働き方だけじゃないFCCL流のオフィス改革、富士山を望む新本社は「大いなる実験場」
さまざまな業界で叫ばれている「働き方改革」というキーワード。しかし、現実には正解にたどりつくのは難しい。理由はさまざまにあるが、労働時間の削減やフリーアドレスなどが、必ずしも会社の業績に直結するわけではないことも大きな要因だろう。では、働き方自体が商材に生きるような改革をしてみてはどうか。そんなアプローチで働き方改革を実施しているのが、富士通クライアントコンピューティング(FCCL)だ。2019年11月に新川崎に本社を移し、PCメーカーという特性を生かした独自の働き方改革を実施している。
分かりやすい例が社員のテック関連のトラブルを解決するために新設された「Tech Pit」だ。持ち込まれるトラブルは、一般企業と大して変わらない。PCが動作しない、調子が悪いなどが大半だという。異なるのは、トラブルが発生したPCのデータを蓄積していることだ。
責任者である生産管理本部情報システム統括部IT管理部の前田浩氏によると、「PCの稼働時間やバッテリの状態などを細かく分析していけば、どういったPCにどんなトラブルが発生しやすいかなどが分かってくる」という。今後は、分析結果を顧客への提案や製品開発に生かしていく考えだ。
実験による成果が期待できる市場としてFCCLがにらんでいるのが、文教市場だ。2020年4月から小学校でプログラミング教育が必修化し、教育現場でPCが“1人1台”という時代がやってくる。各社も特需と捉えて子ども向けのPC開発に取り組んでいるが、早くから文教市場で知見を蓄積してきたFCCLは「不測の事態にいかに対応できるか」が重要と考えている。
「子どもはPCを壊す天才」と齋藤社長が苦笑いするように、いかに工場で堅牢性を担保するための試験を実施しても、子どもは予想外の方法でPCを故障させてしまう。壊れないPCを開発するだけでなく、PCが壊れたときにどれだけ迅速に対処できるかも文教市場においては求められてくる。「ちょっとしたミーディングであっても、ヒントは転がっている。オフィスで起こることは、全てが業務に結びつくものだ」(齋藤社長)。
しかし、齋藤社長はあえて断行した。「狙いは、効率的で発想を促すオフィスを構築すること。固定席というのは、いわば自分の城。自分も前のオフィスでは立派な城をつくりあげていたが、引越しにあたっていかに無駄なものが多いか実感した」。
毎日必要なものだけを並べて仕事をするようになると、固定席以上に目的がはっきりした空間が出来上がる。「フリーアドレスは、3カ月足らずで十分に浸透してきている。個々人で環境を整えるべく創意工夫も見受けられ、ますます成果が期待できそうだ」と齋藤社長も満足気だ。
今回、リニューアルの総指揮をとったプロダクトマネジメント本部のチーフデザインプロデューサー藤田博之も「フリーアドレス制を導入しつつ、社員の働き方をいかに快適にするか」に手を焼いた。根底にあったコンセプトは「社員の笑顔が増えるオフィス」。試行錯誤しながら、随所に工夫を凝らした。
特に効果をあげているのが、フロアのど真ん中に設置したミーティングスペースだ。「周りの目があるので、だらだらせず必要なことだけを打ち合わせるようになった。椅子はあえて足が高いものを選んだ。あえて居心地を悪くすることで、長居せずにさっと切り上げる習慣がついてきている」とのこと。また、外野からもすぐに話に参加できるので、コミュニケーションの活発化にも一役買っている。
実施前に懸念する声が大きかったエンジニアチームでも、フリーアドレスが定着しつつある。藤田氏いわく、「一番創意工夫して働きやすい環境を自分たちで作りだしているかもしれない」とのこと。実際に現場の声も聞いてみた。
プロダクトマネジメント本部第一開発センターの小中陽介センター長は、「これまではプロジェクトごとにメンバーが割り振られて、そこで完結していたが、今は横のつながりが生まれて議論が活発化している」と語る。フリーアドレスだけでなく、ミーティングができる場所が増えたことも要因のようだ。
最後に、社員から好評だというロケーションについても触れておきたい。都心では、高層ビルが密集していることもあり、高層階でも遠くを見晴らすのが難しいが、FCCLが移転した新川崎は周囲が開けており、景色が壮観だ。南を向けば横浜港が見え、その先の海まで視界に収めることができる。西を向けば、地平線に富士山がそびえているのを確認できる。
藤田氏によると、「日によって富士山の見せる姿は違っていて、四季でどのような変化があるのか、多くの社員が楽しみにしている」とのこと。記者が訪問した日は若干曇っていたものの、霞がかった富士山も幻想的で趣があった。
「効率を追求しつつ、発想を促す」と齋藤社長は語っていたが、考え抜かれたロジックに、少しの遊びの要素があることで、上からの押しつけではなく社員自身による能動的な働きやすい空間づくりが完成されているように感じた。(BCN・大蔵大輔)
新オフィスで行う“実験”とは? 齋藤邦彰社長に真意を問う
