デジカメ復活に険しい道のり 40代までの「若年」ユーザー獲得に高い障壁
【2020年予想 第2回(全3回)】 「2019年版フォトイメージングマーケット統合調査」によると、月平均30枚以上写真を撮ると回答した人に、写真を撮り始めたときに使っていた機器(入門機、ファーストカメラ)を尋ねると、50~70代がフィルムカメラ、40代がコンパクトデジタルカメラ(コンデジ)、10~30代がスマートフォン(スマホ)が最も多く、カメラからスタートした世代は40歳以上に偏っていることが分かった。
回答者全体でもフィルムカメラが28.6%で最多となり、2位にスマホ(22.5%)、3位にコンパクトデジタルカメラ(22.0%)が続いた。一眼レフで70代と50代、インスタント/プリンタ付きカメラで20代と30代がやや多く、携帯電話が、最多の20代で23.7%、最も低い60代で6.0%と、世代による開きが大きかった。
注目すべきは、唯一、ファーストカメラがデジカメだった割合が最も多かった40代。この調査は、カメラ映像機器工業会(CIPA)がインターネット上で19年7月に実施したもので、40代がおおむね1969~79年(昭和44~54年)生まれ、30代が80~90年(昭和55年~平成元年)生まれとなる。
つまり、この調査の40代は、ロストジェネレーションとも呼ばれる「就職氷河期世代」とほぼ一致する。社会人スタートとなる大学・高校卒業年に不景気が直撃し、就職できない、就職しても年収がなかなか上がらないなど、散々な目に遭ったものの、フィルムカメラや「写ルンです」などのインスタントカメラから、メモリカードや内蔵メディアに記録するデジタルカメラへ、ワープロ・カメラ・携帯音楽プレーヤー・電子辞書といった専用機から、1台で何でも可能なPC、タブレット端末、スマホへと、電子機器のトレンドの変化をリアルに経験できた稀有な世代といえるだろう。
対して、撮影機器としてスマホを最もよく使う人(696人)は、「風景・夜景」を除き、5割を超える項目がなく、「子ども」や「料理」がわずかにデジタル一眼より多かったが、撮影機器による差異がほとんど見られなかった。一方、モチベーションには明確な差があり、「写真は趣味・生きがい」はわずか6.3%にとどまった。
調査結果を受け、CIPAは「レンズ交換式デジタルカメラとスマホの差が目立つのは『花・植物』『スナップ』『乗り物』。これらがレンズ交換式デジタルカメラの特徴的な被写体といえる」と分析。さらに、年代、性別ごとに、よく撮る被写体の違いを分析し、「デジタルカメラ・ワールドへと(まだユーザー数の少ない)女性を招き入れるには、糸口は『料理』『子ども』『ペット・動物』『テーマパーク・遊園地』『自分自身』にあり、デジカメのアドバンテージをどれだけ分かり易く提示できるかに掛かっている」とまとめている。
しかし、現在40歳半ば前後の就職氷河期世代にとって、「子ども」や「ペット」は贅沢品である。加えて、テーマパーク・遊園地などは、そもそも子どもがいなければ縁がない。自分自身を撮る「自撮り」も、30代後半にもなると、強力な美白・美顔加工がないと辛くなる。
スイーツを含む料理の写真は、食べ歩き好きがすでに始めていて、いっとき「カメラ女子」として話題になったが、デジカメの強みである「きれいに撮れる」より、移動時にかさばらずに現場でさっと撮りたいというニーズの方が多いだろう。橋の上を走行する電車など、一部の被写体・シーンを除くと、カメラ性能をウリにするスマホ1台あれば事足りる。デジカメ市場の復活には課題が山積だ。
家電量販店・オンラインショップの実売データを集計した「BCNランキング」によると、レンズ一体型(コンパクトデジカメ)とレンズ交換型(デジタル一眼)を合算デジタルカメラの年間販売台数はピークの2010年を100として、18年には30.2まで下がり、およそ3分の2に減少した。特にコンパクトデジカメに限ると、10年をピークに8年間で100から23.5まで縮小し、激減といっていいだろう。
これから生まれる子どもの絶対数が減る傾向であるため、専用機のデジカメ・フィルムカメラで写真を撮る「狭義のカメラ人口」が増える明るい材料は見当たらない。2020年、カメラメーカーは、ブランド存続・売れるアイテムに絞ったラインアップの見直しが最重要課題となるだろう。
CIPAの調査レポートは、他にも内容が盛りだくさん。のんびりとしたお正月や正月明けの3連休に、ぜひ資料全編(http://cipa.jp/documents/j/pressrelease20191114photolovers.pdf)に目を通してほしい。(BCN・嵯峨野 芙美)
*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコン本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベースで、日本の店頭市場の約4割(パソコンの場合)をカバーしています。
回答者全体でもフィルムカメラが28.6%で最多となり、2位にスマホ(22.5%)、3位にコンパクトデジタルカメラ(22.0%)が続いた。一眼レフで70代と50代、インスタント/プリンタ付きカメラで20代と30代がやや多く、携帯電話が、最多の20代で23.7%、最も低い60代で6.0%と、世代による開きが大きかった。
