【家電量販のDX・上】2020年は、国内の家電量販店の現場にも人手不足の解消や店員の生産性を向上するデジタルトランスフォーメーション(DX)の波が押し寄せるだろう。人的リソースをリテールテクノロジーなど、ITで補わなければ売り上げが確保できないという、小売業に共通の構造的な問題を家電量販企業も抱えている。そのための第一歩として目立つ取り組みが「電子棚札」と「キャッシュレス決済」の導入だった。3回の短期連載で取り組み状況を紹介していく。
これまで一日に何度も店のバックヤードで行われていたプライスカードの差し替えといった人手に頼った作業がなくなり、削減できた時間を店員の本来業務である接客に充てることができるようになる。
とりわけ、インターネット通販など、ECの台頭によってプライスカードの更新頻度は従来よりも増えている。昔は、せいぜい周辺の競合店の店頭価格を覆面で調べて、自店の価格に反映させる程度で済んでいた。覆面とはいえ実は「顔ばれ」で、価格調査に来るとインカムで共有して店員同士がプレッシャーをかけて追い払うといった、今振り返れば牧歌的な市場環境でもあった。
しかし、今やライバルはアマゾンなどのネット企業。リアルタイムで変動するネット価格に、人海戦術で追随するのは最新武装した相手に竹やりで戦うようなもの。電子棚札があれば、ネットと店頭の価格を同期させることが簡単にできる。
もちろん、電子棚札は競合するネット通販の対抗策として有効なだけではなく、自社のECと店頭価格を連動させることで顧客満足度を高めるオムニチャネル戦略の面からも有効なツールとされる。同じ店舗ブランドなのにネットと店頭の価格が違えばユーザーの不信感は増す。こうした不信を払しょくするだけでなく、手作業の書き換えによる転記ミスなどの凡ミスも防ぐことができる。
ネットでは、イベントや飛行機の予約チケット販売などで、最新の「ダイレクトプライシング」機能が採り入れられている。需給バランスに応じて、AI(人工知能)技術を使って予測をしながら価格が変動する。いち早く購入したファンが高く買わされて、締め切りのギリギリに買った客が安く買えるなどの課題もあるようだが、ダフ屋や転売業者によって高値に吊り上げられて、イベント当日は空席が目立つという無駄やミスマッチをなくすための手段として有望視されている。
家電量販における電子棚札は、まだこうした最新技術に対応していないものの、リアル店舗でも将来のダイレクトプライシングを見据えて今からインフラ投資を行っておくことは重要だろう。
電子棚札は、表示を一斉に切り替えるだけではなく、地域や店舗ごとに変更することも可能なシステムになっている。そのため、本部のシステムにダイレクトプライシング機能を搭載すれば、連携させることはそれほど難しくないように思われる。
1人当たりの削減できる作業時間が短くても店舗で働く店員の人数や日数で換算すると、電子棚札は売り上げを大きく左右するだろう。
19年6月に大阪・難波にオープンした「エディオンなんば本店」の店頭でも、本格的な電子棚札の導入が目立った。エディオンでは、18年8月から新店舗を中心に、効果が見込める一部の店舗に導入を進めてきたという。
特に、エディオンなんば本店のように家電の「モノ売り」ではなく、店頭での顧客体験を通じた「コト売り」を展開する店舗では、日用雑貨など非家電分野の小物商品の扱いが増える。
例えば、焙煎したての豆を挽いた本格的なコーヒーの香りや味を試飲して楽しめる売り場では、当然ながらコーヒーに関連したコーヒーミルやドリッパー、ペーパーフィルター、カップ、シュガーホルダーなど展示アイテム数が膨らむ。同じように、DIYリフォームや文具、ヘルスケア、化粧品なども、非家電の扱いが増えるのに比例してアイテム数は膨れ上がる。電子棚札なら、その一つひとつの価格表示を、人手を介さずに瞬時に切り替えることができる。
ほかにも、価格変動が激しいアクセサリ類なども機敏に価格対応できる。もともとメモリカードなどのPCパーツや中古スマートフォンなどを取り扱うPCショップや携帯ショップの方が、家電量販店よりも早くから電子棚札を導入していた。市場価格の変動が激しい商品ほど、相性はばっちりなのだ。
だが、電子棚札も万全ではない。相性の悪い商品や売り場、シーンなど課題がないわけではない。他の家電量販店での取り組みも含めて、その点は次回、触れるにしよう。(BCN・細田 立圭志)
避けられない「ダイレクトプライシング」の対応
