近年、認知症やうつ病の危険因子のひとつになっていることが分かってきた“難聴”。そのケアをするための補聴器が注目を集めている。ただ医療機器である補聴器をどのように購入するのか、知らない人は意外と多い。今回、BCNでは補聴器の販売店に協力してもらい、購入を検討する顧客に密着取材させてもらった。
前編では、東京・自由が丘にある「ヒヤリングストア自由が丘店」を初めて訪問した都内の製造会社で社長を務める櫻井武史さん(53歳)が、専門家にヒアリングや聴力測定で耳の状態を確認してもらい、補聴器に反映するデータを収集するまでの流れを追った。後編では、完成した補聴器の納品、そして使用して2週間後に再び店舗を訪問したときの様子をお伝えする。
古い補聴器のイメージを持つ人がまず驚くのが、そのサイズだ。豆粒のように小さく、難聴をケアするための高度なテクノロジーが搭載されているとは信じられないほどだ。お渡し日の当日は、作成した補聴器がユーザーに適したものか最終チェックを行う。専用の機器を補聴器に接続して、スピーカーから出てくる音で聴力を測定しながら調整していく。
チェックが完了し、いよいよ補聴器が櫻井さんの手に渡る。このときにも電池の出し入れの仕方や補聴器の正しい使い方、付き合い方などが事細かに説明される。櫻井さんも疑問点を技術スタッフにたずね、不安を解消していく。前回の訪問時もヒアリングに長い時間をとったが、納品時もそれは同じ。補聴器作成はヒアリングに始まり、ヒアリングに終わるといってもいえるかもしれない。
取材にご協力いただいている櫻井さんも補聴器を使い始めて2週間後に再び店舗を訪れた。せっかくなので、装用して聞こえがどのように変わったか、感想を聞いてみた。
さまざまなシーンで使用して櫻井さんが特に感じたのが、違和感のなさだ。「最初はあらゆる音が大きくなって慣れるまで時間がかかると思ったが、想像より聞きたい音が聞き取りやすくなった」。周囲が騒がしい居酒屋でも会話に絞って聞き取りやすさが増し、電話でも恩恵が大きかったそうだ。
補聴器装用前は職場や自宅で音を巡って周囲とやりとりすることが頻繁にあった。相手の言葉がうまく聞き取れなかったり、櫻井さんの作業する音が大きかったり、小さなことでもストレスとして積み重なっていた。補聴器の装用によって、そうしたやりとりが減ったという。
初めて補聴器を使用した感覚を櫻井さんは“メガネ”に例えた。「目が見えにくくなった人が初めてメガネをかけたら、こういう風に感じるのかなと。これまでぼやけていた情報がクリアになり、新鮮さを感じた」。
もちろん「完璧」というわけではない。音が聞こえにくいというシュチュエーションはまだあるし、逆に空調やキーボードの音が大きすぎるということもあった。櫻井さんもどんなときに装用するのがよいか、探っている最中とのことだった。
今回の訪問ではこうした小さな不満を解消して、より櫻井さんが快適に使用できるようにするために補聴器を再度調整していく。技術スタッフにすでに述べた使用感を伝えたあと、納品時と同じように櫻井さんの聞こえの状態を確認していく。
ヒヤリングストア自由が丘店にはサラウンドで音を出せる設備があり、背後から話しかけられたときに気がつきにくい、などの具体的な状況を再現することもできる。どの販売店にもこうした設備があるわけではないが、問題を正確に把握できた方が調整の精度は高まる。
櫻井さんは「必要以上に大きく聞こえる情報も調整できることは知らなかった。より自分に最適化されていくのが楽しみ」と、補聴器に対する期待感がさらに高まったようだった。
ヒヤリングストアのみなさんや櫻井さんの協力を得て実現した今回の取材で、記者が強く感じたのが「どんな店で購入するか」ということの重要性だ。補聴器はインターネット通販などでも販売されているが、それでは個人に最適化することはできない。ヘッドホンやイヤホンのような製品であればどれを買っても性能は同じだが、補聴器は同じモデルでも使い回せるものではない。
ヒアリングが大きな比重を占めることにも再三触れてきたが、購入して終わるのではなく、長く続く関係であることを考えると、信頼できる専門店を選ぶことも重要ということになる。いま、補聴器の購入を検討している人は、どのように買うのか、どのメーカーがよいのか、だけでなく、どこで購入するのが安心なのか、ということもリサーチの項目に加えることを薦めたい。(BCN・大蔵 大輔)
前編では、東京・自由が丘にある「ヒヤリングストア自由が丘店」を初めて訪問した都内の製造会社で社長を務める櫻井武史さん(53歳)が、専門家にヒアリングや聴力測定で耳の状態を確認してもらい、補聴器に反映するデータを収集するまでの流れを追った。後編では、完成した補聴器の納品、そして使用して2週間後に再び店舗を訪問したときの様子をお伝えする。
