家電量販に限った話ではないが、家電量販各社は2021年3月期の業績予想を新型コロナウイルスの影響で合理的な算定が困難なため、未定としている。5月14日に39県で緊急事態宣言が解除されても、その地域で以前の状況に完全に戻るとは考えにくい。アフターコロナの家電量販ビジネスは、どのようなリスクを覚悟しなければいけないのか。各社が明確な答えを出せずにいる中、ケーズホールディングス(ケーズHD)がIRで公開した資料は、分かりやすく示していて参考になる。
新型コロナを封じ込める最善の策は、人が動かないこととされる。ウイルスは自ら移動することができず、人体を乗り物のようにして移動する人に潜みながら感染を拡大させるからだ。だが、人が動かないと経済活動は停止してしまう。人の移動が停止した状態を継続し続けることは現実的ではない。
「ウィズ(with)コロナ」といわれるように、ある程度、新型コロナと共存しながら、しかし感染の爆発を起こさずに経済活動を停止させないという難しいコントロールが求められている。このような前提条件で、21年3月期の業績を見通すことは困難を極める作業だろう。しかし、どのようなリスクがあるのかを洗い出すことは可能だ。ケーズHDが今回の決算説明で示した資料がヒントになる。
21年3月期のリスクとして、一番大きいのは将来への先行き不安から消費マインドが減退すること。生活防衛や節約志向の高まりから、高付加価値商品の構成比の下落が考えられるという。
店舗運営では、外出自粛が強化されると店舗の来店客数は減り、さらなる営業時間の短縮や休業が起きる。従業員が感染した場合、除菌作業など数日の休業が余儀なくされる。
販促面でも積極的な集客活動がしにくくなるため、チラシやDMを使った大規模なセールの自粛というリスクが生じる。中でも深刻なのが、新店をオープンしてもその告知活動を控えざるを得ず、初出店するエリアなどで店舗の認知度を上げるのに、これまで以上の時間を要することだ。
新規出店による売上増は、小売業の経営戦略上、極めて重要だ。その新規出店コストの投資回収期間が長期化してしまうリスクは、見逃せないポイントだろう。
一方でメーカーからの商品供給の遅延や不足が発生すれば、販売の機会損失に直結する。これは、2月初旬に中国・武漢が震源地だったときに、メーカーのサプライチェーン上の問題が起きたことで既に経験済みだ。商品の供給量が減れば、それに伴うインセンティブ(リベート)の減少にもつながる。
こうしたリスクに対して、ケーズHDでは次のような対策を打つという。まず、景気動向については家電製品の底堅い買い替え需要が景気に比較的左右されにくい。例えば、猛暑にエアコンは必要だし、食品を保存する冷蔵庫をなくすことはできない。最近では、在宅勤務や子どもの休校でノートPCやタブレット端末などの需要が増している。
店舗運営では、生活必需品を提供する家電量販店が休業要請の対象ではなく、適切な処置をした上で営業活動をすることができる。また、都市部の自粛活動が強まると、郊外立地の多いケーズHDにとっては首都周辺の昼間人口が増え、売上増にもつながるという。
もちろん、営業の継続については、従業員や顧客の健康と安全のために必要は感染症防止対策を積極的にとることはいうまでもない。ケーズHDでは、マスクや消毒液の支給、顧客への感染防止対策の協力を要請するほか、従業員向けの相談窓口なども設置するという。
店舗誘導のチラシやDMが積極的に行えない販促活動は、ネットにシフトする。ケーズデンキオンラインショップや、Android TV/FireTVアプリを使ったケーズデンキおうちでショッピングの告知などだ。またケーズHDが出店しているPayPayモール、楽天市場なども告知していくという。つまり、ネット上で顧客との接点を増やしていく活動だ。
商品供給面では、在庫ある商品を優先的に提案するなど、臨機応変な接客も必要になるだろう。
さらに具体的な商品別の見通しを示しているのもヒントになる。例えば、レコーダー、Amazon Fire TV Stick、Chromecastなどは巣ごもり需要で好調だし、テレワーク需要で高性能の軽量なノートPC、ヘッドセット、ウェブカメラ、Wi-Fiルータなども好調だという。一方で、スマートフォンは買い替えサイクルの長期化や供給の不安定などの不安要因があると読む。
白物家電では、家庭での時間を楽しむ調理家電のほか、中容量(200~400L)の冷蔵庫、ドラム洗濯乾燥機の買い替えサイクル、在宅中のトレーニングなどの健康機器が好調。その一方で、試乗を自粛しているマッサージチェアや外出機会が減ることで身だしなみを気にする理美容などは低調と予想する。