電子棚札は、価格を紙のプライスカードに印刷するのではなく、電子書籍のような省電力の液晶ディスプレイに表示するツールだ。本部のシステムで特定の型番商品の価格を入力するだけで、サーバーを通じて全店舗のシステムに反映されて価格が一斉に切り替わる。これまで一日に何度も店のバックヤードで行われていたプライスカードの差し替えといった人手に頼った作業がなくなり、削減できた時間を店員の本来業務である接客に充てることができるようになる。
とりわけ、インターネット通販など、ECの台頭によってプライスカードの更新頻度は従来よりも増えている。昔は、せいぜい周辺の競合店の店頭価格を覆面で調べて、自店の価格に反映させる程度で済んでいた。覆面とはいえ実は「顔ばれ」で、価格調査に来るとインカムで共有して店員同士がプレッシャーをかけて追い払うといった、今振り返れば牧歌的な市場環境でもあった。
しかし、今やライバルはアマゾンなどのネット企業。リアルタイムで変動するネット価格に、人海戦術で追随するのは最新武装した相手に竹やりで戦うようなもの。電子棚札があれば、ネットと店頭の価格を同期させることが簡単にできる。
もちろん、電子棚札は競合するネット通販の対抗策として有効なだけではなく、自社のECと店頭価格を連動させることで顧客満足度を高めるオムニチャネル戦略の面からも有効なツールとされる。同じ店舗ブランドなのにネットと店頭の価格が違えばユーザーの不信感は増す。こうした不信を払しょくするだけでなく、手作業の書き換えによる転記ミスなどの凡ミスも防ぐことができる。
ネットでは、イベントや飛行機の予約チケット販売などで、最新の「ダイレクトプライシング」機能が採り入れられている。需給バランスに応じて、AI(人工知能)技術を使って予測をしながら価格が変動する。いち早く購入したファンが高く買わされて、締め切りのギリギリに買った客が安く買えるなどの課題もあるようだが、ダフ屋や転売業者によって高値に吊り上げられて、イベント当日は空席が目立つという無駄やミスマッチをなくすための手段として有望視されている。
家電量販における電子棚札は、まだこうした最新技術に対応していないものの、リアル店舗でも将来のダイレクトプライシングを見据えて今からインフラ投資を行っておくことは重要だろう。
電子棚札は、表示を一斉に切り替えるだけではなく、地域や店舗ごとに変更することも可能なシステムになっている。そのため、本部のシステムにダイレクトプライシング機能を搭載すれば、連携させることはそれほど難しくないように思われる。
先陣は上新電機、直近はエディオンでも導入
家電量販店の中で比較的早く、16年ごろから電子棚札の導入に取り組んでいるのは関西の中堅家電量販店である上新電機だ。兵庫県の店舗の店長によると、「1人当たり30分かかっていた作業を、すべて接客に充てることができるようになった」とその効果について語る。1人当たりの削減できる作業時間が短くても店舗で働く店員の人数や日数で換算すると、電子棚札は売り上げを大きく左右するだろう。
19年6月に大阪・難波にオープンした「エディオンなんば本店」の店頭でも、本格的な電子棚札の導入が目立った。エディオンでは、18年8月から新店舗を中心に、効果が見込める一部の店舗に導入を進めてきたという。
特に、エディオンなんば本店のように家電の「モノ売り」ではなく、店頭での顧客体験を通じた「コト売り」を展開する店舗では、日用雑貨など非家電分野の小物商品の扱いが増える。
例えば、焙煎したての豆を挽いた本格的なコーヒーの香りや味を試飲して楽しめる売り場では、当然ながらコーヒーに関連したコーヒーミルやドリッパー、ペーパーフィルター、カップ、シュガーホルダーなど展示アイテム数が膨らむ。同じように、DIYリフォームや文具、ヘルスケア、化粧品なども、非家電の扱いが増えるのに比例してアイテム数は膨れ上がる。電子棚札なら、その一つひとつの価格表示を、人手を介さずに瞬時に切り替えることができる。
ほかにも、価格変動が激しいアクセサリ類なども機敏に価格対応できる。もともとメモリカードなどのPCパーツや中古スマートフォンなどを取り扱うPCショップや携帯ショップの方が、家電量販店よりも早くから電子棚札を導入していた。市場価格の変動が激しい商品ほど、相性はばっちりなのだ。
だが、電子棚札も万全ではない。相性の悪い商品や売り場、シーンなど課題がないわけではない。他の家電量販店での取り組みも含めて、その点は次回、触れるにしよう。(BCN・細田 立圭志)