最新補聴器は予想以上に小さい! 完成品納品時の様子
櫻井さんが購入した補聴器は、補聴器メーカーとして100年以上の歴史をもつオーティコン補聴器の「Oticon Opn」。タイプは耳にすっぽりと入れる「耳あな型 IIC」だ。耳にひっかける「耳かけ型」というタイプもあるが、なるべく見えにくく、動き回っても邪魔にならないというメリットから櫻井さんは耳あな型 IICを選択した。古い補聴器のイメージを持つ人がまず驚くのが、そのサイズだ。豆粒のように小さく、難聴をケアするための高度なテクノロジーが搭載されているとは信じられないほどだ。お渡し日の当日は、作成した補聴器がユーザーに適したものか最終チェックを行う。専用の機器を補聴器に接続して、スピーカーから出てくる音で聴力を測定しながら調整していく。
チェックが完了し、いよいよ補聴器が櫻井さんの手に渡る。このときにも電池の出し入れの仕方や補聴器の正しい使い方、付き合い方などが事細かに説明される。櫻井さんも疑問点を技術スタッフにたずね、不安を解消していく。前回の訪問時もヒアリングに長い時間をとったが、納品時もそれは同じ。補聴器作成はヒアリングに始まり、ヒアリングに終わるといってもいえるかもしれない。
2週間後に初のメンテナンス 販売店とユーザーの関係は続く
ユーザーと販売店の関係は補聴器を渡しておしまい、というわけではない。補聴器は個人に合わせて細かく調整するものなので、ベストなフィッティングに整うまで販売店を訪問する必要がある。これでベストという調整ができたあとも耳の状態は変化するので、定期的に通うことになる。取材にご協力いただいている櫻井さんも補聴器を使い始めて2週間後に再び店舗を訪れた。せっかくなので、装用して聞こえがどのように変わったか、感想を聞いてみた。
さまざまなシーンで使用して櫻井さんが特に感じたのが、違和感のなさだ。「最初はあらゆる音が大きくなって慣れるまで時間がかかると思ったが、想像より聞きたい音が聞き取りやすくなった」。周囲が騒がしい居酒屋でも会話に絞って聞き取りやすさが増し、電話でも恩恵が大きかったそうだ。
補聴器装用前は職場や自宅で音を巡って周囲とやりとりすることが頻繁にあった。相手の言葉がうまく聞き取れなかったり、櫻井さんの作業する音が大きかったり、小さなことでもストレスとして積み重なっていた。補聴器の装用によって、そうしたやりとりが減ったという。
初めて補聴器を使用した感覚を櫻井さんは“メガネ”に例えた。「目が見えにくくなった人が初めてメガネをかけたら、こういう風に感じるのかなと。これまでぼやけていた情報がクリアになり、新鮮さを感じた」。
もちろん「完璧」というわけではない。音が聞こえにくいというシュチュエーションはまだあるし、逆に空調やキーボードの音が大きすぎるということもあった。櫻井さんもどんなときに装用するのがよいか、探っている最中とのことだった。
今回の訪問ではこうした小さな不満を解消して、より櫻井さんが快適に使用できるようにするために補聴器を再度調整していく。技術スタッフにすでに述べた使用感を伝えたあと、納品時と同じように櫻井さんの聞こえの状態を確認していく。
ヒヤリングストア自由が丘店にはサラウンドで音を出せる設備があり、背後から話しかけられたときに気がつきにくい、などの具体的な状況を再現することもできる。どの販売店にもこうした設備があるわけではないが、問題を正確に把握できた方が調整の精度は高まる。
櫻井さんは「必要以上に大きく聞こえる情報も調整できることは知らなかった。より自分に最適化されていくのが楽しみ」と、補聴器に対する期待感がさらに高まったようだった。
ヒヤリングストアのみなさんや櫻井さんの協力を得て実現した今回の取材で、記者が強く感じたのが「どんな店で購入するか」ということの重要性だ。補聴器はインターネット通販などでも販売されているが、それでは個人に最適化することはできない。ヘッドホンやイヤホンのような製品であればどれを買っても性能は同じだが、補聴器は同じモデルでも使い回せるものではない。
ヒアリングが大きな比重を占めることにも再三触れてきたが、購入して終わるのではなく、長く続く関係であることを考えると、信頼できる専門店を選ぶことも重要ということになる。いま、補聴器の購入を検討している人は、どのように買うのか、どのメーカーがよいのか、だけでなく、どこで購入するのが安心なのか、ということもリサーチの項目に加えることを薦めたい。(BCN・大蔵 大輔)