もちろん、これらのリスクや対策は現時点で想定されるもので不確定要素はある。しかし、現時点で分かっていることを分かりやすく開示することは、顧客や取引先、従業員、株主などに対するオープンな企業姿勢を示す意味でも重要だろう。先行きが見通せない不安なときこそ、企業とステークホルダーとのリレーションがより求められている。(BCN・細田 立圭志)
新型コロナを封じ込める最善の策は、人が動かないこととされる。ウイルスは自ら移動することができず、人体を乗り物のようにして移動する人に潜みながら感染を拡大させるからだ。だが、人が動かないと経済活動は停止してしまう。人の移動が停止した状態を継続し続けることは現実的ではない。
「ウィズ(with)コロナ」といわれるように、ある程度、新型コロナと共存しながら、しかし感染の爆発を起こさずに経済活動を停止させないという難しいコントロールが求められている。このような前提条件で、21年3月期の業績を見通すことは困難を極める作業だろう。しかし、どのようなリスクがあるのかを洗い出すことは可能だ。ケーズHDが今回の決算説明で示した資料がヒントになる。
21年3月期のリスクとして、一番大きいのは将来への先行き不安から消費マインドが減退すること。生活防衛や節約志向の高まりから、高付加価値商品の構成比の下落が考えられるという。
店舗運営では、外出自粛が強化されると店舗の来店客数は減り、さらなる営業時間の短縮や休業が起きる。従業員が感染した場合、除菌作業など数日の休業が余儀なくされる。
販促面でも積極的な集客活動がしにくくなるため、チラシやDMを使った大規模なセールの自粛というリスクが生じる。中でも深刻なのが、新店をオープンしてもその告知活動を控えざるを得ず、初出店するエリアなどで店舗の認知度を上げるのに、これまで以上の時間を要することだ。
新規出店による売上増は、小売業の経営戦略上、極めて重要だ。その新規出店コストの投資回収期間が長期化してしまうリスクは、見逃せないポイントだろう。
一方でメーカーからの商品供給の遅延や不足が発生すれば、販売の機会損失に直結する。これは、2月初旬に中国・武漢が震源地だったときに、メーカーのサプライチェーン上の問題が起きたことで既に経験済みだ。商品の供給量が減れば、それに伴うインセンティブ(リベート)の減少にもつながる。
こうしたリスクに対して、ケーズHDでは次のような対策を打つという。まず、景気動向については家電製品の底堅い買い替え需要が景気に比較的左右されにくい。例えば、猛暑にエアコンは必要だし、食品を保存する冷蔵庫をなくすことはできない。最近では、在宅勤務や子どもの休校でノートPCやタブレット端末などの需要が増している。
店舗運営では、生活必需品を提供する家電量販店が休業要請の対象ではなく、適切な処置をした上で営業活動をすることができる。また、都市部の自粛活動が強まると、郊外立地の多いケーズHDにとっては首都周辺の昼間人口が増え、売上増にもつながるという。
もちろん、営業の継続については、従業員や顧客の健康と安全のために必要は感染症防止対策を積極的にとることはいうまでもない。ケーズHDでは、マスクや消毒液の支給、顧客への感染防止対策の協力を要請するほか、従業員向けの相談窓口なども設置するという。
店舗誘導のチラシやDMが積極的に行えない販促活動は、ネットにシフトする。ケーズデンキオンラインショップや、Android TV/FireTVアプリを使ったケーズデンキおうちでショッピングの告知などだ。またケーズHDが出店しているPayPayモール、楽天市場なども告知していくという。つまり、ネット上で顧客との接点を増やしていく活動だ。
商品供給面では、在庫ある商品を優先的に提案するなど、臨機応変な接客も必要になるだろう。
さらに具体的な商品別の見通しを示しているのもヒントになる。例えば、レコーダー、Amazon Fire TV Stick、Chromecastなどは巣ごもり需要で好調だし、テレワーク需要で高性能の軽量なノートPC、ヘッドセット、ウェブカメラ、Wi-Fiルータなども好調だという。一方で、スマートフォンは買い替えサイクルの長期化や供給の不安定などの不安要因があると読む。
白物家電では、家庭での時間を楽しむ調理家電のほか、中容量(200~400L)の冷蔵庫、ドラム洗濯乾燥機の買い替えサイクル、在宅中のトレーニングなどの健康機器が好調。その一方で、試乗を自粛しているマッサージチェアや外出機会が減ることで身だしなみを気にする理美容などは低調と予想する。
もちろん、これらのリスクや対策は現時点で想定されるもので不確定要素はある。しかし、現時点で分かっていることを分かりやすく開示することは、顧客や取引先、従業員、株主などに対するオープンな企業姿勢を示す意味でも重要だろう。先行きが見通せない不安なときこそ、企業とステークホルダーとのリレーションがより求められている。(BCN・細田 立圭志)