「大いなる実験場」――。FCCLの齋藤邦彰社長は新オフィスをこう表現する。「PCメーカーであるFCCLにとっては、通常の業務であってもミーディングであっても、常にお客様にも当てはまるシチュエーション。PCがどのように使えるのが働きやすいのか、自分事として考えることができる」。分かりやすい例が社員のテック関連のトラブルを解決するために新設された「Tech Pit」だ。持ち込まれるトラブルは、一般企業と大して変わらない。PCが動作しない、調子が悪いなどが大半だという。異なるのは、トラブルが発生したPCのデータを蓄積していることだ。
責任者である生産管理本部情報システム統括部IT管理部の前田浩氏によると、「PCの稼働時間やバッテリの状態などを細かく分析していけば、どういったPCにどんなトラブルが発生しやすいかなどが分かってくる」という。今後は、分析結果を顧客への提案や製品開発に生かしていく考えだ。
実験による成果が期待できる市場としてFCCLがにらんでいるのが、文教市場だ。2020年4月から小学校でプログラミング教育が必修化し、教育現場でPCが“1人1台”という時代がやってくる。各社も特需と捉えて子ども向けのPC開発に取り組んでいるが、早くから文教市場で知見を蓄積してきたFCCLは「不測の事態にいかに対応できるか」が重要と考えている。
「子どもはPCを壊す天才」と齋藤社長が苦笑いするように、いかに工場で堅牢性を担保するための試験を実施しても、子どもは予想外の方法でPCを故障させてしまう。壊れないPCを開発するだけでなく、PCが壊れたときにどれだけ迅速に対処できるかも文教市場においては求められてくる。「ちょっとしたミーディングであっても、ヒントは転がっている。オフィスで起こることは、全てが業務に結びつくものだ」(齋藤社長)。
フリーアドレス=目的のある空間 コミュニケーションを促す仕掛けも
今回のFCCLのオフィス移転で社員から賛否両論だったのが、フリーアドレス制への移行だ。営業職のフリーアドレスというのはよく聞くが、FCCLはエンジニアも含めて大部分の社員の固定席をなくした。効率が下がるのではないかと反発する声も大きかったという。しかし、齋藤社長はあえて断行した。「狙いは、効率的で発想を促すオフィスを構築すること。固定席というのは、いわば自分の城。自分も前のオフィスでは立派な城をつくりあげていたが、引越しにあたっていかに無駄なものが多いか実感した」。
毎日必要なものだけを並べて仕事をするようになると、固定席以上に目的がはっきりした空間が出来上がる。「フリーアドレスは、3カ月足らずで十分に浸透してきている。個々人で環境を整えるべく創意工夫も見受けられ、ますます成果が期待できそうだ」と齋藤社長も満足気だ。
今回、リニューアルの総指揮をとったプロダクトマネジメント本部のチーフデザインプロデューサー藤田博之も「フリーアドレス制を導入しつつ、社員の働き方をいかに快適にするか」に手を焼いた。根底にあったコンセプトは「社員の笑顔が増えるオフィス」。試行錯誤しながら、随所に工夫を凝らした。
特に効果をあげているのが、フロアのど真ん中に設置したミーティングスペースだ。「周りの目があるので、だらだらせず必要なことだけを打ち合わせるようになった。椅子はあえて足が高いものを選んだ。あえて居心地を悪くすることで、長居せずにさっと切り上げる習慣がついてきている」とのこと。また、外野からもすぐに話に参加できるので、コミュニケーションの活発化にも一役買っている。
実施前に懸念する声が大きかったエンジニアチームでも、フリーアドレスが定着しつつある。藤田氏いわく、「一番創意工夫して働きやすい環境を自分たちで作りだしているかもしれない」とのこと。実際に現場の声も聞いてみた。
プロダクトマネジメント本部第一開発センターの小中陽介センター長は、「これまではプロジェクトごとにメンバーが割り振られて、そこで完結していたが、今は横のつながりが生まれて議論が活発化している」と語る。フリーアドレスだけでなく、ミーティングができる場所が増えたことも要因のようだ。
最後に、社員から好評だというロケーションについても触れておきたい。都心では、高層ビルが密集していることもあり、高層階でも遠くを見晴らすのが難しいが、FCCLが移転した新川崎は周囲が開けており、景色が壮観だ。南を向けば横浜港が見え、その先の海まで視界に収めることができる。西を向けば、地平線に富士山がそびえているのを確認できる。
藤田氏によると、「日によって富士山の見せる姿は違っていて、四季でどのような変化があるのか、多くの社員が楽しみにしている」とのこと。記者が訪問した日は若干曇っていたものの、霞がかった富士山も幻想的で趣があった。
「効率を追求しつつ、発想を促す」と齋藤社長は語っていたが、考え抜かれたロジックに、少しの遊びの要素があることで、上からの押しつけではなく社員自身による能動的な働きやすい空間づくりが完成されているように感じた。(BCN・大蔵大輔)