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イチから知りたい補聴器の購入方法、販売店を初めて訪問した購入検討者に密着!(前編)

販売戦略

2020/03/06 17:36

 “難聴”は誰にでも起こりうる健康リスクだが、検査せずに放置してしまったり、自分では気が付きにくかったり、ケアされにくい症状でもある。難聴に対するケアとして補聴器は有効な手段のひとつとなるが、こちらも必要な人が必要と認識していないケースが多いのが現状だ。「補聴器はどのようにして購入すればよいのか」という手段がよく理解されていないのも、その理由にあげられる。今回、補聴器の販売店を初めて訪問した購入検討者に密着し、購入までの手順を取材した。

補聴器の購入検討者に密着! 購入までの流れを取材した

 訪問したのは東京・自由が丘にある「ヒヤリングストア自由が丘店」。言語聴覚士・認定補聴器技能者の資格をもつ専門家(技術スタッフ)も在籍する信頼性の高い店舗だ。同店は以前にも「販売店では何をするのか」という趣旨の取材で協力していただいた。

 前回はインタビューベースの取材だったが、今回は実際に補聴器の購入を検討している方に密着して、そのプロセスを疑似体験した。密着したのは、都内の製造会社社長の櫻井武史さん。年齢は53歳。家族からの薦めで、補聴器を作成することに決め、来店した。
 
取材にご協力いただいた櫻井武史さん

 櫻井さんは補聴器を作成するのは初めて。身近な人が使っているということもなく「補聴器は幼少期に学友が使っていたのを見たことがあるくらい」と語る。来店したら、まずは技術スタッフによるヒアリングからスタートする。聞こえにくい、というのは程度だけの問題ではない。どのように聞こえにくいのか、どんなときにそう感じるのか、こうした本人の実感が非常に重要となるからだ。

まずは「ヒアリング」から 聞こえの悩みは人それぞれ

 最初の質問は、補聴器の装用経験。櫻井さんは集音器などを使用したこともなく、聴覚をサポートするデバイスは全くの未経験であることを伝えた。補聴器を作成したいと思い立ったきっかけが家族の薦めであることは自己紹介でお伝えした通りだが、技術スタッフは具体的な状況などを細かく説明してもらうように求めた。
 
まず、言語聴覚士・認定補聴器技能者の資格をもつプロが
ヒアリングを行っていく

 櫻井さんによると、家族がテレビを見ていて、自分は離れた場所でタブレットを使用していたところ、その音量に家族がびっくりしたという。音量は最大になっていたが、それでも櫻井さんにとっては聞き取りにくかったそうだ。職場でも遠くからの声が聞こえにくいということがしばしばあった。櫻井さんは仕事柄、外国語を聞き取る必要もあるそうで、聞こえにくいという状況は業務の支障となる。

 次に技術スタッフがたずねたのが「補聴器によってどのように生活の質を上げたいか」。これは装用前にはイメージがつきにくいことだが、補聴器をフィッティングする上で重要な指標になる。櫻井さんはさまざまなジャンルの音楽を聞くが、聞こえにくいという理由からクラシックをあまり聞かなくなったという。「また楽しんで聞こえるようになるとうれしいですね」と期待を語った。

 一通り、櫻井さんを取り巻く聞こえの状況が分かったところで、今度は耳の状態に関するヒアリングが始まった。ここで質問はさらに細かくなっていく。聞こえ以外で耳に症状はないか、耳垢の種類、普段はイヤホンを使用するか、イヤホンを装着していてかゆくなることはないか、耳の手術をしたことはあるか、聞こえの悪化は突然のものだったか。櫻井さんはそれらの質問に丁寧に回答していく。

精密な聴力検査や耳型採取でデータをとる

 およそ10分のヒアリングが終わると、いよいよ実際に耳の状態をみていく。技術スタッフが器具で耳の中をのぞきこんで状態を確認。そして、3種類の聴覚検査を行っていく。一つめはヘッドホンをつけて音が聞こえたらスイッチを押すテスト。二つめは骨伝導で聞こえる音を確かめるテスト。三つめが正しく音が聞こえているかをチェックする言葉のテスト。いずれも防音室で実施した。
 
耳の中を確認してから聴覚検査を開始
 
言葉の単語を書きとる検査も実施した

 今回、櫻井さんが作成するのは「耳あな型」という名前の通り、耳穴に挿入するタイプの補聴器。仕事でヘルメッドを被ることもあるそうで、あまり目立たず邪魔にならないことを重視した。耳あな型の場合、自分の耳に完璧にフィットさせるために「耳型採型」を行い、外耳道までの耳型をとる。

 主材と硬化剤の2種類を混ぜ合わせた印象材(シリコン樹脂)を耳にシリンジで左右の耳に注入。数分間経つと樹脂が固まり、耳型が完成する。販売店で行う補聴器作成の一連の流れはこれで終了。あとは耳型を元に作成した櫻井さん専用の補聴器が完成するのを数日待つことになる。
 
シリンジで耳穴に印象材を注入
 
数分経つと樹脂が固まる。写真は耳から取り外した耳型

 今回は櫻井さんが補聴器を作成するという意思を固めて来店したので、ヒアリング、聴力測定、耳型採取が40分程度で完了したが、補聴器についてよく知りたい、まずは聞こえの悩みを相談してみたい、という人は相談だけでもOK。訪問していきなり購入を強制されるようなことはないので、安心してほしい。次回の記事では櫻井さんに引き続き密着し、補聴器作成後に販売店で行うことや装用して2週間後の使用感などをレポートする。(BCN・大蔵 大輔)