパンの楊涛プレジデントに聞いた、なぜこのタイミングでトップが交代したのか
10年前、国内のスマートフォン(スマホ)市場でファーウェイのブランドはほぼゼロに等しかった。ファーウェイ・ジャパンは6月2日の新製品発表会の冒頭で、国内市場における同社のブランドを現在のポジションまで引き上げた功労者の呉波プレジデントの退任を発表した。米中貿易摩擦や新型コロナウイルスで経営のかじ取りがかつてないほど困難な状況で、日本のトップが代わったのはなぜか。新任の楊涛(Yang Tao、ヤンタオ)ファーウェイデバイス日本・韓国リージョンプレジデントがBCNの単独インタビューに応じた。前半と後半の2回にわたって掲載する。
取材・文/細田 立圭志、写真/松嶋優子
――米中貿易摩擦や新型コロナウイルスなど厳しいかじ取りが求められる中、このタイミングで日本のトップが交代した意味について教えてください。
楊涛プレジデント(以下、敬称略) 米国との調整や新型コロナの問題とは一切関係ありません。なぜなら私は2019年5月から既に日本で仕事をしていました(注・19年5月に端末統括本部営業統括副本部長に就任)。日本はファーウェイにとって、もっとも重要な市場ですし、お客さまが製品やサービスに求めるレベルがとても高いので、1年間の適用期間を設けたのです。昨年の5月から1年をかけてオリバー(呉波氏)に助けられながら、日本の市場やお客さま、商慣習について、たたきこまれながらスムーズに引き継ぎをしてきました。ですので、外部の要因とはまったく関係なく、あくまでもファーウェイ本社が日本市場を最重要としている取り組みの一環としての人事です。
――半導体受託生産大手の台湾TSMCが新規受注を停止したなどの報道がありますが。
楊 まず大前提として、ファーウェイはどんな状況に置かれても各国の法律や法規を順守してきました。この姿勢は今後も変わることはありません。さまざまな制限が設けられている状況でも各国で事業を展開しているので、各国の法律や法規の順守を徹底しています。ですので、ファーウェイにとってもTSMCにとっても課せられたルール通りに進めていくだけです。もちろん、ファーウェイとしてもいろいろな対策をとるようにしていますが、今の段階で詳細を明らかにすることはできません。
――日本に来る前はエジプトやドイツの現地法人でCEOを務めていたとのことですが、あらためて経歴について教えてください。
楊 それまではずっと法人向け事業で現地の販売や顧客サポート、サービス業務を担当していました。ファーウェイを知ってもらうための活動や現地メディアとの交流、CSRにも取り組んできました。各国のカントリーマネージャーは三つのビジネスグループを統括していましたが、2017年を境にコンシューマー向け端末事業が急成長したため、この事業だけを切り離し独立して運営するようになりました。私が日本に来たのをきっかけに、新しくコンシューマー事業にチャレンジすることになったのです。
先ほども申し上げたように、日本のユーザーの要求レベルは高く、その市場で認められてから他のエリアに製品を展開していくというポリシーです。厳しい評価をクリアしてこそ、ブランドは確立されていくものだと考えています。私のミッションは、本社の戦略に沿ってファーウェイのもっとも革新的な製品を日本市場にもってきて、日本の消費者の皆様に認めていただくことです。
楊 製品ごとに多様なターゲット層があるので、それぞれのニーズを満たす製品を投入していきます。例えば、プレミアムゾーンのP40 Pro 5Gは、ハイエンド層へのブランドを確立するためのモデルです。カメラレンズやチップセット、ソフトウェアのすべてで最先端の技術を採用し、プレミアム感のあるブランドイメージをつくるモデルです。一方で、新しい技術に興味があってカメラ機能も高いレベルを求めますが、手頃な価格で買いたいという層向けのモデルがP40 lite 5GやP40 lite Eです。
――日本市場ならではの特殊要因の影響はありませんか。19年10月の電気通信事業法の一部改正による携帯端末と料金プランの分離で潮目が変わりました。プレミアムゾーンが販売しづらくなり、iPhone SEの人気を見ても分かるように、より手頃な価格帯の端末が売れていくと思われます。