注目すべきは、唯一、ファーストカメラがデジカメだった割合が最も多かった40代。この調査は、カメラ映像機器工業会(CIPA)がインターネット上で19年7月に実施したもので、40代がおおむね1969~79年(昭和44~54年)生まれ、30代が80~90年(昭和55年~平成元年)生まれとなる。
つまり、この調査の40代は、ロストジェネレーションとも呼ばれる「就職氷河期世代」とほぼ一致する。社会人スタートとなる大学・高校卒業年に不景気が直撃し、就職できない、就職しても年収がなかなか上がらないなど、散々な目に遭ったものの、フィルムカメラや「写ルンです」などのインスタントカメラから、メモリカードや内蔵メディアに記録するデジタルカメラへ、ワープロ・カメラ・携帯音楽プレーヤー・電子辞書といった専用機から、1台で何でも可能なPC、タブレット端末、スマホへと、電子機器のトレンドの変化をリアルに経験できた稀有な世代といえるだろう。
女性を「デジカメワールド」に招き入れるハードルはもっと高い
同じく2019年版フォトイメージングマーケット統合調査によると、月平均30枚以上写真を撮ると回答し、しかも撮影機器としてレンズ交換式デジタルカメラ(デジタル一眼)を最もよく使う人(139人)は、半数以上が「風景・夜景」「国内旅行」「花・植物」を2~3回以上撮ったことがあり、「スナップ」や「海外旅行」も4割近かった。また、43.9%が「写真は趣味・生きがい」と回答した。対して、撮影機器としてスマホを最もよく使う人(696人)は、「風景・夜景」を除き、5割を超える項目がなく、「子ども」や「料理」がわずかにデジタル一眼より多かったが、撮影機器による差異がほとんど見られなかった。一方、モチベーションには明確な差があり、「写真は趣味・生きがい」はわずか6.3%にとどまった。
調査結果を受け、CIPAは「レンズ交換式デジタルカメラとスマホの差が目立つのは『花・植物』『スナップ』『乗り物』。これらがレンズ交換式デジタルカメラの特徴的な被写体といえる」と分析。さらに、年代、性別ごとに、よく撮る被写体の違いを分析し、「デジタルカメラ・ワールドへと(まだユーザー数の少ない)女性を招き入れるには、糸口は『料理』『子ども』『ペット・動物』『テーマパーク・遊園地』『自分自身』にあり、デジカメのアドバンテージをどれだけ分かり易く提示できるかに掛かっている」とまとめている。
しかし、現在40歳半ば前後の就職氷河期世代にとって、「子ども」や「ペット」は贅沢品である。加えて、テーマパーク・遊園地などは、そもそも子どもがいなければ縁がない。自分自身を撮る「自撮り」も、30代後半にもなると、強力な美白・美顔加工がないと辛くなる。
スイーツを含む料理の写真は、食べ歩き好きがすでに始めていて、いっとき「カメラ女子」として話題になったが、デジカメの強みである「きれいに撮れる」より、移動時にかさばらずに現場でさっと撮りたいというニーズの方が多いだろう。橋の上を走行する電車など、一部の被写体・シーンを除くと、カメラ性能をウリにするスマホ1台あれば事足りる。デジカメ市場の復活には課題が山積だ。
家電量販店・オンラインショップの実売データを集計した「BCNランキング」によると、レンズ一体型(コンパクトデジカメ)とレンズ交換型(デジタル一眼)を合算デジタルカメラの年間販売台数はピークの2010年を100として、18年には30.2まで下がり、およそ3分の2に減少した。特にコンパクトデジカメに限ると、10年をピークに8年間で100から23.5まで縮小し、激減といっていいだろう。
2020年、カメラメーカーの撤退・ラインアップ縮小は不可避?
氷河期世代の記者からみると、デジカメ市場の縮小は、氷河期世代の所得水準を下げ、結婚・出産や、アウトドアなど費用のかかるレジャーを楽しめるゆとりを奪った経済政策の失敗の象徴に思える。今さら50歳以上のシニア世代のように、同世代が「風景・夜景」「花・植物」などの撮影を兼ね、山登りや釣り、国内旅行などのコストパフォーマンスの悪い趣味を新たに始めるようになるとは考えにくい。これから生まれる子どもの絶対数が減る傾向であるため、専用機のデジカメ・フィルムカメラで写真を撮る「狭義のカメラ人口」が増える明るい材料は見当たらない。2020年、カメラメーカーは、ブランド存続・売れるアイテムに絞ったラインアップの見直しが最重要課題となるだろう。
CIPAの調査レポートは、他にも内容が盛りだくさん。のんびりとしたお正月や正月明けの3連休に、ぜひ資料全編(http://cipa.jp/documents/j/pressrelease20191114photolovers.pdf)に目を通してほしい。(BCN・嵯峨野 芙美)
*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコン本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベースで、日本の店頭市場の約4割(パソコンの場合)をカバーしています。
1月15日追記:記事中、一部事実誤認が認められましたので見出しと本文の一部を変更しました。お詫びして訂正いたします。