楊 確かにその通りです。分離案の法律が施行されたことで、端末の購入補助が減りました。しかしながらボトムゾーンの製品が売れるようになったからといって品質をおろそかにはできません。むしろこのゾーンの競争が激しくなるので、消費者の支持を得るには手頃な値段を維持しつつもクオリティを高め、イノベーティブなテクノロジーや機能を搭載しなければいけません。
これまでは2~8万円までの幅広いゾーンの中で、価格は細かく設定されていましたが、今後ボリュームゾーンに集中していく動きが出るようであれば、そのゾーンに投入する製品の競争力を各社でしのぎを削りながら高めていかなければならないでしょう。
――そういう意味では手前味噌ですが、P30 liteの躍進で年間販売台数シェア1位を称える「BCN AWARD 2020」のSIMフリースマホ部門を獲得するなどの成功体験が今後の戦略にも生かせそうですね。
楊 そうですね。SIMフリー市場とはいえ、サービスへの要求が高まっているので、その点はしっかりと対応していきたいです。先ほど日本市場のレポートを読んでいたのですが、ユーザー体験を高めるためにサービスでも他社より高いものを目指しています。
サービスの品質も360度あらゆる方向から高めていくために、実際にコールセンターに電話して何秒でつながるのか、オペレーターの対応時間など、多くの項目で他社と比較しています。日本でコンシューマー向け事業を担当するようになってから、とにかくディテールが大事だということを学んでいます。
――さて、5Gの取り組みについては、携帯キャリアの推奨モデルとしての採用が止まっています。どのようにユーザーに訴求していきますか。
楊 5Gのスマホはファーウェイにとってコアコンピタンスです。半年や1年後に日本の5Gネットワークのカバレッジも全国に広がっていくでしょうから、それまでにスマホを買い替える際に5G端末の選択肢があるようにしなければいけません。海外でも着実に5Gネットワークが出来上がっているので、外国に行くときもローミングしながら現地で利用できるというメリットがあります。
ファーウェイのスマホには5G、カメラ、AIの領域で、今後も最先端のテクノロジーを搭載することを心掛けていきます。その狙いは、よりよいユーザー体験をお届けするためです。(つづく)
取材・文/細田 立圭志、写真/松嶋優子
――米中貿易摩擦や新型コロナウイルスなど厳しいかじ取りが求められる中、このタイミングで日本のトップが交代した意味について教えてください。
楊涛プレジデント(以下、敬称略) 米国との調整や新型コロナの問題とは一切関係ありません。なぜなら私は2019年5月から既に日本で仕事をしていました(注・19年5月に端末統括本部営業統括副本部長に就任)。日本はファーウェイにとって、もっとも重要な市場ですし、お客さまが製品やサービスに求めるレベルがとても高いので、1年間の適用期間を設けたのです。昨年の5月から1年をかけてオリバー(呉波氏)に助けられながら、日本の市場やお客さま、商慣習について、たたきこまれながらスムーズに引き継ぎをしてきました。ですので、外部の要因とはまったく関係なく、あくまでもファーウェイ本社が日本市場を最重要としている取り組みの一環としての人事です。
――半導体受託生産大手の台湾TSMCが新規受注を停止したなどの報道がありますが。
楊 まず大前提として、ファーウェイはどんな状況に置かれても各国の法律や法規を順守してきました。この姿勢は今後も変わることはありません。さまざまな制限が設けられている状況でも各国で事業を展開しているので、各国の法律や法規の順守を徹底しています。ですので、ファーウェイにとってもTSMCにとっても課せられたルール通りに進めていくだけです。もちろん、ファーウェイとしてもいろいろな対策をとるようにしていますが、今の段階で詳細を明らかにすることはできません。
――日本に来る前はエジプトやドイツの現地法人でCEOを務めていたとのことですが、あらためて経歴について教えてください。
楊 それまではずっと法人向け事業で現地の販売や顧客サポート、サービス業務を担当していました。ファーウェイを知ってもらうための活動や現地メディアとの交流、CSRにも取り組んできました。各国のカントリーマネージャーは三つのビジネスグループを統括していましたが、2017年を境にコンシューマー向け端末事業が急成長したため、この事業だけを切り離し独立して運営するようになりました。私が日本に来たのをきっかけに、新しくコンシューマー事業にチャレンジすることになったのです。
先ほども申し上げたように、日本のユーザーの要求レベルは高く、その市場で認められてから他のエリアに製品を展開していくというポリシーです。厳しい評価をクリアしてこそ、ブランドは確立されていくものだと考えています。私のミッションは、本社の戦略に沿ってファーウェイのもっとも革新的な製品を日本市場にもってきて、日本の消費者の皆様に認めていただくことです。
5Gはファーウェイのコアコンピタンス
――スマホ事業についてお聞きします。新製品はフラッグシップのHUWAEI P40 Pro 5G(10万8800円)を筆頭に、P40 lite 5G(3万9800円)やP40 lite E(2万4800円)など、ミドルやボトムゾーンの強化が目立ちます。5月29日に発売したnova lite 3+(2万4800円)と合わせて、どのようにすみわけするのでしょうか。楊 製品ごとに多様なターゲット層があるので、それぞれのニーズを満たす製品を投入していきます。例えば、プレミアムゾーンのP40 Pro 5Gは、ハイエンド層へのブランドを確立するためのモデルです。カメラレンズやチップセット、ソフトウェアのすべてで最先端の技術を採用し、プレミアム感のあるブランドイメージをつくるモデルです。一方で、新しい技術に興味があってカメラ機能も高いレベルを求めますが、手頃な価格で買いたいという層向けのモデルがP40 lite 5GやP40 lite Eです。
――日本市場ならではの特殊要因の影響はありませんか。19年10月の電気通信事業法の一部改正による携帯端末と料金プランの分離で潮目が変わりました。プレミアムゾーンが販売しづらくなり、iPhone SEの人気を見ても分かるように、より手頃な価格帯の端末が売れていくと思われます。
楊 確かにその通りです。分離案の法律が施行されたことで、端末の購入補助が減りました。しかしながらボトムゾーンの製品が売れるようになったからといって品質をおろそかにはできません。むしろこのゾーンの競争が激しくなるので、消費者の支持を得るには手頃な値段を維持しつつもクオリティを高め、イノベーティブなテクノロジーや機能を搭載しなければいけません。
これまでは2~8万円までの幅広いゾーンの中で、価格は細かく設定されていましたが、今後ボリュームゾーンに集中していく動きが出るようであれば、そのゾーンに投入する製品の競争力を各社でしのぎを削りながら高めていかなければならないでしょう。
――そういう意味では手前味噌ですが、P30 liteの躍進で年間販売台数シェア1位を称える「BCN AWARD 2020」のSIMフリースマホ部門を獲得するなどの成功体験が今後の戦略にも生かせそうですね。
楊 そうですね。SIMフリー市場とはいえ、サービスへの要求が高まっているので、その点はしっかりと対応していきたいです。先ほど日本市場のレポートを読んでいたのですが、ユーザー体験を高めるためにサービスでも他社より高いものを目指しています。
サービスの品質も360度あらゆる方向から高めていくために、実際にコールセンターに電話して何秒でつながるのか、オペレーターの対応時間など、多くの項目で他社と比較しています。日本でコンシューマー向け事業を担当するようになってから、とにかくディテールが大事だということを学んでいます。
――さて、5Gの取り組みについては、携帯キャリアの推奨モデルとしての採用が止まっています。どのようにユーザーに訴求していきますか。
楊 5Gのスマホはファーウェイにとってコアコンピタンスです。半年や1年後に日本の5Gネットワークのカバレッジも全国に広がっていくでしょうから、それまでにスマホを買い替える際に5G端末の選択肢があるようにしなければいけません。海外でも着実に5Gネットワークが出来上がっているので、外国に行くときもローミングしながら現地で利用できるというメリットがあります。
ファーウェイのスマホには5G、カメラ、AIの領域で、今後も最先端のテクノロジーを搭載することを心掛けていきます。その狙いは、よりよいユーザー体験をお届けするためです。(つづく)